狂世旅行   作:どくいも

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漂着

「また、違ったか」

 

澄み渡る青空の下で、私は再び溜息を吐く。

眼下に広がるのは一面の大海原、潮の匂いを乗せた風が、こちらの鼻腔をくすぐってくる。

 

「今回こそは、もしかしたらと思ったんだけどなぁ」

 

懐から取り出した、早咲の種を水面に浮かべ、その様子を観察する。

するとその種から芽が出て、葉と根が伸びていき、瞬く間に成長していく。

まるでビデオの早送り化の様に、種はあっという間に草になり、そして水連に似た綺麗な桃色の花を咲かせた。

 

「おお~、綺麗綺麗。

 ……葉は緑で、根は白。

 花弁の物質化も成功……とくればなぁ」

 

なお、この早咲の花は、過酷な環境でも瞬時に適応し、成長してくれる特性がある。

その為、見知らぬ地での緑化が可能であり、基本的に無毒。

さらに、花も種も有用であり、味も最低限、魔法の触媒としても使用可能と、まさに捨てるところのないスーパーフラワーであったりするのだ。

 

「空気中には、窒素に酸素……二酸化炭素も存在すると。

 水面は普通に塩分が含まれるけど、おおよそ普通の塩水。

 しかし、あらゆる成分が微小に存在する。

 重力は可もなく不可もなく、上から下に、均一に伸びている。

 汚染や毒性は僅か、気温も20度に届くか届かないか、か。

 ……判定、地球系惑星の海と断定」

 

そうして、このように、この花の成長具合から、周囲の自然環境をある程度割り出すこともできる。

今回の場合は、この周囲の環境が一般炭素生物系哺乳類型人類でも無理なく生存できる、むしろ生存に最適な環境であることがわかった。

 

「唯一、悪性の魔力(マナ)が少し濃いけど……、まあ、亜種人類でもない限り、問題ないか」

 

かくして、私は一つの結論に行き渡る。

 

「やっぱりここは、生まれ故郷によく似た場所なんだろうなぁ」

 

――それはすなわち、ここが水の惑星、塩水に満ちた海大き世界。

――『地球』に近い惑星であるということを。

 

 

 

 

「……でもだからこそ、残念なんだよなぁ」

 

──しかし、それでもここは、私の故郷である【地球】ではない。

――正確に言えば、ここは『地球』ではあるかもしれないが、私の知る『地球』ではないということも、だ。

 

この儚くも厳しい事実を目の当たりにしたことで、思わず口からため息が漏れてしまう。

そうだ、そもそも私は、この世界が元の地球に近い世界であることは、くる前から分かっていた。

入念な下準備に、飽きるほどの検証。

無限とも思える試行回数と手間の果てに、元の故郷かもしれないと期待して潜入したのがこの世界なのだ。

 

「でも、そうじゃない、そうはならなかったんだよっと」

 

しかし、結局はその努力も水の泡。

なぜなら、私の目的はあくまで【帰郷】。

たとえ、この地が、どんなに地球に似ている世界であっても、ここが私の知る地球でない限り、なんの意味もないからだ。

 

……え?何故ここが元の自分の世界でないかって確信を得たのかって?

 

 

「……まぁ、それでも故郷にこんな化け物が発生するよりはましか」

 

 

――なぜなら、今私の眼下には『元の地球には存在しえない』化け物の亡骸があるからだ。

 

無数の粘液をまとった表皮をしており、背びれに当たる部分にはとろけた膿疱がある。

死してなお、タールのような液体をぼこぼこと垂れ流しながらも、その身は春の雪の様に海水に解けていく。

耳はなく、口は鎌状、さらにクジラのごとき巨体を持ち。

100を超える眼と触手で、飛んでいる人間を襲うよう。

この様な外獣に汚染されたな何かいる海が、どうして普通の地球に存在しようか?

 

「……とりあえず、一旦人間がいないか、探してみるかl」

 

かくして私は、やるせない落胆を胸に、ゆっくりと陸地を探し始めるのであった。

 

 

 

 

さて、改めて自己紹介すると、私は魔法使いである。

 

より正確に言うなら、元日本の一般男子学生であったが、とある異世界に強制的に召喚されたことにより、転職を余儀なくされた。

流行り物でいうのなら、異世界転移主人公といえるかも知れない存在なのだ。

大抵こういう異世界召還された人物の末路となると、英雄の様に成り上がるか、ぼろ雑巾の様に早死にするかのどちらかがお決まりではある。

が、残念ながら私はどちらにもなれなかったらしい。

様々な幸運と不幸が重り、こうして現在の私は異世界から元の世界に戻るために、様々な世界を旅する放浪者になったと言うわけだ。

 

「バナナオレ一つください」

 

「毎度アリ~」

 

というわけで、現在私はそんな元の故郷風の異世界で、ゆっくり買い物中だ。

もっとも、せっかくの元世界風の食べ物ではあるが、異世界のものゆえ、そうホイホイと摂取するわけにもいかないのが残念だ。

 

「……にしても、見れば見るほど似ているなぁ」

 

しかし、それでも買った飲食物を捨てるわけにもいかず、せめて食べているように見せるため、防御魔法を発動させたうえで、それを口に含む。

そのままその液体を口内で封印し、早咲の種と混ぜ合わせる。

 

「……匂いはいい感じなんんだけどな~」

 

そんな愚痴を言いつつ周囲を見渡す。

するとそこには無数の人型に、数多くの鉄筋をコンクリートで塗り固めた建築物。

ガソリンを燃料に走る乗り物に、電気を使って発光する電灯まであった。

ひさしぶりの人工でない天然の2000年代風地球系人間世界日本の光景に、少しだけ涙腺が緩むのを感じる。

 

「……でも、ここは違う、別の世界なんだよな」

 

口に出した事実に、頭を垂れながら、拾った新聞紙の内容も確認する。

幸い、そこに書かれている文字の9割はこちらの知っている日本語だ。

しかし、そこに書かれている著名人や人物名は殆どが知らないものであった。

勿論、こちらの記憶違いや欠落はあるであろうし、元々がそこまで詳しい方の人間でもない。

が、この世界の都道府県の数が元の世界のものと違うことくらいはわかるのだ。

 

「さ〜て、ここからどうするかぁ」

 

それゆえに私は悩む。

本音としては、こんな悲しい元の世界に似ただけの地球的異世界など、さっさと退去したい。

 

「でもな~、すぐに次の世界へ移動する事自体はいいんだけど……」

 

ここだけの話、実は世界を移動する魔術そのものは、そこまで難しいことでもなかったりする。

それは私が、強い力をもつ魔術師であることや、すでに転移慣れしている事。

その他いろいろなことを考慮しても、別に難しい魔術ではないのだ。

 

「……自分の知る地球じゃないとはいえ……。

 さすがに、世界丸ごと爆発オチは、可哀そうすぎるからなぁ」

 

――もっともそれは、『安全性を度外視すれば』の話だ。

 

そう、世界の移動それ自体はさほど難しい魔術でなくても、それを安心安全に行うとなると、途端に難易度が高くなるのだ。

具体的に言えば、魔術を使用する際に起こりうる使用者へのリスクや移動先の安全確認。

移動先及び移動元への影響や外魔による侵略。

その他さまざまな問題点から、世界移動とは、それだけで非常に危険な魔術といえるのだ。

 

「……それに、この世界には、これだけ現地人がいるんだ。

 絶対、少なくない数の魔法使いがいるだろうからな」

 

だからこそ、もし私がこの世界で不用心に世界移動の魔術をつかおうものなら、間違いなくこの世界にいる魔法使いたちから、狙われること間違いなしであろう。

正義感が強い魔法使いなら、世界に穴をあける異世界人たる自分に対処するため。

悪の魔法使いならこの世界を混沌に陥れるため。

対策なしだと、この世界に混乱を巻き起こす事にしかならないことは間違いない。

 

「もっとも、それでもここまでアクションがないってことは……。

 まぁ、あんまり注目されてないんだろうね、うん。」

 

もっとも、外の世界から来た自分という存在がいるのに、未だどこからも連絡や警告が飛んでこない。

以上の事から、おそらくこの世界にいる魔術師たちは穏やかなタイプか臆病なタイプがほとんどなのだろう。

 

「それでもま、警戒することに越したことはないからね。

 ……それに、まだこの世界来てから一日も経過してないし。

 まだまだ分かんないことだらけだからね」

 

手にした新聞や飲み終わったバナナオレを手中に握りしめ、魔力と魔術で圧縮する。

 

「つまり、いつもとやることは変わらない。

 この世界の情報を集め、安全を確保し。

 その後次の世界へ移動する、それだけの話ってね」

 

そうして私は、手のひらにできた一つの早咲の種を地面に向かって投げる。

 

「というわけで、今回も頼むぞ~。

 【千手の眼】!」

 

こうして私は、自分の望む良い感じの情報提供者が見つけるため、魔術を発動させるのでした。

 

 

 

 

 

なお、人探しの魔術の結果、一応は目的の人物は発見はできた。

その人物は、ちょうどこちらの求める情報を持っていそうであり、かつ、ほどほどにこちらにとって都合のよさそうな人物ではあった。

 

「う~~ん、でもなぁ……」

 

しかし、それでも私は今回この魔術で見つかった協力者候補と、素直に話しかける気にはなれなかった。

 

――ぎぎぃぃぃ!!!!!!

 

「う……あ……!!

 ああ……ああああああ……!!!!」

 

なぜなら、その人物はちょうど目の前で世界外生命体である外獣に襲われていたからだ。

巨大なはさみに電気銃を持った、キノコ海老星人のような外獣に襲われている現地民とか、いろんな意味で厄物がすぎる。

 

「え、あ!そ、そこのあなた、この化け物が見えるんですか!?

 な、なら、どうか私を助けて……ぎゅぴぃ!!」

 

――くここここここ!!!!

 

もっとも、こちらが無視しようか悩んでいる所、先に向こうがこちらを発見してしまった模様。

さらには、件の外獣も、一瞬でその協力者候補の腹に穴をあけ、こちらへと襲い掛かってきた始末。

殺すタイミング完璧か?そんなすぐ殺せるなら、私が来る前に終わらせておけよ。

 

「……まったく、しょうがないなぁ」

 

――ジリリリリリリリリリ!!!

 

かくしてその耳障りな羽音を響かせながら、こちらへと飛翔してくる化け物に向けて、対処を開始するのでした。

 

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