【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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紅一点

一面の赤。

 

聞き慣れた音楽が盛大に鳴り響き、会場全体が衝撃で揺れている。

 

 

「……ッ!」

 

その中心にいるのは、正しく一番星。

その歌で全てを魅了し、そのダンスで全てを虜にする彼女を私は知っている。いや、知っているというか……あれは私では?

 

 

 

……あれ?

 

そこでおかしなことに気づいた。

彼処に立っているのは誰だ?

 

だって私はここにいるのだから、あれが私の訳がない。

 

だけどあの場所は、数時間前に下見したライブの会場だった。

 

私が立つべき場所で、私と背格好がそっくりで、私が歌う筈の曲に合わせて踊る彼女は…………。

 

アイ?かと思ったが、それにしてはダンスが少々ぎこちないように見える。まるで辛うじて覚えはしたが、そこから研磨していく時間が取れずに放り出されてしまったような拙い姿。

 

……やっぱり私?

 

どうにも距離感が掴めない。そもそもここはどこなのだろうか。客席ではなく、舞台裏というわけでもない。すぐそこにあるのにずっと遠くを眺めているような奇妙な感覚だった。

 

意味が分からない。

もしかして私は夢でも見ているんだろうか?

ライブで大成功するイメージがこれなのだとしたら、せめてペンライトはイメージカラーのピンクであって欲しいのだが、無意識下で私の人気はアイのお陰だとでも思っているのか。

 

無意識も何も……アイドルとしてのアイは師として尊敬している。だがこれだとアイのファンを強奪しようとしてるというか、故人に成り代わろうとしているみたい気持ちが悪い。

 

でも最近はアイと会話から始まり、最終的に首を絞められる悪夢しか見ていなかったのであれらに比べたら全然マシな夢だった。

 

これが夢だと認識出来ている時点で、明晰夢なのは分かるが、目覚める条件も悪夢とは違ってくるのか。

 

私は出来れば居て欲しくないなーと内心で思いつつ、周囲にアイが居ないか探してみると──残念ながら居た。

 

「あはは………こんにちわ……」

 

見つかっちゃったーという顔をして、軽く手を振っている。

 

「ハァ…………」

 

これでアイがいないのなら、成功体験(空想)を思う存分鑑賞していきたかったが、いるのならば仕方がない。

私は嫌いな物や苦手な物はなるべく早く済ませる主義者だ。

 

「どうぞ?」

 

自分から首を差し出し、さぁ絞め殺してみろと言う。

 

「え?」

 

「今さらとぼけるとか結構ですので。ほら、サクッとやっちゃって下さい」

 

今まで悪夢のせいで寝過ごしたということはない。むしろ予定より早く目覚めてしまうのが当たり前であったが、今は本番前だ。出来るなら最後のギリギリまで練習に当てたかった。

 

「あぁ、そういうこと……」

 

「ええ、そういうこと」

 

「そっか。うん……この状況ならそう思っちゃうよね」

 

だというのに今回のアイは、"首を絞められる状況"になっているのにも関わらず、まだ会話が出来るような状況だった。

 

やっぱりいつもの夢とは違うのだろうか?

 

夢から冷める最後には必ず首を絞めにくるアイだが、こちらから首を差し出せば、時間経過を待たずして直ぐに絞め殺そうとしてくるのだけれど…………。

 

何百回と経験してきたせいでゲームのRTA解説をしていているような気分だが、今の今まで例外はなかった。

まさかここにきて、病が深刻化したのかとリアルでは昏睡状態という最悪の想像をしてしまう。

 

「ヒスイ、落ち着いて聞いてね」

 

そんな時、アイは言った。

 

 

 

「貴方はもう、なくなったの」

 

 

 

私はもう死んだらしい。

 

 

は?

 

いや、へ?

嫌々嫌々!!!!!

 

 

「正確には、負けちゃったって言うべきなのかな?

《あの子》にヒスイの体は取られて、もう絶対奪い返せないように、この地下深くまで貴方は追いやられてしまった」

 

「待って……うそでしょ。だって!」

 

アイから唐突に語られる衝撃の真実?

私は《あの子》という誰かさんに身体を乗っ取られた。しかも取り返しのつかない状況のようで諦めるしかないらしい。

冗談にしては質が悪過ぎる。

そんな現実、認められる訳がなかった。

 

私は舞台にいる自分へと走りだし──「ぶべッ!」テレビのような物にぶつかる。

 

「何で………これ、ここは?」

 

いつの間にか真っ白な空間に私とアイはいた。

先ほどまでのライブはぶつかったテレビの中で続いており、アイの言葉が信憑性を帯びて私の恐怖を駆り立てる。

 

「あり得ない……だって、まだライブは始まってすらないのに!」

「始まってる。それはヒスイも覚えている筈だよ」

「そんなの知らない!」

 

 

否定の言葉を叫ぶが言われて思い出してしまう。

舞台裏でスタンバっていた私は確かに自分の番だとスタッフの人たちに呼ばれて、階段を登っていった。

 

つまり……主導権を巡って綱引きなどするどころではなく、舞台に上がった瞬間に私は負けてしまった……ということ?

 

一体誰に?アイはここにいる。なら別の誰か……知らなかった第三の人格にでも私は負けたというのか。

 

「嫌だ……嫌だ、嫌だ、嫌だ!だってまだしたいこといっぱいあるのに!元気になったらかなちゃんと旅行に行く約束だってしたのに!嫌だ!いやだよ!」

 

認めたくない、認めたくはないが自然と涙が溢れてしまう。

どうにかしなきゃと分かってはいるのに、これではまるで癇癪を起こした子供だ。

 

私は何とか体の主導権を奪い返そうと手を伸ばすのだが…………画面越しではどうすることも出来ない。

 

まるで、いつかのあの時、一番星に手を伸ばした時と同じくらい届かないと本能で分かってしまった。

 

もう手遅れだ。

 

「ま、ママ(ミヤコさん)!助けて!壱護さん!かなちゃん!──ママ(ミヤコさん)!!!」

 

「ごめん……ごめんね!私があの時、無理やり貴方を連れ戻さなかったらこうはならなかった筈なのに!私なんかが母親じゃなくて、ミヤコさんならきっと幸せに暮らせた筈なのに!」

 

それでも泣きながら画面を叩く私をアイは抱き締める。

何か彼女も叫んで泣いているが、それどころじゃなくて、帰りたい、帰りたいと私は届かない一番星に手を伸ばしながらみっともなく泣き続けた。

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