【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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カントクとの初対面

黒川あかねの炎上騒動や、復帰後のあかねやヒスイの関係について不仲説などが流れることはあったが、総評として今ガチは好評で終わりを向かえた。

特にアクアやあかね、二人ほどではないにしろヒスイやMEMちょの人気は凄まじく、彼女らの次の動向は大きな注目を集めることとなった。

そしてあかねやアクアが舞台の世界へと上がり、MEMちょがアイドルグループへの加入を発表した中、私はと言うと…………ストーカーに追いかけ回されていた。

 

「なぁ待ってくれよ!俺、ずっとアンタのファンだったんだぜ!」

 

「ハァ……ハァ……ハァ!!!!」

 

本当なら直ぐに警察か壱護さんに相談するべき案件なんだけど、残念ながら気づいてその日に追いかけ回されているという状況でマジやばし。幸いにも相手が私と同じぐらい体力のない肥満男性である為、何とか距離を保っているが、これ以上は離せないというギリギリのチキンレースの最中である。

毎日ジョギングしている私が見るからに普段運動していなさそうな輩と同等のスピードしか出せていないと言うのは地味にショックだが、今はそんなことを考えている場合ではなかった。

 

……どうしてこんなことになってしまったのだろうか?

 

「アイ!死んだって言われてたけど俺は信じてたんだ!子供のことも嘘なんだろ!?そうだと言ってくれ!」

 

問い掛けるまでもなく相手が勝手に答えてくれた。

 

くそ!またアイなのか。

どうしてこの人は死んでいるのに私の人生について回るんだ。

 

晩御飯の為に買った野菜を投げ捨てて、もう二度とあの人の演技はしないと誓う。

元々あかねちゃんにアイの演技で負けてからやり続ける意思はなくなってしまったが、これは絶対だ。

それと髪は伸ばしていたが、染めるぐらいではアイ似の容姿を誤魔化せないというのなら絶対に切ってやろうと思った。

 

「おい!アイ!アイぃぃぃぃ!!!!」

 

うっさいわ!ボケ!私はアイじゃない!ミヤコさんの娘の星野ヒスイだ!

 

「ハァッ、ハァッ!」

 

内心では強がるものの、体力の限界は近い。

このまま家のマンションまで逃げ込みたかったが、どうにも間に合いそうにはなかった。ならば交番か人気の多い場所に出たいが、ネットで野菜の特売をやっているからと訪れた場所である為、あいにく土地勘はない。

このままあの油ぎっしゅな危な目のアイのファンに捕まれば貞操の危機は勿論のこと、最悪命まで脅かされるかもしれないと言うのに…………絶対絶命な状況だ。

 

もうこの際だ、覚悟を決めて迎え撃ちたい所だが……まぁ負けるだろう。

どうしよう、どうしよう……こんな所で死にたくない。

一か八か、他人の家に飛び込んでしまおうか。そう思って顔を上げた矢先、とある一軒家が不思議と目に止まった。

 

「あの家は……カントクの……」

 

あの人のことだ。良い歳してまだ子供部屋おじさんを続けているだろうし、頼めば直ぐに匿ってくれる筈。……そう言えばアクアとルビーには約束通りDVDを渡してくれただろうか。あ、そう言えばヒスイにはDVDじゃ──いや、カントクって誰?と存在しない記憶が走馬灯のように駆け巡る。

 

どうやら走りすぎて脳がバグり始めてしまったようだが、そろそろ体力切れで倒れてしまいそうだった為、覚悟を決めて最後の力を振り絞り僅かばかりに加速してインターホンを押す。

 

『すいませーん。母は外出中なのでセールスとかは困ります』

「カントク助けて!追われてるの!」

『な、アイ!?待ってろ!直ぐに開ける!』

 

よりにもよって、この人も私をアイと勘違いしているようだが、隣の家にしようと考える間もなくドアが開いて腕を捕まれ中に引きずり込まれた。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……えっとありがとう、ございます」

 

「違う?おまえ……早熟の妹のヒスイか」

 

 

ドンドンと先ほどのストーカーがドアを叩く。かなちゃんが契約しているマンションより防犯対策も十分ではないだろうそこで出会った無精髭の男の家。

素性は知れずこの人もアイを知っている。だから全然安心出来るような状況ではないとはいえ、不思議とこの人は信頼出来ると思った。

 

 

「取り敢えず、お前はトイレにでも隠れとけ。警察に連絡する」

 

「……カントク」

 

「あぁ、マジで見分けがつかん。クソっあのバカ、どれだけこいつに入れ込んでたんだ!」

 

腰が抜けてしまったようで私が立ち上がれないというと、担がれてトイレに押し込まれて、その後この人が呼んだ警察にストーカーは逮捕されたらしい。

 

その後直ぐに釈放されて行方不明になったそうだけど、私がそれを知るのはだいぶ先のこととなり、十年後ぐらいに山奥で白骨遺体になった状態で発見されたんだとか。

 

 

「それで、俺のことは早熟……アクアから聞いてたのか?」

「はい?何のことですか?」

「何のことってお前、さっきカントクって」

「あぁ、何かカントク!って感じがしたから勢いで」

「マジかよ……」

 

犯人が警察に捕まって、暫くしたあとで警察に事情聴衆でしっかり拘束時間をとられた。その後でカントクとは再会し、お礼を言おうと思ったのだが、どうやらこの人、兄の知り合いらしい。

 

口振りからして生前のアイとも関係があったようで、この人が血縁上の父親なのでは?と思いはしたが、またさっきの勘のようなもので違う気がした。

 

だからさっさとお礼を言って、別れようと思ったんだけど聞かないといけないことがあるような気がして、この人の家で晩御飯を食べることになった。

 

……本当にどうした今日の私。もしかして何かの病気なのか?

 

見えない誰かに指図されているようで不気味だが、この勘のお陰で今日は助かったこともあり、一先ず従っておくことにした。

 

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