【駄目な子】 作:星野ヒスイ
今ガチの流れは変わった。
「ヒスイちゃんって本当にお兄ちゃんっ子だね~」
「そんなんだと彼氏なんて作れないんじゃない?」
「う~ん、彼氏なんて考えたこともなかったからなぁ。でも高校生で付き合って、一緒にキャンパスライフを満喫してそのまま結婚ってのは夢があると思うな」
「あ、それちょっと分か「……何か考え方が古いね。お母さんみたい」
「「グハッ!?」」
「何故、MEMちょにまでダメージが?」
番組映えが良い鷲見ゆきとMEM、そして鷲見ゆきとの恋愛関係が期待されている熊野ノブユキを中心に今シーズンの流れが固まりつつあった最中、転校生として追加された星野ヒスイによって、その流れは掻き乱された。
「でもヒスイちゃんって本当に可愛いのよな。むちゃくちゃ俺の好みだわ。あ、でもヒスイちゃんとお付き合いするならアっくんの許可が必要なのか?」
「……ハァ。そんな訳ないだろ」
「でもそのまま上手く行ってヒスイちゃんと結婚したらアクアのことお義兄って呼ばないといけないよな」
「はぁ?ヒスイが結婚なんて百万年早いが?」
今は人間関係が一旦リセットされて、ヒスイを中心に再構築されているといった所だ。
番組側の意図は分からない。
調べたところ転校生という試みは過去に幾度かあったらしいが、どれもこれもが人気が低迷化していた時のテコ入れとして追加されてきた。確かに序盤でありながら映るやつと映らないやつとで完全に分かれてしまったのは勿体ないとは思うが、今のところ今シーズンの評価は悪くなかった。
俺たち全員のポテンシャルを汲んでいるのか、それともヒスイにそれだけ期待しているのか……。
コメント:
アクアとヒスイちゃんの関係めっちゃ尊いわ~
まさかの兄妹参戦!ツンデレで過保護なアクアが面白すぎる
ヒスイちゃんにはドライな反応してるけど、これ凄い大切に思ってるだけだから、ツンデレの王道パターンだから!
鏑木Pが推してきたらしい、願ってもなかったアイの演技をしたヒスイとの共演。番組はアクヒスで盛り上りを見せている。
どうやら兄妹で恋愛リアリティーショーに参加するという真新しさが逆にウケたらしい。
「あーくーあー!どう!」
それをヒスイも分かっているのか、メンバー全員と積極的に絡んでいくヒスイは俺の時だけかなり距離が近い。
「うん。今日は大丈夫そうだね、疲れはとれた?」
「あ、あぁ……」
俺にはアイの演技をしたヒスイはアイにしか見えなかった。
そしてこの時のヒスイは俺たちでしか知らないアイの一面を持っている。それにしてはアイが見せるあの圧倒的なオーラのようなものは感じられないが、アイなら意図して抑えることは出来ていた筈だし、ヒスイのそれが天性のそれまでは再現出来なかったと読み取ることも出来る。
ミヤコさんと話し合って今の自分を受け入れて貰おうとは決めたが、これがヒスイなりにアイを研究した結果なのか、それともオカルト的な要素でアイの魂がヒスイに憑依しているのか、知らないことには先に進めなかった。
「それよりヒスイはどうだ?昔ほどじゃないにしろ久しぶりの撮影は疲れるんじゃないか?」
「まぁ~恋愛リアリティーショーなんて出たこともなかったしね」
「やっぱり撮影とは違うか?」
「全然違うよ~だってYouTubeは週2だよ?そりゃネタを考えたり撮影が長引いたりすることはあるけど、楽しんで下さいね~なんて言われてずっとカメラを回されてる経験なんてないんだもん」
「そうか。そう言えばお父さんは元気にしてたか?」
「え?………あー、うん。お父さんも元気だよ」
俺たちは公には両親の仕事の都合で離ればなれになっている兄妹という設定になっている。それがまた視聴者の想像を書き立てる要素の一つになっているのかもしれないが、ミヤコさんの方には俺とルビーが、斉藤壱護の方にはヒスイがついて行ったという話だ。
ヒスイは斉藤壱護のことを壱護さんと呼ぶ。当初は斉藤さんと呼んでたようだが、今では必死に名前を覚えて壱護さんと呼ぶようになったらしい。
だがこれだけで彼女をアイだと判断するには弱すぎる。カメラを気にして、あえて父親であると印象づける為に言っている可能性もあるからだ。
俺は周囲を見渡して、MEMに目を付けた。
「ん?どうしたん?」
「いや、そう言えばMEMちょもYouTubeだと思ってな。年も近いし、交流とかなかったのかと」
「ぐっっ……うーん。ヒスイちゃんと私じゃあ微妙にジャンルが異なるんだよね~お互いに認知はしてたんだけど、コラボを打診したりとかはしなかったかなぁ」
ヒスイの方を見ると首を縦に振っていた。
「こればっかりは仕方ないよ。ファンが求めているものが違うんだし、無理に合わせようとして困惑させても意味がないもの。私はあんまり案件とかとらないし、仕事で会うことはなかったけど、コラボでもないのに会ったことない人には話しかけづらかったよね」
これはヒスイがユーチューバーとして活躍してきたからだからこその言葉だろう。だがそれにしては言葉に重みがないと言うか見てきたものをそのまま言っているだけのように淡々としている気もする。
「お、何々?インフルエンサー二人を囲ってハーレム気取りか?」
「そうなの、あくあってば本当に罪な子でさ~本当に誰に似たんだろう?」
「お前も似たようなもんだろ」
「私はそんなんじゃないよ。だって本気で誰かを好きになったことなんてないんだもん」
「っっ…………そうか」
誰かを好きになったことなんてない。
それは異性関係の話なのか、それとも家族関係のことを言っているのか。まだどちらとも決まったわけではないのに胸を締め付けられたような気がした。
「ふぁぁぁ~今回は夜まであるんだよね。大丈夫かな…………」「おっと、寝不足か?」
ふとヒスイが欠伸をかいて、左右に揺れる。そこに下心があったわけではないだろうが、危ないと咄嗟にノブユキが肩を掴んだ。
「なんかヒスイちゃん。毎回眠そうにしてるよね?夜遅いのかな……」
「ヒスイちゃんのチャンネルって出来るまでやり続けますっ!て感じの耐久系が多いから、土日にゆっくり出来ないのは厳しいのかも」
「それに転校生だからって張り切ってるもんね。もっと私達で肩の力を抜いてあげないと」
「ほら、アっくんにお返しします」
「あぁ……おう」
「う…………ん。あと、1……5分…………」
俺に寄りかかって寝ぼけた声でそんなことを言っているヒスイ。
平気そうな顔をしているが思ったよりこの番組はヒスイにとって負担になっているのかもしれない。
ゆきの言う通り、これからはヒスイからではなく俺たちからも絡んでいくべきなのだろう。
(そうだな……まだ番組の終わりまで長い。焦る時期じゃないんだ)
極論、アイの証明なんて番組が終わった後でも出来る。焦っても状況を悪くするだけだというのは嫌と言うほど理解していた。
先ずはヒスイの負担を減らしていこう。
「………………成る程、さりげないボディタッチ。兄妹だけど、あぁ言う距離の縮め方もあるんだね」
カキカキとメモを走らせる黒川あかねを横目に、ヒスイの頭を撫でた。