狂世旅行   作:どくいも

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新規

 

――ゆがんだ輪郭、鼻につく腐臭、不気味な羽音、雪虫の渦中にも似たな空間への嫌悪感。

 

彼女を追い、襲いかかった化け物はそう言う不快で危険な化け物であった。

 

そしてそれは不快なだけではなく強力ですらあった。

 

──単身で空を飛び、機械では撮影できず。

鍵や罠を無効化できるほどの知恵を持ち、こちらを生きたまま解剖できるほどの医学まで持ち合わせる。

 

そんな、おおよそ常人では対応できない脅威。

だからこそ、彼女をそんな魔の手から救ってくれた存在である【彼/彼女】には、ある種絶対の信頼を置いてしまったのだ。

 

──それは人の姿をしていながら、同時に人以上であると本能が囁く。

数多の魔法を使い、化け物すら一蹴し、こちらの言葉を理解できるほどの知能を持ちあわせなごがら、同時にこちらを配慮する優しさを持つ。

 

おおよそ危険そうな存在と言われるとそうかもしれないが、【魔法使い】との会話は優しさと倫理に満ち、少なくとも生身の人間との会話以上に安らぎを感じた。

 

……それゆえ、彼女は勘違いしてしまったのかもしれない。

その存在が常にこちらにとって絶対的な味方であると。

或いはどんな困難も一遍に解決してくれる、文字通りのおとぎ話の魔法使いであると。

 

しかし、当然それは間違いであり。

選択には責任が伴い。

契約には対価が存在する。

 

だからこそ、彼女が契約で行った結果は、彼女自身がある程度は受け入れなければならない。

当然の結果だと言えよう。

 

ようやく彼女はその事実を、納得こそしていないが、飲み込むこと自体はできた。

 

「……で、でも、それは、それはあまりに厳しすぎませんか!?」

 

しかし、それでも彼女は強く叫ぶ。

 

「たしかに、確かに私はこれに同意しましたけど!!

 あまりに、あまりにそれはひどすぎませんか!?」

 

その契約は理不尽だと。

自分に課せられた責務があまりに重すぎると。

当然彼女とて、自分の方に非があることはわかっていた。

力もない、事前に書面のやり取りもした、何よりも少ない対価で怨敵を倒してくれたのだ、文句を言う方がおかしいのだ。

 

……しかし、それでも彼女は強く叫び続ける。

なぜなら、それこそが力亡無き彼女にできる唯一の方法(足掻き)なのだから……。

 

 

 

「まぁ、それでも結果は変わらないんだけどね。

 というわけで、君に事前の契約通り、この人間以外の生ものについての処分。

 すなわち、人としての機能をほぼほぼ失っている人間の脳みそ入り生缶詰をどう処分するか決めてほしいんだよ」

 

「む、無理無理無理無理!!

 だ、だってその人達、一応はまだ生きているんですよね!?

 なら、殺したら殺人じゃないですか~~!!」

 

「いや、正直脳みそ以外の肉体をすべて失っているし、自力で食事も呼吸もできないから生死判定は怪しい所じゃないかな?

 あと、これ1つで無理といわれても、この基地にはこれと同様の脳缶が後7000個近くあったからね。

 まだまだ問題は山積みになっているわけだよ」

 

「うぐ、うう、ううううううぅぅぅ!」

 

「ああ、もちろん先に言っておくと、全員を今すぐ綺麗に蘇生とかは無理だよ。

 出来るできないというよりは、単純に君の対価が足りないからね。

 君の脳をすべて犠牲にしてもよくて、100、いやちょっとおまけして200ぐらいが限度かな?

 だからまぁ、色々と覚悟は決めておいた方がいいよ」

 

「……おええぇぇぇ!!!」

 

もっとも、彼女の嘆願はむなしく、現実は変わらず。

元一般人なのに、7000人分の命の選別という名の重責に負うことになり、思わずゲロを吐いてしまうのでした。

めでたくなしめでたくなし。

 

 

★☆★☆

 

 

『いや、やっぱりこれ無理でふ。

 私には選べまへん』

 

『というか、只のか弱い一般人の私が、他人の命を選別するとかおこがましいにもほどがると思うんですよ。

 それにこの脳缶?の中にいる人も、魔法使いさん相手に殺されるならまだしも、私程度に殺されるのはいろんな意味でかわいそうというか、残念過ぎるというか、ともかく私には無理です』

 

『だ、だから!私としては、私がこの脳缶の人達の運命を決めるんじゃなくて、魔法使いさんや脳缶になっている人達自身がいい感じに自分の結末を選んでくれるいい方法はないかな~なんて思ってるんですが……。

 あ、あの~、私も最低限の対価は出しますし、そ、それでどうにかなったりしないかな~、なんて?』

 

なお、その結果彼女が出した結論がこれである。

 

ある意味では当初結んだ契約内容と真反対のものであり、ある意味では責任逃れ。

自身の契約で負った代償を、さらなる契約で上書きしようとし、さらにはこちらに責任を丸投げしようとし。

果てには、自分が払うべき対価も最小にしようとする、実に欲望にあふれた身勝手な契約を提案してきたのだ。

 

「……まったく、本当に都合のいい事ばかり言って……」

 

おそらく彼女の言葉は責任ある魔導士が聞けばあきれ果てることだろう。

自分が神か悪魔ならば、一種の契約不履行とみなすかもしれないし、それにより彼女の身に厄災が降りかかるかもしれない。

なんなら、彼女自身も、自分が強欲なことを言っているという自覚はあるのだろう。

その内容を話す彼女は、終始こちらに向かって申し訳なさそうな表情を浮かべ、何度も顔色を窺ってきたぐらいだ。

 

 

 

「……ま、でも、今回ばかりは許してやるか」

 

しかし、それでも私は、彼女からの提案を受け入れることにした。

なぜなら、それが彼女がどこまでも人間である証だから。

偽善にあふれ良心をもって不義を為す。

実に身勝手で強欲な、私の考える人間の在り方そのままである。

 

「それに、人の生死の責任を負いたくないのはこっちも一緒だし」

 

というか私としては彼女の思いに共感したといった面が大きい。

例え、強大な力を手に入れようとも、所詮人間最後は一人。

契約者やら愛しい人相手ならまだしも、名も知らない人の厄介ごとなんてものに関わりたくない気持ちはよくわかる。

そもそも今回の契約で、事前に人間未満になっている元人間の生殺与奪権なんてものを押し付けていたのも、極論私自身がそんなめんどくさい責任から逃れたいからだ。

 

「それに、あんまりストレスを与えて、壊れてしまっても嫌だからね」

 

それに今回の契約者は、良くも悪くも長持ちしそうなのだ。

ならば、はじめの方は多少サービスしてでも関係を維持するべきだろう。

 

「倉庫の方にあった脳缶を持ってまいりました」

 

「ん、ご苦労」

 

そんなことを考えながら、蘇生させた方の新規の契約者から、新たな脳缶を受け取る。

 

「ん~、こっちの脳はすでに破棄予定済みだったのかな?

 細胞寿命がすでにつきているし、無理に機能拡張させようとして、脳なのにがんができている。

 自我はおろか、演算装置としても、死んでいるに等しいね」

 

「あの……」

 

なお、このこちらに脳缶を渡しながら、もじもじとこちらの様子をうかがう彼女達は、元融合生首戦車の素材にされていた人間達であったりする。

脳缶とは違い、首から上含む、人間としての肉体や自我が多く残っていたため、事前の契約の取り決めの結果、まだ人間と断定。

今回の騒動に巻き込まれた【生存者】と判断し、普通に蘇生したわけだ。

 

「……ま~、この脳缶に関しても、君たちの前任の契約者が保留にしているからね。

 どんなに状態が悪くても、破棄はしないよ、破棄は」

 

「……!!ありがとうございます!

 そ、それで、蘇生のほうは……」

 

「そっちは別話。

 まぁ、保全してもすぐに死なれると困るから、寿命再生やがん治療位はするけど」

 

「う、うう、そうですか。

 すまない……私が不甲斐ないばかりに」

 

もっともこいつらは、某探偵と違って、少々私と相性が悪い。

余り積極的に契約したくはなかったのが本音だ。

 

「安心しろ、この御方と私で、お前たちの事もきっと救ってやるからな」

「は~、めんどくさ。

 別にはこれらは拙者らと違って、ほぼほぼ死人でござろう?

 さっさと見捨てて、江戸に返してほしいでござる」

「……」

 

何故ならこいつらは、基本的にこちらとは人格面や倫理面で馬が合うとは思えないからだ。

一応あの生首戦車は、この施設の中でも、特に優れた脳を持つものが素材とされ利用されていたらしいが、正直能力の有無は私のとって関係ない。

合理面から考えても、彼女らのような極端な思想持ちは厄介ごとを引き起こしやすいと言うのもある。

 

(……ま、それでも既に契約はしてしまったからな。

 終わった後にぐちぐち言うのも違うだろ)

 

しかしそれでも、いくらかの不満をぐっと喉の奥に飲み込み、私は正面にあるその装置へと向き合う。

もっとも、この装置は元々羽虫用なため、人型で人間系哺乳類である自分ではちょっと操作しにくいが、それでも魔力と権能のごり押しでなんとかする。

ついでとばかりに、これらの装置に脳缶と接続し、さらには装置を人間向けに改造もしておく。

 

「え、えっと、それは?」

 

「ん?これはあの羽虫たちが使っていた観測装置兼大型演算装置。

 分かりやすく言えば、外獣……いや、ミ=ゴ製スパコンって言ったところかな?」

 

「は、はぁ……」

 

「それと将来君たちが使う仕事道具にもなるから。

 近々操作方法も覚えてもらうから、覚悟しておいてね」

 

「「「え」」」

 

自分の後ろで呆けていたり、驚く新規契約者たちを尻目に、私は自分のなすべきことをする。

ともすれば、一通りの準備はできたため、あとは状況説明なのだが……。

 

「う~~ん、魔法で知識をある程度入れるのはいいけど、やりすぎると洗脳っぽいからな。

 ここは古典的な説得、いやレスバを楽しむことにしますか!」

 

かくして私は、探偵契約者と自分の命の重積を少しでも軽くすべく、目の前の装置へと文字を手入力するのでした。

 

 

 

 

 

 

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