世界を歩むうちはのハンター   作:ノワールキャット

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第5話 ハンター試験⑤_スシを作れ

美食ハンターメンチ。世界有数の料理人としてその芸術的な味覚センスは作る料理にもいかんなく発揮されている。貪欲な探究心でありとあらゆる食材を食い漁り、一度食べた味は決して忘れることはない。食文化への貢献が評価され、弱冠21歳で一ツ星(シングル)ハンターの称号を持つ。

 

21の若さで称号を得るのはハンター協会の中でも異例のスピードだ。一ツ星ハンターの称号を得るにはある一つの分野で成功を収めるか多くの功績を上げたハンターに贈られる。言わば名誉職のような物で星の多さでハンターの優秀さが分かる指標のような役割も果たす。しかし、一ツ星(シングル)であったとしても得るのには途方もない時間が掛かる。その称号を持っているメンチがどれだけ料理に本気なのかが伺える。

 

「二次試験後半、あたしのメニューは...スシよ!」

 

(((スシ!?スシとは!?)))

 

寿司とはジャポンと呼ばれる小さな島国の民族料理である。一口サイズの酢飯に切り身の魚を乗せた料理であり、魚を生で食す事がほとんどない人達にとっては思い付きもしないマイナーな料理だ。

 

(一体どんな料理だ?)

 

「分かるか?」

 

「いや...」

 

(どうすりゃいいんだ!?見当もつかねェ!)

 

(全く知らない料理を作るなんて不可能だぜ!)

 

「ふふん、大分困ってるわね。ま、知らないのも無理はないわ。小さな島国の民族料理だからね」

 

本日何度目かの困惑を露わにする受験生達にメンチは手招きし、建物内へ案内する。建物内にはいくつもの調理台が設置されていた。水道はもちろん、何種類かの包丁もあり、調味料もあった。

 

「ヒントをあげるわ!中を見てごらんなさーい!ここで料理を作るのよ!最低限必要な道具と材料は揃えてあるし、スシに不可欠なご飯はこちらで用意してあげたわ。そして最大のヒント!スシはスシでもニギリズシしか認めないわよ!」

 

ヒントと称して提示したのはニギリズシ。しかし知らない料理を聞いたところで対して意味はない。重要なのは僅かに提示されたヒントから答えを導き出す鋭い洞察力でニギリズシ、ご飯、調理台の道具から答えを見つけなくてはならない。

 

「それじゃ、スタートよ!あたしが満腹になった時点で試験は終了!その間に何個作ってきていいわよ!」

 

二次試験 後半

メンチのメニュー

参加人数 70人

 

(寿司、か...寿司か〜)

 

二次試験後半がスタートし、カムイは途方に暮れていた。別に料理が分からないわけでもないし、料理が出来ないわけでもない。何だったらメンチが言った小さな島国がカムイの出身地で寿司も別に食べた事がある。

 

(寿司のネタはほんとど海鮮だろ。こんな鬱蒼とした森でどうやって新鮮な魚を手に入れんだ?寄生虫やら臭みも考えなきゃいけねぇし、まともシャリを握れるようになるまで10年は掛かるって聞いた事あるぞ)

 

絶対に試験内容で出す課題じゃない、そうカムイは思った。しかし、此処で悩んでいた所で何も進展はない。

 

「ま、やれることはやってみるか」

 

気合を入れ、どのような寿司を作るべきか吟味する。

 

(安全に食べるには身を炙る必要はありそうだな。臭みはある程度取れるだろうけど、何かハーブのような香草も使ったほうがいいか?それにこの森の中で比較的食べれそうなそうな魚は...)

 

やるべきことを頭に並べて行く。構想を練れたら次に行うべきは材料の調達だ。近くに川か池がないか探すためにカムイは再び森の中へと入った。

 

「魚ァ!お前此処は森ん中だぜ!」

 

「声が大きい!川とか池とかあるだろーが!」

 

(((魚!)))

 

遠くからクラピカとレオリオの会話が聞こえたカムイ。恐らくクラピカが自力で寿司の材料に辿り着いたのだろうが、それにレオリオが反射的に反応してしまったのだろう。そして、それに連れられて他の受験生も材料確保に動き始めた。

 

「...受かる気あるのかアイツら?」

 

カムイは溜め息混じりに呟いた。だが、焦る必要はない。まだ、寿司を知っていることの情報のアドバンテージはある。材料が判明しても、形が分からなければ、寿司なんて作れないからだ。もし、材料さえ当たっていれば、特定の料理なるなんて都合の良い話はない。その理論で言えば、目玉焼きや卵焼きは全く同じ料理になるからだ。それ故に形が駄目、と言う理由で不合格を言われる受験生が当然居るはずだ。

 

「おっ、あったあった」

 

再び森林に入ってから大凡5分ほどで川と繋がった池を発見する。辺りを警戒しながら近付き、水質を確認する。

 

(水質は...それなりだな。悪すぎるわけでもなければ、良すぎるわけでもない。魚の下処理をちゃんとやれば、問題はなさそうだ)

 

思った以上に水質は良好で、丁寧に下処理を済ませれば生息する魚は問題なく使えそうだった。

 

「あっ、やっと見つけた!」

 

「ポンズか。後ろにいたことは分かっていたが...どうして俺の後を着けた?」

 

「カムイに着いて行った方が確実に合格出来そうだったもの」

 

「正直で結構。まぁ、このテストで俺に着いて来たのは正解だ。正直言ってこのテストは難しすぎる。魚を生で食す文化がない連中には特にな」

 

「えっ...スシって生魚の料理なの?」

 

「...そうだな。寿司って言うのは生魚の切り身を酢飯に乗せて食べるジャポンの民族料理だ。大陸の人が食べる魚料理ってムニエルや焼き魚とかだろ?生で食べる文化がない以上、寿司の作り方や形には早々辿り着けんさ」

 

抵抗感を若干出すポンズ。カムイからしてみれば当然の反応だった。大陸出身の殆どの人は魚を生で食べる文化はほぼ0と言っていい上に魚を生で食べると言うことは食中毒や寄生虫の危険性もあるからだ。

 

「あと付け加えておくが、寿司ってのは基本的に海鮮を使ったものが多いんだ。普通、淡水の魚なんて使わない」

 

「海鮮って、此処森よ。池や川で魚は手に入るけど、海鮮とは程遠くないかしら?」

 

「ポンズの言った通りだよ。だから今回の寿司に使うのは焼いた魚の身を使う」

 

「焼く?スシは生魚を使った料理よね?」

 

「焼かねぇと食中毒やら寄生虫やらの危険性がある淡水魚なんて食べられないだろう」

 

─────ビュッ!

 

縄を括り付けたクナイをカムイは投擲する。風を切り、クナイは一直線に飛んで行く。パシャッと小さな水音を立て、魚が飛び上がる。そしてタイミングピッタリにクナイは魚に突き刺さった。スルスルと縄でクナイを手繰り寄せると40cmほどの川魚が姿を出す。

 

(大きさはそこそこだな。これくらいなら寿司ネタに使えそうだ)

 

カムイは内心ほくそ笑んだ。それなりの大きさの上に取れた魚は鮭の亜種に近い物だったからだ。所々に差異は見られるが、大まかな特徴はまんま鮭と一緒で、一番目を引く箇所と言えば鋭く尖った牙だった。これでもかと肉食をアピールするかのように大きく突き出ており、人間の手なんて簡単に引き千切ってしまいそうだ。

 

「フロシェオスサーモンね。鋭い牙と強靭な顎で獲物を噛み千切る肉食魚だったかしら」

 

「後は捕まえる手段が限られるな。如何せん、咬合力が強すぎて罠とか釣り糸も千切っちまうから、こいつをつかまえるには基本的に素手か銛の二択だ。まぁ、素手でやったら大抵指を一本か二本持ってかれるらしいけどな」

 

フロシェオスサーモンは非常に獰猛な肉食魚として有名だ。生態は普通の鮭とあまり変わらないが、特質すべき点は異常に発達した牙にある。鋭く尖った牙は獲物を容易く引き千切り、噛み砕くことが可能とされる。成体の大きさは70cm前半になり個体によっては80cmまで成長し、今現在記録されている世界最高記録は97cmである。市場にも普及している少し値の張る魚だが、そのほとんどは養殖か、銛によって捕獲された傷付いた物がほとんどであり、素手で捕獲された傷付いていない個体はそこそこ希少だ。

 

「やっぱり綺麗な方がいいのかしら?」

 

「傷付いても問題無いだろ。どうせ切り身にするんだ。尾鰭側の方に銛を刺して引っ張り上げれば、切り身に使うには十分だ」

 

そう言うとカムイは縄の括り付けられた3本のクナイを取り出し、また池へ投擲した。そして先程と同じく、フロシェオスサーモンが飛び上がり、タイミングよくクナイが刺さった。

 

「よし戻るか」

 

「あっ!じゃあ、私もすぐ魚を取らないと」

 

「いや、俺のを2匹やるよ。どうせ4匹も使わないだろうし」

 

「いやいや!悪いわよ!」

 

「別に構わない。ここまで来たんだ。試験に合格するまで付き合ってやるよ」

 

カムイはそう言い放った。元より試験の結果がどうなろうが、念の修行を付けるつもりがあったカムイはこの機会にポンズと一緒に試験に合格してしまおうと考えた。ルーキーである自分と比べ、三度目の受験であるポンズの方が自分よりもハンター試験についてよく理解しているからだ。

 

「それと、さっき然(念)について教えただろ?あれとは別の技術もお前に教えときたい。武芸を身に付けといて損はない」

 

「...自力で合格したいけれど、現状の私じゃ難しいものね。...分かった、そうさせてわ。これで合格出来なかったらぶん殴ってやる」

 

「はは、それは怖いな。安心しろ、約束は守る」

 

カムイは嘘を吐くことはあれど、約束を違えるような真似は殆どない。破ったときは強いて言うなら、約束した相手が死んだか、悪党だったときだけだ。

 

「あとは使えそうな香草を探すぞ。そしたら、調理を始めよう」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

カムイとポンズが食材を手に入れ、試験会場へ戻ってきたと同時に、同じく魚を持って続々と他の受験生達が戻ってきた。各々が調理場に着き、魚を捌き始めたが、寿司と言う料理を知らないのがほとんどの受験生は右も左も分からず、適当に魚を切っていく。それ以前に前半のメニューと違い、料理に必要な技術が要求される為、魚を切るだけでも一苦労な者達が多い。それでも、刃物の扱いに長けた受験生も当然居る為、ある程度形の整った切り身にすることは可能だ。しかし、致命的なことに形が分からない。おにぎりのように包むのか、焼き魚のようにするのか、或いは生のままで使うのか。正解が分からない面々は苦悩し続けていた。

 

「くっく、俺よりよっぽど性格悪いなメンチ」

 

ブハラは受験生を眺めながら、同じ美食ハンターであるメンチに告げた。

 

「今のスシダネってのはほとんど海水魚なんだろ?見ろよ。あの材料じゃ、まともなスシなんて出来っこないぜ」

 

ブハラの言う通りである。受験生のとって来た魚は奇妙な姿形をした珍妙な魚ばっかりだ。目玉を複数個持つ、筒状の魚に、エイのようなぺったんこな胴体に鋭い棘が生えた魚、胸鰭を六つも持った尾鰭の長い魚。どれも、スシダネには向かない物ばかりで、まともな寿司が出来るとは思えなかった。

 

「だから面白いんじゃないの。フツーのスシダネなんてもう、食い尽くしてんのよ。どんなキワモノが出来てくるのか楽しみだわ。今日は試験官と言うより、料理人として来てるからね」

 

「料理人として...ってのはマズイんじゃ...」

 

「何?」

 

「いや、なんでも...」

 

(料理人として...ね。メンチの悪い癖が出なきゃいいけど)

 

上機嫌なメンチとは裏腹にブハラは内心ヒヤヒヤしていた。料理に対しては世界一と言ってもいいほどの情熱を持つメンチ。一言でも料理を軽んじる発言があったら、最早試験どころではなくなってしまう可能性があるからだ。

 

(ふふ、314番は見込みあるわね。さいしょっから料理をしていたのかしら?どちらにせよ彼はかなり期待出来るわね。生魚じゃ、臭いを消しきれないと思って香草を使うのもポイントが高いわ。246番の彼女も良いわね。料理は知らないけど、料理を知っている人に当てがあるって感じかしら?試験内容とは少し逸れるけど、瞬時の状況判断、行動の取捨選択もハンターには必要な技術。この2人なら多少、味に問題があっても見逃しても良いかしらね)

 

メンチは上機嫌にカムイとポンズを観察していた。カムイは料理を知っていたこともあるが、試験の難しさを把握した上でどう工夫するかを入念に考えている。ポンズは自分では出来ないと分かった上でどう解決するかと考えた上での行動だ。ズルと言われても言い訳は出来ないが、やり方を真似てはいけないとは言ってない上に、相手の技術を模倣して自分の技術として扱うのもハンターには必要な力だ。自分の技術に限界を感じた時には、まず参考となるものを探した上で、そこからさらに発展させれば確実に自分の成長に繋がるからだ。

 

調理場に戻って来たカムイは早速、取って来た魚を捌く。切り身にすると水で洗い、臭いを確認した。

 

(...微妙すぎる。思ったほど臭みは少ないけど、それでも生臭さがあるな)

 

カムイは魚の状態を把握すると、手始めに手持ちの魚を全て一口サイズに捌いた。ボウルを取り出し、水を汲んで建物の外へ出ると火遁で火を起こし、水を沸騰させる。切り身を全て湯に通し、臭みを取る。

 

(海水魚じゃなくて川魚だからなー、これ。色々やりにくいっちゃありゃしない)

 

悪態を吐くカムイ。やはり、川魚で寿司を再現するにはあまりにも無理がある。仮に全員が作り方を知っていたとしても、試験官が満足するような寿司を作れるとは到底思えなかった。

 

文句を言っても仕方ない、とカムイは割り切り、湯に通していた切り身を取り出したら、火で炙った。

流石にこの行程を省くことは出来ない。安全のこともある上に、試験官が美食ハンターと名乗っている以上、ワンパターンな寿司では些か合格出来るかが怪しいからだ。

 

良い感じに焦げ目が付いて来たら、回収し、再び調理場に戻る。カムイが調理場に戻ってきても、未だに試験官には一品も出されていないらしく、寿司と言う未知の料理に悪戦苦闘していた。

 

「ねぇ、カムイ」

 

「ん?」

 

答えが分からず、藁にもすがる思いでポンズはカムイに話し掛けた。

協力するとカムイは言ったが、ポンズにもプライドと言う物はある。自力で何とかしたいとは思うが、情報が少なすぎてピンとこない状態だ。自力では限界があると感じ、こうして料理を知っているカムイに聞きに来たのだ。そもそも、今に至るまでカムイには既に二回も助けられているのでプライドがどうこう言えるわけもなかった。

 

「寿司ってどんな形してるの。魚を卸して、臭みは取ったけどそこから先の行程が分からないのよ」

 

「そうだな...」

 

カムイは先程炙った切り身を試食しながら、ポンズの問いにどう答えるか考えていた。「試験に合格するまで付き合う」と言ってしまた手前、断れないが、いくらかは自力でポンズに合格して欲しいと思うカムイ。何か良いヒントはないか、と周囲に視線をやり、試験官の手元に注目する。醤油が入った小皿に、箸、そして試験官の今までの言葉から、十分なヒントが散りばめられているとカムイは確信し、それと同時にこの試験の意図を察した。

 

「今までの試験官の言葉を思い出すことと試験官の手元に注目するといい。ヒントなら、十分提示されてる」

 

「ヒントなんてあったかしら?」

 

「十分にあったさ。お前なら気付けるはずだ、ポンズ。この試験は観察力と洞察力が試されているんだ。何事も全てが分かっているとは限らないからな。元より絶対に合格出来ない試験なんて無いんだよ」

 

「わ、分かったわ。頑張ってみる。一応、出来た物を確認してもらうのはいいかしら?」

 

「まぁ、それくらいなら別にいいよ」

 

それぐらいなら別に問題ないと思った。どっちにしろ合否を決めるのは試験官だ。カムイがポンズの料理の良し悪しを決めても、どうにもならない。

 

(あの試験官なら、余っ程悪くない限り、辛辣な事は言わないだろ。少なくとも、ポンズは一生懸命にやってる。それを無碍にするほど人間性は終わってない。駄目だったとしても、やんわりとヒントを言うはずだ)

 

「出来たぜ!俺が完成第一号だ!」

 

半ば叫びながら、料理を持っていくレオリオ。意気揚々としている彼には申し訳ないが、カムイは不合格を言い渡されると思った。因みに根拠はない。

 

「名付けてレオリオスペシャル!さぁ、食ってくれ!」

 

パカッと蓋を取り、出て来た物は...生きた生魚をそのまま酢飯で固めたとても料理と呼べるものではなかった。当然、合格を貰えるわけもなく、「食えるかぁっ」と放り投げられて終わった。

 

(せめて捌けよ!お前は今まで生きたままの魚を食べてきたのか!?)

 

流石にそれはないだろう、とカムイは思った。あれを料理と呼ぶのだったら、食材のまま出されても料理だと通ってしまう。その後も似たような料理が続いて行く。焼き鳥のように刺した物から、切り開いた魚の上に酢飯を乗せた物、挙句の果てにはおにぎりも出てきた。

 

さっさと仕上げてしまおう、とカムイは程よい硬さに握ったシャリの上に炙った魚の切り身を乗せる。取って来た香草の葉を細く切り、真ん中あたりでシャリとスシダネが離れないように巻く。次に余った香草を出来るだけ、細かく、そして小さく切り、振り掛ける。ちょっとした華のある色鮮やかな寿司の完成である。まともな寿司を作るのは難しい中で、少しでも美味しく食べれるように工夫して作った一品だ。

 

「も~...まだ1つも食べれてないわよ!あたしを餓死させる気!?色々ヒントあげてるのに」

 

不満を顕にするメンチにカムイは作り上げた寿司を持って行く。

 

「あら、やっと来たのね。貴方のは期待してたわ」

 

「こっちとしては堪ったもんじゃないがな。寿司なんて素人が作れる料理じゃないだろ」

 

「そんなこと、こっちも分かっているわよ。多少味に問題があっても、大目に見るつもりよ」

 

(そうしてくれないと誰も合格出来ないだろ)

 

ガチの料理人として判定されたら、もうカムイにはどうにも出来ない。素人の料理を認めてもらうには途方も無い年月がかかることが容易に想像できた。

 

「いただきます」と呟き、彼女は少量の醤油を付けると、口に運ぶ。ゆっくりと咀嚼し、味の吟味をする。

 

「シャリは初めてにしては上出来ね。香草が効き過ぎて、魚の本来の味が分かりにくいけど...まぁ、及第点ね。314番、合格!」

 

「よし!」

 

思わずガッツポーズするカムイ。カムイが喜びを噛み締めてる一方で、試験会場ではどよめきが起こっていた。初の合格者が出たことに、残りの受験生は慌て始めていた。

 

「おー、カムイ!お前も合格したか!」

 

「ハンゾーか。試験官の納得するような物を作るのは中々骨が折れるぞ」

 

「ふっ、心配するな。俺はお前と同じジャポン出身の者だ。俺もすぐに合格してやるさ」

 

「そうか。まぁ、頑張れ」

 

何となくだが、失敗する未来しか見えなかった。カムイが一息吐こうと思った時に案の定、事は起こった。

 

「スシってのはメシを一口大の長方形に握って、その上にワサビと魚の切り身を乗せるだけのお手軽料理だろーが!!こんなもん誰が作ったって大差ねーべ!?」

 

ハンゾーは調理法を叫びながら、バラした挙げ句、審査基準に不満を漏らす。そして、メンチにとって最大の禁句を言ってしまう。

そして、メンチの目付きが鋭くなり、雰囲気が変わった。怒りを顕にしたまま、ハンゾーの胸倉を掴んだ。

 

「お手軽!?こんなもん!?味に大差ない!?ざけんな、テメー!鮨をまともに握れるようになるまでは10年の修行はかかるって言われてんだ!!貴様ら素人がいくら形だけマネたって天と地ほどの差があるんだよ、ボケェ!」

 

「んじゃ、そんなモンテスト科目にすんなよ!」

 

「っせーよ、コラ、ハゲ、殺すぞ!文句あんのか!?お!?あ!?」

 

メンチの勢いに押され、ハンゾーは反論することも出来ぬまま、言い負かされ、黙り込んでしまった。他の受験生はバラされた調理法に早速実践していた。

 

(余計なことしたなマジで!ただでさえ、難易度の高い試験のハードルを更に上げやがった!)

 

カムイはこれからの試験は一種の乱闘状態になると思った。想定していた審査基準が崩れてしまい、この試験はもう試験として機能しなくなってしまっている。一足先に合格して良かったと思うカムイ。だけどまだ問題が残っている。

 

「ポンズ」

 

「あっ、カムイ。どうしたの?」

 

「予定変更だ。何処ぞの馬鹿が、試験そのものをぶち壊して、味自体を精査することになった」

 

「えっ」

 

ポンズの表情が抜け落ちて固まってしまう。酷なことを言ったという自覚はあるが、ここで嘘を吐いたところで状況は何も変わらない。

 

「でっ...それが、出そうとした物か?」

 

「う、うん。一応、カムイに見てもらおうと思ってたけど...」

 

小皿の上に乗ってるのはスシダネを酢飯で挟み、サンドイッチ状態にした二口サイズの寿司。...寿司?まぁ、日本で周知されている寿司と比べれば、歪だが大方の的は得ている。

 

「酢飯で挟む必要は無いな。後、もう少し小さめに」

 

形については口出しする程ではない為、カムイは味を精査する為にポンズの作った寿司を食べる。

 

「シャリはもう少し硬くてもいいな。スシダネは香草を少なめにすれば良いと思うぞ」

 

「分かったわ」

 

率直な感想を言い、アドバイスを言うカムイ。

言われたことを早速実行するポンズ。

 

何回か作り直し、漸く納得のいく寿司が出来上がった。

 

「こ、これで大丈夫かしら?」

 

「多分、大丈夫だ。シャリの硬さは俺のに出来る限り寄せたし、臭みが少し残ってしまったが、香草である程度緩和出来ているな。これなら、問題ないだろう」

 

「問題ない」とカムイから言われ、安堵を覚えるポンズ。最後に「行ってこい」とカムイに背中を押され、ポンズは試験官に料理を持って行った。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

「タネの切り方が全くダメよ!筋目に対して直角に切る!やり直し!」

 

「シャリの形が悪い!地紙形か、せめて舟底形に握りなさい!」

 

「これもダメ!」

 

「握りが遅い!タネに体温がうつって口触りが悪いわ!」

 

「これもやり直し!」

 

ブハラが危惧していた通りになったことにブハラは頭を痛めた。元よりこの試験は僅かなヒントを見逃さない注意力と見付けたヒントから推測する洞察力を推し量る為のものだ。だが、寿司の作り方がバレてしまった以上、建前であったメンチの味審査に切り替えなくてはならないのはある意味必然と言えるだろう。

 

(本当もう!馬鹿の一つ覚えみたいに同じ物ばっか作って来て!少しは314番みたいに工夫出来ないのかしら!)

 

苛立つメンチ。現時点で合格を貰ったのはカムイはまだ良い。味はかなり甘めに採点したが、工夫が感じられた上にシャリが程よい硬さだったからだ。

だけど、全てハンゾーのせいで台無しになってしまった。調理法が不明だった料理の調理法をバラしたハンゾーによって予定していた試験が滅茶苦茶になり、この試験をやる意味を失ってしまったからだ。

 

「ふーっ...(ワリ)おなかいっぱいになっちった!」

 

お茶を飲み干し、一息吐くと声高々に言い放った。

 

「え、えーと...最後に一個だけ食べてもらってもいいですか?」

 

「あら、結構遅かったじゃない。貴方は314番に次いで行動が速かったから、期待してたのよね」

 

安堵の息を吐くポンズ。ここまでやって、食べてもらえずに終わるのだけは避けたかったことだ。

ポンズが持って来たのは程良く焦げ身になった切り身が乗せられている寿司で、カムイと同じく、細かく切られた香草が均等に振られている。

 

「見た目は良し。後は味ね」

 

醤油を少しだけ付け、実食する。

 

「...シャリは314番から、アドバイスを貰ったのかしら?スシダネも文句は無いわ。246番、合格!」

 

「やった!」

 

合格を言い渡され、ポンズは笑みを浮かべる。

 

「そして、これにて試験終〜了ォ〜!」

 

ポンズに合格を言い渡したと同時に試験終了の合図をするメンチ。合格した2人は良いが、後の受験生は青ざめた表情を浮かべていた。

 

第二次試験 後半

メンチの料理

合格者2名




フロシェオスサーモンは執筆者の創作生物です。HUNTER×HUNTERには姿形が奇抜な魚類や動物が居たりしたので、現実に存在する生物に+α感覚で考えました。
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