【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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最強アイドルになる為に

◯月✕日

才能が無さすぎて嫌になる。

 

何だが久しぶりに書くような気がするが、今私はジャパンアイドルフェスでアイの完璧な模倣演技を披露するために歌とダンスを練習している。

「全身運動=死」な私としてはなるべく簡単な振り付けでやりたい所だが、アイはそんなことで妥協はしないとカントクに言われて、何とかこの体でやれるギリギリのラインを探りながらやっている感じだ。

 

当初の案ではB小町から二曲踊るかという話になったが、どう頑張っても一曲歌うのが限界だった為、一曲縛りに、あとソロでB小町の曲は映えないという理由で、私のオリジナルソングを使うという地獄みたいな展開になっている。

 

いや……あれは若気の至りと言いますか……ちょっと前にリメイク出して爆死したばっかで恥ずかしいんですよね。

 

「あいどる」は私が絶好調の時に生み出した曲だ。

カントク曰く、年月を重ねるほどリアルで、アイの嫌な所まで再現出来るようになっていく私のメソッド演技において、まだ始めたばかりということもあり、アイの魅力を全面に押し出しているからか出した当初はかなり評判もよかった。

現に今も私のチャンネルでは一番評価の高い物となっている。私を総称する作品とも言えなくはない……のだが所詮作詞作曲ペーパーな私がやった曲である。

 

半分ネタ枠だから許されているところもあって、とても本家大元のアイドル様が歌う曲として提供できるものではない。

 

それを壱護さんは久しぶりにアイツのところに遊びに行ってくるわ。的なテンションでプロに手直しをお願いしにいったが、不安でしかない。

そして大元は変えない予定だからと私の音源で無限リプされているが、羞恥心で気がおかしくなりそうだった。

 

 

 

 

 

追記

今日もあの夢を見た。

今回はトイレに隠れたが、最後に見つかってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月△日

 

今日はかなちゃんがやってきた。

ストーカーの事件のこともあって、一時的に前の家に戻っていたこともあり会うのは三日ぶりになる。

私がいなくなってもちゃんとご飯を食べれているか心配だったけど、今は外食とスーパーの弁当で食いつないでいるそうだ。

一応カロリーとか栄養バランスは考えているらしいが、アイドル活動が忙しすぎて家事のことまで手が回らないらしい。

だから早く帰ってきてよと言われてしまった。

 

別にこの時にはもう、ストーカーがSNSで私の住所を暴露していたり、複数犯であったりする可能性はないと警察の方から言われていたので、戻ってもよかったが、最近は夢の発作で飛び起きることがあるため、大変な彼女にこれ以上負担をかけるわけにもいかず、療養の為にもう少しこっちにいると嘘をついた。……いや嘘ではないのか?

 

だが折角こっちにきたので、昼晩は彼女の好物を振る舞い、たんまりと作り置きをタッパに入れて持ち帰って貰った。

 

 

追記

今日も夢を見た。

そう言えば、兄姉はこの世界にはいないのだろうかと家の中をくまなく探したが、どうやらこの夢は私とアイ以外の登場人物は存在しないらしい。

あと再現されているのはマンションとその周辺のみで、それ以上外に出ようとすると、とんでもなく悪いことをしているような気がして足が止まってしまう。

それと同じで夢の中での私はアイに恐怖しているようで……まぁ小さい子が腹刺されて血を流した大人を見て平気なわけもないがアイを見ると足が震えてしまう。

だから自分から近づくにはかなり勇気がいるのだが、無意識的に逃げようと体が動いてしまうのだ。

体感で3時間ぐらい経った頃にアイに「ミツケタ」されて飛び起きた。

 

 

 

 

 

 

◯月□日

 

 

今日は特に何もなかった。

ダンスの練習にボイトレと両方に芽が出ず、わざわざ足を運んで貰った先生も頭を抱えている。

 

才能がない人間でもここまで出来なかった人は多分私以外には然う然ういないだろう。

 

だけどやらなきゃならないことなので泣き言は言ってられない。言われたことを愚直に二歩進んで一歩下がるぐらいのつもりで今日は頑張った。

 

 

 

午後にはミヤコさんに連れられ、それなりに大きな病院でカウンセリングを受けたが、強く入院を進められたので断った。

本人の精神力が強いから、表面的には露になっていないが、……いつ自傷行為に走ってもおかしくはない……だったか、ミヤコさんとお医者さんが話している内容を盗み聞きした。

後ろ姿で表情は見えなかったがミヤコさんは拳を強く握りしめて、かなり迷っている様子だったけど、直ぐには入院出来ないと自宅療養へシフトして貰えるように提案していた。

 

改めて診察を受けて、こんな状況でライブするとかお前正気か?とお医者さんに言われるかと思ったが、トラウマを克服しようとしているので、間違いではないらしい。

 

それでも出来れば辞めて欲しいが……自分達では出来ることに限りがあるからと、情けなさそうに言うけれど、何となくこの人は信頼出来るような気がした。

 

 

これは関係ない話だが、待機室で待っている時に、間違えて入ってきた男の人と少しだけ話すことになった。

アクアと雰囲気が似ている不思議な人だったけど、大切な人が入院することになってそのお見舞いにきたらしい。

当たり障りのないことしか話せなかったが、物腰柔らかで、こんな人と結婚出来る人は幸せなんだろうなと思った。

たださりげなく首に手を回してボディタッチしようとしてきた為、もしかしたらナンパされていただけかもしれない。

私、そんなに自信はないけど一応超絶美人なアイと瓜二つなので、今後は帽子とマスクぐらいはしておこうと思った。

 

 

 

 

 

追記

今日も夢を見たが、今回のアイは鬼気迫るものを感じた。

いつもは「ヒスイ……どこにいるの?」「ミツケタ」「おいで」ぐらしいしか喋らないが「あの人はダメ」と呪言のように繰り返している。

夢の中の私は半泣きになりながら逃げたが、あの人って誰のことだ?お医者さんのことなのか、ナンパ男のことなのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月△□日

 

今日はお姉ちゃんが来た。

久しぶりの再会で、出会い頭にお互い抱きしめてしまったがまさか持ち上げられるとは思わず、驚いてしまった。

お姉ちゃんもヒスイ痩せすぎじゃない!?と驚いていたが、近頃のストレスがあっても食事だけはちゃんと取るようにしている為、前に会った時から()()()()()()()()()()()

だから持ち上げられたのは単純にお姉ちゃんがムキムキになったのである。

 

それを説明すると拗ねてしまいそうなので、最近の話をお姉ちゃんとはした。

アクアも近くには来ていたらしいが、この家にはトラウマがあるそうで入れなかったらしい。それだけ聞くと申し訳なくなるが、帰り際に顔を見せることは出来たのでよしとしよう。

 

お姉ちゃんには私がアイドルフェスに出ることは話してはいけないので、少し会話には気を付けないといけなかったが、私が髪の色を戻したことはそれほど気にならなかったようで、「前の方が似合ってたけど、こっちも素敵だよ」とのこと。

アクアは10秒ぐらいフリーズしていたが……(益々アイにそっくりだとでも思っていたのだろう)、思えばお姉ちゃんに私は容姿でとやかく言われることはなかった。

お姉ちゃんもアイに似ているからかもしれないが、やはりこういう方が家族として気兼ねなく接することが出来る。

 

会話の中でダンスが上手く踊れないと、あくまで動画のネタとして相談すると、なら一緒に踊ってみる?という話になって少しだけだが姉とダンスの練習をした。

 

プロがさじを投げるレベルの為、これで何かが変わるとは思っていなかったが…………楽しかった。

 

うん。それだけだけど、今まで演技の為に仕方なくやっていたので、どちらかと言えば嫌いだったダンスの練習を初めて楽しいと思えた。

 

誰かに見てもらうことだけを意識していたけど、ダンスって自分も相手も心を踊らせて楽しむことなんだなと姉との練習で感じた。

 

……もしかして私に足りないアイの要素って歌やダンスを楽しむことなのか?

 

15分ぐらいでこちらの息が上がってしまって終了となってしまったが、あと少しで何かが掴めるような気がした。

 

晩御飯は私特製のカレーを振る舞った。

味付けはミヤコさん譲りの為、当然好評である。

 

 

 

追記

今日も夢を見た。

またいつもとは違い、今回のアイは姿見に立ってダンスを踊りながらチラチラとこちらを見ていたが、刺されたせいで思うように体が動かせないのか、動きがゾンビみたいで怖かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◯月✕△日

今日からは練習を楽しんでやってやろうと、映画を流しながらやることに。

好きなお菓子も合間合間に食べて、楽しむぞー!と踊っていたら、盛大にリバースした。

……マラソン選手がなんで、走ってる時に水だけしか飲まないか、この身で理解してしまった。体が弱ければ胃も弱い私が尚更に負荷を掛ければ吐いてしまうのは当然である。

 

どうやら楽しみ方を間違えてしまったらしい。

 

一旦休憩となり、仮眠を取ったがそれで現れたアイにもそれはないと呆れられていた。

 

なら楽しんでダンスをやるってどういうことか聞いてみたが、ヒスイは体を動かすことは嫌いなの?と逆に問い掛けられて目が覚める。

だから答えられはしなかったが、体を動かすことは好きだ。だけどこの体は思うように動いてくれない。

楽しむだけの余力がないんだと、その時見ていた映画がちょうどポケモンのミュウツーの逆襲であったこともあって、誰がこんな体で生めと頼んだと叫びたくなったが、その感情をアイにぶつけるのは違うような気がした。

むしろ私はこんな体でも何でも出来ると証明したくて兄姉達に挑戦してきたので、アイには産んでくれてありがとうって言いたい。

 

もう直接言うことは出来ないけど、生まれて来なければよかったなんて一度も思ったことはなかった。

 

小さい頃の記憶はうろ覚えなので、そういった感謝をアイの生前に伝えられなかったかもしれないのは娘として罪悪感がある。

 

私が斉藤姓に移していないのは、名字ぐらいはあの人の娘である証拠を残しておこうと思っているからだ。

 

 

…………それはそうとして、ダンスを楽しむってどうやればいいのか。

 

結局分からず仕舞いで、私の頭では他の好きなことと平行してやるぐらいしか考えつかなかった。

 

 

 

 

追記

夢を見た。

 

夢を見た。

 

そして夢を見た。

 

この日の夢はいつものやつだった。

今思ったけど夢日記って精神ヤバくなるから詳しく書かない方がいいんだっけ?

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