‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe] 作:白岩
波乱に満ちた演習から三週間後、トリポリは今までと変わらない毎日を送っていた。三週間前に第三〇一・三〇九統合戦闘装甲団に共同撃破された現れたネウロイも以前撃破された巣の生き残りと判断された事もあってか警報すら鳴らない日々の中、司令部の隊長会で基地に駐留する統合戦闘装甲団とトリポリの守備隊に任地の異動命令が下った。
『チュニジアに残存する全ネウロイの掃討、若しくは西方への追放を開始せよ』
命令書には始めにそう書かれていた。既に三月中でチュニジアは開放した筈だったのだが、新たに数箇所に渡り施設型ネウロイの存在を航空機が確認したのだ。施設型ネウロイの発見報告は五月初旬であるが、六月中旬の現在、全施設型ネウロイに動きも見られず、内部で小型ネウロイを製造している様子も観測出来なかった。
これを好機と見た連合軍北アフリカ戦線総司令部はリビア、エジプト国境以西に展開する部隊に対してチュニジア一帯に残存するネウロイの殲滅に乗り出したのだ。その中でトリポリ、ミスラタ、シルテ、ガザラ、ベンガジ、エル・アゲイラから派遣される部隊はカセリーヌ峠に集結せよとの命令だった。同時期にエジプトではスエズ運河奪還作戦である「スフィンクス作戦」が展開されており、エジプトへの補給線を持つトブルクからは少数の自動車化中隊のみの派遣になった他、ベンガジからはチュニスまでの船で補給品を送るのみに留まった。つまり、埋め合わせはトリポリ、ミスラタ、シルテ、ガザラ、エル・アゲイラの部隊が行わないといけない事になる。
命令を受けた数日後、トリポリの大通りには自動車化された守備隊が出発の準備を進めていた。市内に残るのは持って行きようの無い88mm高射砲を装備する高射砲中隊だけで、他の対戦車砲や迫撃砲、野砲すらも持ち出してチュニジアまで向かうのだ。
「おはようございます竹西軍曹殿! 昨日は良く寝れたでしょうか!?」
「チュニジアでの作戦に向けて何か一言お願いします!!」
「どうしてマルセイユ中尉に勝っても装甲歩兵でい続けるのですか? 詳しくお聞かせください!!」
「あぁもう!! あの時からずっとこれ!! だからわたしは只の一端の装甲歩兵なんですから囲まないで下さい!! 荷物が置けないじゃないですか!」
兵士達が出発までの準備に走る中、隊列の最後尾に駐車していたオペルのブリッツ軍用トラックに荷物を詰込みながら記者達の質問に嫌々受け答えしている一人のウィッチがいた。そう、一美はマルセイユ撃破という快挙のせいで一躍時の人となってしまったのである。加東の書いた記事のせいで全国の記者たちがダイヤの原石を探さんとトリポリに殺到したのだ。一美にとっては良い迷惑だがトリポリの宿屋や飲食店等は繁盛したらしく町での評判は良かったし、お礼にと食事を差し入れてくれたりしてヘレーネの作った料理を食べずに助かったこともあった。つまり、一美はトリポリのヒーロー、救世主みたいな扱いを受けていたのだ。
「竹西さん? 置いてかれたら向こう数ヶ月は記者に囲まれますわよ?」
先に荷台へ上がっていたクリスが一美に手を差し伸べる。
「ほら一美~。はやく荷物積まないと置いてかれるぞ~」
運転席のシャロンがサイドミラー越しに一美が"また"囲まれているのに気づき、早く荷物を積むように呼びかける。一美が荷物を投げ入れ、クリスの手を借りてブリッツの荷台によじ登ると、大急ぎで荷台の無線機の受話器を取って何やら連絡を入れている。
「全く、あれ位の記者ぐらい振り払っても良いだろうが……」
「あ~ら隊長、やきもちですか? 隊長もダンケルクから逃げてきたときは新聞社はおろか、ラジオ局にまで呼ばれたじゃないですか」
「まぁ、そうだけどさ……あれとは違う気がする……」
助手席でご立腹のミヒルは地図とにらめっこしながら後ろの一美が荷物を荷台に載せたのを確認すると、シャロンの肩を叩いてブリッツのエンジンをスタートさせる。
「隊長~、私達も準備完了ですよ~」
ブリッツの真横に停車しているリベリオン製M3半軌装車の銃塔からロゼが顔を出してミヒルに手を振る、運転席のマリアと助手席のアリシアも親指を上げて準備完了と合図を示す。この半軌装車は装甲歩兵用に改造された特別仕様で、後部の乗車スペースをニメートル程長くし、完全装備の装甲歩兵を三人まで搭載可能である。
リベリオンの三人組が乗っているM3とミヒル達の乗るブリッツは借り物で、その後ろに停車していた改造型M3半軌装車こそ部隊の備品である「あ〃愛しのカティア号(Katia del amor ah)」だ。カティア号にはオルガとレイとヘレーネ、そしてエトナが乗車している。
カティア号は他のM3との違いが多く、大半のM3は車体をオリーブにするかダークイエローに塗るが、カティア号は車体全体をピンク色に塗っている他、据付機銃をM2重機関銃からエトナの武装であるDP28軽機関銃に取り替えているのだ。
カティア号の名付け親と車体をピンク色に塗ったのはシャロンで、彼女がアフリカに来て間もない頃に見たブリタニア軍の特殊工作部隊の乗るジープに影響を受けたのだという。そして据付機銃がDP28である理由は、ただ単に隣の三〇一がM2を壊したので貸して欲しいと嘆願してきたからだった。他にも側面の地雷置き棚を外して丸めた寝袋や毛布を載せられるように改造したり、壊れたブリタニア戦車から湯を沸かせる機械を持ってきたりと結構やりたい放題な魔改造である。
「隊長、無線の電波も良好です。先頭の部隊への報告も終わらせておきました。ふぅ……」
無線機の受話器を置いた一美がため息をつきながら荷台の椅子に座る。もしも逸れても良いように部隊の無線機にバッテリーを入れ、車列の先頭を走るグライフと連絡を取り合えるようにしていたのだ。
「ありがと一美。まあこれだけの集団で移動するんだから道に迷うなんて事も無いだろうが、念には念を入れないといけないからな」
どんどんと前の車両が進んでいく中、出発のタイミングを合わせてシャロンがブリッツのアクセルを踏み込んだのだが、目の前に停車するもう一台のブリッツ、そう第三〇一統合戦闘装甲団の乗車するブリタニア製のベッドフォードトラックへ軽く追突する。シャロンとミヒルは予測出来た為に踏ん張る事が出来たが、一美とクリスは思い切り荷物の上に倒れこんだ。
「馬鹿! 早く出せよラナタ!」
「煩いわね!(Noioso!) エンジンがかからなくて出られないのよ!」
「ラナタ隊長あんまり怒らないで、私達が悪いんだから……大人しくスターターケーブルもらいましょ?」
ラナタと呼ばれた長身の少女が運転席から身を乗り出し、拳を振り回してミヒルに怒鳴る。彼女が第三〇一統合戦闘装甲団隊長のラナタ・フラッシェ大尉だ。その助手席に座り、ラナタを落ち着かせるのが副官のスーザ・ボレリ中尉。三〇一の補給担当はロマーニャなので、隊員は全てロマーニャ陸軍の出身である。
「お前今なんて言った 助けて欲しい筈なのにそんな物言いで良いのかよ!!」
「あら? 助けないとあなた達三〇九も出発できませんわよ~♪」
「くそ!(Scheiße!) 分かった分かった、シャロンを向かわせるから良いだろそれで……」
「じゃあミヒル隊長、後ろの荷物から工具箱と角砂糖持って行きますね」
「駄目ですわタルファロ中尉。甘くない紅茶なんてティータイムには最低ですの」
「いてて……扶桑の緑茶は砂糖なしですよぉ……」
こんなやり取りをしている間にも車列はどんどん遠ざかり、既に通りには彼女達のトラック群しか存在しなかった。シャロンがベッドフォードのエンジンを点検し、ちゃんとエンジンが動作するまでに一時間も待ちぼうけを食らった他の隊員たちのストレスは計り知れない物だったろう。
そして、トリポリに駐在する二つの統合戦闘装甲団が出発できたのは本隊の出発から一時間半後の事だった。