【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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母親同伴

世界には三人似た人間がいるとは言うが、探せば案外百人ぐらいは居るものだ。

 

特にこの業界、芸能界には有名人のおこぼれに預かろうとそう言った顔だけの人間がよく集まってくる。

 

鏑木勝也は顔でキャストを選んでる。

どこでそんな噂が流れたのか知らないけど、多少顔が整ってたり、似ているだけでやっていけるほどこの世界は甘くない。

 

ハァ…………困るんだよね。僕も暇じゃないんだけど。

 

鏑木勝也は定時を過ぎた時計の針を見てため息を溢す。

テレビ業界が衰退しているとは言ってもプロデューサーの仕事が減るわけではない。

今回入ってきたのはユーチューバーをメインに雇用している事務所からの押し売りであった。

 

登録者5万人の某有名グループアイドルに似ている、それを活かした動画で今伸びている子に良い仕事を振ってくれないかという話だ。

この手の話は本当によくある。他は駄目でも僕なら使ってくれるかもしれないと月に百件は回ってきて……殆どが使いものにならない。

 

どういう子なのか動画を何個か見ていたけど、同じネタをひたすら擦ってるだけの一発屋と言う印象だった。

 

これじゃあ持って半年といった所だろう。

 

それに顔も言うほど似ていない。

 

僕が若手ばかりを起用するのは、彼らが売れどきになった時、ここぞって場面で使わせて貰う為だけど、その子には何の可能性も感じなかった。今ここで貸しを作ったとしても、これ以上成長するイメージが湧かない。

 

……どうやって穏便に済ませようか。

 

残念だけど今回は縁がなかったとのことで、相手方の顔を立てるような断り文句を考えていたら、ある一つの動画が目に止まった。

 

『ふふふっ……これが等身大のネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲だ!!!!』

 

 

サムネイルは女の子がちょっと下品な雪像を立てるというもの。

これだけで十分インパクトはあるが気になったのは女の子の顔だ。

 

……アイくん。

 

似ている……あのアイに。

 

その子は僕が今まで見てきたそっくりさんが霞んじゃうぐらいにアイくんに似ていて、最初はアイくんが生前にアップした動画なんじゃないかと投稿時期を確認したほどだ。

髪は染めていて、丸メガネで誤魔化してはいるけど、あの子とは何度も交流があったから分かる。

まるで生き写しだ。

 

声はどうなのだろうかと動画を再生してみたが……やはり似ている。アイくんよりは若干トーンが高いような気もしたが、その時の彼女はまだ14歳であったから同い年になれば、きっと聞き分けがつかなくなるだろう。

 

 

まさかアイくんの隠し子?

だけどそうなると……彼女は16歳で出産していることになる。

生物学的にはあり得なくないが、仮に親子だからと言ってここまで似るものなのかと疑念が首をひねった。

 

『お、折れるー!!!!助けて壱護さん!!かなちゃん!』

 

『おいバカ!』『もう!だから一人で持つなって言ったのに!』

 

そしてこれだ。壱護さんと呼ばれてて出てきた男を鏑木は知っている。彼はアイの所属していた事務所の社長で施設育ちだった彼女の身元引き受け人だった筈。

 

 

…………まさか、この男がアイくんを孕ませたのだろうか?

 

 

とんでもない思考が頭を過ったが、アイくんを実の娘のことのように可愛がっていた彼がそんなことをするわけがないと落ち着かせた。

 

自分なりにありそうな展開を考えるとすれば、アイくんが余所で男を作って子供までこさえてしまった。

社長としての彼は堕ろすべきだと言ったけど、アイくんの生んであげたいという必死の思いに親としての彼が断りきれず、隠れて出産。

 

そう言えば、アイくんは16歳ぐらいの時に体調不良で活動を休止していた。

 

あり得なくはない。

まだ若くしてファンとのトラブルで死んでしまったアイくんの忘れ形見を彼が育てている。何故ここでかなちゃんが出てくるのかは分からないが、まさかアイくん似のこの子がかなちゃんの親戚の子だったというオチはないだろう。

 

 

まぁ何にしても、想像だけで語っていては作品は作れない。

 

 

動画の内容もシンプルに気に入った僕はそのままチャンネル登録をして、古いツテを何個か使って斉藤くんに連絡を取った。

 

 

 

 

それで彼女がアイくんの子供かという話は……黒よりのグレーと言った感じ。流石にハイそうですと首を縦に振るわけがないとは思っていたが、仮にも全く無名だった子を弱小事務所からドーム公演まで押し上げた男だ。彼と腹の探り合いをするのは分が悪いと思って自分から身を引いた。

 

「別にあの子がアイくんの子供であろうとなかろうとどっちでもいいんだ。ただ機会があったら使ってみたいと思ってね」

 

「言っておくが、うちの娘は演技は出来ないぞ?」

 

二、三言喋るだけの短い台本を覚えるのに一週間は掛かると言われてちょっと驚いたが、別にドラマや舞台じゃなくても紹介出来るものは多々ある。

 

彼女のアイくん似のルックス、場を引っ掻き回すトラブルメーカー気質、何だか放っておけなくなるような母性を擽る末っ子気質。

 

アイくんのように視線を虜にするオーラはなかったが、上手くやればこの子は映える。

それを彼が理解していないわけがなかった。

だから今のうちに貸しを作って置きたかったのだが彼は彼女が芸能界に進出するのは強い抵抗があるようで、交渉には数年もの時間を要した。

 

そしてやっと彼女をキャスティング出来る準備が整った時、僕は恋愛リアリティーショーへと彼女を紹介した。

 

出来れば初めから出て欲しかったので、次のシーズンまで預けることも視野に入れたが、僕のプロデューサーとしての勘が彼女はここで出るべきだと言っていた。

 

実の娘に等しい彼女をいきなり恋愛リアリティーショーに出すのだから彼がある程度反発してくることも覚悟していたが、「…………まぁ、こいつがいるなら大丈夫だろ」とあっさり許可が出た。

 

運命のような流れを感じる。言葉を選ばすに言うと年甲斐もなく僕はワクワクとしていた。

 

普段は切り抜きやSNSの反応を見るだけで満足しているが、この時だけは、世間は彼女に対してどう映るのだろうとスマホの画面にかじりつき…………そして僕は笑った。

 

 

『あーくあ!』

『ヒィ!?』

『どうしたの?気分悪い?ママのお膝でねんねする?』

 

 

なるほど、そういうキャラも出来るのか。

やはり僕の勘は間違っていなかった。彼女はきっとこれを切っ掛けに伸びる。

それにしても、アクアくんと絡ませると数倍増して面白くなる気がするな。次は彼らコンビで仕事を紹介しようかと、番組の出来に満足しながら、彼は次の仕事のことを考えていた。

 

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