【駄目な子】 作:星野ヒスイ
「いーやー!!!」
「黙って書きなさい!私がどれだけ苦労したと思ってんの!」
「だって絶対二人もそこ受けるでしょ!目標100万人行くまで二人には会わないんだもん!」
「そう言って10万人の時も私に協力させたでしょうが!あんたそのまま登録者増やしで一生を終える気?いい加減仲直りしなさい!」
「ううううう!!!!」
夏。それはちょうど私のチャンネルが20万人を突破した時期のこと。開設と家を出てから二年半が経って、24時間耐久動画がバスったり、かなちゃんに土下座して10万人を突破したり、苺プロ所属になったり、ホラーゲーム実況がちょっと伸びたりと色々とあったが、一番印象に残ったのはやはり高校の進路でかなちゃんと揉めた事だろうか。
「どうか、どうかこのまま、中卒でYouTuberとして食べていけないでしょうか?」
「馬鹿!兄妹に会いたくないから進学しないなんてふざけた理由認める訳ないでしょ!それにネットだって飽きられられたらファンはあっという間に消えていくの。キャリアアップのチャンスを自分から棒に振るんじゃないわよ!」
烈火のごとく叱るかなちゃん。
昔は姉のようだと慕っていたが、二年もいるとお互いに遠慮がなくなり、10万人の時のコラボを切っ掛けにこっちで寝泊まりとかもするようになったから、何だか今ではもう本当の姉のように思っていた。
そんな彼女は一年前から同じ高校に通うと宣言して、受験勉強に付き合っていた私が急に進路変更すると言ったせいでぶちギレている。
私が進路変更すると言った理由が兄姉達も同じ高校に進学するかもしれないからだと説明をすると、怒髪天を貫く勢いでキレ散らかしている。
こんなに怒ったかなちゃんは見たことがない。
私が一時期アイの憑依型演技、かなちゃん曰くメソッド演技を乱用して再生数を稼いでいた時に自分が誰なのか分からなくなって精神的に参ってしまったことがあった。それからやるなやるなとかなちゃんに念を押されてきたが、例の絶好調が来たタイミングでまたやってしまったあの時よりも………………いや、流石にあの時よりはマシなのかもしれないが、じっとりねっとり叱られた感じだったので、こんなに怒鳴られたのは初めてである。
「私はね、別に急に進路を変えるって言ったことを怒ってる訳じゃないの。そりゃ貴方とまた同じ学校に通えるって思って楽しみにしていたし、貴方が苦労しないように先生に過去の問題用紙を用意してもらったりはしたけど、それでもね、貴方にちゃんとした理由があるなら納得してやったわよ。……だけど、喧嘩別れした兄と姉に会いたくないから?ハ!そんなふざけた理由の為に私の努力が水の泡になるわけ!?!」
「だって…………まだ勝てないし」
「前々から思ってたけど、アンタの兄妹っていわゆる早熟ってやつでしょ?
一応芸能界の出らしいけど、アクア
「う…………ん。でも…………」
確かにかなちゃんの言うとおりその頃は二人の活躍を聞くことがなかった。姉はジュニア・アイドルとしてデビューするのを見送って万全な状態でアイドルをやるために準備していると思えば分かるが、兄に至っては数年前まで数本小さな映画に出ていたぐらいで今は俳優として全く音沙汰がない。
「だけど……兄は慎重派な所があるから、下積みからちゃんとやって、一気に大きな舞台に上がったりとかしそうだし……いつの間にか二人で看板番組とか持ってそうだし」
「そう言うのを偏見って言うのよ。……ハァ。どうしてもって言うなら一般科の方を受けてみれば?二人がアンタの言うように完璧超人なら芸能科を受けるでしょ?科が違えば校舎も違うし、滅多なことでは顔も合わせないわよ」
「うぅ……ん。でも結局会うことには」「あ、でもアンタには無理か」
「え?」
「だって芸能科とは違って一般科は最低でも普通の子レベルの学力がないと入れないもの。偏差値35のアンタじゃとても無理ね」
いきなりシンプルな罵倒である。
虚をつかれたような顔をした私は思えば、この瞬間既に有馬かなの術中に嵌まっていた。
「私じゃ無理……私じゃ無理……私じゃ……」
星野ヒスイは幼少期。散々負けると分かっていて兄姉達に勝負を挑む極度の負けず嫌いである。
そして絶対に勝つ為に数年家を飛び出す度胸のあるかなりの根性派であった。
そんな私がどうせ無理だろうと煽られ……ピラピラと過去の問題用紙をちらつかされればどうなるか。
「できらぁぁぁぁ!!!!」
と簡単に乗せられてしまう。
「じゃあ今日は昨日の復習から行くわよ!私が教えてやってるんだからその豆粒みたいに小さな脳ミソに必死に詰め込んで、意地でも受かりなさい!」
「よし!どんとこい!」
かなちゃんはこの数年ですっかり私の扱いを心得ていた。
そのまま勢いで進路を決めてしまった私はそれから血の滲むような努力を重ねて、何とか一般科に合格することが出来た。
陽東高校の一般科の偏差値は40と決して高くはなかったが、私からすれば難関大学に合格出来たレベルの快挙であったと思う。
斉藤さんと暮らしていた家からは遠くなってしまうので、それを機にまたお引っ越し。実家からは近かったけど、まだ帰りたくなかったので、最近独り暮らしを始めたばかりのかなちゃんの家に転がりこんだ。
迷惑かと思ったが、元々一人でいることが嫌いなそうで満更でもなさそうだった。
かなちゃんの家は防犯、防音、耐震構造のちょっとした高級マンションである。掃除洗濯は私が受け持つことを対価に物置になっていた撮影部屋を確保し、高校生活は順風満帆のスタートをきることが出来そうだった。
そんな訳で、次の年の春から入学することになった訳だが、何故か私のクラスに兄がいた。
「……は?」
「……なんでよ」
どうやら一緒に居すぎてかなちゃんの口調が移ったらしい。
私の高校生活は早くも暗雲が漂い始めていた。
星野ヒスイ(高校生ver)…撮影している時は微かに星が瞳に宿っている。だが小さすぎて目を凝らさないと分からない、もしくは辺りが暗くならなければ分からないほどの小さな光である。