【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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かなは──

「それで、結局あっちには戻らなかったんだ」

「うん。誤解は解けたけど、アクアとは仲直りした訳じゃないしね」

 

今日の夕食は秋刀魚の塩焼きと御味噌汁、そしてキュウリの漬物である。

あの後、お姉ちゃんの言葉に甘える形となってかなちゃんの家まで送り届けて貰った私は有り合わせの物でちゃちゃっと晩御飯を作ってしまった。

 

「でも戻りたかったんじゃないの?」

「ん~……どうだろ?確かに二、三日はあっちに泊まってて、それなりに楽しかったけど、何か他人の家にいるような感じだったんだ。お婆ちゃんの家って例えが一番近いのかな?私的にはもうこっちが実家になってるんだと思う」

 

私に祖父母はいないので、いまいちピンと来ないがこっちに帰ってきた時は安心感が凄かった。

 

「ふ~ん。じゃあ暫くはこっちに居られるんだ」

「うん。高校卒業までには私たち家族の問題には片をつけたいとは思ってるけど、やることいっぱいあるから。もう暫くはお世話になろうと思います」

「ふ~ん、へ~、ふ~ん!」

 

どうやら秋刀魚の塩焼きが気に入ったのか、かなちゃんのご飯がみるみる内に減っていく。

 

「……秋刀魚まだあるけど、焼こうか?」

「そうね、ヒスイのこんなに美味しいご飯を食べられないなんて、アイツら可哀想~!」

 

ケタケタと笑いながらご飯を掻き込んでいる。何て言うか凄い上機嫌だ。

大きな仕事でも貰ったのだろうか。もしそうなら明日の夕御飯は豪勢にしようと、私は二枚目の秋刀魚を冷蔵庫から取り出した。

 

 

「あーそう言えば、今ガチももうそろそろ終わりだけど、アンタはどうなのよ?」

 

そしてコンロで秋刀魚の焼き加減を見ている時に、かなちゃんは尋ねてくる。

 

「一先ず、あかねちゃんの炎上騒動はアクアが作った動画で丸く収まりそうな感じだし…………そうだなぁ。ノブユキ君はゆきちゃんと良い感じだし、アクアは兄妹だから論外として、ケンゴ君とならキスぐらいはしてもいいかな?」

 

「ハァァ!!?」

 

「あ、勿論。本気で付き合うつもりはないよ。ただ最後に意外なカップルが誕生したら番組的にウケるかなって」

 

「で、でも!キスするのよ!?それも好きでもないやつと他人の目が多い中で!!!」

 

「別にキスなんてしても減るもんじゃないし、良くない?」

 

「減るわよ!」

 

キス一つで取り乱しているけど、かなちゃんってドラマとかでキスシーンはNGを出すタイプの人だったっけ?

 

切り込みを入れた秋刀魚の切り口が若干開いて焦げ目がついてきたので取り出して塩を振る。

 

流れで大根をすりおろしながら、そう言えば私もキスはしたことはなかったなと今さらながらに思い出した。

 

これはアイのメソッド演技の弊害である。アイが出演しているドラマや映画を研究する内に、自分まで演じたような気分になって、キス一つで何を今さらと、勝手に思ってしまう。

アイは濡れ場こそ撮ってはいないが、恋愛映画を撮ることが多かったから何気にキスシーンは多いのである。

 

まぁだからなんだという話で、舌も絡めない恋人の可愛いキスぐらいだったら、いくらでも、誰とでもして構わない。

 

 

だが、アクア、てめぇはダメだ。

 

 

「私は反対だからね!」

「はい、お待ちどう」

 

と、私は美味しく焼けた秋刀魚をかなちゃんに差し出した。

 

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