すまんの!
さて、脳缶たちを雇って早数日。
経過はそこそこ順調であった。
羽虫の機械を通した脳缶たちの情報収集作業は問題なく進行し、日夜この地球についての必要な情報が無数に流れ込んでくる。
現地のカルト集団や危険な外獣候補、禁足地など、この世界における裏世界事情概要も把握することができた。
「……でもこれは、あくまで表面上の話なんだよなぁ」
もちろん、これらの情報には漏れが多いことのわかっている。
なぜなら、この羽虫が制作した地球文明観測器は、あくまで機械情報からの読み取りがメインだからだ。
パソコンや無線装置、テレビに電話などからの情報収集こそ得意だが、それ以外の情報源からの情報習得は苦手だからだ。
なんなら、そもそも外獣達は光学的な問題でカメラに映らない奴らの方が多いし。
「これが今回のみんなが集めてくれた怪奇や呪いについての資料です」
「……えっと、この紙の山は何?
とりあえず、数日分の情報でいいって言ったつもりだけど」
「無論、その通りです」
さらに言えば、集まってくる情報が多すぎるのも問題だ。
そもそも2000年代の人類文明は情報化社会なのだ。
情報の精査を担うプログラムが脳缶や簡単な魔法任せであることを考慮しても、なお多すぎる。
それこそ、集めた情報の正誤を確認するために個別の魔法や調査員の派遣が無数に必要になるほどだ。
「……まぁ、でも無差別に情報を集めるよりはましか。
うん、ありがとうね、ソフィちゃん」
「いえ、滅相もございません」
「あ、あと、これ、ポイント。
他2人には内緒ね?」
「……!!す、すいません、ありがとうございます」
もっとも、それでも以前よりははるかに効率的かつ安全に情報収集を行えるのは大きすぎるメリットだ。
もちろんこの装置について十全に理解しているわけではないし、どこに地雷があるかわからないこの世界において、この装置による情報収集が永遠に安全とは言い切れない。
が、それでも以前の情報収集と比較すれば安全度も効率も段違いなのは確かなのだ。
だからこそ、今はこの装置を使ってゆっくりと情報収集。
その後、それらの情報を元にできるだけ安全な行動策を考えるべき、そう言う段階なのだ。
「ところで魔法使いさん、ちょっといいですか?」
「なんだい?」
「結局今回の騒動って、あの化け物達は私達の魔法を使える脳みそが欲しいから、わたしたちに襲いかかってきたわけですよね」
「そうだね」
「……でも、一番初めに私が魔法使いさんと出会ったきっかけの化け物の襲撃は、私はまだ魔法も何も使ってないはずですよねぇ?」
「そうだね」
「……魔法使いさん!!」
「だめ」
「え?!まだ何も言ってないのに??」
「言わなくてもわかるからね。
どうせその最初に君を襲った方の化け物の詳細を調べてとか、場合によって始末してほしいとかそう言う話でしょ?
それについては、対価とかその他諸々を考慮して無理ってことでNG」
「あうう〜、そんな〜……」
──だからこそ、いくら契約者とは言え、この時期に新たな問題の火種を打ち込むのはNGで。
そう言う話なわけだ。
★☆★☆
「ううう……やっぱり断られちゃっいました」
さて、一方こちらは奇運の探偵「葉山ミヤ」。
彼女は現在悩んでいた。
と言うのも、今現在彼女は過去に二回羽虫の化け物に襲われたのに、うち一つはいまだに解決していないことに気が付いてしまったからだ
「た、確かに、魔法使いさんの言うことはわかりますが……」
一応、彼女と契約してくれた魔法使い曰く、今は彼女の周囲にその化け物の気配はしない上、インターネットで多少情報をばら撒いても、身の安全については問題ないと保証してくれた。
更には彼女の自宅やこの秘密基地では、それなり以上のセキュリティが整っており、今の彼女は地球上でも指折りなほど安全な状態であり、さらには魔法使いへと借用した肉体の事も合わせれば、もはや鉄壁と言ってもいいだろう。
「で、でも、不安なものは不安なんですぅ」
しかし、そんなでもなお、彼女の不安は晴れることはなかった。
何故ならば、彼女は既に知ってしまったから。
――あの羽虫の化け物を、【忌々しい雪男】【ユゴスよりの者】【邪悪な菌類】を。
地球の物理法則からかけ離れた肉体を持ちながら、知性や社会性を持ち。
倫理観はないくせに、高い外科能力は保有し。
この惑星の外で生まれながら、無数の地球潜伏している、そんな恐るべき化け物たち。
そんなおぞましい化け物が神出鬼没で現れて、今なお自分の命を狙い続けている可能性があるのだ。
たとえ魔法使いと言う後ろ盾があろうとも、ただの一般人に過ぎない彼女では不安の方が本音であった。
「うう、それに、私以外にも契約者さんができちゃいました……。
ソフィさんは美人でスタイルもいいですし、頭も良さそうですし……。
私みたいな馬鹿でちんちくりんな女なんて、捨てられちゃうんだぁ!」
さらに言うと、今回の騒動で魔法使いの契約者が増えたのも不安要素として大きい。
そもそも増えた原因自体が彼女の契約という名の我がままによるものではあるが、それでも、自分が唯一無二でなくなったというのが大きな意味合いを持つことは彼女自身よくわかっていた。
彼女もこの騒動で自分が生き残れたのは件の魔法使いのおかげであるということを十分に理解していたので、なおさらだ。
「うう、うううう……。
もう私はダメなんですね。
魔法使いさんに捨てられて、ソフィさん達に嘲笑されて、妹共々脳缶にされちゃうんだぁ」
そう、未知の恐怖と既知の恐怖、さらには大切な家族や自身の命への危機。
更にはどれもが自分の手に及ばない超常によるものからの長期間の心理的圧力により、彼女は一種の【不定の狂気】に取りつかれてしまっていた。
「……だめですね。
このままだとあることないこと考えちゃいそうですぅ。
今日はもう、ワイン飲んでまだ読んでない雑誌読んで寝ましょう」
もっとも、まだその狂気は小さなもの。
ゆえに普通なら気の迷いであったと、気にし過ぎだと1日経てば流せる程度のものであった。
【……ならば、私が何とかしてやろうか?
■■の探偵よ】
「……え?」
でも、そんな状態の彼女だからこそ、その声を聴いてしまった。
それが、明らかな罠であろうとも、彼女はその声に惹かれてしまったのだ。
「……とりあえず、あなたは毎日私にジャンボパフェをくれることができますか?」
【え゛!?それはちょっと……】
「……はあぁ、ならいいです。
やっぱりこれは幻聴ですね」
【え!?あ、おい、ちょっとまて!!】