‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

3 / 27
相棒

「きゃっ! …痛てて」

 

「早く起きなさい! すぐそこまでネウロイが来てるのよ!?」 

 

 トラックの荷台に登れず地面に落下し、尻餅をついた一美をルチアが急いで起こす。ルチアの後ろではもう一人のウィッチが背負っている無線機を地面に置き、ダイヤルを弄っている。先ほどの衝撃で無線機の周波数が狂ってしまったようだ。彼女は必死に幾つものダイヤルを回し、辛うじて通信が復旧させた。

 

「《……こちら…ロマーニャ陸軍アフリカ方面軍所属第四九機甲部隊…現在ネウロイと交戦中…誰か聞こえていたら応答してくれ!!…私は隊長のフランキ中尉だ!!》」

 

 無線機からは雑音と一緒に男の声が聞こえてくる。無線機ごしには銃声や砲声、戦車のエンジン音が耐えず、男もかなり必死なようだ。

 

「こちら第三〇一連合軍統合戦闘機械化装甲団です!! 大丈夫ですか!!??」

 

 彼女は必死に受話器へ向けて言葉をかける。ネウロイと交戦中とあればトリポリの周辺、先ほどから聞こえる砲声の主だろう。

 

「《市内のウィッチか!!ありがたい!!現在、我々は戦力の温存を考えてトブルクまで撤退する!!我々は第三〇五装歩団の負傷者も連れているので組織的な戦闘は不可能である。頼むから残りは君達でやってくれ!!》」

 

 聞こえたのは想定外の報告だった。ネウロイに対しての主要攻撃手段がウィッチによる魔力を込めた攻撃でしかないのは事実だが、それを見据えてこの部隊は負傷者を連れてさっさと撤退してしまうのだろうか。なぜ負傷者だけをトリポリに搬送し、残りの戦力を以てトリポリを死守する行動をしないのだろうか。

 

「サブリナ、その行動を阻止させて! 撤退なんて無茶なんだから!!」

 

 無線機と対面する彼女、サブリナ軍曹へ指示を出すルチア。

 

「はい!! 《こちら三〇一、トリポリには未だ多くの市民が避難できていません!!なのにネウロイを市内に引き込んで市街戦をやれと言うのですか!?》」

 

 彼女は焦りが止まらない。偵察に出没する小型ネウロイであれば既存の火砲でも撃墜可能だが、戦闘に特化した中型以降のネウロイだとそれは難しくなる。体躯が大きくなればネウロイの装甲厚が高まり、コアまでの距離が離れてしまうからだ。たとえ砲撃を命中させても、コアを破壊する前に装甲が自然治癒してしまう。

 

「《来るぞー!!…伏せろ!…………》」

 

 無線機からはその言葉と爆発音の後、ノイズしか聞こえてこなかった。その後、いくら無線機のダイヤルを回しても二度とフランキ中尉と連絡が繋がる事は無かった。

 

「前衛に出ていたロマーニャの部隊がやられたぞ!」

 

「あの役立たず共め!!貴重なウィッチともどもくず鉄になりやがったか!!」

 

「トリポリだけは死守しろ!!タイガーを前面に押し出せ!周りを四号戦車で囲め!!」

 

 噴水の周囲では怒号が飛び交い、噴水から少し離れた大通りではカールスラントの戦車部隊が右往左往している。一美がようやく荷台に登り、備え付けのバール…のようなもので木箱を開けようとした時、一台のキューベルワーゲンがトラックに衝突した。一美はまたしても吹き飛ばされ、噴水の中へ落ちる。

徐行してはいたものの、容易にトラックを横転させてしまった。キューベルワーゲンの運転手は二言三言ルチア曹長に謝った後、大通りへと消えてしまった。

 

「うわぁ…水浸し……濡れちゃった…」

 

 一美はずぶ濡れになりながら噴水から起き上がり、木箱を見やる。トラックの荷台から転げ落ちた木箱は粉々に砕け、横倒しになったユニット固定具が露になっていた。

 

「いけない!!」

 

 壊したら怒られる、その緊張が彼女を揺り動かした。いそいで噴水から抜け出そうとした彼女のブーツにコツンと何かが当たった。

 

「(なんだろう?ってこれ扶桑刀じゃん!?)」

 

 拾い上げた物体は扶桑陸軍で下士官以上の兵士に広く使われている九五式軍刀だった。一美はアルミ一体成型の柄を掴み駐爪を外す、爪を外すことで鞘と柄が分離し、カーキ色の鞘から刀身を引き抜けた。反りは浅く、樋も入っていない。一見すればただの水浸しの軍刀だが、刀身が微妙に青みがかっている。それにさきほどから何物かが一美の頭の中へ語りかけてくるのだ。その声の意味を聞き取ることができなかったが、段々と意味が伝わるようになる。

 

[やれやれ…真っ黒の世界からやっと解放されたってのに、起きたら溺れる寸前とか笑えないぜ。ニワトリを水に沈めるなんて、俺の頭を水平線(フラットライン)させて食べようとしたのかい?誕生日が晩餐会かと思ったら笑えないぜ?お友達(カウガール)]

 

「だ…誰!?」

 

 一美は声の主を探すも、周りに男の姿は無い。いるのは三〇一のウィッチが三人だけ、あるのは横転したトラックと自分のユニットだけである。となれば声の主はこの刀となる。

 

[誰?って言われてもな…俺はアンタのそばにいつもいるんだぜ?アンタが五歳の時からずっと、な? そして今、こうやって会話できるのはこの扶桑刀のお陰だ。この刀は扶桑陸軍の新製品だそうでな、折ったら指名手配モノらしいな]

 

「あなた…もしかして吾郎なの!? そしてやっぱりこの刀のせいなのか!?」

 

 刀に向けて話しかける一美。

 

[そういや…そんな名前(エイリアス)で呼ばれていた時代もあったなぁ。アンタが言いやすいヤツで結構だ、最適な名前が見つかるまで吾郎で呼んでくれよ?結構気に入ってるんだからな]

 

「わかったよ吾郎。あ! そろそろネウロイがココに来ちゃうんだよ!!どうすれば良いの?吾郎」

 

 ルチアは周囲に散らばる木片を片付けていると、噴水の中で立ちながら一人の少女が刀に語りかけているのを見つける。 

 

「アナタ、何やってるのよ…」

 

 奇異な目で一美を見つめる。

 

「あ…それがこの扶桑刀、使い魔と話ができるんです!! 聞こえないんですか!?」

 

 光る扶桑刀をルチアに見せる。刀を振り回すと〔やめてくれ!〕といった声も聞こえてくる。

 

「はぁ? アナタ噴水に落っこちて頭でも打ったの? さっさとココから…」

 

 木片を片付け終わったルチアの手前に巨大な戦車が停車する。円柱形の砲塔は市外を向いて動かなかったが、キューポラのハッチを開けて一人の軍人が出てきた。彼は黒い制服を纏って御揃いの制帽を被っている。その上から皮製の耳当てをしている事から戦車長だと見て取れる。

 

「君達に良いニュースと悪いニュースがある。どっちから聞きたいか?」

 

「良いニュースから聞かせてください!!」

 

 無線機を噴水の脇に置き、手持ちの二〇ミリ機関砲を手に取るサブリナが車長に言う。

 

「わかった。 トブルク本部の飛行場は現在大急ぎで航空歩兵を空に上げている。周辺空域を飛行中の航空隊が一つも無いからな。増援はネウロイがここ、トリポリ到着後二〇分になる。それ以下に到着するのはありえないだろうってさ。Bf109Gの偵察型を穿いたウィッチ達を先頭にしてるらしいが、どうも対地型を穿いた子達は遅れるそうだ」

 

「悪いニュース…悪いニュースはなんですか!?」

 

 噴水から出た一美が車長に尋ねる。

 

「あぁ…実はトブルク本部が、今回の防衛が失敗したらトリポリを手放す事に決定したそうだ…」

 

 車長は残念そうに制帽を目深に被る。途端に戦車のエンジンが唸りをあげ、履帯が徐々に動き始める。

 

「まぁ心配するな新入り、トリポリはいつもネウロイの危険性にさらされているわけだ。俺のタイガーが死ぬ時が俺の死ぬ時、トリポリ防衛隊の意地を見せてやるさ。死ぬなよ! 若いの!!」

 

 彼はキューポラから右手のみを出し、軽く手を振る。ハッチが完全に閉められた時、タイガー重戦車は大通りへと姿を消していった。

 

「二人とも聞いたでしょう、何としてもここの噴水を死守するの! 他の場所は味方に任せれば良いから!!」

 

「「了解!!」」

 

[なんとも馬鹿でかい車だな。アレでガールフレンド迎えに行ったら踏み潰しちまうかもな]

 

「吾郎は黙ってて! それよりユニットを穿かないと…」

 

 一美は横倒しになったユニット固定具を引っ張り、正常な状態に戻す。その状態でようやく前に回りこみ、ユニットの全容を確認した。

 

「やっぱり…陸上ユニットだったのかぁ…」

 

 一美の目の前には茶色と黄色と緑色の三色迷彩が施されたユニットが一つ、固定具の横には細長い戦車砲が装備されており、今までの扶桑が使用していた九七式中戦車・(チハ)が使用していた砲身が短い五七ミリ砲とは大きくかけ離れた武装である。固定具の周りには『Type1-Medium-Tank (TIHE)』と刻印されており、どう見てもチハではない。

 

[それが答えだそうだな。もうネウロイだって味方の防衛線を突破してると思うぜ? さぁ、ここは一つ行ってみるか、相棒さんよ]

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。