【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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愛を知らない子

初めて告白されたのは小学生の時だった。

 

「好きです!つきあぅて下さい!」

 

当時バスケットの少年団で運動能力や身長が頭一つ抜けていたその男の子。クラスメイトからも評判も良くて、あの偏屈な兄が暇つぶしの話題に取り上げるぐらいには気に入られてるみんなの人気者だった。

 

そんな彼に放課後呼び出されたかと思うと告白されたのである。

 

……どうしてお姉ちゃんじゃなくて私なんだろう?

 

緊張で台詞も噛んでしまって耳まで赤くした男の子を見ながら、そんなことをボンヤリと考える私。

この時点での私は自分を兄姉達の下位互換だとしか思えていなかったので純粋たる疑問であった。

今にして思えば、あの子はアイ推しだったんだろうなぁーとか、金髪より黒髪萌えだったんだろうな、とか色々と考えられる余裕はあるが、バカだった私は姉の魅力を知らないだけなんだろうと姉を紹介したんだっけ。

 

「好きです。俺と付き合ってくれませんか?」

 

 

「離せ!やめろー!ヒスイが欲しかったら俺を倒してからにしろ!」

「はいはい!シスコンお兄ちゃんは離れて見守ろうねー」

「ちょっ力強!?女子も手伝え!」

 

 

何やら兄が錯乱しているようだが今はそんな所ではなかった。

…………まさかケンゴ君の方から告白されるとは思いもしなかったのである。

 

番組の後半の殆どはケンヒスのフラグ建築に精を出していたとはいえ、私は途中からアイの演技もやめてしまったので、魅力は半減どころかマイナスに振り切れて、もしかしたらうざがられているかもしれないと思っていた。

 

 

だからアクアとあかねちゃんのカップルが誕生した時点で、番組の見せ場としては充分だろうとサクッと終わらせてしまおうと思えば、これである。

 

あの時の男の子みたいに……いや、あの時以上に耳を真っ赤にして私の顔をじっと見つめるケンゴ君。

 

 

……ガチじゃん。

 

何故ケンゴ君が私なんて顔だけの女を好きになってしまったのかは分からないが、これが若さゆえの過ちだということだろうか?

 

恋リアでは番組の為に取り敢えずカップルが成立したことにして、熱が冷めたぐらいのタイミングで別れることはよくあるのだと壱護さんから聞いて、それを活用しようと思った。

 

だけど相手の恋心を騙してまでそんなことが出来るほど私の面の皮は厚くない。

 

予定変更だ。

 

私は座っていたベンチから立ち上がり、目を瞑るケンゴ君の頬に唇を触れさせた。

頬へのキスは親愛の証である。

全てのカメラ位置を把握することは出来ないが、もしかしたら角度や影の入りかたによっては唇同士でキスをしているように見えるかもしれない。

 

「私……恋人とか全然経験なくて誰かを好きになるってどんな感じなのか分からないんです。だから先ずは友達からじゃ駄目ですか?」

 

素面の私はウソが下手だ。だから初めから嘘をつかず、当たり障りのない言葉でお茶を濁すことにした。

 

 

こうして私の恋愛リアリティーショーは終わりを告げたが、終わってみると濃厚過ぎて胃もたれするラーメンを食べた印象であった。

メンバーの炎上とか自殺未遂とか、多分テレビに出て一回目で経験するような出来事ではない。それにその子が覚醒して、唯一自信があったアイの演技の鼻の先を折られたりとまるでドラマの登場人物にでもなったような気分であった。

 

みんな気の良い人たちで仲良くはなれたが、もう一度恋リアに出てみるかと言われても私は断ると思う。

こんな経験は生涯に一度で充分だ。

バラエティー番組とかでも台本とかあるらしいし、それを覚えられない私がこっちの業界に顔を出すのはこれで最後になるだろう。

 

アクアからの印象を塗り替える為にアイ以上の何かになると宣言はしたが、それはネットの世界でも出来ることだ。

 

 

はてさて……何をやればアイを越えられるんだろうか。

 

 

私は今まで完璧だと自負していたアイの演技を、本物の天才であるあかねちゃんの演技と比較することによって、アイドルとしての魅力ある側面を全く引き出せていないことが分かったが、先ずは常に絶好調になれるように練習でもするべきか……。いやでもそれなら結局私はアイの姿をしたアイの演技をするヒスイという訳になり、アクアは益々拗らせそうなのでやめた方がいい気がする。

 

「やぁ、横いいかな?」

 

 

考え込んでいると、横の席に座ってきたのはカブ……カブなんとかプロデューサーである。

そう言えば今は番組の打ち上げだったんだったか。さっきまでアクアと話している様子だったが、それが終わって私のところに来たらしい。

 

「今回の撮影。キミには何度も救われたよ」

「いえいえ、私なんて……」

「謙遜することはない。ゆき君とノブユキ君の二人のカップルが成立するかどうかのワンパターンで流れが決まりそうだったけど、キミのお陰でみんなの魅力を最大限伝えることが出来た……まさかアクア君があんなに面白い子だとは僕も思わなかったよ」

「誉めても何も出ませんよ?でも役に立ったならよかったです。私、こっちの仕事はこれっきりにしようと思ってるので」

「それは勿体ない」

 

どうやらこの人は私のことを買ってくれているらしいが、今ガチで私がやらかさなかったのは運が良かっただけだ。ビギナーズラックというやつだろう。次はこうはいかない。

 

「この業界で必要なのは台本を覚える記憶力でも役に入りこめる演技力でもない。他に類似を許さない個性だ。その点だけで言えばキミは僕が初めてあった時のアイ君を超えている」

「え?本当ですか?」

「……アイ君はあぁ見えて努力家でね。あそこまで持ってくるまで大変な努力を重ねたようだ」

「あ、そういう話ですか」

 

一瞬、私にはアイをも越える個性があるのではないかと早とちりしてしまったが、いくら天才とも言えど、何が自分の得意分野であるか理解しないうちから万人に称賛されるのは無理がある。

恐らくこの人がアイとあった時は、まだこっちに来て間もなかった時の話だろう。

 

「キミはアイ君と似ているが、親戚か何かなのかい?」

「いえ。ただのそっくりさんですよ。彼女が生きていた頃は存在すら認知していませんでした」

「ほう。ならアイ君のように振る舞う演技は人気の為かい?」

「そうですね。あれをやるとファンの受けが良いので流れ的には」

 

もう亡くなってなら十数年経つが、今でも私の動画のコメント欄でアイに似ていると打ち込んでくる人がいるのであの人の人気は凄まじいと思う。

……それにしてもさりげなくアイの話題を混ぜ込んでくるが、この人も私がアイの隠し子でないかと疑ってるタイプの人だろうか。

 

毎回否定しているが、一度ぐらい私がアイの娘だと何が悪いのか聞いてみたいものである。

 

「まぁ気も変わることがあるだろう。もしまたこっちに顔を出してみたいと思ったら僕に一言入れてくれたら助かる。そうしたらキミに最高の舞台を用意してあげよう」

「ははは、流石に買いかぶり過ぎですよ」

 

 

それから数刻言葉を交わしてかぶら何とかさんとは別れた。かなちゃんの晩御飯を作らないといけないから私は早上がりし、その時が本当の意味で私の今ガチが終わった瞬間であったのだと思う。

 

その日の内、MEMさんが姉のアイドルグループに入ったらしいが、それを知るのは数日後であった。

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