【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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悪夢

「うっっっま!うちの娘、料理上手過ぎじゃん!」

「星野家の味の好みは既に頭に入っているので……お姉ちゃんと同じ好みで助かりました」

 

 

星野アイの悪夢から二十夜が過ぎた頃。

つい夢の中で質問してしまったことを切っ掛けに私はアイに話し掛けるようになっていった。

何となくやってはいけないことなのは分かっていたが、精神的に参っていたのだ。

壱護さんもミヤコさんも、かなちゃんもルビーも忙しくて相談は出来ない。カウンセラーの先生と話してもなんの改善もされないので信用出来ない。

そんな中で、何とかしようと思った時、私はもう夢に出てこないでとアイに頭を下げるしか思い付かなかった。

 

最初の二、三回は反応がなかったが、続けていくと徐々にアイから言葉が返ってくることが増えて、不思議と顔色も良くなり徐々に腹の傷は塞がっていった。

 

そして今では全盛期と変わらない姿になっており、普通に会話出来るようになっていた。

 

「まさか死んだあとに娘の手料理を食べられるようになるなんて、人生分からないものだね」

「私も死んだ母親に料理を振る舞うことになるとは思いもしませんでしたよ」

「ん~?何で敬語?」

「もう、色々と手遅れな気がしますが最低限の線引きのつもりです」

 

夢の中で亡き実母と当たり前のように会話して、手料理まで振る舞うようになった。

文字だけ見ても、完全に精神がイッチャてる人だ。ぜっっったいにヤバい。

私に医学の知識はないがこれが癌だったらステージ5まで行ってる気がする。

 

「そっか~。でも私が生きてる時は言葉を覚えるのも遅くて恥ずかしがり屋さんでさ。ろくに会話出来なかったから、そんなに難しい言葉使いも出来るようになったって思うと感傷的になるね」

「え?昔の私って無口キャラだったんですか?」

「うん。それに昔のヒスイったらお菓子が大好きで、あげたら天使みたいに喜ぶの。私もアクア達もそれが嬉しくて自分の分まで上げちゃうから、お餅みたいにまん丸でさ。ぬいぐるみみたいで可愛かったな~」

「へぇ……そんな過去が」

 

まぁミヤコさんから聞いて知っているが。

今目の前で喋っているのはアイの幽霊ではなくあくまで私の記憶から再現されたアイの疑似人格だ。

だからアイは私が知らないことは話せないし、私がする筈もないと思っている行動は取れない。

 

私は今の状況をマジでヤバいとは思っているが、それでも正気なつもりではいる。

 

私はアイと話してるとは思わず、自分の中でのアイの人物像を客観的に観察している……と自分に言い聞かせることにしていた。

 

利用しているのではなく流されているだけなので、こんなのは言い訳にしかならないのだろうが、それでも、これを幽霊と話していると見るか、データで形作ったアバターと話しているかと見るかでは全然違う筈だ。

 

「そう言えば、この前ニノに会ったんでしょ!どうだった?」

「あぁ、アイの演技の参考になれればとB小町のニノさんに会ったんですけど……あの人、実はアイを殺した黒幕とかじゃありません?何で……とか、ありえない!アイは死んだ筈なのに!とか、わめき散らして宥めるのに大変だったんですけど」

「あー…………あの子はちょっとヒステリックな所があるからね。そっか、()()あの娘でも私とヒスイの見分けがつかないレベルになってるんだ」

「個人的な意見ですけどあれはアクアと同じタイプですね。アイを神様のように思って崇拝している感じでした」

 

当時のアイと一緒になってアイドルをやっていたニノという人。暇そうだから直ぐに呼べたらしいが、会って直ぐにどうしてどうしてと質問責めにあって、私がアイじゃないと言っても「嘘だ!」と言われる始末。

うわー、この人もアクアタイプだわーとドン引きした記憶は新しい。何とか言葉を重ねて帰ってもらったが無駄に疲れただけだった。

 

 

「災難だったけど今のヒスイなら、ダンスと歌ぐらいしか見分けるものがないもん。仕方ないよ」

 

それに踊れるようにはなったんでしょ?全然下手だけどと、なら見分けがつかないのも仕方ないというアイ。

 

「いやいや、全然違うでしょ。例え私がアイと全く同じパフォーマンスをやったとしても客なんて集まりませんよ」

「……そうだよね。ヒスイは駄目な子だから」

「おっと?」

 

いきなりシンプルな罵倒である。

これは私の潜在意識がアイはヒスイを嫌っていると認識しているのだろうか。

 

「ヒスイはダンスも歌もダメで、勉強も運動も出来ないダメダメな子。何れだけ回りにアピールしても、路傍の石みたいに無視されるんだ。──本当に、私に似ている所なんて容姿ぐらいの手のかかる子。それでもアイドルやるって言うんだから、そこはお母さんも評価しているかな」

「あ、罵倒じゃなくて本当のことを言ってるだけですか」

 

まるで部屋の灯りが少し落ちたような錯覚を覚えた。

先ほどまで陽気だった雰囲気は鳴りを潜めて、薄っぺらい笑顔で私を見るアイ。

 

……そろそろだ。

 

私はアイとこうして気軽に話せるようになっても、これを悪夢だと思っている。

それは目覚める時の条件が変わってしまったからだ。

 

 

それは私からではなくアイから私に触れること。

 

冷めた瞳をしたアイが私の瞳を見ること。

 

「ヒスイ…………ごめんね」

 

「謝るなら、殺そうとしないで下さいよ」

 

私は額に汗を流しながらも、どうしようもないので受け入れる。

 

 

アイは私に触れる。そうすると目が覚めると言ったが、これをもう少し正確に言うと、アイが私(の首を絞め殺さんばかりの勢いで)触れると目が覚めるのだ。

これは夢の中でアイと会話出来るようになってからの事だが、首を絞められて起きるという感覚を寝る度に味わわなければならないので、本当に参っている。

 

「ヒスイは私みたいにはならないで」

 

「ぐっぅぅぅ!!!!」

 

あぁ、苦しい。手足が勝手にバタバタと暴れる。

段々と意識が遠のいていく感覚…………アイが泣いてるのか?分からないが、小さいかな切り声を耳で拾いながら私は目覚めた。

 

 

時計を見る。

 

あれだけ長いこといた気がするのに一時間も経ってない。

 

……最悪だ。

 

 

私は睡眠薬を通常の三倍の量、取り出して無理やり朝まで眠ってやることにした。

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