‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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アハト・アハト

「ネウロイ捕捉!! 左三十度、距離約六千! 突っ込んでくる」

 

「目測で距離三千になるまで発砲するな! 銃列を引き、火力を十分に引き出せ!!」

 

 トリポリ南部を防護する外塀に集合した各国の戦車隊の内、先陣をきって定位置についたブリタニア王国陸軍第七師団のマークを持つクルセイダー巡航戦車『アールグレイ』から全車に向けネウロイ発見の報告が入る。カールスラントやブリタニア、ロマーニャやリベリオンから貸し出されたブリタニア所属の戦車達が一斉に並んでいる光景は壮観であり、また今まで互いに戦っていた仲の彼らが一つになっている光景でもある。

 

「でけぇ…なんて砂煙だ……」

 

「ネウロイにトリポリを奪われて二年、今年の初めに…ようやく奪還できたのに。ようやく普通の生活が戻ったのに…」

 

「なに、俺達だけで撃退できなくてもウィッチ達がいるさ。もう堕とさせない…」

 

 遠くに見える砂煙がネウロイのあげた物だと分かり、一列横隊に展開した戦車達から動揺が聞こえる。どの車両もハッチを閉じているので発言の大半は無線によるものだ。

 

「小銃なんて持ってきてどうするんだお前は!! ちゃんと木箱の中からMG34を持って来いって言っただろ!! 魔法力でも込めて撃つつもりか!! 近くの機関銃中隊に頼み込んでルイス機関銃でも貰って来い!!」

 

「土嚢は三角に積め! 戦車砲の衝撃で倒れちまうぞ!!」

 

「一点に弾薬を集積するな!! ネウロイの一撃でドカンだ!」

 

「高塀の上に配置しているFlak18(エイトエイト)が射撃する時には照明弾が上がる、照明弾を確認次第、耳を塞がないと鼓膜が破けちまうから気をつけろ!!」

 

 動揺しているのは戦車兵だけではない。鉄の騎馬に群がる歩兵達もまた、トリポリを守るために精一杯の抵抗を行う準備を行っていた。たとえ、その抵抗が結果的に無駄だったとしても、ネウロイの進行を少しでも食い止めることができれば良い、自分達にできる仕事はそれ以外にないのだ。と故郷へ向けて手紙を書いてしまったのだから。

 

「ウィッチ部隊が準備を終えるまでが正念場だ! 気合い入れてけ! 本日は遥か東方の扶桑皇国より馳せ参じたウィッチもいるのだ!」

 

 先ほど一美達に出会った、あのタイガー重戦車はトリポリの南門中央に堆く積まれた土嚢に車体を囲われ、その周りを更にカールスラントの三号戦車や四号戦車で囲まれている。それが意味するのは、このタイガー戦車こそトリポリ防衛の要である、厳格に言えばタイガーが備える八八ミリ対戦車砲と高塀に設置されたFlak18高射砲が撃ち出す徹甲弾が切り札である。他の戦車や機銃はそれらを援護する立場にしか無い。

 

「敵ネウロイ、Flak18の有効射程内に入りました!! 距離五千!」

 

 高塀に配置されたブリタニアの下士官が測距儀でネウロイの姿と距離を確認する。ネウロイは丸っこい体躯をしているが、昆虫的な六本の歩行脚を器用に使い高速でトリポリへ接近している。実際にはFlak18の射程圏内は十キロを超えるのだが、砲角が間に合った砲が三門しかない上に連続的に射撃しなければならず、砲身の冷却も計算に入れなければならない。

 

 となれば砲弾の威力が落ち込む事の無い、射程五千メートルより攻撃するのがベストとなる。観測報告をしたブリタニア下士官の手指示に従い、既に砲座についたカールスラントの砲撃班がそれぞれ徹甲弾を装填し、照準手が照準鏡を覗き込む。中央に配置された砲がネウロイの正面を、左右に配置された砲がそれぞれネウロイの歩行脚を狙う。

 

「本国から送られてきた新式の対ネウロイ用砲弾なんだ! 飛行型ネウロイ用の弾薬量を削ってまで多く送ってもらった甲斐があったぜ!…射撃準備完了!!」

 

 準備完了を告げる信号弾が塀の上から撃ち出され、オレンジ色の煙が空へ向かい一直線に上がって行く。それを見た機関銃部隊や工兵部隊が一斉に耳を塞ぎ、耳当てを持つ者は耳当てで耳を塞いでからその上に手を置く。

 

「ネウロイめ、目にモノ見せてくれる。撃てぇ(Feuer)!!」

 

 真南の塀に置かれている第一砲座が真っ先に火を吹き、後を追うように南西の二番砲座、南東の第三砲座が射撃する。地面は砂地であったが、震動は兵士の両脚や心にビリビリと響く。三発の徹甲弾は地面へ落ち込む事も無く、ネウロイへ向かいまっしぐらに飛んで行く。通常の弾頭より堅い鋼で鋳造された徹甲弾は三発中二発が命中、右翼の三番砲座が発射した砲弾はネウロイの直下に着弾した結果としてとても巨大な砂埃があがり、ネウロイの姿は隠れてしまった。

 

「どうだ!? ネウロイに損傷は見られたか!!」

 

 一番砲座のカールスラント砲兵将校がブリタニアの下士官に撃墜の有無を尋ねる。

 

「駄目です。敵ネウロイの機影を消失(ロスト)、索敵に入らせます。」

 

「発見は急いでくれ。各砲座は第二射の準備を進めろ、ネウロイに接近されて砲を壊されたんじゃ敵わない。西・東門の砲座担当も気を抜くな!」

 

 無線の後、それぞれの砲座が次弾の装填を進め始めた。初弾の空薬莢を排出し、近くへ投げ捨てる。接敵中なので、どの砲も砲身の掃除を省略しているようだ。

 

「ネウロイ発見!! 距離約三千! 近い!!」

 

「こちらアールグレイ! ネウロイとの距離が近すぎる!! 自身の砲を撃ちながら後退を開始する!!」

 

 トリポリの前方二キロにまで進出していた『アールグレイ』の無線手が金切り声で報告する。ネウロイとの距離が二キロを切ると、長距離射程ビームを持つ大概のネウロイが攻撃を開始する距離だ。しかし、全滅したと思われるロマーニャの四九機甲部隊が撤退を考えられる事ができたのだから、今回のネウロイはそれほどビームの射程距離が長く無いのだろう。それを確信し、手柄を焦った『アールグレイ』は他の車両より前へ進んでしまったのだ。

 

「あの先行したクルセイダーを援護しろ! 砂埃の中にありったけ撃ちこめ!!」

 

 タイガー戦車の車長が車内へ叫ぶ。途端にタイガー戦車の主砲が轟音と共に砲弾を撃ち出した。それを確認したカールスラントの戦車隊は一斉に攻撃を開始する。彼等の砲声を聞いたロマーニャ軍の戦車隊が非力な砲ながら援護射撃を始める。ブリタニアの戦車も友軍を守るため必死に射撃を開始、万が一に備えて解体用工具と消火器を載せたジープのエンジンに点火もさせている。

 

「俺達も撃つぞ!! 第二砲座はネウロイがいると思われる空間に向け……」

 

 双眼鏡を覗くカールスラントの砲兵将校は鏡内の砂埃中で光る赤い点を見つけた。その赤い点が何かであるのを確認する時間さえくれなかったが、彼はその点が何たるかの理解は出来ていた。

 ネウロイのビームだ。あのネウロイは決して近接戦闘型では無かったのだ。飛行型に見られる典型的な直線状ビームは第二砲座に配置されたFlak18の砲身を横一文字に切り裂き、一瞬の内に使用不能にさせてしまったのだ。

 

「第二砲! お前達はすぐに避難しろ! 後は一番と三番でやる!!」

 

 その間にも、ネウロイの狙いは混乱している一番砲を目標に外し、初弾のミスを取り戻そうと躍起になってネウロイを撃ち続ける三番砲へと当てられていた。

 

「糞!! 奴は何が重要であるのかが分かっているのか!? だが例え我々が役立たずになろうと、まだタイガーの主砲もある!! ウィッチがいる……そういえばウィッチの姿が見当たらないぞ!?」

 

 カールスラントの砲兵将校が双眼鏡の向きを百八十度反転させ、レンズには街の情景を捉えるようにすると、四人の若年ウィッチが陸戦用のユニットを穿いて南門へ向かい走っているのが見えた。四人の内三人は見覚えがある三〇一装歩団の子達だと分かったが。もう一人、トサカのような赤い毛を後頭部に生やし、真っ白な羽毛が腰からはみ出しているウィッチがいた。見慣れない三色迷彩のユニットを穿き、手に軍刀拵えである扶桑刀を抱えて走っている。

 

先ほどライヒ少佐が自らの乗車から発した無線で行っていた『扶桑のウィッチ』なのだろうか。ここ、トリポリも随分とウィッチが多くなったものだ。ノイエ・カールスラントへ無事に逃げた家族に自慢の手紙でも書いてやろうか、町の砂を詰めた瓶も同封してみようか……

 

 カールスラント・アフリカ方面軍第二八高射砲連隊・第一中隊砲兵将校、セアド・バスナーは四人のウィッチ達に自分の娘達の面影を重ね合わせ、一瞬だが自分がかなり危険な状況だと言う事を忘れてしまった。既に第三砲座もネウロイのビームにより砲を破壊され、ネウロイは己が第三目標に割り当てた第一砲座へと照準を合わせていたのだった。

 




アールグレイ
=ベルガモットを使い柑橘類の芳香をつけた紅茶で、フレーバーティーの一種。
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