‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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「じゃ、じゃあどうしてトーマスなんて名前が真ん中に?!」

「私のパパが役所に名前を出すとき、ミドルネームに祖父か祖母の名前を付けたかったらしくてな」

「女の子だったら祖母、男の子だったら祖父の名前にしようと思ったんですね?」

「そう、そして生まれた当日にパパは役所へ出生届を提出したのさ」

「あぁ……そこでですね?」

「つまり、そういうことさ」

「あっれ? リベリオンってどこの州も住民票なかったような、中尉は選挙登録でもしてるんです?」

「おおアリシアか、きっとおまえ保険入れられてないよ……」

「えっ」


空飛ぶニワトリ

 アフリカ隊の襲撃を受けた演習場は一転として静まり返り、点々と装甲歩兵や兵士達が寝転んでいた。

 

 報道陣や見物客は天蓋を張った古い防空壕へ逃げ込み、時折カメラを持った者が現れて数枚写真を撮っては駆け込む。

 

「全ての装甲歩兵を制圧。指令書通りだけど、やっぱり奇襲攻撃はダメだよティナ」

 

「予定到着時刻から三分遅れてたんだ。なに、遅れを取り戻しただけのことだろう?」

 

 本部のグライフより数メートル上空を浮遊していたライーサ・ペットゲン少尉は、ティナと呼ばれた目の前のハンナ・ユスティーナ・マルセイユ中尉を諭していた。それでもマルセイユは楽しかっただろと意味不明な事を喋っている。

 

 いくら何でも味方を撃てと言われたから撃っただけで、ティナみたいに半ば遊び半分だったわけじゃない。楽しそうだと隊員の過半数が参加に賛成したからこうなっただけで、自分は最初から来たくは無かったのだ。

 

「ハンナ、とりあえずはココの責任者に事情を説明しないと……」

 

「悪い、それっぽい奴を撃った」

 

「な、何ですって!? じゃあ真美、地表に降りて話が出来そうな人を探してきて」

 

 マルセイユとライーサが浮遊する地表よりうんと高い上空百メートル地点で旋回を続けるアフリカ隊の隊長、加東圭子はライカのファインダー越しに話の分かりそうな佐官を探し始めた。

 

 了解です。と加東の命令に頷き、地表へ降下した隊員の稲垣真美軍曹は、意識のありそうな人影を捜索を開始した。しかし地上は嵐の去った後のような静けさで、話が通じそうな人すら見当たらない。

 

 マルセイユを覗くアフリカ隊の面々は少々困惑してきていた。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 その頃、天蓋に隠れていた一美は目の前の木箱を解体していた。最初はどかすだけと考えていたが、箱の中から嗅ぎ覚えのある匂いにつられて無意識な内に釘抜きを手にしていたのだった。

 

「(う~ん? 解体しちゃまずかったかな……どうみてもストライカーユニットだし…)」

 

 木箱の中から現れたのは新品の飛行脚だった。魔導エンジンが積まれているので宮藤理論発表後の物らしい。機体には弓道に使う的のようなラウンデルが描かれており、最初はブリタニア空軍の顔であるスピットファイア系列の飛行脚だと思っていたが、胴体がやたらずんぐりむっくりだし、第一に名前は木箱に焼印されていた。

 

「(名前……ん、『マートレット』……?)」

 

 名前が違えばスピットファイアではない、それぐらいのことは一美にもわかる、これ以上触ってはいけないことだってわかる。だが生まれて初めて見た戦闘用の飛行脚、一美はあらぬ思いを抱いていた。

 

「(ちょっと穿くだけ、穿くだけ~♪)」

 

 機械油が漏れて足にかかり、尋常じゃないむず痒さを生んでいたミヒルの一号歩行脚A型を脱ぎ捨て、固定具についたマートレットに両脚を通してみた。

 

 どうやら死蔵品らしく使われた形跡も無い。ラダーも昇降舵も練習機のそれより素直に反応する。やはり戦闘用は一味違う、そんな感想を言いたくなるほど良品だった。

 

 もっといじりたいと思った一美は固定具に挟まれていた説明書を手に取り、じっくり読み始めた。

 

 この飛行脚はリベリオンからブリタニアへ貸与された飛行脚『F4Fワイルドキャット』であり、相違点は胴体のラウンデルと表面の塗装ぐらいである。ワイルドキャットが紺色なのに対してマートレットは黄土色だ。

 

 本来はリベリオンがガリアへ向け八十機を輸出するはずだったのだが、そのガリアがネウロイに滅ぼされたので受け取り手がいなくなり、ブリタニアへ給与された経緯がある。

 

「大体の操作は赤とんぼと変わらないよね、エンジン始動だけやってみよ」

 

 間近で見た海外製の飛行脚、それが今自分の思い通りに動かせる。こんな機会を逃せるはずが無い。興奮冷めやらぬ一美は飛行訓練の際に使ったエンジン起動手順を正しく踏むため、魔力を両脚から放出させる。次第にマートレットの表面が青白く輝き始め、排気筒からバスンバスンと空気を吐き出しながら光のプロペラは回転を始める。

 

「(あれ? エンジン起動だけならプロペラは回らないはずじゃ……?)」

 

 固定具の周りに扶桑の魔方陣が現れ、禍々しい光がテントの中を照らす。一美自身には離陸の意思は無い。だとすれば離陸の意思がある存在はもう一人。いや、一羽だ。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ちょっとすいませんケイさん。あのテント光ってません?」

 

 一美のいるテントの異変に最初に気づいたのは稲垣だった。テントの周りには自分達が離陸するときに発生する魔法陣と同じものが現れている。

 

「扶桑の魔法陣みたいね。でも扶桑の魔女がここ(アフリカ)に来てるはずが無いと思うけど……真美、見に行って」

 

 いくら情報通の加東でも昨日今日の事は滞在地の事ぐらいしか分からない。まして装甲歩兵の事情なぞ知る由も無かった。

 

「(私達以外に航空歩兵? そんな話は聞いたことないけどなぁ……)」

 

 稲垣はテントの近くに携行する八十八ミリ砲を置き、テントの真上五メートルの地点まで移動し、そのまま静止していた。ネウロイじゃない事は確かだが、幽霊かもしれないと怖がっているようにも見える。

 

「この中……この中にいるんだよ……ね?」

 

 恐る恐るテントの天井に近づき、布を捲ろうと手を掛けた瞬間、それは起こった。

 

「とめてぇーー!!」

 

 そんな声と共に何かが天井の布を突き破って飛び出してきたのだ。その黒い物体は稲垣の胸部に衝突し、そのまま抱きついてきた。残念賞な稲垣の胸は衝撃に耐えられるようなものではなく、かなり痛そうに顔をしかめていた。

 

「やった止まって――――ない!?」

 

 稲垣にぶつかった黒い物体は言葉を発した。それは黒髪を生やした頭だったのだ。その頭の下は扶桑陸軍の制服ではあったものの、自分達が着ているような戦闘用ではなく濃緑色の平常軍衣、訓練生か装甲歩兵科の着る制服だ。

 

「ちょっと!! あなた離れなさ――――」

 

「お願いだからエンジンの切り方―――――」

 

 二人の目が合った時、言葉が止まった。見覚えのある顔が目に入ったからだ。

 

「もしかして竹西?!」

 

「そういうあなたは稲垣先任じゃ!?」

 

 二人は面識があった。それは訓練学校の卒業生と後輩という関係。そして稲垣の訓練生時に近接格闘演習での決着が決まっていない相手でもあった。

 

「なんでアンタがここにいるのよ!!」

 

「ここで遭ったが天祐! あの時の決着、つけちゃいましょう!!」

 

 抱き合った二人は空いてる手で相手の体をポカスカと叩き、飛行を妨害しようとする。しかし相手を叩こうとする度に自らのバランスを崩し、思うようにダメージを与えられない。

 

「私は装甲歩兵として生まれ変わるんです! その為に先任は私の人生の礎になってもらいます!! そしてヘレーネさんの仇!!」

 

 一美は稲垣の腰に提げられたホルスターから南部式拳銃を抜き取ると、弾倉の端が模擬弾用に青く塗られているのを確認してから稲垣の腹部へ向けて発砲した。発砲音をほぼ同時に青い塗料で稲垣の下腹部が染まり、稲垣はふらつきながら飛行高度を下げて行く。一美はゆっくりと揉み合いから離脱し、高度と速度を稼ぐために緩い上昇を始めた。

 

「(装甲歩兵としてって……おもいきり飛んでるじゃん……なにそれぇ…)」

 

 思いがけぬ奇襲をくらった稲垣は背中から地面に着陸する。青い塗料をくらうと飛行脚の出力が制限され、最後には着陸せざるを得なくなるのだ。ふと横を見れば、とあるテントの入り口手前で自分が停止していたことに気づく。

 

「(やばい、早く逃げないと!!)」

 

 テントの中にいる装甲歩兵達に気づかれて捕まれば何をされるか分からない。稲垣は自らの飛行脚である三式飛燕を脱ぎ捨てようとじたばたするが、既に羽交い絞めにされテントの中に運ばれていた。稲垣が最後に見たのは、そのテントの隣に『309』と書かれた木の札だったという。

 

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