‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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Sham Battle・中編

「第三一○統合戦闘装甲団、全員集合しました!」

 

「こちら第三○八統合戦闘装甲団、欠員無し!」

 

「第三三五統合戦闘装甲団、ただいま到着です」

 

 北アフリカに展開する幾つかの部隊がトリポリに集結し、小さな日覆いに設営された本部に各自の点呼を行っていた。どうやら他の隊は今日付けで到着していたらしい。

 

 実戦の機会を失って落胆するウィッチや、昨日のネウロイの残骸……水色の結晶を集めて自慢しているウィッチもいた。

 

「第三○九統合戦闘装甲団、参加者はこれで全員です」

 

 一美はミヒルのやる気ない声を、そして『装甲団』という単語を聞いても反応しなくなるのを感じ“あぁ、

やっぱり私は装甲歩兵になるんだ”と胸中で呟いていた。

 

「どしたのさ一美? お腹痛いのか?」

 

 帰国した際の言い訳を考えていた一美のしかめ面にマリアが心配する。

 

「ん~と、その顔はきっと故郷の風景でも想像していたんでしょう? だいじょうぶ、私達はこれから故郷の土を踏めるかも分からないんだから♪」

 

 いつの間にやら、一美の隣にはへレーネが、他にもテントにいなかった隊員達が立っていた。彼女も周りと同じように最小限の戦闘用装備を身に付けている、へレーネに至っては過激な言葉も相俟って相当にやる気が満ちているようだ。

 

「おぉ、もう集まってたか。じゃあ早速だが分隊の発表をするぞ」

 

 受付の役割を果たしていたカールスラント製無線指揮車Sd.Kfz.250/3グライフから戻ってきたミヒルとエトナが書類と紫色に染められた1~11の番号が振られたビブ(ゼッケン)を持って戻ってきた。

 

「まずはA分隊として……隊長がエトナ少佐、副隊長にシャロン 突撃員にクリスとオルガとロゼ 無線はヘレーネが担当してくれ。 B分隊は隊長がわたしで……副隊長にマリア 銃手はアリシアと一美 無線手をレイ に決定した。 A分隊はネウロイ役である三一〇統合戦闘装甲団AB分隊に突撃を行い、ソレをB分隊で援護する算段だ。A分隊が三一〇と戦闘を行っている間にわたし達B分隊が前線を突破して、あそこの……B17の残骸がある地点に篭城する三三五統合戦闘装甲団を叩く。」

 

「んで、A分隊の生き残りが後続友軍の三〇八統合戦闘装甲団と合流してB分隊の援護をすれば良いわけね? なんかミヒルの作戦って突撃ばっかりよね、もう少し距離をおいて戦っても十分だと思うけど……」

 

「やっぱり前線を進めないと何も変わらないわよ。 さ、移動しましょう。他の隊も移動しはじめてる」

 

 模擬戦に参加するウィッチ達が続々と即席演習場に向かって行く。 三〇九の隊員も遅れないように集団についていった。 これ以上の迷子はごめんなので、一美はマリアの背中に抱きついていた。 はたから見れば微笑ましい光景だが、彼女達は両脚に物々しい機械を穿き、腕には可愛らしい容貌とは似つかない無機質の小銃や携帯砲、短・軽・重機関銃を抱えているのだ。

 

 受付の装甲車から開始地点までは歩いて三十秒程度だった。 後ろには報道陣や見物客の詰める天蓋と櫓もある。 今回の模擬戦は陸戦ウィッチの技術向上というより、世間に陸戦ウィッチの活躍を広めて志願者を増やすイメージアップが第一の目的なようだ。

 

「観客の視線を集めればいろんな業界からスカウトされるわよ!」

 

「次の募兵ポスターの被写体は私が頂くわ!」

 一美の後ろで待機している第三○八統合戦闘装甲団に所属するウィッチが急に落ち着きを失っていた。

 

「マリアさん、陸戦隊って宣伝しないといけないぐらいウィッチは人手不足なんですか? 扶桑の飛行学校でも去年は陸軍航空隊だけで十人も連合軍に召集されてますけど…」

 

 扶桑の戦車学校を一美は見た事も無いので詳しくはわからないが、飛行学校よりは人数も多いだろうと思っていた。

 

「生まれつきウィッチの能力を発現できる子は少ないからね、各国の軍が適正検査を呼びかけてるんだって」

 

 

「けれどやっぱり人気は航空歩兵だよ、素質のある子は総じて航空歩兵の仲間入りだよ。おかげで陸戦ウィッチの人気はだだ下がり、今回の模擬戦はわたしたち陸戦ウィッチの命運がかかってるんだ。」

 

 アリシアの顔がキラキラと輝いていた。やはり映像業界に対して人並みならない情熱を持っているようだ。

 

「各国で志願者が増えなかったら連合陸軍の予算は大幅カットらしいからな、そりゃ誰でも気合いが入るさ」

 

 ネウロイに侵略された今では珍しい、カールスラント製の刻印が入ったMP40短機関銃の点検を始めていたミヒルの顔は曇りきっていた。 凛々しい顔が勿体無いぐらいに。

 

“本番四十秒前!”

 

 受付のスピーカーから聞き覚えのある声で開始準備のアナウンスが流れた。 ややカールスラント訛りのブリタニア語、昨日のタイガー戦車に乗っていた車長の声だった。

 

“本番二十秒前!、入場許可証を持っていない者は演習場から退場せよ!”

 

 横にいるマリアやミヒル、初めて間近で見たレイ軍曹が武器を構え始めるのに合わせて、一美もMG13機関銃に据え置き式銃架を装着したものを慣れない手つきで背負う。

 

「(こんなの持って突撃するのかぁ……)」使い魔を解放しているので重量は苦にならなかったが、異常に長い銃身は一美の頭二つ分は突き出ていた。 軍刀は隊舎に置いてきてしまったので吾郎の声も聞けない。 こういう時こそ助言を聞きたかったが、仕方がない。

 

“十秒!……五、四、三、二、一……”

 

 乾季の砂漠に沈み行く西日は未だに暑い、ウールで編まれた扶桑陸軍の制服は、緊張と体温から出た汗を吸って重さを増す。 ちらつく陽光に目を細めるウィッチも多かった。 有視界戦闘では先に相手を発見した方が有利である、どうやら外出時に制帽をかぶってきたのは正解だったようだ。

 

“ゼロ!、訓練開始ィィィ!!”

 

 開始を告げるアナウンスて共に、獣耳を生やしたウィッチ達が一斉に行動を始める。隣に展開していた第三○八統合戦闘装甲団の隊員はすぐさま稜線の影に隠れ、ネウロイ役が籠城するB17の残骸までの距離を測り始めた。

 

「A分隊ついてきて! こっちはシールド使って良いんだから残弾だけ気にしてればいいのよ!」

 

 まずはエトナが先陣を切り、後ろからついて行くA分隊の陣形を指図する。 決定された陣形は一列横隊、敵に射撃対象を増やすことで目移りさせる目的だ。

 

「さてさて、いっちょ行きますか~」

 

 ‘紫の五番’のビブを着たオルガは目の前の稜線を越え、双眼鏡でB-17の残骸を確認する。 残骸の中ではネウロイ役のウィッチが配置に着き、武器をこちら側に向けていた。

 

「もうちょい……もーちょいなんだけど……」

 

 倍率が小さいのかピントが合わないのか、だんだんと上体が稜線に乗り出す。 周りのウィッチは彼女が狙撃されないか心配でならなかった。 そして彼女達の予想は的中することになる。

 数発の乾燥した銃声が聞こえたのとほぼ同じ時、オルガの身体が二~三度よろめいたかと思うと、最後の衝撃で思いきり真後ろへ吹っ飛んでしまった。 オルガの身体は、そのまま一美達のところまで転がり、仰向けで停止した。

 

“紫の五番がやられました! オルガノビッテ.ロンカライネン少尉です!! スオムス陸軍代表、早々の退場です!”

 

 観客席の民間人達が簡単に状況を知れるように、実況スタンドからリアルタイムに模擬戦の様子を伝えていた。実況スタンドは櫓の上であり、上方視点からの的確な戦闘推移が可能なようだ。

「痛っ……あぅぅ~」と呻くオルガの胸には青い塗料がべったりと付着していた。 一美に負けないぐらいの膨らみ無き双丘への着弾、威力は相当だろう。

 

「……とまぁ、被弾するとこんな感じにむなしい結果になる。 私は観客席に戻るとしようかね」

 

 寂しい背中を見せて退場するオルガを全員で見送り、エトナ率いるA分隊は敵線へと突っ走ってしまった。

 

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「いい? まず私とシャロンで敵前面へ制圧射撃。 その間にクリスがシールド張りながら敵線へ突貫、それにロゼも続いて!!」

 

「えぇ!?? わたしの歩行脚って砲兵科用の筈じゃ!?」

 

「そ……そうですよアンダルシア少佐! リベリアンなんかに私の援護が務まるはずありませんわ!!」

 

 先日の戦闘でスクラップの烙印を押され、演習の遮蔽物として第二の人生(セカンドライフ)を歩み始めたクルセイダー中戦車『アールグレイ』の裏に隠れたA分隊。 砲塔の影から敵線を覗くエトナの隣には、突撃命令を受けたクリス、その隣にはロゼが待機していた。

 

 小柄で赤毛のロゼが言うとおり、彼女の歩行脚はM4シャーマンを改造したM7プリースト自走砲だった。 本ユニットは後方からの砲撃に特化した砲兵科仕様であり、シールド防御力と機動力を犠牲にしている。

 

 完璧な人選ミスだった。 分隊を編成したエトナの目には、ロゼの背負う105ミリ砲は『なんかデッカい大砲』としか見えていなかったようだ。

 

「少佐、突撃に向かないマートリンはここに待機させて、まずロンザプトンから突っ込ませましょうよ。」

 

 長身を窮屈そうに屈め、ブロンドの長髪を持て余していたシャロンがエトナに進言する。 エトナも良い作戦が浮かばないのか、黙って首を縦に振った。

 

「良いかクリス、まずお前が前進すると同時に私が煙幕を投げて前進を助けよう、あとはロゼが支援射撃を八秒間行うから、その後にシャロン中尉と私が続く、わかったか?」

 

「がってん!」

 

 エトナが雑嚢から煙幕手榴弾を取り出し、ピンをクリスの目の前で引き抜く。 それを合図にアールグレイの影から飛び出すクリス。 彼女の使うブリタニア製の巡航ユニット『カビナンター』は動作も良好で、右へ左へ乱射する2ポンド砲も十分に敵を怯ませていた。 だが、いざ突撃しようとした瞬間、クリスの足がもつれ、アールグレイより前方およそ6メートルあたりで顔面からコテン、と転倒した。

 

「へへ……こけちゃったぁ……」

 

 自分の痴態をとても恥ずかしそうに立ち上がり、赤面した砂だらけの顔をエトナたちに向ける。

 

「な……」

 

 事の一部始終を見守っていたエトナの手から煙幕手榴弾が三人の風上にポロリと転げ落ちた。 煙幕はエトナの足元から風下にいるシャロンとロゼに当たり、二人の視界を著しく低下させた。

 

「う~ケムい~。とりあえず援護射撃……と」

 

 ロゼは命令された通り、高飛車でおっちょこちょいなブリタニアンをイヤイヤ援護する状態に入っていた。 しかし流れてくる煙幕に視界を奪われ、手の平に握る砲角ハンドルの仰角調整が段々と乱れ始めていたが、ロゼは全く気づいていなかった。

 

 バゥン!!、とロゼの背負う榴弾砲から時限炸裂のペイント弾が撃ち出される。 弾頭はきれいな放物線を描いて敵線にまっしぐら----とはいかず、現実ではどぎつい放物線を描き出し、弾頭はクリスの真上で炸裂した。

 

 小さな赤い霧を上空に漂わし、飛散した塗料は容赦なくクリスの全身を覆った。クリスが全てを理解するより前にアナウンス。

 

“おぉ~っと! 紫の四番、ロゼ・マートリン少尉が味方に誤射、誤射しました! 紫の九番、クリス・ロンザプトン少尉ここで退場です!”

 

 頭からつま先まで真っ赤な塗料に包まれ、茫然自失していたクリスだったが、意外と潔く自分の敗北を認め退場して行った。

 

「(コレは絶対わざとよ、わ・ざ・と! べぇ~っだ!!)」

 

 ハズだった。 どうやらクリスは相当にロゼを恨んでいるようで、今回も退場する時にロゼへ向けて舌を出し、挑発していた。

 

「クリス少尉がいなくなっては仕方がない。 A分隊は全員で敵へ突撃する!! 続けぇ!!」

 

 こうなればヤケクソだと言わんばかり、エトナは革のホルスターからナガン回転式拳銃を引き抜き、彫刻や埋め込まれた真珠で煌びやかに光る歩行脚を唸らせ、敵へと突撃してしまった。 続いて無線機を背負うシャロンがヤレヤレと肩をすくめ、自衛用に持ってきた『リベリオン・スプリングプレインス造兵廠製M1ガーランド半自動小銃』を構えてアールグレイの影から飛び出して行った。

 

「わ、私は砲兵だもん! 別に突撃しなくたっていいんだから!!」

 

 当たり前なことを叫び、突撃と言う名のやけっぱち行動を辞退するロゼ。 その声は興奮しているエトナの耳に入ることも無く、無線機の周波数を弄ってロマーニャのラジオを聞いていたシャロンの耳にも聞こえなかった。アールグレイの影に隠れ、敵側から聞こえる銃声と奇声に耳を傾ける。 最初は複数聞こえていた銃声も次第に数が減り、遂にはパタリと一切の銃声が止んでしまった。

 

 不思議に思ったロゼがアールグレイの向こう側を覗くと、砂埃の向こうに突撃した二人の影がうっすらと確認できた。 嬉しそうにこちらへ手を振っている。 信じられない。 十人は下らない敵の陸戦ウィッチを二人で片付けてしまったのだ。 それも一人は回転式拳銃、もう一人は半自動小銃でだ。

 いや、もしかしたら難を逃れた敵の生き残りがいるかもしれない。 全滅していて欲しい、そう願いたいと思っていたロゼの肩を何者かの腕がガシッと掴んだ。

 

「わぁ!! 敵だ敵だ!!」

 

「ちょ、ロゼさん落ち着いて!! 私です一美です!! ひぃ! 拳銃向けないで!!」

 

 自分の肩を掴んだのは敵ではなく味方だったことに安心し、スプリングプレインス社製のコルト自動拳銃をホルスターに戻す。

 

「あぁ……昨日付けの新人か。おまえB分隊だろ? なんでここに?」

 

 とりあえず味方が増えたことに安心したロゼだったが、この真っ白な羽毛が邪魔臭い扶桑魔女がやって来た理由について尋ねなければならない。

 

「いやぁ~。 ちょっと隊長に“新兵は現場を見て育つ!”と言われまして、エトナ少佐の戦いざまを見に来たんです。 百聞は一見にしかずと言うか、習うより慣れろと言いますか……」

 

 彼女はエトナ少佐が東部戦線で『プリンセッサ・ナストプレニエ』とあだ名されていた過去を知らない。 少佐の夫役であるミヒル隊長にうまく騙されたようだ。

 この純粋で素直な扶桑の魔女が、いつか命知らずなオラーシャ貴族の息女と同じような行動をするようになるのか、とロゼは重い溜息をついたのだった。




※1、スプリングプレインス
 この世界でのスプリングフィールド造兵廠にあたります。「野=Field」を「平野=Plains」に置き換えただけです。単純です。

※2、プリンセッサ・ナストプレニエ
 ロシア語で「攻撃的お姫様」って意味です。そのまんまです。ナストプレニエって単語は、対ロシア戦モノのゲームでよく目にしますね。
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