【駄目な子】 作:星野ヒスイ
「重曹を舐める子役!!!!」
「なんでよ!!!!」
どうやら違ったらしい。
十秒で泣ける天才子役よ、と言い間違えを正したあとで「まぁ……子役としての有馬かなはもう死んじゃったんだけど」疲れたように言う彼女。
有馬かな。うん……改めてその姿を見れば、古い記憶が刺激される。確かに聞き覚えも、見覚えもある顔である。
私が好きなドラマに出ていたのもあるし、かなちゃんと言えば、その年の紅白に出演を果たすことになったピーマン体操がある。あれに当時の私はどはまりして『かなちゃんと一緒に踊ろう!』の企画があった時には、姉のルビーと一緒に踊った動画を送ったりもした。
残念ながらそれは採用されなかったようだが、また物凄い人とエンカウントしたものである。
彼女曰く、子役から女優に転身して現在落ち目の時ではあるとは言え、私のような例外を除けば、知名度は今尚健在。街に繰り出せばあっという間に囲まれてしまうだろう。
「そんなすごい人が何故、私なんかに?」
「理由は三つ。一つ、暇だったから取り敢えず誰かと話したかった所にちょうどアンタが通りかかったから。
二つ目は今のちびっ子がどれぐらい私のことを知ってるのか知りたかった。
三つ目は……アンタがアイに似てたから。これはついでみたいなものね」
そんな彼女が私に話し掛けた理由は、自分がどれぐらい有名なのか知りたかったから。……まさかアイ似の容姿がついでだとは思わなかった。
私は同い年の子達と比べて大分小柄で、アイに似てる容姿だから、アイが殺される直前に産んだ子として見ればギリギリ見えなくもない。だからアイの隠し子なんじゃね?とたまに勘が鋭い人が言ってきたりするので今回もそのパターンかと思ったのだ。
ちなみにアクアやルビーはそういった経験はないそうだが、やはり19歳まで現役全盛期だったアイドルが16歳で子供を出産していたというのは普通考えつかないらしい。
「まぁ大人気だったアイドルに似てるって言われても、本人は故人だし、アンタからすればだから何なの?って話よね。でも条件反射で逃げちゃうほどだとは思わなかったの。それは本当にごめんなさい」
「いや、別にそれほど気にしてない」
「でもその髪、染めてるでしょ?」
「確かにそれ避けの理由もあるけど、これは──ママと同じ髪色にしたくてやってるだけだから」
私がアイと同じ紫がかった髪色を明るい色に染めているのはミヤコさんと同じ髪色にしたかったからだ。
兄姉にはかなちゃんが言った方の理由を表向きに説明しているけど、どうやらミヤコさんにはお見通しだったようで、「そんな事しなくても貴方は私の娘よ」と抱き締めてくれたのは良い思い出だったり。
「……そう、良いお母さんなのね」
「自慢のママなのです!」
これだけは胸を張って言える。
アイは私を産んでくれた実母だとは言うけれど、私にとっては遠い親戚のようなもので、最初からずっとママだったのはミヤコさんである。
それを言うと、ルビーは少し不機嫌に。アクアはとても辛そうな顔をするので家では言わないようにしているが、私が本当にミヤコさんの子供として産まれていればと思わなかった日はない。
「……でも今は会えない」
「え?」
「私、今ちょっと家出してて……パパ的な?いや、実質パパなんですけど、二人で暮らしてて」
「(家出?喧嘩中ってことかしら?)」
「ママに会うには、三つ子の兄と姉に勝たないといけなくて……またその兄姉が理不尽に強くて……年内に登録者を1000人達成しないと永遠に会えないかもしれない!」
「アンタの家庭ってバトル漫画か何かなの?」
昨日投稿した動画は今日見ると、再生数は120に増えていたが、こんなペースではとても間に合いそうにない。
「あ、そう言えば、かなちゃんは歌に詳しかったりする?」
「歌?ドラマとかでいくつか関わったことがあるけど」
私は流れでかなちゃんに私の動画を見せることにした。
「どう?」
「ひっどいわね。サインはBなら聞いたことがあるけど、完全に別物じゃない」
「これってかなちゃんから見て改善出来そうな感じ?」
「…………うーん。そうね、出来なくはないんじゃないかしら?」
「えっ!?」
「別に上手くなるって言ってる訳じゃないわよ?ただ練習しだいでは今よりマシになるかもって話。……時間もまだあるし、ここで歌ってみる?私のレッスンしてくれた先生の受け売りだけど露骨に変な所は私が矯正してあげよっか?」
「いいの!?」
「さっきも言ったけど、仕事が失くなって暇なのよ私。演技のレッスンとかもあるにはあるけど、一日中って訳じゃないし、何よりずっと居座ってると「あの人、ずっと練習してるけど全然現場で見ないよねー」とか陰口叩かれて面白くないのよね。でも友達なんて今まで仕事が急がしくて作れなかったし……だから貴方が私の友達になってくれるなら別に今日だけとは言わずに……この休みの間ぐらいは」
「じゃあいっきまーす!……貴方の!アイドール!」
「聞け聞け」
もしかしたらこれは、姉の歌唱力を上回る時が来たのではないか。
私はその日、声が枯れるまで特別レッスンに明け暮れた。
○月□□日
昨日、喉がガシャガシャドクロになるまで歌ったせいか、朝起きると声が出なくなっていた。
斉藤さんに病院に連れていって貰ったが、今日一日は声帯に負担をかけないようにしないといけないらしい。つまり無理に声を出そうとするなって話である。
幸いにも…………かなちゃん。良かった。まだ覚えてた。
かなちゃんは今日はレッスンが忙しくて来れないと言っていたので今日一日は家で大人しくしておこうと思う。
斉藤さんも仕事があるようで家を開けてしまったので、暖房をガンガンに利かせ、薄着でのんびりと部屋で寛いでいると、インターホンが鳴った。
はて?一体誰だろうと私はドアを開け……る前に何故かそのまま開けたら絶対に駄目な予感がして、念のためドアチェーンを掛けてからドアを開けた。するとそこにいたのは兄、アクアであった。
「ヒスっ…ドアチェーンか。良かった元気そう…………どうしたんだその肩の痣!」
どうしてこの場所が分かったのか。それより声が出ない状況でどうやって弁解しようか。もしかしたら私は今、すごいピンチなのかもしれない。