【駄目な子】 作:星野ヒスイ
私の自慢の妹、星野ヒスイはまるで星野アイの生まれ変わりだ。
容姿は言わずもがな、おっちょこちょいで天然な所なんてまるで小さくなったアイを見ているようで微笑ましい。ダンスや歌はちょっぴり駄目だけど、それは練習次第だとは思うし、何より笑うと皆を虜にしてしまうアイの笑顔をこの子は持っていた。
昔はただの可愛い赤ちゃんだと思っていたけど、成長した今ならちゃんと分かる。
星野ヒスイは紛れもなく星野アイの本当の娘だ。
血縁関係で言えば私やアクアもそうだけど、身体の話ではない。それを言うなら私だってアイ似ではあるし、アイに教えて貰ったダンスは、少なくともクラスの子よりは上手く踊れていると思う。
私がヒスイを本当の娘だと思うのは、星野ルビーに前世があることに起因する。
所謂転生というやつだ。私には星野ルビーとしての人生とは別に天童寺さりなという病床に伏した少女として一生を歩んだ過去がある。
さりなの頃の私はアイのドルオタであり、もし生まれ変われるならアイのようなアイドルになって大好きなせんせーに推されたいと思いながら死んだ。
そのお陰なのかは分からないけど、アイの娘として生まれ変われた訳だが、どれだけアイに似ていたり、アイドルとしての腕を磨いたとしても、やはり私という根っこを築いたのは天童寺さりなとしての過去があったからであり、アイの純粋な子供と言うには首をかしげざるをえない。
それでもアクアは私たちも同じアイの子供だとは言うけれど、ヒスイを見ていると、いかに自分達が異様な存在か分かってしまうのだ。
普通赤ん坊は喋らないし、スマホのロックなんて解除出来ない。
真っ白な状態から、愛という色を受け取って成長していく。
私やアクアは何かとんでもない奇跡が起こって、ヒスイのお零れにあずかれただけ。だから純粋なアイの子供であるヒスイはママに一番愛されなければならないと思ってはいたのに……ヒスイは最後までアイをママだとは認識出来なかった。
アイもヒスイも悪くはない。
悪いのはアイを奪った犯人と時間だけだ。
天才だったアイは、アイドルに復帰するとどんどん仕事を増やしていって家にいる時間が少なかったけど、それでも私たちの事を愛してくれようと必死だった。
一度お風呂中に誤ってヒスイを溺れさせそうになってしまったことがあって、その日からアイが抱っこするとヒスイは力いっぱい暴れるようになったが、物心つく前の赤ん坊が本能で危険を回避しようとするのは普通の事だ。
もしアイが今も生きていれば、ヒスイはママの愛をいっぱい受け取って、ママがわざと溺れさせようとした訳じゃないと理解出来た筈だし、歌やダンスをアイに教えられ、今よりももっと輝いていたに違いない。
『そっか…………良かったぁ。これだけは言わないとって、思ってたから…………アクア…………ルビー、ヒスイ、愛してる……』
あの日、ヒスイはママから愛を受け取れなかった。アイが最初で最後に私たち……いや、ヒスイへ向けた愛を受け取ることが出来なかった。
……あの日の事を思うと私がついてしまった嘘が間違いだったのか正解だったのか分からなくなる。
あんな嘘をつくなんて最低のことだと思ってはいたけど、棺に入ったアイはとても安らかな顔をしていて、これはあの時、あの場所にヒスイが居ないと知っていたらこんな顔にはならなかったと思うからだ。
「僕たち二人で、アイが残した最後の想いをヒスイに伝えて行こう」
「……うん」
火葬場に送られたアイを見送って私たちは決意した。
アイの代わりになんてなれないけれど、ヒスイが寂しい思いをしないように二人でヒスイを支えようって。
きっとそれをアイも望んでいる筈だから。
「どこで間違えちゃったんだろう……」
でも、私たちの存在はヒスイにとって好ましくなかったみたいで、中学に上がることを切っ掛けにヒスイは家を出ていってしまった。
斎藤壱護さん。ミヤコさんの夫である人と今は少し離れた所に住んでいて、YouTuberとして活躍している。
アクアは最初、家を特定して連れ戻そうとしていたけど、そこでヒスイに面と向かって大嫌いと言われたらしく、それ以来、ヒスイに会うのをどこか怖がっている様子だった。
会いに行こうと思えば行ける距離だけど、私もヒスイに大嫌いなんて言われたら、どうなっちゃうか分からない。
少なくとも3日ぐらい泣くと思うし、10年ぐらい引きずりそうだから、無理に会いに行こうとは思わないけど、流石に家族が三年も会えないというのは悲しいものだった。
ただ動画に映るヒスイが楽しそうにしていることだけは救いだ。
登録者は21万人。一つの動画における平均再生回数は1~3万と今では立派なインフルエンサーである。
『今日はですね~国語のテストで65点も取れたんですよ!いやー!この前の勉強配信のお陰です!皆ありがとうございました!』
「もうとっくに越えられてると思うんだけどな……」
たまたまヒスイが勉強配信をしていたから、自分も一緒に勉強するかとペンを持って………40点だった答案用紙を見つめる。
小学校までは何とか前世パワーで押しきってきたけど、真面目に勉強しているヒスイと不真面目な私とじゃあ差が出来るのは当然で、もう勉学面ではヒスイに勝てそうになかった。
「はぁぁぁ」
一体いつになったらまた三人揃って暮らせるようになるのか。
ヒスイが何を目指しているのか私には分からなかった。