【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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☆大きらい☆

これは雨宮吾郎の生前の話。アイが病院に来てからのこと。

 

 

 

「この子だけ、小さいな……」

 

雨宮吾郎は「推しのアイドルがまさかの妊娠してたー!」という先ほどまでモヤモヤとした気持ちから瞬時に切り替えて医者の目付きになった。

 

星野アイ(16)

彼女自身、平均的な女性よりも小柄であり子供を出産するにしては正直ギリギリだ。……しかもお腹の大きさからしてリスクが高くなる双子だろうと思ってはいたが調べてみると実は三つ子であった。

 

当然、出産のリスクはより高くなる。だがそんなことよりも気になったのは三つ子のうち、別の羊膜嚢に入っている赤ん坊の方だ。この子は二人に比べて一回りも小さかった。

 

マウスを動かして大きさをコンピューターで出力したが、やはり頭の大きさから足の長さまで比率はともかく大きさは平均以下だ。

 

その時、彼の脳内に浮かんだのは双胎間輸血という、妊娠中の一卵性の双子で見られる片方に栄養が片寄ってしまうという病気だが、それならば後のアクアとルビーのどちらかがその症状になっていなければおかしいので除外した。

 

「参ったな。恐らくこの子は正期産までに間に合わないぞ」

 

つまり二人よりも成長が遅れているだけ。

だが母体という一つの空間を共有している以上、生まれる時期はなるべく揃えなければならない。

だが仮に41週まで母体の中にいたとしても低出生体重児として生まれることになるだろう。

雨宮五朗は直感で、もしそれより早く生まれるようなことがあったらこの子は助からないと悟った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──だから絶対に予定日は早めちゃダメだ。双子の方は順調だがこの子は耐えられない」

 

アイは現在活動休止中ながら、東京の地下アイドルを飛び出して宮崎までライブを行いにきたこともあるイッパシのアーティストだ。

三つ子は20週目。この国の法律で中絶が出来るのは22週まで。だからアイドルとして生きる彼女にはその時、生むか生まないかの選択が出来た。

アイドルで子供が出来たなんて世間にバレたら彼女も事務所も終わり。

()()なら堕ろすべきなのだろう。こんな時になっても父親の影すら覗かせないのだから、全うに授かった命でもないというのだから尚更。だが子供を堕ろすという選択は男では想像も出来ないほど重いものだ。

嫌な話だが、取り敢えずは生んであげたいと考える女性は多い。そして育てられる訳がないと赤子を放棄する。そんな悲しい事件が過去に何度も起こっている。

母子の幸せを考えるなら何が最善であるか、医者として彼女に決定権があるとしかアドバイスは出来なかったが、16歳でそんな選択を突き付けられるのはキツイ以外の何物でもなかっただろう。

 

 

だが、その日の夜の屋上で彼女は子供は生むしアイドルも続けると堂々宣言した。

 

ならば医者(ドルオタ)として俺が出来ることは、それを全力でサポートしてやることだ。

 

それから……俺は病院の設備で出来ることは全て、心身のケアはもちろんのこと、ヒスイの状態には常に目を光らせていた。

 

 

……そう言えばアクアやルビーの名前は生まれ変わったあとに知ったがヒスイの名前だけは吾郎は知っていた。

 

 

翡翠(ヒスイ)?」

「そう、自然のパワー、成長力、そして何より幸福を意味するの。この子には元気に産まれてきて欲しいなー、て考えてつけたんだ。」

「へぇ。良い名前じゃないか。他二人ももう決めたのか?」

「ううん。どうせなら一緒に決めてあげようと思ったんだけど、今付けてあげても意味がないような気がしたから産まれてから考えようかなって」

「一人だけ特別扱いか。二人が嫉妬しそうだな」

「そんなことないよねぇ?ヒスイ。お兄ちゃん達は優しいもんね~」

「胎教……まぁ悪くはないけど、産まれる前から末っ子扱いかよ」

 

思わず笑ってしまう。だが想像はできた。体の小さいこの子は長女にしろ次女にしろ、アイや兄妹に末っ子として世話を焼かれるんだろうと。

あんまりにも成長速度が違うと兄妹喧嘩でいつも負けて不貞腐れてしまうかもしれないが、この子の娘なのだから次の日はけろっとしているような気がした。

 

「…アイ、もうすぐ予定日だがやはりヒスイちゃんは極低出生体重児…か、超低出生体重児として生まれることになりそうだ。だがキミは悪くない、出来ることを全てやってここまでヒスイちゃんを導いてくれたんだ。この子が今後の人生を不自由なく暮らせるかどうかは俺たちの対応全てに掛かっている。…絶対にキミを悲しませるようなことだけはしないつもりだ。気休めにもならないだろうけど安心してくれ」

「うん、分かった。だから出産はセンセが立ち会ってよね」

「別に俺じゃなくても他の先生がいるけど」

「やだ。もし呼んでも来なかったら大きらいになっちゃうから」

「それは困るな。推しに嫌われたら生きてけない」

 

そんな約束をしたが、結局雨宮吾郎はアイの出産には立ち会えず彼女からは嫌われてしまったのかもしれない。

 

ヒスイは案の定、超低出生体重児として産まれたが、産声はあげなかったらしい。

何とか背中をさすってマッサージをして、息をさせようとしたが、結果は芳しくなく…………アイは泣き崩れた。段々体温も下がり始め、ヒスイはもう助からないだろうと医者達は判断した。だからせめて生きているうちにとアイが抱き上げると、突然火がついたようにヒスイは泣き出した。

 

「あ、あぁぁ!ありがとう!帰ってきてくれてありがとう!ヒスイ!愛してるよ!」

 

既に故人(雨宮吾郎)から赤ん坊(アクアマリン)にジョブチェンジしていたとはいえ、こんな時に居なかったのだから嫌われても仕方ないだろう。

 

 

別室に移されていたので星野アクアにこの時の記憶はない。

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