【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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恋愛リアリティーショー

今日は『今ガチ』の初収録日だ。

ユーチューバーとして活動し始めて3年目となるが、これまでテレビ関連の仕事は引き受けたことはない。

たまに案件でアプリゲームの宣伝をすることはあっても、この業界とだけは一線を敷いてきた。

 

何せこの業界にはアイを知る人間が多すぎる。アイのホームグラウンドだったのだから仕方ないと言えば仕方ない話ではあるが、それにしたってアイの勇姿に脳ミソ焼かれちゃったあの手の人たちは、何れだけ変装していても「アイに似てる!」と一瞬で見抜いてくるのだ。

 

今ガチはネット配信が主になるらしいが、正直かなり不安だ。

プロデューサーはアイをプロデュースしたこともあるそうだし……もしかして、そういうのを求められているのだろうか。

 

だとしたら困る。

 

最近の私はアイのメソッド演技は封印しているのだ。

出来なくはないとは思うが、それをやり続けろと言われたらかなり厳しい。調子が良くて5分、10分といった所だろうか。恋愛レアリティーショーはずっとカメラを回していると言うから、絶対ボロが出てしまう。

 

あー…………どうして受けちゃったんだろう私。

 

頭を抱えてしまう。

 

色恋沙汰なんて今まで一度も意識したことがなかった。

もちろん、この容姿だ。男子に好意を向けられたことはあるが中学の時はかなちゃんが防波堤になってくれていた。興味がなかったかと言えば嘘になるが、何かこう…………この人好きだって感じになったことが一度もないのだ。

好きな相手を探すと言うのも何だかバカらしくて、動画制作に集中していた。

 

最近停滞していた登録者数を伸ばす良い機会だとは思ったけど、あまりにも早計過ぎたかもしれない。

 

「転校生入りまーす!」

 

そんなことを考えているうちに出番がやってきた。

 

スタッフの人に誘導されながら、改めて今回の番組『今からガチ恋始めます』について振り返る。

これは鏑木Pが企画する恋愛リアリティーショーだ。出演者は皆高校生であり、週末に集まって交流を深めて行くうちに、それが恋へと発展していく。恋愛リアリティーショーとしてはありがちな設定だ。

恋愛リアリティーショーといえばシェアハウスをしたり、バスで旅行に行ったりするイメージがあるが、そういうのは演者とスタッフが24時間体制で動かないといけない為、精神的、体力的、そして金銭的にも厳しいので昨今はあまりやりたがらないのだそうだ。

今回は出演者が学生ということもあり、土日がメインの収録日となる。

 

『今、僕の企画している番組なんだけど、折角才能ある子達を揃えたのに癖の強い子に人気が寄っちゃっててさ。画角が絞られちゃうのは勿体ないと思ってたんだ。そこである程度形が出来つつある彼らの仲を引っ掻き回せるような人材を探していたんだけど、君ならピッタリだと思ってね』

 

扉の前に立って胸に手を当てる。

私はプロデューサーに誘われた時の言葉を思い出していた。

 

こういうのは普通、シーズン初めから全員メンバーが集まっているものなのだが、理由があって私は既に開始されているシーズンに転校生という形で参加することになる。

前シーズンは視聴したが、今は誰が参加しているのかは知らない。鏑木P直々に見ない方が面白いと言われたので、多分私の顔見知りが出演しているのだろう。

 

それがかなちゃんであれば有り難いが、何にしても知らない世界で顔馴染みがいるというのは心強い。

 

……仕方ない。やれるだけのことはやろう。

 

 

アイの演技……アイの言葉。アイ、アイ、アイ…………

 

念仏のように自分はアイなんだと何度も言い聞かせる。やはりブランクがあったせいかすんなりと入っていかないが、素でやるよりは幾分マシになる筈だ。

 

 

 

私はアイ……みんなのアイドルで…………大好きなアイドル…………いや、視線を虜にする……みんなが大好きなアイドル?

 

 

「じゃあお願いします」

 

 

その時、てっきり自分で開けると思っていた扉をスタッフが勝手に開けてしまった。

意表をつかれてしまったが、もうカメラは回ってしまっている。私は慌てて飛び出し、

 

「なッ……!」

 

 

な・ん・で・アクアがいるの?

 

 

見慣れた金髪長身細身イケメン。よりにもよって顔見知りはアクアだった。

恋愛リアリティーショーに兄と参加するというあまりに悪魔的な光景にくらりと目眩がする。

 

 

 

あらら、ヒスイには少し刺激が強すぎたかな?

 

少しだけお母さんが変わってあげるから、休んでてね。

 

 

 

 

そして直前までアイになりきろうと思っていたせいか、アイの幻聴が聞こえた。

 

 

…………あぁ、これはスイッチが入る。

 

 

奇しくもこの時、私は年に数回あるかどうかの絶好調が来る予感を感じた。

アイのメソッド演技だけ上手くなるあれだ。

普段は役であるアイに飲み込まれないように一歩下がるのだが、学校のみならず週末まで兄と過ごさなければならないという状況に絶望し、今回は身を委ねることにした。

 

 

「どうも皆さんこんにちは!星野ア……じゃなくてヒスイです!どうぞよろしくお願いします!」

 

「えっめちゃ可愛い子がやってきたー!」

「あ、ヒスイちゃんだ!!」

「うぉ……すっげぇな。プロ級の可愛さじゃん」

「一気に場の空気を塗り替えた、レベルが違う……」

「星野って…………もしかして!?」

 

「はい!昨日ぶりだねアクア!元気にしてた?」

 

 

「………………違う違う違う違う、こいつは妹、こいつは妹、こいつは妹」ブツブツブツブツ

 

 

 

「アクたんが壊れた!?」

 

 

そこで完全に意識が埋没する。星野ヒスイと星野アイが裏返る。

気が付いたら今日の収録は終わっていたが、概ね好評だったらしい。

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