【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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間話 ある日の星野家

星野アイの死より半年前。

 

それは突然のことであった。

 

「ごほっ!ごほっ!」

「ごほほ!ごほっ!」

 

「まさか二人とも風邪引いちゃうとは……ごほっ!」

 

アクア、ルビー、そしてその面倒を見ていたミヤコは流行り病で熱を出してしまい、星野宅を離れることになってしまったのだ。

 

「折角の休みだしこの子達の面倒は私がみるよ?」

「いえ、アイさんは休み明けに映画の撮影が控えていますので、アクアとルビーの面倒は夫に見させますから…………あぁどうしましょう。こういう時に限ってヒスイは風邪を引いてないのよね」

 

普段ならこういう時真っ先に風邪を引いてしまうのがヒスイだが、今回は元気百倍アンパンマン!を見てはしゃいでいる様子であった。

 

「アクアとルビーは私が見て、ヒスイを見させようかしら?でもあの子、まだアイツの顔を覚えてないみたいなのよね……こほっ」

 

元々虚弱体質なヒスイは風邪を引いている人間の側にいれば当然のように感染してしまう免疫ゼロの女の子だ。当然風邪を伝染した側よりも症状が酷くなる為、星野家は誰か風邪を引いたら斉藤宅へ移されるのは当たり前であった。

又は逆のパターンで、ヒスイが風邪を引けば斉藤宅へと喜んでいくのだろうが、よりにもよって自分まで風邪を引いてしまったからヒスイの面倒を見れる人間がいないと頭を抱えるミヤコ。

 

「ん~?なら私がヒスイと一緒にいればよくない?」

 

「え?」

 

「いやいや~なに驚いてるの?そりゃ懐かれてないのは自覚してるけど自分の娘だよ。数日ぐらい余裕でしょ!」

 

むしろ、この休暇の間にヒスイのハートをゲットしてみせる!と奮起するアイ。

 

(…嫌な予感しかしない)

 

ヒスイはどうにも実の母であるアイよりも一緒にいる時間の多かった自分を母親と認識している節がある。それだけならまだ良いが、ヒスイはアイのことを酷く嫌っており、二人っきりなんてさせようものなら泣き止むことは決してないだろう。

何故ここまで嫌われているのかは分からないが、アイが帰ってくるとアクア達はアイの方へと行くため、大好きなお兄ちゃん達が取られると思って嫌っているのではとミヤコは考えている。

 

「いけー!まんまんまー!」

 

ヒスイの方へと視線を向ければ、アンパンマンに夢中でこっちのことなど眼中になかった。

 

(今、ヒスイにバレないように帰るのは簡単……だけど、二人っきりにして平気なのかしら?)

 

心配なのはヒスイもそうだが、アイのこともある。

彼女は今年でやっと二十歳になるが、私からみればまだまだ子供だ。

永遠と泣き続けるであろうヒスイに彼女は耐えられるだろうか。

 

普通じゃないアクアやルビーで慣れているこの人には普通のヒスイは苦痛でしかないのではとミヤコは思う。

 

そもそも無条件に好いてくれている二人と違って、いつまでも自分を嫌うヒスイをこの人は愛せているのかと、一抹の不安が拭えなかった。

 

「ほらほら!早くしないとアンパンマン終わっちゃうから。社長さんはもう下で待ってくれてるんでしょ?」

「その、困ったら直ぐに電話して下さいね!」

 

アイに背中を押されて、最悪の事態にだけはならないようにとSOSの連絡先を明確に示すミヤコ。

この時彼女はヒスイの為にほぼ絶縁状態だった親戚に連絡を取る覚悟すら決めていたが、回復するまでの三日間、ついぞアイから連絡がくることはなかった。

 

 

 

 

「ほら言った通り大丈夫だったでしょ?」

 

三日後。逸る気持ちを押さえて星野家の鍵を開けると、スヤスヤとリビングで眠りにつくヒスイを、アイが頭を撫でてあやしていた。

 

「……え、えぇ」

 

自分の考え過ぎだったろうか。

 

「まま!わたしがいいこにしてたから、もうむかえにきてくれたの!?」

 

暫くして起きたヒスイは私の胸元に飛び込んできたが、アイを見ても前ほど嫌悪感を表したような顔はしていない。

それどころかアイが呼び掛けると、怯え腰だが近寄るような姿勢を見せた。

 

もしかして本当にこの間に関係を修復したのかしら?

 

まだ完全とは言いがたいが、これならヒスイがアイを母親だと認識するのも遠くない未来になるだろう。

ざっと半年ぐらいか……まさかその半年後にあんなことになるなんてこの時は思いもしなかった。





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