‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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決着

「まずい……あまりに時間がかかり過ぎる」

 

「少佐殿、終了予定時刻より二時間も余裕があります。彼女らの演習はまだまだですよ」

 

 演習を監視塔から観戦していた黒い士官服の中年男と、ツレの青年。

 

中年男のあだ名は『女嫌いの万年少佐』本名はライヒ・シュタイバーンズ。

 

ツレの青年はヘッセ・ワイゼルト。互いに戦車乗りで、かつ車長と射手のコンビでもある。

 

 ベルリン撤退戦を生き抜いた嘗ての猛者も、さほど激戦地ではないアフリカに配属されると腕時計の針にすら敏感になってしまうのだろうか。

 

「違う、そういう問題じゃないんだよ、ワイゼルト君。ここで演習開始のアナウンスと演習終了のアナウンスさえ入れれば簡単な仕事なんだが……」

 

 ライヒは手持ちのクリップボードに挟んだ『連合空軍航空機飛行予定表・トリポリ上空』の書類をヘッセに手渡す。

 

「確かに、私達がネウロイに徹甲弾を撃ち込んで『生還する』よりは簡単な仕事ですね」

 

 慣れた手つきで六月のページを開き、今日トリポリ周辺を通過する航空機の有無を確かめる。

 

「そろそろ連合軍の航空隊が通過予定時刻ですが、それがどうかしたのです?」

 

 連合軍の航空機であれば通過前に無線連絡が必ず入る、それに民間の航空機は彼らに随伴する事が多い。

 

 ライヒはじわじわと垂れる額の汗を拭い、いつになく重たい唇をもごもごと動かす。

 

「実は、昨日のネウロイ襲撃の件で上層部がトリポリ駐留部隊の監視能力の低さを疑ったのだよ……」

 

 はぁ~、と深くため息。そしてライヒは続きを始める。

 

「上層部は“ネウロイが如何にしてトリポリまで接近できたのか探る必要がある。検分に向かう部隊は丁重にもてなしてやってくれ”と言われたのだ」

 

 確かに、ネウロイの行動パターンや進行ルートを見極められるのは地上からでは無理だろう。しかし、ちょうど陸戦ウィッチ達の模擬戦中に上空を通過するのは、何か嫌な予感しかしない。

 

「早く終わると良いですね、模擬戦」

 

 何かを悟ったようにカールスラント陸軍のヘルメットを被り、戦車眼鏡を装着したヘッセだった。

 

―――――――――――――――

 

 

「とりあえずエトナ達が敵の注意を引いてる内に決着を付けないとな」

 

 B17の胴体に隠れた十人前後のウィッチを背後から攻撃する為に稜線の影から回り込み、そこで指示を出すミヒルと随伴するマリア、一美は歩行脚のエンジンを切り、機会を待っていた。 エンジンの駆動音で相手に場所を気付かれてしまう危険を未然に防ぐ為だ。

 

「あのエンジンの裏から狙撃すれば数人は倒せそうですね。アリシアを呼んで狙撃させましょう」

 

 無線士から銃手となったシャロンの無線機を引き継いだマリアが無線の受話器を手に取り、

声を抑えてアリシアに自分達と合流するよう要請する。 暫くしてアリシアが到着すると、彼女も歩行脚のエンジンを切った。

 

「ビエナット曹長ただいま到着。 んで、狙撃ポイントはどこです?」

 

 アリシアの穿く歩行脚はM5スチュアートと言う軽歩行脚だ。 搭載可能火器やシールド強度を犠牲に軽快な走行を実現した当機はリベリオン陸軍のスカウトウィッチ達を始め、多くの部隊で評価を得ている。

 

「あのエンジンが見えるか? あの裏から狙えばB17の胴体から死角の位置で狙える筈だ。お前の腕なら大丈夫だろ」

 

 ミヒルがB17の胴体からやや斜め後ろに転がる焼け焦げたエンジンを指差す。

 

「がってん! 私とコレさえあれば四人は片付けられますよ!」

 

 自信満々に自らの小銃を一美達に突き出すアリシア。 それはガリア製の狙撃眼鏡を装着したスプリングプレインス製M1903ライフル、初期のリベリオン軍が使用したボルトアクション式の小銃だ。

 

「よし、 じゃあ行ってこい。 私の期待を裏切るなよ」

 

 あいあい と口早に返事をしたアリシアは歩行脚の履帯を使わず、走ってエンジンの裏へ滑り込んだ。 幸い敵にも見つかっていない。 陰から覗けば敵役のウィッチがエトナ達に雨あられとペイント弾を撃ち込んでいる。

 

「(距離は……ざっと四十メートル―――風は向かい風―――手前のあの子はラベンダーの香水ね……まず一発!)」

 

 狙撃眼鏡に右目を押し付けたアリシアは狙いを付けたラベンダーの匂いがするウィッチめがけて素早く引き金を引いた。 ドパァンと低音の銃声が響く。

 

 一美達には良く見えなかったが、 ラベンダーの匂いがするウィッチの右胸には赤い塗料がベッタリと付着していた。

 

 未だに見つかっていないのを良いことに、アリシアは続けざまにB-17の胴体に隠れた生き残りを狙撃して行く。B-17の胴体から少し離れた場所に置いてある千切れた先端部に隠れている数名の敵が狙撃されていることに気づき、サッと身を隠す。

 

 B-17の胴体に隠れていた全てのウィッチが体のどこかしらに赤い塗料を付けて外に出てきた。 どうやら胴体部の制圧は終了したようだ。 放送席の実況も彼女達の名前を忙しく読み上げている。

 

 

「アリシアの地点からだと先端部の狙撃は無理だな。だが相手は隠れたまんま、さっさと接近してさっさと終わらせよう」

 

 そう部下に言って聞かせたミヒルの目には、残骸の向こう側でエトナ達が手信号を繰り返しているのが見えた。 釘付けにされていた味方の救出作業が終了した事を知らせたいようだ。

 

 残るはB-17の顔である機首に隠れた三人ほどの敵。 こちら側は二倍以上の戦力を残している。操縦席に二人、機首銃座に座るのが一人だ。

 

 ミヒル達別働隊は歩行脚のエンジンを入れ、突撃準備に入る。 一美も自らの歩行脚へ息を吹き込み、 背中に背負ったMG13機関銃を地面に置く。

 

「一美が八秒間の事前射撃を行った後、 残骸の影から近づいて制圧する。 必要以上の模擬弾は撃ち込むな、 けっこう痛いんだから! よし一美、撃て!」

 

 一美は車輪付き銃架に装着したMG13の引き金を絞り、銃身の跳ね上がりに注意しながら機首の残骸へ向けて援護射撃を開始した。模擬弾に詰められた塗料が機首を赤く染め上げる。それに合わせてミヒルとマリアが残骸へ向けて前進を始める。

 

「(――六つ――七つ―――八つ!!)」 頭の中で数字を数え、言われたとおり八秒目で指を引き金から離す。援護した二人も残骸に取り付いた。

 

 想定される接近戦の為にミヒルは携帯砲を――マリアはM1A1短機関銃を地面に置き、各々が腰のホルスターから拳銃を引き抜く。

 

「(おいマリー、上官命令だ。先に突入しろ!)」

 

「(冗談きついっすよ体長。いつも菓子が食べれるのは誰のおかげだと思ってるんですか!)」

 

 機首の切断部で待機している二人は小声でどちらが先に突入するか揉めていた。

 

 ミヒルの拳銃は9mmルガー弾を使う『尺取虫』のルガーP08、マリアの拳銃は11.7mmのガバメント自動拳銃だ。どちらも接近戦なら無類の強さを誇るが、使う本人が怖じ気づいているなら性能を発揮できない。

 

「(わかった、わかりましたから隊長! だからこっちに銃を向けないで下さいよ!)」

 

 争いはミヒルがルガーの銃口をマリアに突き付けたことで収束した。マリアは溜め息混じりにガバメントの遊底を引き、初弾を薬室へ送り込む。ミヒルも同様にルガー本体後部のトグルを引っ張る。

 

 マリアは機首に隠れている敵がエトナ達へ射撃を再開したのを見計らい、彼女達が持つ携帯砲の砲身を交換する瞬間を突入の機会とした。

 

「そろそろ砲身が焼けそう……ジャニス、交換するから援護して!」

 

 機首の中から銃声に紛れてそんな声が聞こえてくる。続いて携帯砲の砲身を機関部から引き抜く音が聞こえた。

 

 遂にチャンスは回ってきた。操縦席に陣取る二人のうち一人は砲身の交換中、もう一人は弾幕の不足分を補う為に視界はエトナ達に釘付けだ。さらに一人は前方機銃座の座席を利用していた情報が入っていたので、今は真後ろが完璧にガラ空きなのだ。

 

 まず始めにマリアが機首へ突入した。砲身の交換を終えたウィッチが携帯砲をマリアへ向けるが早いか、マリアのガバメントが先に火を噴いた。

 ゼラチン質の塗料塊が彼女の携帯砲に――腹に――腕に――胸に当たって行く。異変に気づいたジャニスと呼ばれたウィッチが振り向くが、彼女もまたマリアに撃たれ、両脚と右肩に模擬弾を受けた。

 

 残る前方機銃座のウィッチは自らの後ろに敵が回り込んで来た事を理解したのか、風防から突き出していた携帯砲――オルガを倒した得物を捨て、振り向きざまに彼女も腰の拳銃を引き抜いた。

 

「チェックメイトだ! くらえ!」

 

 勝ち誇った顔でマリアはガバメントの遊底に乗っかる照門と照星の三点を真横一文字に並べ、彼女の腹部めがけて引き金を絞る。

 

 バチン、と乾いた金属音が操縦席に木霊する。実は今まで腰だめで射撃し、ここにきてはじめて右目で照準を覗いたマリアはガバメントの遊底が後ろに引ききったままな状態なのに気づかなかったのだ。

 

「きゃははっ! 馬鹿ね、自分の残弾も覚えてないなんて!!」

 

 相対する敵のウィッチは必死に弾薬ポーチからガバメントの弾倉を探すマリアを笑い、自らの拳銃をマリアに向ける。ルガーによく似たノイエ・カールスラント製のP38拳銃が日光で妖しく光っていた。

 

 P38拳銃の引き金は躊躇うこと無く指をかけられた。突き出た銃身から模擬弾が放たれ、マリアの開かれた胸元に色の花を咲かせる……はずだった。

 

「(あれ? おかしいな……)」

 

 自信満々に引き金を絞ったウィッチが疑わしそうに弾の出ないP38拳銃を持ち上げる。

 

 あれぇーおかしいわねー。そう彼女が呟いた瞬間、マリアの後ろから銃声が聞こえたかと思えば、彼女はP38拳銃を投げ出し、眉間に真っ赤な塗料をつけて機長席に力無く寄りかかる。

 

「馬鹿なのはお前だ。安全装置(セーフティー)が入りっぱなしだぞ」

 

 なかなか決着がつかない機内の状況を心配したのか、マリアには荷が重かったと反省したのか、はたまたヒーローは遅れてやって来る展開を待っていたのか定かではないが、ついにミヒルが颯爽と機内に現れたのだ。

 

「ふ、二人もいるなんて聞いてないわよ!」

 最後の抵抗と言わんばかりに文字通り顔を真っ赤にしたウィッチがミヒルとマリアに怒鳴る。

 

「ふん、私達を倒したところで外には羽毛が目立つけど機関銃を構えた待ち伏せが一人いるわ。あと、さっきから持ち場を離れてずっと操縦席を見物していた狙撃手が一人。彼女達を倒せたところで前方の牽制に手一杯だったあなた達が勝てたのかしら?」

 

 ミヒルが弱者を見る目で彼女を見下ろす、敵は最初から籠城戦を行うのに後方の警戒を怠ったのが敗北の原因だろう。

 

 少しもリスクを負わずに回り込めた事にミヒルは光惚し、快感さえ覚えていた。今も敵の隊長を見下ろしていると背骨の中の神経がぞくぞくするのだ。

 

「隊長~助かりましたよぉ~!」

 

 死体役のウィッチ達がいるにも関わらず、マリアは思い切りミヒルへ抱きつく。

 

「ばっ……お前やめっ! どかせっ! お前の右足が私のアレに当たって……あうっ!」

 

 その頃、観客席や本部からも中の様子は見れないので、皆が固唾を飲んで見守る。今までは談笑していた『墓地』で待機する退場したウィッチ達も自然と静かになっていた。

 

 きっと残骸内で熾烈な戦闘が起きているに違いない。それは誰もが思っていたことだった。でも操縦席の様子を見れたのは機内の死体役と、照準眼鏡越しに見物していたアリシアだけだった。

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