【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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推しの子

○月○日

 

これから暫くは斉藤さんの家で厄介になる。

殆ど何も持たずに失踪したと聞いていたから、どんなボロアパートに住んでいるのかと思ったが、斉藤さんの家は2LDKのマンションで、仕事の物と思われる機材がそこらじゅうに溢れていたけど、足の踏み場もないというほどではなく、キッチンや水回りなどは意外と綺麗にしていた。

 

「どうせ直ぐ引っ越すから馴れる必要はないぞ?」

 

「へ?」

 

「住むだけなら問題ないが、撮影するには狭いし、何より防音性がクソだ。こんな所でドタバタやったらあっという間に追い出されちまう」

 

と言うわけで、移って早々引っ越しの準備である。

移転先は、私の家から車で2時間ほど離れている少し遠い場所となる。

少し古いが庭付きの戸建ての借家になるらしい。

都心からはなるべく離れたくなかったそうだが、今のお財布事情だとこれが限界なのだそう。

 

必然的に兄姉達と中学が別になることが確定したので、内心嬉しかったのは内緒だ。

 

 

その日の晩は私が料理を振る舞うことなり、少し凝ってボルシチを作ってみたのだが、好評であった。

 

 

 

 

○月△日

 

引っ越しの日時が決まったので、部屋の片付けである。

斉藤さんに言われた物をダンボールに詰めてガムテープで封をする。その繰り返し。

地味な作業だが、アイの才能を見抜いた斉藤さん直々に努力の才能があると言われるだけはあって、こういう単純なやつは結構好きだったりする。

 

包装する、詰める、封をする。包装する、詰める、封をする。包装する、詰める、封をする。

 

脳死で三時間もやっていればあっという間に終わってしまった。

 

「このダンボールは?」

「ッ!おっと、そいつは俺が片付けるから触らなくて大丈夫だ」

 

ここにきた時から既にダンボールに詰められていた物を運ぼうとすると何故か止められた。

重さ的に紙の束が入っていたのだと思うが、重要な書類か何かだったのだろうか?

 

 

 

○月✕日

 

日課である朝のランニングコースを走っていたら、見覚えのある金髪の男女。

兄と姉が血走るような目をして何かを探しているのをいち早く発見した私は反射的に物陰に隠れた。

 

「ハァ……ハァ……どう?いた?」

「いや、居ない。いつもならこの時間にここを走ってる筈なのに……」

 

どうやら二人は私を探しているらしい。

 

「どうしようアクア。もしかしてヒスイ……誘拐されちゃったのかも!」

「いやそれならミヤコさんが既に警察に連絡してる筈だ。あの人が家出だと言うなら、少なくとも信頼出来る人に預けられている筈」

「でも、あのヒスイだよ?ママの可愛い娘なんだよ?こんな朝早くにジョギングなんてしてたら悪い大人に捕まっても可笑しくなくない?」

「……帰ったらもう一度、ミヤコさんと話してみよう」

 

いつも一人で走りに行ってる筈の私のランニングコースを何故か把握している様子だが、やはりその天才的な頭脳で推理して導き出したのだろうか。

 

いつも仏頂面のアクアはともかく、姉のルビーは本気で心配している様子だったので、ジワジワと罪悪感が湧いてきたが、それと同時にやはり二人は()()()()()()である私の事を完全に下の子として見ていると実感出来てしまったので、相殺されてしまった。

 

これが仮にアクアが家出したとしたらルビーは「お兄ちゃんだし、大丈夫でしょ」と私がランニングコースで出待ちしようと誘っても二度寝するだろう。

これが仮にルビーが家出したとしたらアクアは「ルビーももう子供じゃないし大丈夫だろ」と流石に2日、3日と過ぎれば怪しく思って動くかもしれないが、1日目からこんな対応は取らない。

 

 

つまり私は二人に舐められているのだ。

同じ日に生まれた兄妹なのに、まだ一人だと何も出来ない子供だと思われている。

 

 

 

……どうして二人は私を見てくれないんだろう。

 

 

 

私は必ずやこの屈辱を払拭してくれるわ!と、決意を改めて固めて、次の日から別のランニングコースを走ることに決めた。

 

 

 

 

 

 

○月□日

 

今日はYouTubeのアカウントを制作してみた。

まだ引っ越ししていないので動画は投稿出来ない。だがアカウント名ぐらいは決められるだろうってことで、斉藤さんと話し合い。

 

「私、ここは安牌でヒスキンでいいと思うの」

「キン一族だけは止めとけ」

「ならヒスイしゃちょー?」

「社長じゃなくてしゃちょーにしてる時点であざと過ぎる。止めとけ」

「なら……HISUIチャンネル?」

「それだと本名になるぞ」

「もう、さっきから文句ばっかり。そんなに言うなら何か言ってみてよ」

 

10分ぐらいで決まると思っていたけど、私が上げた候補をズバズバと切って捨てるからかなり難航した。

なら斉藤さんが考えればとバトンを渡すと、一時間ぐらい熟考した末、……C小町?とか、ふざけるのも大概にしろという候補をあげてきた為、アカウント名はHISUIチャンネルで強制決定となった。

 

そしてどういった路線で行くかも軽く話し合ったのだが、炎上系は避けつつ、検証やレビューにゲーム実況と私に合ったジャンルを探り探りでやっていくことに。

 

 

 

 

昨日、嫌な思いをしたせいかこの日は悪夢を見て飛び起きた。

 

悪夢の内容は腹部から出血し、口から血を流したアイが「ヒスイ……ヒスイ……どこにいるの?」と虚ろな目をして私を探しているというもの。

私は映像や写真で当時の姿を知るばかりで、生きていた頃のアイを覚えていない。だが4歳ぐらいの姿になった私を血まみれのアイが探しているといった悪夢は時々見ることがある。

 

アイの死因は腹部を刺されたことによる失血死だったらしいし、もしかしたら私が忘れているだけでこれは本当にあった出来事なのかもしれない。

 

もしかしたら当時の自分にはあまりにショッキングな出来事だった為、記憶を抹消してしまったのかも。

 

夢はいつもアイが私を見つける前に覚めてしまうのだが、現実ではどうだったのだろうか。

 

それを知る術は残されていない。

 

 

 

○月○△日

 

今日は新天地へとお引っ越しの前に、私の日用品を揃える為に斉藤さんとデパートに。

 

何着か服を買い、下着コーナーに行くと、斉藤さんはここで待ってるとベンチで待機。

 

中々に種類が豊富であり結構時間を掛けた。そして私がこれだと思う下着を何着か選んで戻ると、斉藤さんは右頬を赤く腫らしていた。

 

聞けば偶然ミヤコさんと出くわしてぶっ叩かれたらしい。

 

「まぁ、仕方ねぇわな」

 

と小さく笑いつつ、「約束、守んないとな」とどこか憑き物が落ちたような表情で、彼はそう呟いた。

 

どんなやり取りがあったのかは知らないが、アイが死んでミヤコさんの前から逃げてしまった斉藤さんが、ミヤコさんへの約束を守らないとな、というのだから悪くない話だったようだ。

 

「あ、お前が勝手に出ていったこと無茶苦茶怒ってたぞ。引っ越すのはこの際いいから、引っ越す前にちゃんと自分の言葉で伝えに来いってさ」

 

「ええぇ…………」

 

 

 

 

後日、こってり絞られた。

 

 

 


 

 

星野ヒスイによる好感度

 

斎藤ミヤコ……ぶっちぎりの一位。小学一年生ぐらいまでは本当の母親だと思っていた。その時までママと呼んでいたが、二人に合わせてミヤコさんに呼び名を変えた。

 

斉藤壱護……ミヤコが選んだ人&暗雲の中をさ迷っていた自分に道標を示してくれた人なので信頼している。

 

アクア&ルビー……復讐してやる!

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