【駄目な子】   作:星野ヒスイ

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ヒスイも、なの?

真っ白な空間にテレビ。

星野アイと星野ヒスイが二人だけ。

 

「………………」

「あ、社長とミヤコさんも来てる」

 

いったいあれからどれぐらい時間が経っただろうか。

最初は二人して泣いていたのに今は仲良く並んでライブ映像を見ている。

映像はサビの前でループし、今もなおヒスイ本人ではない彼女が歌って踊っている映像が流れているが、少なくとも体感で半日以上は経過していた。

 

「………………」

「ねぇ、ヒスイ。ここ探検しない?」

「………………」

「向こうにおっきなハートがあるんだよ。それとウサギのぬいぐるみとか、ライブ会場だってあるの」

「…………………」

「だんまり……か」

 

ヒスイは何も喋ろうとしない。アイがちょっかいをかけても無視して食い入るように同じ映像を見ている。

 

心が折れてしまったのだろうか?

それとも自分が嫌われているからなのか。

 

アイは自分そっくりに育ってしまった少女の横顔を見て、小さく息を吐く。

 

「こんな時、ミヤコさんならヒスイが何をして欲しいか分かるのかな?……だったらダメだなぁ~私。何にも分からないや」

「…………」

「いいや。帰りたいんだよね。私と一緒はいやか」

 

アイも出来ればヒスイを元の場所へと帰してやりたかったが、やり方が分からなかった。

そもそも自分だって刺されて死んだと思えばヒスイの心の中にいた。成仏したほうがいいのか、抜け出せないかと頑張ってはみたけど、どうにも出来なくて諦めることにしたのだ。

 

まさかこんなことになるとは思ってもいなかったけど、『彼女』がここに現れるまでヒスイには何ともなかった。

 

そしてずっと一人は寂しいかと思ったが孤独ではなかった。

 

「今はこの映像がループしてるけど、いつもはヒスイが見ている光景がこのテレビで流れるの」

 

アイは生前殆どの時間をヒスイに割いてはやれなかった。

それは芸能活動が忙しかったからだが、それでもアクアやルビーと比べると半分も構ってあげられていない。

 

殆どミヤコに任せっきりで、親子らしい会話の一つもしたことはなかった。

 

自業自得な話だ。アイはヒスイに嫌われている。嫌われる理由も自覚していて、誠心誠意謝ったが危ない大人として警戒されているようだった。だから生前ギリギリなら流石に会話出来るぐらい成長していたのに避けられ続けた。

 

 

 

(ぁぁ……これは死ぬなぁ。二人には()()()けど、ヒスイはいないんだよねぇ)

 

あの時、刺されて意識が蒙昧としている中でアクアはヒスイもいると言ったが、何となく離れた場所にいる気がした。

それは実際あっていて、ヒスイはその時斉藤宅でぐっすりと眠っていたのだ。

 

ずっと嘘を吐き続けて、【はじめて】本気で愛してると言えた子供たち。

アクアもルビーも大切な家族。言葉にしたらウソになってしまうような気がして怖かったけど、あぁ、やっと言えた。愛を伝えられたあの瞬間は嬉しかった。…………けれど、ヒスイには最後までそれを伝えられなかった。そのことだけが心残りだった。

 

「生きてた頃はぜんぜん構ってあげられなかったから、私嬉しかったなぁ……ヒスイにも友達が出来て、やりたいことが出来たなんて」

 

「…やめてよ。私の妄想のクセに」

 

「そうだね。星野アイは死んだんだもんね」

 

アイはヒスイが知る筈もない星野アイとしての記憶があるので自己が本物であると確信出来ている。

だが、ヒスイからすれば自分は星野アイのメソッド演技をしすぎたせいで生えてきた別人格だ。例え本物であったとしても私生活を24時間監視されていると言われていい気になる人はいない。

 

だからアイはまた嘘を重ねることにする。

 

自分はヒスイの中にあるアイという概念を形にしたようなもので、彼女が知る筈もない情報は口にしない。

 

最後の言葉(愛してる)もルビー達から伝えられていないなら、自分から言い出すことは出来ない。

 

私はヒスイの影だと思い込む。そしてヒスイなら……アイの演技をしているヒスイならどう行動するかと少しややこしいことを考えながら立ち上がるのだ。

 

 

 

「よし、練習しよう!」

「………………」

「振り付けは私も覚えてるよ。折角時間があるなら完璧に踊れるようにして皆を驚かせちゃおう!」

 

「……なんでそんな無駄なこと」

 

「無駄なんかじゃないよ。努力することは前に進むこと。前に進むということはつまり、いつかはゴール出来るってことでしょ?」

 

それに今のヒスイよりもダンスや歌が上手いから彼女は取って変われたのかもしれない。なら彼女より上手くなれば?と発破をかけるとヒスイはのそのそと起き上がった。

 

「出来ないなら出来るまで頑張るだけ……」

「うん!ヒスイはそうでなくっちゃ」

 

ヒスイはあの二人に比べて大きすぎるハンデを背負ってしまっている。

だが、そのハンデに負けない努力家で、極度の負けず嫌いだ。その点だけで言えばアイを越えていた。

 

「でも曲が……」

「そんなこともあろうかと、何とラジカセがこちらにあるのです!」

「ラジ……かせ?」

「ウッソ……もしかして今時の子ってラジカセ知らないの?」

 

 

この真っ白な空間には色々なものがあった。

ヒスイの心情風景が具現化されているのか、それとも強く願えば自分でも生み出せるのか、ラジカセのような何となくあったら便利だなぁと思うものは探せば大概あった。

 

言われて気づいたが、まだリリースもされていないヒスイの『あいどる』の楽曲が入ったカセットテープなんて現実にあるわけがないし、ヒスイは知らないようだからこの空間の仕組みは後者が適応されているのかもしれない。

 

「じゃあまずは準備体操から行ってみようか。ここで怪我なんてしたことないけど何が起こるか分からないからね」

 

 

こんな状況だけど、あったかもしれない幸せをアイは噛み締める。

そしてあわよくば、ヒスイとも仲良くなれないかなと思いながらラジオ体操のカセットを装填した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇねぇヒスイもそうなのかな!?』

『いや……ない。あれはどう見ても健康的な赤ん坊だよ』

 

 

『なに……あれ?』

 

そんな中、ヒスイに嫌われることとなった切っ掛けが脳裏を過った。

 

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