【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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ネオンの輝き

「あらっしゃしたー」

 

時刻は22時45分。いつもの私なら部屋で舞台の台本でも読みながら体をほぐしていた時間帯。だけど今日はお腹が空いていたので、コンビニで弁当を買った。

 

自動ドアを潜ると、物凄い雨風が私を包み込む。

 

……あぁ、そう言えば台風来てるんだっけ?

 

出ていく時に傘を忘れたからついでに買おうと思ったけど、忘れてしまった。

急いで私は引き返し、ビニール傘を購入する。

 

 

そして傘を開いたタイミングで、嵐は一層激しくなった。バサバサとビニール傘は暴れまわり、この分では帰るまでは持たないだろうなと思った。

 

……まぁいいか。

 

どうせこの嵐じゃ、ずぶ濡れになる。

 

私は諦めてこの大嵐では頼りない傘を広げて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

シンプルに死ね。

 

 

 

性格悪そうな顔をしてる。

 

 

芸能人としては終わりだろ。

 

学校じゃあ皆に嫌われていたww

 

てかブス過ぎ。

 

努力したことがなさそー。

 

 

親の教育が悪かったんだろうな。

 

 

内心、今ガチのメンバーのこと見下してたんだろ?

 

ヒスイちゃん可哀想~折角暴君あかねが爆発しないように頑張ってたのに、結局あかねが全部台無しにしちゃった。

 

て言うか、ヒスイもあかねと共犯でしょ。二人してゆきを潰そうとしたんじゃね?

 

 

ぐるぐるぐるぐると頭の中を顔の見えない悪意が順転する。

 

 

 

……私、黒川あかねは炎上した。

 

撮影中にかっとなって友達のゆきの顔に傷を負わせて、ゆきには許してもらえたけど、それは世間は許してくれなかった。

 

今ではネットで毎日のように私のことを悪く言う人たちがいる。最初はそれも意見だから受け止めないといけないと思ったけど、お母さんや最近私と一緒にいることが多かったヒスイちゃんまで悪く言われるようになってからよく分からなくなって、今まで有名な役者になるために頑張ったこと、それが全て無駄になるんだと思うと、これから何のために生きればいいのか分からなかった。

 

「………………」

 

歩道橋だ。

 

雨で滑りやすくなっているだろうから、手すりをちゃんと掴む。

 

そんなこといつもなら無意識でやっているのに、今は意識しないと何も出来る気がしない。

全然考えていることが纏まらないのだ。言葉にしてもそれが自分が言ったのかも分からない。私の中はネットの罵詈雑言で吹き荒れる。

 

──あぁでも一つだけ、ずっと考えていることがある。

 

私は風邪をこじらせてからずっと会えないでいるヒスイちゃんを思う。

 

あの子はきっと、遠からずこうなることが分かっていた。

 

いや、あの子だけじゃない。みんな私が焦っていることは分かっていたんだ。

違ったのは、どうしたらいいのかと皆が悩んでる中、あの子は一人飛び出してしまったこと。ヒスイちゃんは思い立ったら吉日というのを地で行く人間だったのだ。

 

『そんなに気になるならあかねちゃんもウチのチャンネル出てみる?』

『えっ?』

 

 

そう言えばあの時もそうだった。

 

星野ヒスイ。彼女が現れた時のインパクトは私が初めてテレビであの人を見た時と同じぐらい凄かった。

一瞬で全員の意識を自分に向けさせる存在感。とんでもない人が入ってきたと恐れ戦き、しかしそれが演技による模倣だと分かると役者として尋ねずにはいられなかった。

 

「ん~でも私、役者経験とかないし。せいぜいネタで寸劇やるぐらいだよ」

「じゃあヒスイちゃんのあれは寸劇で鍛えられたってこと?」

「いや…………あれはちょっと特殊というか何というか。たまたま調子が良かったんだよね。あれを教えるのはちょっと……うーん。でもなぁ~よし!そんなに気になるならあかねちゃんもウチのチャンネル出てみる?」

 

具体的に何をどうやって役作りをしているかは企業秘密。だけど動画内から幾らでも盗んでくれて構わないと突然動画撮影に付き合わされた。

 

「おひっいす!ヒスイチャンネルだよ!今日は今ガチメンバーの黒川あかねちゃんとのコラボ動画だ!」

 

「ど、どうもあかねです……」

 

「本日はあかねちゃんからのご要望で、この箱から出てきた条件で寸劇をやっちゃうよ!審査員である壱護さんが、劇として成立しているか否かを判断して、二人とも計三回アウトで企画は即終了だ。

──おっと、それだけだとやる気がなくなったら手を抜いて終わらせるんじゃないかと思ったヒスナーのキミ。鋭い!そんなキミの心配を取り除く為に、今回は二人でそれぞれ別の寸劇をやるから先にアウトになった方は、激辛ペヤングを食べなければならないという罰ゲームを設けます!」

 

「えっ!?」

 

 

 

「か、からから………み、みじゅ……」

 

 

結果的に勝てたから良かったけど、ヒスイちゃんは一度やると決めたら絶対にやる。辛いものは大の苦手だと言っていたけど、全身の汗腺から水分を出しながら完食してしまった。

 

「ふふっ……」

 

何だか取っつきやすくて、人と仲良くなるのが上手い子なんだろうと思った。

もしかしたら私の為にわざと負けてくれたのかもしれないと思ったが、本人曰く本気だったそうなのでそういうことにしておいた。

 

肝心のあの時の演技については分からずじまいだったが、その動画のお陰で私たちの距離はぐっと縮まった。それからヒスイちゃんは直ぐにみんなの輪にも溶け込んで、今ガチのメンバーとして視聴者からも直ぐ受け入れられた。

 

ただあの子は優しくて、この番組で輝けるものを持っているのに他のメンバーにも出番があるようにと、中間に居座ってバランスを取り始めた。

 

 

そのお陰で私の番組での知名度も少しは上がったけど、「この子はもっと輝けるのに……」「私が足が引っ張っているせいで」まるで私の憧れている、あの人を思い起こさせて、情けない気持ちになった。

 

 

 

きっと今回のことで、ヒスイちゃんは全部自分のせいだと己を責めている。私が勝手にやってしまったことなのに、もしかしたら私以上に落ち込んでいるかもしれない。

 

それが何週間も入院して心身がボロボロの状態で、だ。健康だった私ですらこうなのに、ヒスイちゃんが炎上のことを知ったらどうなるか怖くて想像が出来ない。

 

 

歩道橋の階段を登りおえて、ふと散々に輝くビル街を見た。強風に飛ばされた看板が街灯の一つにぶつかって、火花が散る。

 

 

……私が生きてたらヒスイちゃんにもっと迷惑がかかるのかな?

 

会って話したいとは思っていた。だけどいつになったら会えるのか。その間も私が生きている限り、ヒスイちゃんには迷惑がかかる。

その考えに行き着くと、先ほどからずっと絶えず流れていた罵詈雑言の嵐がボルテージを上げた。

 

 

 

 

 

柵に手をおくと自然と足が上がり、そのまま上に立つ。

 

 

 

 

もう考えるのは疲れた。

 

 

私は目を瞑り、柵の外へと身を乗り出した。

 

 

「あかねちゃん!」

 

数秒後には地面に打ち付けられて、走るどの車かに跳ねられて死んでしまう。

 

 

私は死ぬ。

 

 

 

私が死ぬのだ。

 

 

 

 

それは決して、彼女である筈がない!!!!

 

 

 

 

「ヒスイちゃん!」

 

 

後ろに引っ張られた私は、勢いのまま空に飛び出してしまった彼女へと手を伸ばした。

 

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