【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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五反田泰志

「……あり得ねぇ」

 

それは本当にあり得ない光景だった。

早熟が久しぶりに大きな舞台に出ると言うから、しかもそれが恋愛リアリティーショーなんて柄にもないものであるから、からかいの種の一つにしてやろうと見ることにした。

 

そこまではいい。恋愛リアリティーショーなんてのは普段は見られない役者やモデルの素の部分を売りにしていることもあるから、ガチガチにキャラを作ってきた早熟には、見当違いだと笑ったり、最後までボロを出さずにいけるのかと不安になったりもしたが、問題はこいつだ。

 

『皆、おはよー』

 

数年前に死んだ筈の星野アイがいやがる。

そっくりさんだとか特殊メイクをして役者が演じている訳じゃない。これはアイだ。

ネットの配信を見れば、アイ似だアイの再来だと言われているが、もう一度言う、これはアイだ。

 

……どういうカラクリだ?

 

彼女の生前、決して交流が深かったという訳ではない。

あくまで仕事の付き合い。何回か作品で使ったことはあったし、あいつメインの作品を作ろうとしていたが結局はおじゃんになってしまった。

 

だがあいつは死んでしまったその事実以外にこの星野ヒスイという女をアイではないと否定出来る材料はなかった。

 

俺、五反田泰志は映画監督だ。

監督賞、万年ノミネート止まりだとネットでは笑われているが、これでも手掛けた作品には拘ってきたきたつもりだ。

作品のクオリティ、整合性、役者の質。そんな中でも本物に俺は拘ってきた。

フィクションを撮ってる人間が何を言ってるかと思うかもしれないが、役者がキャラクターに乗せる本物の感情が作品のクオリティを底上げしていると自分なりのジンクスを持って作ってきた。

 

そんな俺の数十年が言うのだ。こいつはアイだ。

 

背はあいつより少し小さく、歳はあいつより若く、体力がないのか後半になると毎回眠そうにしているが、言動の一つ一つを切り取っても、アイならそうするを必ずやってくる。

 

『あくあ~どうしてママの顔を見ないの?照れ屋さんなのかな?』

『やめろ、マジでやめろ……』

『もしかしてアクたんって家だとそんな感じ?』

『やだ、事案じゃん』

『違う!』

 

逆に知らない一面を見せられた時は、あいつこういう時はこんな顔をするのかと納得させられるほどだ。

 

マジで訳が分からん。

 

 

アイのクローンでも造られたと言った方が理解出来るぐらい常識の外にあるような光景であった。

メソッド演技というのも脳裏を過ったが、あれは自身の過去と照らし合わせ外枠からキャラを固めていく関係上、どうしても本物と見比べた時、綻びが目立つ。あれは超リアルなそっくりさんを生み出す技であって本物に成り代わる技ではない。

 

 

「と言うか、アイツ、妹もう一人いたのかよ」

 

 

作中で思いっきり妹だと公言しているが、初耳であった。

 

アイは死ぬ数日前。俺に二枚のビデオレター(DVD)を預けた。

アクアとルビー宛て。早熟を使った時の撮影でもルビーしか来ていなかったし、だからてっきりアイツらは双子の兄妹なんだと思っていたが、まさか三つ子だったとは考えもしなかった。

 

「ルビーはギリギリアイに似てる親戚とかで誤魔化せなくないが……こいつはもう決定だろ」

 

これで赤の他人だったら俺は死んでもいい。

 

俺がアイだとしか思えない早熟達の末っ子ヒスイ。

 

何故二人宛のビデオレターを俺に預けて、この少女のビデオレターだけ渡さなかったのか。

それは俺がこいつを見たとき、お前の娘だと確信してしまうからだ。

 

…………そこまで、本気で隠したかったのか。

 

早熟とルビーがアイの子供かもしれないというのは、前々から考えていたことではある。そうなると15歳で身籠ったことになり、発覚すればとんでもないゴシップネタになる。

だから隠すのは当たり前だ。しかしそれにしては早熟やルビーはまるでアイの子供だといずれ分かるように、外へ小さなヒントをいくつも落としていった。

 

バレたら終わりなのだから本当はヒスイのように子供がいるという影すら感じさせない。発覚して驚かれて、ぜんぜんそうは見えなかったと言われるのが普通なのだ。

早熟やルビーのように、そう言えば……と言われるようなギリギリの綱渡りをしていること自体が異常で、それはアイの特異性がそうさせているのかと思ったが、今回ヒスイという前例が出来てしまった。

 

これが愛故なのか、それともアイドルとしての自分を続ける為にヒスイの親であることを切り捨ててしまったのか。

 

そこまでは読み取れない。

 

真実を知っているとしたらアイか、それともこのアイの全てをトレースしたようなヒスイだけだろう。

 

 

 

『ねぇ、ヒスイちゃんは気になる子とかいないの?ずっとお兄ちゃんにベッタリってのも……あれでしょ?』

『う~ん。そうだね。じゃあこれからはあかねちゃんも可愛いがっちゃう!』

『えっ!?私!?』

『おやおや……もしやヒスイちゃんはみんなのママ枠を狙っておられるのですかな?』

『ふふっ流石にみんなのママにはなれないよ。でも私もみんなも幸せになれたら最高だなって思うな!』

 

 

…………これは仮定だ。

 

早熟のようにとんでもない天才……であって欲しい。

 

だが俺なりにこのヒスイのアイトレースをアイの娘であるという情報を追加して解明するとしたら、アイはこいつに愛だけでなく()()()()()()といった感情まで注いでいる。

 

ここまで本物と見分けがつかないのだから、自身の全てをこの子に吐き出している。それは決して親子であるからと許されない行為にも手を染めていることになり、毎晩枕元でシネシネと言われる百倍は最悪な乳児期をこいつは経験していることになる。

 

『ごぼっごぼごぼごほ!!!!』

『………………』

 

俺の脳内には沐浴途中でわざと溺れさせようとするイメージが思い浮かび上がった。

 

明るい感情も、あいつがいつも何かに怒っていた隠したウソも包み隠さず、内側まで注がれた少女。それを全部受け取って成長した結果がこれだとしたらあまりにも救いがなさすぎた。

 

だからどうか思い過ごしであってくれと、感情を落ち着かせる意味で煙草に火を着ける。

 

『ふぁぁぁ~』

『どうした?眠いのか?』

『うん、そろそろ限界かも……また今度だね』

 

 

「脚本……書き直さないとな」

 

あいつから託された約束はあと少しの所で振り出しに戻ってしまった。

脚本は書き直せばいいが、こいつをあれに出すべきなのか否か。最高で最悪の素材を前にこれから俺は物凄く悩むことになるのだろう。

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