【駄目な子】 作:星野ヒスイ
ジャパンアイドルフェス。
そこで私は新人アイドルながら、異例の活躍と虚弱体質による気絶を噛まして伝説となった…………らしい。
気絶した時に頭を強く打ったようで実はその日のことはあまり覚えてはいないのだ。4年分ぐらい濃密な時間を過ごしたような気もするが、いつもの絶好調が働いたのだろう。まるでアイのようだった、いやアイを越えていたと私のステージを見た人は口を揃えて言う。
絶好調を越えた絶好調、スーパー絶好調とでも言おうか。あの日から悪夢を見ることはなくなったので、目的は達成出来たんだと思うが、そこまで絶賛されるなら少しぐらい覚えておいておきたかったものだ。
「ヒスイさん、おはようございます。お加減はどうですか?」
「あ、おはようございます。調子はすこぶるいいです」
「それは良かったです。朝御飯を配膳いたしますね」
それはそうと、私は今入院している。
怪我をしているわけではないが、一応頭を打ったのと、ライブをやって精神病治りましたじゃ通らなかったのだ。
元々、ライブ後は治療に専念するつもりだった為目覚めていきなり入院生活がスタートしたと言われても戸惑いはなかったが、うん。やはり病院飯は味ないよねって話。
「ねぇ看護師さん。塩とかないかな?マヨネーズがあると最高なんだけど」
「ダメですよ、午後から検診なんですから」
「そこを何とかー」
「ダメです」
ニコッと笑ってまた食器を取りにきますと何処かへ行ってしまった。
……ばかめ。この私がこの事態を想定していないと思ったか。
私はカップ麺を作る時に使わなかった七味の使いきりを懐から取り出すとそれを無味の朝食に振り掛ける。
「うん!ちょっぴり変な味だけど、味があるって素晴らしい!」
「……何やってるのよ」
「かなちゃん!」
そんな時である。私の頼りになる姉貴分有馬かなちゃんが現れた。
「え?昨日のこと丸っきり忘れちゃったの!?」
「うん、残念なんだけどねぇ……」
「じゃああれも!?アクアと仲良く車椅子でヲタ芸したことも忘れたの!?」
「車椅子でヲタ芸?ステージで気絶してから目が覚めたの?」
「ウソでしょ……あれ、かなり嬉しかったんだけど」
私の奇行に呆れつつ、昨日のことを話してくれた。
てっきりステージで倒れて病院に直行したのかと思えば、ちょっとだけ目が覚めた私はアクアに頼み込んで新生B小町のライブを観に行ったらしい。
それで赤ちゃんでも出来るヲタ芸なるものの教えをアクアにこうて二人で応援したのだとか。
丸っきり記憶にないが、出来れば応援に行きたいと思っていたので本人が喜んでくれて嬉しい限りだ。
「あ、そうだ。その日のこと詳しく教えてよ!」
やはり覚えていないことが歯痒すぎると私は日記帳を取り出してその日のことをなるべく詳細に書き記すことにした。
アイから貰ったこの日記帳……大分年期が経ってしまったが、私がサボり気味なのもあってまだまだページには余裕がある。
「あら、今時交換日記なんてつけてるの?」
「え?」
「それ、交換日記ってやつでしょ?ほら、普通のよりページ数多いし、昔雑誌で同じデザインのそれが流行ってるってみたことあるもの」
……こいつは驚いた。
まさかこの日記帳が単なるプレゼントではなかったとは。
もしかして小さい頃の私はアイを避けていたそうだし、これで会話しようとでもしてたんだろうか?
……いやいや、その頃の私じゃ文字書けないって………
ポツっ、ポツっと滴がページに落ちる。
「あれ?なんで涙が……」
「ちょ、大丈夫!?」
「うん……でも分からないの……とっても大切な、大切な何かを忘れてしまったようで……胸が苦しい」
馬鹿だなぁ。と呆れたつもりが記憶にないアイの想いが悲しくて……これを選んで、交わす日を楽しみにしていたのに死んでしまった未練が辛くて、涙が止まらない。
「おっはよー!ヒスイって!何で泣いてるの!?」
「ヒスイ大丈夫か!?」
遅れてきた兄と姉が慰めてくれるけど、それでも涙は止まらない。
「忘れたくない……そんな出来事だった…………ありがとう、お母さん」
アイについては記憶がない。あるのはアイが残してきた記録だけだ。
それでもこの日記の想いだけは確かに受け取った。
白いカラスがそれを見て、空へと飛んでいった。
これにて【駄目な子】は完結です。
と言ってもこれからもヒスイの物語は続きますし、2.5次元でも15年の嘘でもこの破天荒娘は台風の目となって暴れ続けるでしょう。
夢の中で手に入れた「アイドル」はどうなったのか、
ルビーとの直接対決は。
お前はそれでいいのかアクア……とか、まだ書ききれていない場面は多々あるものの、徐々に原作のキャラ像からブレ出していった今作、こんなん推しの子じゃねぇ!と葛藤してペンが止まりまくり、続きが書きたくてもかけない日々に悩まされてきました。
そんな中、色々と言われつつもキチンと最終回を迎えた原作を読んで、このまま勝手に私が諦めてやめてしまうのは、これまで見て下さった皆様の期待を一番最低な形で裏切るような結果だと思い、誠に勝手ながらなるべく無難だろう展開を模索してこのような形で締めくくることとなりました。
ここで次回作発表!………なんて報告はありません。
これまでヒスイの物語を見守っていただきありがとうございました。
一人じゃ何も出来ない【駄目な子】という自分で張り付けたレッテルから解放されたヒスイは前途多難ありつつ、かなちゃんやルビー、そしてアクアにミヤコさんという周りの人間に助けられながら、自分なりの人生を楽しんで生きて行くのでしょう。
長くなりましたが、本当にありがとうございました。何か機会がありましたら、また何処かで。
「えー今回の撮影ではこの崖下で釣りをしていこうと思います!もし海に落ちてもライフジャケットがありますし、スポンサー様に用意していただいた船で直ぐに救助される手筈……え?私のことだから冷たい海に落ちたらショック死するんじゃないかって?あははは!そこまで虚弱体質じゃありませんよ!それに例え腹に風穴が空いたって助かるレベルの救護班だって待機しているのですから準備は万端です!!!―――――あー!親方!!!空からお兄ちゃんがー!!!!」
【駄目な子】(完)