‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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ファーストイントルーダー

「そうか~…それであんなに泣いちゃったんだねぇ まぁ…これでも食べて落ち着いてね♪ リベリオンの製菓会社が軍と共同で作ってるんだよね。なんでもコレを食べるとウィッチの魔力が回復するんだってね」

 

 トリポリの賑やかな市場を走り抜けるトラックの運転席には二人の少女が座っている。二人のうち運転席の少女、マリアはリベリオン陸軍の特徴的なカーキ色の上着ポケットからチョコバーを取り出し、助手席に座る元気が無い少女、一美の眼前に差し出す。彼女は渡されるままにチョコバーを口へ運び、半分まで一気にかじる。おいしい、と一美の口から漏れたとき、一美の表情から曇りが消えた。

 

「まぁ補給が薄いアフリカでも三〇九なら補給に困らないね。…まぁ…お菓子だけだけど…ねぇ…」

 

 マリアは途中まで自慢げに話していたが、途中で言葉に詰っていた。その途中にも一美はチョコバーの全てを口に納めていた。

 

「お菓子だけ? どうしてですか?」

 

 笑顔を取り戻した一美を見たマリアはほっと胸を撫で下ろした。隊長と対面する前に泣き止ませていないと自分に責任が回ってくるはずなので、それだけは絶対に避けたかったらしい。トラックは市場沿いの大きな車道に出た後、道なりに進んで行く。

 

「まぁね。私の親がその会社の社長なんだよね。会社と軍の関係を深めるために私をアフリカまで派遣したのね。会社のコネで入営直後から准尉の階級を貰ったけど、それは嬉しくなかったね。だから私は私自身の腕で今までのし上がったんだよね。ネウロイの撃墜数は二十一…小型が十八で中型が三で大型は〇、これは今までのユニットで稼いだ数だよ。今日はようやく本国から新型ユニットが届くんだよね~。楽しみだね! はははは!!(全部共同撃破なんだけどなぁ……)」

 

 マリアは右手でハンドルを叩いて喜びを表現している。

 

「撃墜二十機以上!? 凄いじゃないですか!!」

 

 涙跡を拭っていた一美も目の前にいる手練れに興奮する。

 

「だろう? 陸上ユニットも捨てたもんじゃないんだぞ~。…おおっ、あっちに第三〇一装歩団のウィッチ達がいるな♪」

 

 トラックは市場を抜けて小さな噴水の前に停車する。噴水の向こう側には三人の少女が雑談をしていた。マリアが声をかけるだけで少女達はわらわらと集まってきた。

 

「こんにちはフィール中尉! 今日もお菓子ありますか!!」

 

 金髪のショートカットをロマーニャ陸軍の略帽に隠した少女が元気一杯に運転席へ近寄る。一美に負けず劣らずの身長だったが、陸戦用ストライカーユニットを履いたままなので身長が伸び、簡単にマリアと話すことができた。他の二人はゆっくり、後ろからノシノシと歩く。

 

「いつも言ってるだろう、私はお菓子の無料配布所じゃないんだってね。ほら、いつもの3人分だぞ~」

 

 マリアは運転席に置いてある鞄から三つの板チョコを取り出し、期待の目を向ける彼女へと手渡す。

 

「ありがとうございます!! って、誰ですか? この人は?」

 

 当初の目的を果たした少女の視界にようやく一美が認められる。

 

「この子は第三〇九装歩団の補充員だよ。本当は扶桑の航空歩兵だったんだけど…辞令の手違いか何かでこっちへ来ちゃったんだね。」

 

 『航空歩兵』と言う言葉を聞いた途端に少女はハッとして後ろへ下がる、その表情も段々と険しくなって行く。

 

「ねぇねぇ…あなたは航空歩兵なの?、いや、『だった』の?」

 

 少女は嘲笑的に一美へ言葉を投げかける。どうやら彼女達は航空歩兵に良いイメージを持っていないようだ。

 

「…わ…わたしは…まだ陸戦兵じゃ…ない…」

 

 一美は喉を震わせて反論する。三対一では口喧嘩でも不利な状況だ。

 

「あはははは! こりゃケッサクだ!! 空も飛べない陸も走れない。そんなんで良く軍に入れたわね? まさか扶桑の入営試験はアナタみたいな馬鹿でも受かるザル試験なわけ!?」

 

「やめろ! 今は扶桑の軍事を挟む時じゃないだろ! 一美は単なる辞令の手違いで…」

 

 思わずマリアが仲裁に入る。どんな形でも自分達の隊に着任した者なら家族も同然だ、罵られる光景に耐え切れるはずも無い。

 

「コラ! そこまでだサンドラ!」

 

 マリアの言葉を遮ってもう一つの仲裁が割ってはいる。一美を挑発する少女の襟首を引っつかみ、脳天に一発の拳骨をかましたのは後ろからやって来た彼女の同僚だった。

 

「フィールランド中尉殿。申し訳ありませんでした!」

 

 ピシッとした略礼で謝罪する少女は容姿こそ大人びているが、声色は未だに子供の名残をもっている。

 

「良いよ良いよ、この暑さじゃ双方ともまともに人の話を聞いてないと思うしね。あとサンドラ曹長は疲れ気味だと思うからパトロール後にちゃんと風呂に入れてあげてね。ルチア曹長」

 

 上着から数枚のコインを取り出したマリアはトラックの窓から身を乗り出し、サンドラ曹長に制裁をかけたルチア曹長の手のひらへ握らせる。トリポリの公衆浴場なら無料で入れるのである、なのでこのコインは風呂上りに何か飲んでくれと言うメッセージだった。転じてこのメッセージは『頭を冷やせ』とも見取れ、ルチア曹長も怪訝そうな表情をした。

 

「こ…光栄であります…それでは私達もパトロールへ戻りま…」

 

 その時、トリポリの街中にけたたましい警報機の雄叫びが響き渡る。重低音から始まったサイレンなら偵察に来た陸上ネウロイが接近する合図、高音から始まるサイレンなら大型の飛行型ネウロイが接近している合図だ。現在発動した警報は前者であるので住民ごと避難地へ撤退する必要は無いのだが、外出禁止令も兼ねるので住民達は急いで最寄りの建物へ逃げ込んだ。

 

「ネウロイ!? なんでこんなちんけな市街地にまで侵攻してきたの??」

 

 三人目の少女が全員分の武装を抱えて二人に合流する。

 

「きっと偵察に出現したネウロイとパトロールに出た第三〇五装歩団がかち合ったんだよ!!小型だからって碌に報告もしないで戦った結果だと思うよ!」

 

 マリアの表情が一気に険しくなり、ダッシュボードに入っていた装填済みのコルトM1911自動拳銃を取り出して車外へ飛び出す。

 

「一美はユニットを穿け!!これは緊急事態だ!!」

 

 トラックの幌を取り払うと、荷台からユニットが入る木箱が露わになった。

 

「我々はここでネウロイを迎え撃ちますから、中尉は自らのユニットを取りに言ってください!!」

 

「わ…わかった!!」

 

 ルチア曹長が自らの持つブレダ三八・八ミリ機銃を点検しながらマリアに一時撤退を促す。ルチアの持つブレダ機関銃は銃身をなるだけ切り詰めた改造品を背中に二挺背負い、両手で四七ミリ高初速砲を抱えている。彼女達が穿いているユニットはロマーニャ陸軍が製造するカルロ・アルマート中戦車の系列であり、世界レベルで見ると型落ちの感が否めないが現地駐在の威圧や小型ネウロイ相手なら十分に活用できる。因みに本シリーズはガリア解放軍にも払い下げており、知名度はそこそこ高い。

 

「アンタも早くユニット穿けば!?死にたいわけ??」

 

 すでに運転手のいないトラックの助手席から動こうとしない一美に戦闘準備をするよう喚くサンドラが穿いているユニットはルチアの穿くM13より古いカルロ・アルマートM11中戦車といわれるユニットだ。前者の砲口径より十ミリ少ない三七ミリ砲をベルトに巻き左腰にマウントすることで両手をフリーに可能、ブレダ機銃を両手で射撃することができる一見優れものなのだが。実は本ユニットの採用も四一年に終了しており、今でも穿いているウィッチは物好きかユニットを良く壊す者のどちらかである。

 

「ネウロイ進入経路出ました! トリポリ南方より時速二五キロ、歩行で進入します。経路的には…この噴水がルート直上だそうですよ!?」

 

 三人目の少女が穿いているユニットはロマーニャ陸軍のアウトブリンダAB41装甲車であり、二人が穿いている履帯タイプのユニットとは違い、大腿とふくらはぎにゴムホイールを一つずつ装着したものである。彼女は元来の武装であるブレダ二十ミリ機関砲に加え、巨大な軍用無線機を背中に背負わされている。

 

「ば、馬鹿にされたお返しですよ??」

 

 一美も負けてはいられない。もしかしたら木箱に入っているユニットだけでも飛行型かもしれないからだ。異動が失敗でも、割り当てられるユニットまでは間違う筈が無いから…一美は助手席から飛び降り、荷台へ登るためのスロープへ手をかけた時、辺りをとてつもない衝撃が襲った。

 

 トリポリからネウロイまでの距離は、ほんの数十キロまでに迫っていたのだった。

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