‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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「マリアさんマリアさん!! マリアさんのミドルネームの『T』ってどういう意味ですか?」

「おぉよく聞いたな、じゃあ一美にだけ教えてあげよう……実はな…『トーマス』なんだよ」

「えっ……」


ニワトリと星

[訓練の結果、第三○九統合戦闘装甲団のウィッチが勝利を収めました!]

 

 観客席に付けられたスピーカーから模擬戦の決着を伝える放送が流れる。カメラを構えた報道陣や撃たれて退場していたウィッチが我先にと帰ってきたウィッチ達に群がった。

 

「ふー、やっと終わった……」

 

 いまいち出る幕の無かった一美の周りには一人の記者も集まらない。記者のような矢継ぎ早に言葉を投げてくる人は苦手だったが、やはりインタビューの一つでも来て良いんじゃないかと思い、溜め息が出た。

 

「お疲れ~!最後まで生き残ったなんて凄いな!私なんて真っ先に帰ってきたのに~」

 

 さっさとテントへ帰ろうとする一美を第一敗者のオルガが引き留めた。塗料で汚れた上着は脱いだのか、オルガの上半身は黄色がかった白シャツを着ているだけだった。

 

「は、はい!なんとか生きてました!!」

 

「よしよし、それでこそ私の子分だな♪」

 

「いつ子分にしたのさオルガ、一美は私が拾ったんだぞ?」

 

「あ、マリアさん!お疲れ様です!(私を拾ったって……)」

 

 二人の会話にマリアも参加してきた。何だかんだ大活躍した彼女に記者がくっついていないところを見ると、手柄は全てミヒルが持って行ってしまったようだ。

 

「皆さん、拾うなんて言葉を使って恥ずかしくないのかしら?仮にも人間でしょう?」

 

 そこへ塗料を垂れ被ったクリスも現れた。既に塗料は洗い落としていたようで、やけに髪の毛が湿っていた。

 

「(に……人間!? 仮にも!?)」

 

 自分の扱いの酷さに目を白黒させる一美。口の悪い愛情表現かもしれないが、何かアブノーマルな雰囲気がある愛情だ。

 

「お、もうお前ら集まってたのか。全く仲良しだな」

 

 彼女達の輪に取材を振り払って来たミヒルにエトナやヘレーネ、レイ、シャロンといった別働班も輪に加わる。

 

 それから数分間に渡って各々の良かった点や悪かった点を言い合い、戦闘隊長であるエトナが手帳に内容を全て書き込んだ。いわゆる反省会(デブリーフィング)である。

 

 一美も訓練生時には演習終わりに同じような事をやっていたので割と違和感なく溶け込めたようだ。

 

そんな時だった―――

 

「(ん……何か来る…演習場から百キロメートル地点……数は三個以上だけど倍以下…んんん…形状まで分からない、かなり低く飛行してる…)」

 

 全員が一通り意見を出し終えた時、演習場の遥かかなたから飛来する物体をレイの魔導アンテナが捉えた。大まかな座標は特定できたが形状までは分からない。しかし、飛行物体は高度十メートル以下で接近してきている事は分かった。

 

「レイどうした? アンテナ出てるぞ?」

 

 青い光線で編まれた笠型のアンテナがレイの頭上でくるくる回っていたのにミヒルが最初に気付いた。

 

「ネウロイじゃない何かが飛んできてるです。それも綺麗な編隊で……」

 

「なに? 綺麗な温湿布だって? 帰ったら肩に貼りたいな~」

 

 マリアが肩を回しながら呟く。

 

「Fomentation(温湿布)じゃない、Formation(編隊)だ。これだからリベリアンは……」

 

 すかさずミヒルが間違いを正す。

 

「(マリアさんとアリシアと一緒に私がリベリアンで一括りにされた……)」

 

 西海岸育ちな自分と東海岸育ちなマリア、中部育ちのアリシアとを一括りにされたロゼがどんより落ち込む。

 

「そんなこと言ってるうちに来てますよ皆さん!」

 

 一美の言う通り、複数の機影は演習場へ入る寸前で高度を上げながら彼女達の頭上を通過する。その存在に見物客や他隊の隊員も気付く。

 

「あらぁ~、航空歩兵さん達がやって来たわねぇ~♪」

 

 待機場の真上で進路を反転する際も、編隊が乱れる事はなかった。まるで一つの飛行物体のようだ。装甲歩兵の大半はあまりの美しさに見とれてしまっていた。

 

「でも何か様子が……撃っただと!?」

 

 航空歩兵が撃ったのは地上の装甲歩兵。撃たれた彼女は腹を押さえてよろよろと地面に倒れる。ミヒルは自身の目が捉えた映像に誤りが無いか何度も頭の中で再生した。

 

 美しい花には棘があるものだ。上空の航空歩兵達は突如として地上の装甲歩兵へ向け攻撃を開始した。逃げ惑う者や抵抗するにも容赦なく銃撃を加えていく。

 

「あいつら頭おかしいよ! 早く隠れないと!」

 

「う、撃て!!」

 

 逃げ腰なオルガの意見は通らず、エトナの命令に従った隊員達は急いで手に持つ武器を構えて引き金を絞る。

 

「あれ?……しまった模擬弾だ!!」

 

 シャロンの携帯砲が弾詰まりを起こしたと思えば、真っ赤な塗料が砲口から垂れ落ちた。さっきまで演習を行っていた自分達は実弾なんて持ち合わせていない。

 

「いいから撃ちなさ……」

 

 携帯砲を航空歩兵へ向けたヘレーネへ向けてヒュンと流れ弾が飛び、運悪く弾はヘレーネの下腹部に命中する。

 

「あ~らら、なんだか……眠く」

 

 ヘレーネの頭から使い魔であるアライグマの耳が消え、腰から出ていたしましまな尻尾も同様に消え去った。ヘレーネはその場にばたりっ倒れ込んだが、すやすやと寝息を立てている。

 

「麻酔? 魔力を吸い上げる奴かな?」

 

「くっそー! こんな時に部隊の医療担当がやられるって、そりゃないよ!!」

 

「オルガもロゼも黙ってろ! 急いでテントまで走れッ!」

 

 ミヒルが歩行脚を起動し、自分達のテントまで向かう。何発かは撃ったものの、気づかれてはいなかった。後の者もミヒルに続き、歩行脚を起動させた。一美も仲間に続いてテントまで走ろうと歩行脚のエンジンを起動させたかに見えた。

 

 が――――

 

「(あれっ……エンジンが、エンジンがかからない!! エンスト!?)」

 

 我先にとテントまで逃げ込む隊員達から取り残された一美。真っ白な羽毛をフリフリさせながら必死に歩行脚のエンジンをかけようてしていた。

 

 恐らく砂塵が駆動輪から内部に入ってしまったのだろう。エンジンをかけようとしても詰まった砂が邪魔をして異音を発させるのだ。

 

「(どこでも良い、どこでも良いから隠れないと!)」

 

 皆が逃げ込んだ部隊専用のテントまでは距離が有りすぎる。仕方が無いので一美は真横に建っていたテントの隙間から中へ潜り込む。

 

「(誰もいない……安心安心、えへへへ)」

 

 逃げ込んだテントは備品置き場らしく色々な機材を詰めた木箱が沢山並んでいた。一美は木箱の間にしゃがみ、ここなら大丈夫だと安心しきっていた。

 

――――――

 

「敵の総数は幾つだ!」

 

「凄い機動をしながら装甲歩兵を狩っているのが一人、それをもう一人が援護してます! あっ……まだ上にも二人います!!」

 

 戦いを始めていたのは魔女だけではない。突然の襲撃で慌てふためいている一般兵士達も大半が上空の彼女達の銃弾を浴び、眠ってしまっていた。見物に来ていた観光客や記者達は被害を被っていないのを見るに、飛行脚を穿いた魔女達は相当の手練れだろう。

 

 既に櫓を降りていたライヒとヘッセも自分達の戦車に同乗する仲間と合流し、模擬弾を装填し対空銃架に据え付けられたMG42で以て上空のウィッチへ反撃していた。

 

別に撃墜しようとは考えていない。侵入コースさえ阻害すれば痛い思いをしないで済むからだ。

 

「くそ、早すぎる! 化け物か!」

 

 ヘッセは銃架に付いている環型照準器を忙しく振り回し、上空のウィッチを照準の中央へ収めようにも動きが早くて適わない。

 

「やはり、黄の14か……奴が来たのか…」

 

 侵入コースの阻害もあえなく、弾幕を突破しながら仲間達へ模擬弾を命中させながら上空を掠めていったウィッチの顔をライヒは見逃さなかった。

 

 それは、アフリカ方面カールスラント空軍の略帽を被り、紫外線で脱色しかけている短髪を靡かせたウィッチが駆けて行く光景。

 

 彼女がいるなら―――間違いない、『黄の14』は近くにいる!

 

 ライヒが制帽を脱いで空を見上げようとした時、背中に何か柔らかいものが命中した感触を覚えたと思えば、轟音を立てて背中側から前方に頭上を掠めて行くウィッチと偶然目が合った。

 

 黒革のフライトジャケットに薄いピンク色をした長髪がビビットである彼女は嘲笑的な眼差しでライヒを一瞥すると、そのままテントの密集地へと飛んでいってしまった。

 

 瞼が重いライヒが見たのは、彼女に生えていた鳥の羽と、飛行脚に描かれていた『黄の14』の文字。

 

 第31統合戦闘飛行隊「アフリカ」、又の名を「ストームウィッチーズ」――――アフリカ戦線に於ける最強の火消し部隊がトリポリへやってきたのだ。我々の警備の甘さを身をもって体感させるために。

 

「くそっ……こんな流れ弾みたいな弾で……我々に貴女達が撃てない事なんて分かっていた筈…だったのに」

 

 いくら撃ってきたとはいえ、救国の英雄となるべきウィッチに銃口を向けるなんて事は許せなかった。機が熟した時、必ずや祖国カールスラントを救ってくれる。我々に出来なかった事を成し遂げてくれる存在だからだ。

 

 特殊な模擬弾の効果で視界がぼやけ、遂にライヒは砂の上に仰向けに寝転んだ。黒い戦車兵の制服に細かい砂がつき、傍らに落ちた制帽も既に砂まみれとなっていた。

 

 空襲に不慣れな装甲歩兵達は予測射撃もままならないままに狩られ、睡眠状態へ移行してしまう。運よくテントに逃げ込んだ者は助かったが、それも上空の巨砲を携えたウィッチがテントに模擬散弾を打ち込むまでの数分間のみだった。

 

 彼女達「アフリカ」の狩りは続く。まるでアフリカの砂嵐そのものが装甲歩兵である彼女達に挑戦をしかけているような光景が演習場にあった。

 

「(あ~。早く帰ってくれないかな……ちょっとこのテント暑苦しいなぁ…)」

 

 そんな事もいざ知らず、隅にあるテントの中で汗を拭っていた一美だった。

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