【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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☆定着しない魂☆

「確かに星野ヒスイは君たちとは違い魂をもって生まれた子供だった」

 

 

それが語られるのはもう少し未来の話。

一番初めに知るのは星野アクアで、次に星野ルビー、そして最後に星野ヒスイが知ることになる星野家だけで留められる事の真実だった。

 

 

「だが、星野ヒスイは魂があっても肉体に定着しなかった。それこそ母体という檻から出れば簡単に星の海に還ってしまうような非常に不安定な状態だったんだ」

 

 

元々魂のなかった器とは違い、星野ヒスイとして生を受ける器には魂があった。だが星野アイ。彼女に母体として問題があったのか、それとも今回はだめだと運命が決めてしまったのか、生まれて間もなく彼女は死ぬ予定だった。

 

 

「母親の愛って言うのは凄いよね。肉体から飛び出そうとした彼女の魂を引き留めて、本来なら直ぐ死ぬ筈だった運命を先延ばしにしちゃうんだから」

 

星野アイは星野ヒスイを現世に留めておくための楔になった。

彼女の言う神様や彼女自身がどうこうしたわけではない。アイのヒスイという娘を強く愛する思いが奇跡を起こしたのだ。

それでも、それは星野アイが生きている間の話。

彼女が途中で愛するのをやめてしまったり彼女との距離が物理的に遠くなる時、ヒスイの命は不安定になる。

 

「虚弱体質になったのはそのせいさ。肉体と魂は一心同体だからね。アイはアイドルや女優としてあまり側にいることが出来なかったから、彼女は常に不安定だった」

 

 

そして星野アイが死んだ時、星野ヒスイも死ぬ筈だった。

 

 

「母親の愛が死んだあとも娘を守り続ける……なんて奇跡は何度も起こらない。むしろ楔となった影響でアイの魂に引っ張られて彼女も星の海に還る筈だった」

 

だが、そうはならなかった。

 

 

「どうしてだろうね?斉藤ミヤコがアイの役割を引き継いだのかな?それとも優しい神様が離れ離れになる親子を哀れんで二つの魂をくっ付けちゃったのかな?」

 

 

真相は語らない。

どちらとも正解だと言えるし、どちらか片方だけでもヒスイの生存という結果は残せるからだ。

だけどジャパンアイドルフェスでの彼女を指して「星野アイの物語は星野ヒスイの影に隠れて今も続いている」そう言いきった。

 

 

そして彼女にくっ付いたアイの魂は魂と肉体とを繋ぐ接着剤との役割を果たして、彼女の生はやっと落ち着いた。

星野アイにとっては星野ヒスイから主導権を乗っ取り第二の生を受けるチャンスでもあったが、そんなことをするつもりは更々なかった。

精々彼女を通して息子、娘達の幸せな姿を見られたら御の字だと、星野ヒスイの今後には一切干渉するつもりはなかった。

 

幼少期に何度も体を壊してしまったせいで星野ヒスイの虚弱体質は残ってしまったけど、これからやっと彼女の人生が幕を上げる。

 

 

 

 

 

「思い出したかな?そうだ君だ。君が彼女を壊した」

 

他の子よりも努力しないと普通になれない駄目な子。それが星野ヒスイ。

兄や姉のように特別な才能(前世の知識)もなければ虚弱体質で、何をするにしても後手を踏んでしまう。

彼女の魅力は精々、YouTuberになって平均2000から3000程度の再生数を稼げる程度だ。

 

優秀な兄達に比べて気に病むことは何度もあったが、友人や両親達と相談したりして折り合いをつけて行く…………そうなる筈であったが、やはり本来死ぬ運命だった人間がそこにいると言うのは、運命を大きく変えてしまう。

 

バタフライエフェクトという言葉がある。遠くで蝶が羽ばたいた小さい出来事ことが巡り巡って竜巻のような大きな出来事を引き起こす原因となるものだが、彼女にとって星野アクアはそれだった。

 

 

星野アクアは深層心理に潜んでいるアイの魅力を引き出した。

 

それはヒスイの魅力を底上げすることに繋がった。

けれどヒスイは元の自分を魅力がないものと感じるようになった。

 

 

星野アクアはアイに脳を焼かれていた。

 

それはヒスイの向上心に火を着けた。

益々元の自分の存在価値を疑問視するようになった。

 

 

星野アクアはヒスイの中にアイを探しているといった。

 

それはヒスイがアイを見つける要因ともなり、

無意識化で元の自分は要らないものと思うようになった。

 

 

 

その結果がこれだ。

彼女は自身が造り出したアイの偶像に取って変わられた。

 

都合の良い悪役はいない。星野アクアが全て悪いかと問われればそうでもなく、そもそも彼女の中にアイがいなければ、いくらアクアが囃し立てたところで彼女は駄目な子だ。ならばアイがいなければ?そうなるとミヤコの愛が尽きた時、又はミヤコが他界した時が彼女の天命の時となってしまう。安定しているとは言い難い。

だからと言って星野アクアが不干渉を貫けば、芸能界に羽ばたくことも有馬かなという掛け替えのない友人と出会うこともなかっただろう。

 

星野アクアという存在はあくまで強い影響を与えるだけだ。

それが良い方に働くのか悪い方に働くのかは行動に起こしてみないと分からない。

 

ならばこれはどうだろうか?

 

 

 

 

 

会場のライトアップ。一面が桃色に染め上げられる。

 

 

 

「きっとこれが最後だ。今度こそ彼女達を守れるかな?せんせ」

 

 

有言実行でヒスイの中のアイを殺すメリーバッドエンドを目指すのか、全員が幸せなハッピーエンドを目指すのか、それとも何も成せずにヒスイの死という最悪のバッドエンドを招いてしまうのか、楽しみだと、カラスに好かれた少女は笑った。

 

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