【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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姉は──

もしも。もしもの話。

 

貴方は死んだ筈の大切な人がいきなり現れたらどうしますか?

 

「ん~よく寝たぁ。この感じだと一時間ぐらいは大丈夫かな?」

 

「あら、やっと起きたの?」

 

「うん。ごめんね、迷惑かけて」

「全く……今回ばかりは肝が冷えたわよ。貴方ももう大人なんだから少しは物事を考えて行動しなさい」

「気をつけまーす……」

 

病院から帰る道中の車の中。

今私の目の前にいるのは星野ヒスイ。

私の妹……だよね?

だってそうじゃないならおかあさんが見間違える筈がない。

知らない子と取り違えるだなんて、赤ちゃんの話じゃあるまいし、こうして会話が成立しているのだから本物ではあるはずだ。

 

けれど、違和感があった。

 

欠伸を噛んで、悪戯っ子が叱られた時のような笑みを浮かべるヒスイ。

まるでヒスイが時々しているアイの演技みたいな誰かの役を借りて喋っているような違和感。あれを最初に見た時はアイが生き返ったみたいで驚いたけど、やはり続けていればボロが出る。

 

だからこれはアイじゃなくてやっぱりヒスイなんだ。

 

それを今のヒスイからも感じた。

 

まるで良く似ている誰かがヒスイのモノマネをしているようで、違和感がある。

 

「ねぇ、ヒスイ」

「なに?お姉ちゃん」

「もしかして、いま演技とかしてる?何か……その、言葉では上手く言えないんだけど変な感じがするの」

「え?」

 

驚いたような顔。やっぱりこれもヒスイじゃない、どちらかと言えばこれはアイみたいだ。

 

「私演技は素人だけど、分かるよ。三年も会えなかったんだもん。もし私たちと一緒にいるのがヒスイにとって負担になってるんだったら今からでもロリ先輩に迎えにきて貰うおうか?」

「いやいやいや!大丈夫、私大丈夫だよ!もう!お姉ちゃんは心配性だな~!」

「ほら、それ。まるでママ……アイがヒスイのモノマネしてるみたい。別に私たちはヒスイが一緒に居るのが辛いって言っても傷付かないから。それよりもヒスイが隠れて無理してるってことの方が悲しいよ」

「うーん。と困った。…………じゃあさ!お姉ちゃん!ちょっと耳を貸して!」

 

おかあさんに聞かれたくない内容なのだろうか。言われた通り耳をヒスイに傾けると、ヒスイは少し躊躇うようにして、小さく「奥さんには内緒だけど、本当にママだよ」

 

 

──あろうことか、自分はアイ本人だと言い始めた。

これはもしかしたら、無理をしているのではなく、何か精神的な病気なのではないか。

そう言えばロリ先輩はヒスイがずっとアイの演技で今ガチに参加していることを心配していたが、これは演じ続けているうちにどっちが本当の自分か分からなくなってしまうというやつではないか。

 

「おかあさん大変。今すぐ病院に戻って、ヒスイが自分のことをアイだと思ってる」

 

「ちょっっっ!ルビー待って!違うの!本当に私だから!ほら、そうだ!なら私にしか分からない質問とかしてみてよ!」

 

「でも私が知ってることなら、ヒスイが知っててもおかしくないでしょ?」

 

「あ…………なら、あれは?ヒスイが初めて私に笑ってくれた時の話!」

「もう何回もヒスイには話しちゃったじゃん」

 

アイに懐かなかったヒスイだが、アイがあることをして、花のように笑った時があった。その時のアイはとても疲れていて、うとうとしていたけど、ヒスイが笑ったのを見て、とてもキラキラと輝いたのを覚えている。

 

あの時のアイは、私が前世を合わせて見た全てのアイの中で一番綺麗だった。

 

その頃の記憶はヒスイにはないが、アイの存在を忘れて欲しくなかった私は何度か話題に出してしまった。だからこれがアイである証明にはならない。

 

「……初めてヒスイが寝返りした時は三人で喜んだよね!何故かルビー達はその頃にはつたい歩きが出来て普通に喋ってたような気もするけど、やったー!ってその日はお赤飯を炊いたんだ!」

「それも話したでしょ?」

「うー、ヒスイが……そうだなぁ」

 

あーでもない。こーでもないと頭を振るう。

生きていた時の顔も覚えてはいないアイのふりをしてまで私達に合わせようとしてくれるヒスイ。

もう見ていられない。私はヒスイの頭を抱き寄せた。

 

「あ、」

「ヒスイ……何も慌てなくていいんだよ。私たちは悪者じゃない。貴方を絶対に傷つけないから」

 

病院に戻ってと言ったのは悪かったかもしれない。

ヒスイは……私たちに迷惑をかけたくなくて焦っている。無理をされているのは心苦しいが、それをやめてと言われて止めれないのなら、そのまま受け入れて上げるのがヒスイにとって一番いいのかもしれない。

 

「はは、私ママなのに。今はルビーがママみたい……あーそっか。ルビーはもう私より大きくなったんだ」

「そうだね。今のヒスイはちょうどママと同じぐらいの身長だ」

「ルビーは大人になったね…………昔は甘えん坊さんだったのに」

「今でも甘えん坊だよ?アクアにもヒスイにもおかあさんにもダメな私はいつも甘々……でも、こうして抱きしめてあげることは出来る」

「そっか。お姉ちゃんだもんね、温かい」

 

そこでヒスイは安心したのか、体から力を抜いて私に持たれかかった。

 

「もし……もしもの話だよ?私が生き返ったアイだとしたらルビーはどう思う?」

 

「そりゃ嬉しいよ。だって今でもアイは私の大切な家族で母親だもん。それにアイドルとして私の究極の目標でもある。……いつか、一緒に舞台で踊ってみたいと思ってた」

 

もしそれが叶うのだとしたら、それに勝る喜びはない。

 

「だけど、アイは死んだの。今私の目の前にいるのは星野ヒスイ。おっちょこちょいで直ぐに物を失くして、髪を乾かして寝ないと直ぐに風邪をひいちゃうような体の弱い子だけど、自分の体のことを言い訳にして諦めたりなんかしないとっても頑張り屋さんな自慢の妹」

「そっか。ヒスイは頑張り屋さんか」

「うん。そんなヒスイが私は大好き。勿論努力しなくなったとしても嫌いになんかならないけど、ヒスイの代わりにアイがいるんだとしたらアイが生き返ったことを私はきっと喜べない」

 

どっちが大切だという話ではない。

どっちも大切だからこそ、目の前にいる存在()()()守りたいと思う。

 

「……私とルビーとヒスイの三人でアイドルをやってみたかったね」

 

「そうだね。そしたらお兄ちゃんは箱推し確定だ」

 

「「ふふ!!」」

 

三本とも赤のペンライトを持ってオタ芸を披露するアクアが容易に想像出来てしまって二人とも笑ってしまった。

 

「…………ルビー。何だか私、ちょっと眠くなっちゃった。このまま眠ってもいいかな?」

「いいよ。着いたら起こしてあげる」

「もし起きたら、ちょっと変なことを言うかも知れないけど許してね」

「大丈夫。何を言われても許してあげるよ」

「あとね……ヒスイも本当はアクアと仲直りしたいと思ってるの。でもアクアとは悪い奇跡が何度も起こって、いつの間にか大嫌いになっちゃった。そんなことは二人とも望んでないのに…………どうすればルビーの時みたいに上手に仲直り出来るかな?」

「うーん、正直お兄ちゃんは私でもドン引きするぐらいのシスコンだから年頃のヒスイが気持ち悪いって思うのは仕方ないと思う。でも私たちを愛してるのは本物だし、ゆっくり時間をかけてお兄ちゃんのことを分かって行くしかないんじゃないかな~」

「そっか…………なら」

 

 

ヒスイは自分のスマホを取り出して、グループラインでアクアに会いたいとメッセージを送った。

 

 

「本当は私が代わりに行こうと思ったけど、ルビーがヒスイに着いていってくれないかな?」

「うん。いいよ、ヒスイもお兄ちゃんと仲直りしたいんだもんね」

 

「ありがとう。本当に愛してるよルビー……」

 

 

その言葉を最後にスヤスヤとヒスイは眠りについてしまった。

 

 

 

「ほら、これで拭きなさい」

 

あぁ寝ちゃったかと頭を撫でていると、そこまで黙っていたおかあさんからハンカチを渡された。

 

「え?」

 

「よく堪えたわね」

 

 

「おかあさんには敵わないな~」

 

 

……ヒスイは天才かもしれない。

途中からヒスイがアイにしか見えなくなって、生き返ったアイと話しているんだと、涙を堪えるので大変だった。

 

「起きてもヒスイを怒らないであげてね。こんなことをする子じゃないし、多分色々あったせいだと思うから」

 

「分かってるわ。それよりさっき貴方が言ったように病気か何かじゃないか調べないと」

 

これは冷やさないと腫れるな……と目元にハンカチを当てて私は思う。

 

いきなりアイが現れても、やっぱり私はヒスイを優先するみたいだ。

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