‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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「やーい、クリスは島国の変質者~♪」

「汚い言葉を使いますわね、ロンカイネン少尉殿。私はちっとも変じゃないですわ?」

「クリスさん、島国の変質者って言われる気分はどうですか? 全然想像できないです(嫌味)」

「一美さん?あなたの国も島国ですわよ、まじでけんか売ってんのか殴るぞ」

「ふぇぇ……ごめんなさいぃぃぃ」


しろい、ちっさい、ふかふかする

「凄いぞ! 誰かがアフリカの星を下した! 賭けは俺の勝ちだ!! 大穴狙いが的中したぜ!!」

 

「誰かがって何だよ、あの子の名前は……なんてんかな?」

 

「だから昨日トリポリを守った……名前が出てこない」

 

「これは大ニュースだ! お前ちゃんとカメラで撮ったか!!」

 

「それが先輩、カメラのシャッターが壊れちゃいまして……」

 

 演習場は先ほどの静寂から打って変わって大歓声が上がっていた。しかし「誰が倒した」という肝心な情報はものの見事にすっぽ抜けていた。

 

「白い羽毛の……使い魔は鶏……小柄の黒髪……扶桑陸軍の軍衣だけど戦闘装束じゃないわね」

 

 その頃、一人生き残った加東はと言うと、皆にばれないようこっそり着陸し、こっそり飛行脚を脱いで二人の空戦を観察していた。その間にマルセイユを倒したウィッチの特徴を手帳に記し、自分の記憶の中で当てはまりそうなウィッチを探す。

 

「―――あ! まさか西住さんが愚痴言ってた『第二のデストロイヤー・竹西一美訓練生』じゃない!!」

 

 噂は立川飛行場の教官職に就いた知り合いの西住中尉から何度も手紙で聞かされていた。「うちの訓練学校に赤とんぼを平気で壊す『デストロイヤー』がいる」と、破壊された飛行脚と墜落しておきながらも無傷で照れ笑いする訓練生、その隣で今にも殴りかかりそうな形相でカメラ目線の西住中尉が写った写真まで同封して送られてきていた。

 

 その事について、つい最近「今度扶桑に帰れる機会があったら、その娘に会ってインタビューしてみたい」なんて冗談半分に返事を書いた矢先の出来事だった。

 

「へー、任官して前線送りねぇ……ますます興味が湧いちゃう♪」

 

 本当は黒江にでも見学に行ってもらおうと思っていたが、まさか目の前に現れるとは予想外。そして稲垣、ペットゲン、マルセイユとアフリカ隊の核を一人で打ち破ったときた。これに興味が湧かないわけがない。

 

「あの娘が着陸したら質問のひとつふたつでも掛けてみるかぁ~。ライカの準備しないといけないわね」

 

 加東は一美の着陸に合わせてインタビューをしに行こうとしたが、彼女が着陸した瞬間には既に多くの装甲歩兵が周りを取り囲んでしまい、簡単にはたどり着けそうになかった。

 

「うぅ~。加東大尉ぃ~やっとみつけたぁぁぁ~」

 

 そう言いながら突入の機会を窺う加東の短い緋色のスカートを引っ張っていたのはライーサだった。頭からつま先までおぞましい物体にまみれ、草いきれのような臭いが加東の鼻を突く。

 

「うわライーサが草くさい」

 

「ふぇぇ、もうちょっと柔らかくいってくださいよぉ~」

 

 加東は黙ったままベニヤ板で作られた真四角の小屋、ちょうど公衆電話ボックス並みの大きさをしたそれを指差す。それは装甲歩兵達が使っていたシャワー機材だった。つまり「いいから体洗って来い」と言いたいのだ。ライーサもシャワー室を見つけると目の色を変え、衣服を脱ぎながらシャワー室に突進して行ったのだった。

 

「凄いじゃないか一美! あのアフリカの星を倒したんだぞ!?」

 

 やや失速気味に地面へ着陸し、マートレットを外した一美の元へ、真っ先に近づいてきたオルガが思い切り彼女に抱きつく。

 

 

「あ……オルガざん、やめ……ぐるじぃっ」

 

 二人の胸の間に緩衝材となるものは軍服以外にはまともに無い。一美は思い切り抱きしめられて苦しそうにもがいていた。

 

「こらこら、断崖絶壁コンビが抱きつくんじゃないよ。そのままじゃ一美の背骨が折れちゃうよ。扶桑じゃ『鯖折り』って技だったかな? 」

 

 駆けつけたマリアにとてつもない屈辱的な呼び名で呼ばれたオルガと一美が体を離し、顔を真っ赤にして自分の胸に手を置いてみる。そして互いに睨み合い、右手のひらを突き出して互いの胸に手をあてる。

 

「うわオルガさん何も無い」

 

「うそダロ?……なんで微妙に感触が……」

 

 その直後に一美は両手を空に掲げ、オルガは地面にドシャアとくず折れた。

 

「ほらほら、劣等感の塊みたいな茶番はそれまでだ馬鹿ども。はやくトリポリの司令かライヒの馬鹿を起こさないと……って他の部隊の連中が起こして回ってるから別に良いや」

 

 それを眺めていたミヒルが一美とオルガの頭をポンと叩き、腹を抱えてげらげら笑っているマリアに膝蹴りをお見舞いする。そんなミヒルの隣では一美に負けないぐらいな絶壁を持ったロゼが顔面蒼白になってがたがたと震えていた。

 

「ほらほら一美、写真撮るからこっち向いて~。目線ちょうだ~い」

 

 アリシアはさっきまで稲垣のお恥ずかしい写真を撮っていたカメラを構え、ファインダーに一美を捉えてシャッターを押す練習をする。

 

「じゃ~撮るよ~。笑って~……まぶしっ!!」

 

 それからフィルムダイヤルを巻き、もう一度カメラを構えてシャッターを押そうとした時、アリシアの目の前に何者かが現れた。アリシアはその者が持っていたカメラのフラッシュを至近距離で受けたのだ。

 

「そんなやっすいカメラで撮るより、こっちのカメラの方が良いんじゃないかしら?」

 

 加東は目の前の少女が構えるカメラがリベリオンのアーガス社で製造されたC3である事を瞬時に見抜き、少し悪戯をしてやったのだ。確かにアーガスのC3カメラはライカを買うお金で四台買えるほど安価で大量生産向きなカメラだけに画質は劣る。

 

「くぅ~、いきなり出てきてフラッシュで目くらましして挙句の果てに私のC3を馬鹿にしたぁ~!」

 

 半べそをかきながらエトナの後ろへ隠れるアリシアを尻目に、加東は一美に近づいて軍隊手帳を取り出す。

 

「初めまして、竹西一美軍曹。私は元扶桑皇国陸軍飛行第一戦隊、現扶桑皇国陸軍アフリカ派遣独立飛行中隊隊長の加東圭子大尉よ。西住中尉からお話は聞いて……」

 

 加東は途中で話すのを辞めた。なぜなら目の前の一美が頬を紅くし、そして目を潤わせて自分を見ていたからだ。まるでお菓子の家が自分のものになると言われた子供のような感激に満ちた顔だ。

 

「ほんとに……加東しょ……大尉殿なんですね」

 

「ま、まぁそうだけど……もしかしてアレ読んでたりするの?」

 

「はい! 訓練学校の図書室で何度も読んでました! あと自分のも持ってます!」

 

 三〇九のテントへ走り、戻ってきた一美の手には加東の著書「来た、飛んだ、落っこちた」が握られていた。訓練学校の眠れない夜や退屈な船旅の友であり続けたそれは表紙もボロボロになるまで読み倒されていた。

 

「人気なのか休暇に本屋へ行っても売ってなくて、仲間の子達と一緒に探した結果、神保町の本屋で五銭で買えました!! みんなこの本を色々な人に読んでもらいたくて神保町に行くんですね!!」

 

 加東は知らぬ間に著書がひどい(?)扱いを受けていることに気を失いそうになったが、ぐっと堪える。

 

「えっと、じゃあ竹西軍曹。マルセイユ中尉と空戦をやってみた感想は如何かしら?」

 

「えっと……かなり手強くて、勝てないって思ってた節もあります。でも、心の何処かで『勝てる』と思っていました。どうしてかわかんないですけど――――」

 

「無効だ!! もう一戦だけ戦わせろ!!」

 

 二人の間に今度は頭から塗料を被ったマルセイユが割り込んでくる。どうやら勝負の勝敗に不服なようだ。

 

「無理よティナ。これから私達はトブルクに帰還しなきゃいけないのよ? 夜間飛行になるわ、無駄な魔法力は使わないほうが良いから」

 

 加東の言葉にマルセイユは頬を膨まし、一美の顔を覗き込む。

 

「運が良かったな、鶏の。今回はお前の勝ちで良い、Jg52の連中でも取れなかった勝利だ、誇って良いぞ? それに、今度会うときはチュニジアだろうな。そのときにこそ借りは返す」

 

 きょとんとした一美の頭を撫で、彼女が持っていた本を取り、持っていたペンで裏表紙にさらっとサインしてみせる。

 

「私が自分からサインしたいと思った相手はお前が初めてだ。何なら私達の部隊に来るか?」

 

 本を一美に返したマルセイユが肩の部隊章を一美に見せ付ける。一美が憧れた航空歩兵団からのスカウトだ。加東も仕方なさそうに首を振っている。それに打って変わって三〇九の面々は突然のスカウトに右往左往し、一美の返答を待っていた。

 

「あの~。申し訳ないんですけど……お誘いはお受けできません!」

 

 三〇九の隊員たちは更に面食らって固まってしまった。加東とマルセイユも驚いて理由を聞いてくる。

 

「私、このままで良いんです。今日のもまぐれで、いつもは飛行脚を平気で壊すような『ですとろいやー』ですから……それに、私にできた新しい仲間を裏切るわけにもいかないですし――――」

 

「こいつ、良い事いうじゃんか。鶏の、名前はなんだ?」

 

「はい。 元・扶桑陸軍航空学校甲科生、現・連合陸軍第三〇九統合戦闘装甲団所属、竹西一美軍曹です!」

 

「鶏のヒトミ、か。覚えておくよ」

 

 その後、マルセイユとライーサがシャワーで汚れを落としている間に加東が一美へのインタビューを終わらせた。二人が着替え終わるとアフリカ隊の三人が飛行脚を穿き、そそくさと離陸して言ってしまった。

 

「それにしても、バカだな一美。あのまま連れて行ってもらえば航空歩兵になれたのに」

 

 マルセイユ達を見送ってテントに帰る途中、エトナがため息混じりに一美へ言った。

 

「……あ、そうだった!!」一美が後悔し始める。

 

「(やっぱり馬鹿の子だったのか……隊長やってて良かったって思ったのに……)」

 

 呆れ返ったミヒルがテントの布を捲ると、いつの間にか起きていたヘレーネが何かを襲っていた。最初の内は変な虫と戦ってるのかと思ったが、どうやら人間を襲っていた。

 

「お姉さんがかわいがってあげる♪ よくも私のお腹に一発お見舞いしてくれたわね、兵舎に戻って一日中お人形さんみたいに遊んであげるから……うふふ♪」

 

「ぜったい私じゃないです~! 誰か助けて~! 加東大尉~ライーサさん~もう竹西でもいいから誰か~!!!!」

 

 襲われていたのは稲垣だった。そういえば不時着した稲垣を捕まえてお恥ずかしい写真を撮ったまでは良いが手、足を縛ったままテントに置いてきたのをすっかり忘れていた。しかも一番単独行動させちゃいけない隊員と一緒に。

 

「アフリカの奴ら、とんでもない忘れ物をやってったな……」

 

「(稲垣先任が泣いてる~、ぷぷぷ)」

 

「癪だからその絡み写真も撮ってやる。ほら、目線よこさんかいチビ!」

 

 稲垣の先任であるアリシアが安価なアーガスC3で何枚もテント内の写真を撮りまくる。後にその写真がトリポリ市内、いや世界中の裏市場(ブラックマーケット)で高値の取引をされるような一品になるとは思いもしていなかっただろう。

 

 遠征してきた装甲歩兵達はトリポリ市内に兵舎を持つ部隊に頼んで泊めてもらい、今日も一つの長い一日が終わった。だが、この演習は彼女達の戦いのほんの始まりに過ぎないのである。

 

 

 

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