‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe] 作:白岩
スーザ「まあ何て言うか……仕方ないですよ」
シャロン「どうせ戦闘になってもあんた達南部の人間は直ぐに逃げ出すさ」
ラナタ「そこのチロル人! 私達は地中海人と呼べといってるでしょう!!」
スーザ「(そこに突っ込むんだ……隊長)」
《はぁい♪ 世界中で戦ってるウィッチの皆さん、お早うございます、そしてこんにちは、そしてこんばんわ♪ そろそろ欧州も暖かい陽気に包まれてる時期でしょうね。アフリカはずっと暑いでしょうし、スオムス・オラーシャは雪解けで地面が大変みたいです。 私の故郷ベルリンは例年通り、寒い日が続いているらしいです。 ここニューヨークも昨日、夏日を記録しました♪ 局内の皆さんは半袖で歩き回っていましたよ、まるで南国の島に来たみたいな感じです♪ 私の第二の故郷になるノイエ・カールスラントも今頃は日焼けしそうな天気ですかね♪》
まだ涼しい風がブリッツの車内へ通る中、無線機から暢気なジャズ音楽と若い女性の声が聞こえてくる。その無線機の前にはロゼとアリシアが食いついていた。
「そのままラジオ抱えて動かないでよレイ、やっと電波が入ったんだから!!」
そう無線機を抱えるレイへ釘を刺したアリシアは少し眠たそうだった。それもその筈、車中泊にて朝を迎えた第三〇一・三〇九統合戦闘装甲団は日の光で砂漠の気温が上がる前に出発していた。シャロンが夜なべして修理した無線機で友軍が次の合流点で待っていてくれていることを確認できた外、遠くリベリオンはニューヨークで放送されているウィッチ向けラジオ番組の「ベルリンローズ」を受信できたのだ。
「これ、けっこう疲れる……」
シャフトが折れたブリッツを捨てた三〇九の隊員たちは二台のトラックに分乗することになり、まるで野戦救急車のような缶詰ぶりだった。その中でレイは使い魔と魔導アンテナを開放し、無線機へラジオ電波を送っているのである。
《今日は良いニュースと悪いニュースの二本立て♪ 先に良いニュースから話そうかしら♪ スエズ運河奪還作戦に参加した連合軍第三一統合戦闘飛行隊の皆さんは順調にスコアを伸ばしているみたいです、そろそろマルセイユ中尉も新しい勲章が貰えるんじゃないでしょうか?♪ マルセイユ中尉と言えば、トリポリの防衛隊へ抜き打ちテストを行った際に、連合軍第三〇九統合戦闘装甲団のタケニシ・ヒトミ軍曹と格闘戦をやって、最終的に“撃墜”されたんですってね。いつも地面に這いつくばって頑張っている装甲歩兵の皆さんも、タケニシ軍曹を見習わないといけませんね♪
「おい聞いたか? 私たちゃ一美を先生に崇め立てないといけないみたいだね」
助手席で爆睡するミヒルに代わってハンドルを握るマリアが後ろを振り返りながら言う。
「タケニシも有名人だねぇ~♪ さぞや嬉しいだろうなぁ~♪」
ロゼも数日振りに部隊の名前が出てくることに純粋に喜んでいるようだ。最近はアフリカ戦線も取り上げられていなかったからである。
「………昨日、撃墜させられたもん……」
荷台の隅で体育座りし、荷物に埋もれている一美はラジオを聞いても別に嬉しそうでは無かった。自分の記事が載っている新聞を渡されたときは凄くはしゃいでいたのに、今では何もしたくないような無気力オーラが一美を包んでいた。原因はきっと夜の事件だろう。
《きっと次は我がカールスラントが誇るウルトラエースの“黒い悪魔”エーリカ・ハルトマン中尉がお相手してくれるかもしれませんよ♪ 他には~……ゲルトルート・バルクホルン大尉とかいかがでしょうか、最近は妹さんの容態も絡んで、撃墜スコアも伸び悩んできているみたいですし……狙い目かもしれませんよ?♪》
「ほんと、このカルラっていう人……航空歩兵の味方なのか装甲歩兵の味方なのか、分けわかんないわね……」
アリシアから借りていたラジオ番組雑誌を読んでいたクリスが呆れている。このラジオ「ベルリン・ローズ」のキャスターは一七歳のカルラ・ダイスラーという元ウィッチが務めているのだ。彼女はダイナモ作戦に参加し、最後の出撃に向かう為の離陸直前で飛行脚が爆発し、両足が動かなくなる大怪我を負ったが奇跡的に生還。最終階級は曹長だが、この仕事を請け負うようになってカールスラント空軍が特別に許可を与え、晴れて少尉へ昇進したようである。
《じゃあ今度は悪いニュース。 我が帝政カールスラント陸軍の中央、南方軍集団は五月から計画されているツィタデレ作戦で想定されるネウロイとの会戦に備え、オラーシャのクルスク近郊で戦闘準備を整えているとの事です。クルスクは鉱物資源も多いですから、ネウロイの質と量も半端では無いと思われます。本当に戦争って感じがしちゃいますね…死んだら損ですから、私みたいに意地でも生きて帰って来てくださいね♪ 帰りの船でも“とても狭い個室”じゃ寂しいですから♪》
「向こうも頑張ってるみたいだが、オラーシャ軍がどれだけ頑張れるかだな。東方の部隊が突破されたらネウロイに逃げられるしな」
カティア号の車載無線機でもレイの受信電波を貰ってラジオを聴けていた。運転席のエトナも悪いニュースには耳を傾けていた。ドーバー海峡の小競り合いばかり報道するこの番組で久しぶりに東部戦線の新鮮な情報を聞けたからだ。 助手席のオルガもエトナの声に黙ったまま首を縦に振っている。
《じゃあここで一曲、この曲はエジプトで戦っているアフリカ隊のイナガキ軍曹やキタノ軍曹、チュニジアのタケニシ軍曹やその他欧州で戦う扶桑撫子達、そして……前回の放送から今回の放送の間に亡くなった人達にも送ります。こちらで言うところの小学校にあたる尋常小学校の唱歌で『ふるさと』》
「ほら一美、扶桑の曲が流れて―――――」
まだ荷台の隅でいじけているんじゃないかとマリアが心配して振り返ると、一美はロゼとアリシアの間に割り込んでラジオに聞き入っていた。無線機から流れてくる曲のメロディはどことなく郷愁の念に駆られるのはブリッツの中にいる全員が分かる。その上に歌詞を理解できる一美はいつの間にか大粒の涙を頬に伝わらせていた。
「うわわっ!? 泣くなよ一美!??」
「そんな……私を見て泣かないで下さい…」
動揺するアリシアとレイに釣られて荷台の年少組は一美を泣き止ませようとするも一美は曲が全て終わるまで延々と泣き続けた。扶桑を出て数ヶ月しか経っていない一美にとって、扶桑の曲は故郷の記憶を鮮明に思い出させる起爆剤になる。しかしそれ以上にネウロイに祖国を蹂躙され望郷の思いも叶わず、二度と故郷の土を踏めるかわからない隊員もいるのだ。たかだか海外派遣数ヶ月にしてびぃびぃ泣く一美を白い目で見るのかと思いきや、ミヒルは爆睡でレイは釣られて慌てていたのだった。
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《カティア号より三号車へ、こいつに積んでた無線機に本隊からのモールス通信が入った。既に残り数キロといったところで合流できるかもしれないらしい。影は見えないが電波強度の強い方向へ進んでいることは確かだ》
ベルリン・ローズの終了後、ブリッツの無線機からエトナの声が聞こえてくる。ラジオの電波強度が良さそうな丘ばからり進んでいたら、偶然舗装された道に出ることができたので車列は今までの倍近い速度で前進していた。
「了解だエトナ。そのままエトナの勘に任せる、いざとなればレイのアンテナを……って寝ていたか。とりあえず遅刻の理由と置いてきたブリッツの言い訳を考えないとな」
助手席と運転席を交換し、今度は眠りから目覚めたミヒルがハンドルと無線機の受話器を握る。その隣ではマリアが死んだように眠っている。荷台のアリシアやロゼ、レイやクリスも荷物に埋もれながらぐぅぐぅ寝ている。一美も荷物をベッドにして寝ていたが、体の部位を枕代わりにされてとても辛そうに見える。ポジションが悪かったみたいだ。
ミヒルは体の良い言い訳を考えながらブリッツを運転する。どうして部隊の隊長がハンドルを握り、部下が睡眠中なのかを考えたが、途中で辞めることにした。きっとカティア号の中はヘレーネの欲求不満が祟り、お陰で大変な事になっているだろうから。
既に国境を越え、チュニジアへと着いた自分たちが漸く大きな作戦に駆り出される。今まで陥落しなかった施設型ネウロイ、決して簡単に済む戦いでは無さそうだ。自分たちは今日中に本隊へ合流し、明日には作戦打ち合わせがスタートするのだ。既に他の方面からやってきた部隊は作戦司令部近くの集合地点に集まっている、トリポリと周辺都市から送られてきた部隊が最後の到着だ、せいぜいなめられないよう、少しは隊長らしく振舞おうかとミヒルは考えていた。
そして本隊と合流した時、乱暴運転でブリッツを壊して放棄した言い訳を考える事をすっかり忘れて怒られる三〇九統合戦闘装甲団の隊員たちだった。