‐STRIKE WITCHES‐[戦車と魔女・Panzer-und-Hexe]   作:白岩

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空を飛べなくても

 多々ある種類の銃弾にしろ砲弾にしろ、この世ではたった三つに分類できる、目標に当たった弾と当たらなかった弾、目標に当てなければいけない弾だ。前者は銃を射撃し是を遂行することによって、今日を生きるのに必死でウィンチェスター銃を持って走り回る猟師なら今夜のメインディッシュを獲得し、警察官ならスナッブノーズ(獅子っ鼻)な回転拳銃で中心に穴をポッカリと撃ち抜いた標的紙を同僚に自慢し、スプリングフィールド小銃で二十ヤードの標的を狙う新兵なら上官に後ろからケツを蹴られなくて済む。もし彼らが標的に撃つ弾を外してしまったら?

 

 猟師なら今夜の夕食が質素になって家族に怒られるし、警官なら同僚に茶化され金輪際ネタにされる、新兵なら上官にケツを蹴り飛ばされた上にグラウンド二周の罰を貰うだろう。

 

 では、当てなければいけない弾とは何なのだろうか。それは戦車から撃たれる砲弾が代表となる。今日に於ける戦車戦では、初弾を必ず命中させるのが大切となる。敵に出会った時、初弾を外してしまうと敵が戦車なら反撃のチャンスを与えてしまうし、対戦車兵の集団なら後は神に祈るしかないだろう。何にせよ、物事を首尾良くこなすには早い内が良い。

 

 

 ネウロイに向け放った徹甲弾はいとも容易く頭部にあたるバルーン状の球体に大きな穴を穿った。ゴルフボールほどの大きさになった穴の奥からは小さな空が見え隠れしている。

 

「当たった!! この勢いなら勝てる!」

 

[牽制成功で浮かれるのも良いが…あいつの狙いは完全に俺達へ移行したようだな…さぁどうする? お友達]

 

ネウロイが持つ自然治癒装甲により一美が開けた穴も数秒後には跡形すら残っていなかったが、一美は確かな手応えを感じていた。

 

「決まってるでしょ!! コアがある場所を探して、一気に弾を撃ち込むの! 教科書通り、まずはネウロイの広範囲を削れる弾が必要だけど…飛行隊みたいに散弾銃使用者(マタギ)がいる訳無いし…」

 

 訓練生時に読んだ教科書通りに奇襲戦闘を行えば必ずネウロイに勝利できる。そう教官に言われたことを思い出したのだ。後は彼女が覚えている限りの戦闘法で戦えば良い。

 

[良し、わかった。直ぐに物陰に隠れてくれ…榴弾が有るからそいつで代用出来ないか?]

 

 腰に提げたカーキ色の鞘に納められた九五式軍刀から吾郎が指示を出し、ネウロイに突進する一美を一旦ジープの影に隠れさせる、一美の動きが十分に静止した後、四七ミリ砲に装填されている砲弾が徹甲弾から榴弾へ『ジャコン』と湿った金属音と共に切り替わる。幸いにもネウロイは頭部に攻撃を受けた事は認識していても、一美の存在には全く気づいていないようだった。ネウロイに見えているのは稼動不能となった戦車から乗員三名を救出しているウィッチ二名だけらしい。そして戦車兵達は最優先攻撃対象にもなっていない。これでネウロイの狙いがトリポリに到達する事だと言う事がわかる。

 一美はジープに載せられていたブリタニア陸軍の鍋みたいな鉄帽を拝借し、それを頭に被る。胸当てや腰板を装着してこなかったのは誤算だったが、どうにか頭の防護だけはすることが出来た。

 

[オーケイ、ヤツはこっちにノーマークだ。仕掛けにいこうぜ]

 

「よし…やらなきゃ…いつかはこうなる時がくるんだから…それが偶々今日だっただけ…」

 

 そう小声で自分に言い聞かせてからジープの影から颯爽と飛び出し、ネウロイの四角い胴体に四七ミリ砲を向ける。引き金を右手の人差し指で引いた瞬間、低く唸る砲口から榴弾が放たれた。榴弾はネウロイの胴体に命中、着弾点を中心に浅い窪みを作り上げる。ネウロイにとっては予想外の攻撃だった。まさか自分の真下に敵がいるとは思わなかったのだから。

 

「見つけた!! 頭と胴体のつなぎ目だ!! 榴弾から徹甲弾に変更! 一気にぶっ放すよ!!」

 

[そいつは問題なし。ヤツの脳波を水平線(フラットライン)させてやれ]

 

 榴弾の破片によってネウロイの表皮が剥がれた時、頭部と胴体の間で僅かに光る箇所があることを一美は見流さなかった。すぐさま砲を構えなおし、第二射を放つ。

 鋼鉄製の徹甲弾は少し狙いが逸れ、ネウロイの頭部にまた命中した。これには流石にネウロイも目標を変更したらしく、頭部の球体を捻って一美を探し始めた。ネウロイとの距離はほんの十数メートル、一美は簡単に捕捉された。

 

「(まずい…シールドの張り方を忘れちゃった……どうしよう…)」

 

 ネウロイは一美がいる方向に向き直り、表皮上に配置された幾つものレーザー発射補助機から頭部の先端めがけて細いレーザーを収束させる。集められた光が空に放たれた時には、彼女も跡形も残らないだろう。 そんなレーザーが目の前から向かってくると思った一美は腰を抜かしてしまった。

 

「こんな時、教官ならどうしたのかな…」

 

 一美が地面にへたり込み、腰を抜かしてから数秒が経った。ネウロイもビームを連射しすぎたせいか、次弾に時間が掛かるようだった。

 

「教官…中尉…やっぱり自分には軍人なんて無理だったんです…生意気ばっかり言ってごめんなさい…起床時間より早く起きて物音たててごめんなさい…あと迷宮入りした教官のズボンが洗濯中に無くなった事件の犯人は…」

 

 何とも微妙な走馬灯が駆け巡る一美の耳に電子的な雑音が入る。どこかの無線とインカムが接続された合図なのだが、それが一美を現実に引きもどす景気にもなった。

 

「すいません、それ私が犯……」

 

 誰も得しない自白が終わりきる前に一美のインカムへ通信が入る。

 

《頭の中で壁を作れ!! それを自分の前に突き出すイメージだ!!》

 

 低いながらも綺麗な声でそう指示がなされる。その瞬間、一美は両腕を前に出し、頭の中で目の前に大きな壁があると思い込む。そうすると一美の目の前に半径四メートル程の青白いシールドが出現したのだ。

 

「はい! できました!(その言葉…教官も同じ事を言ってた気がする。誰なんだろう…)」

 

 その瞬間、ネウロイから真っ赤なビームが放たれたが、一美のシールドにあっさり跳ね返された。一美はその場から微動だにしない事から、ルチアが張ったシールドより大きさも強度も卓越しているようだ。

 

《よぉし! そいつはビーム発射から次弾発射まで時間がかかる、一気にカタをつけろ!! やれるか!?》

 

 通信の向こう側では兵士や住民の歓声も聞こえてくる。皆が共通語のブリタニア語ではなく、故郷の言語で自分を応援してくれている。その事が一美のネウロイに対する恐怖心を払拭した。

 

「はい!! やれます!!」

 

 ネウロイの真正面に立った一美は右手に携えた四七ミリ砲をネウロイの頭部と胴体部に向け、狙いを合わせる。思いのほか手ブレが無いのは吾郎が補正を加えているのだろう。十分に気持ちを静めてから引き金を引く。徹甲弾を迎え入れるネウロイも自身の最後を感じ取ったのか、徹甲弾がネウロイのコアを砕く瞬間までも回避行動を一つもとらなかった。

 コアが砕かれた音と共にネウロイの全身は無数の光る粉となって地面に降り注ぐ。一美は右手に持つ戦車砲を砂地に放り、呆然と空を見上げている。

 

「空を飛ばなくても…守れる物はあるんだね…」

 

 ベルトに提げた軍刀の柄を握る左手が震える、鞘と刀身がぶつかり合いカタカタと小さな音が鳴る。左手に釣られて上着の裾を掴んでいた右手も震え始めた。一美は我慢していた恐怖心を解放したようだ。

《初戦闘で初撃墜とは…しかも中型ネウロイだぞ…流石は扶桑のウィッチって事か…マリア! あいつを回収しに行くぞ! あの勢いならすぐに寝ちまう!》

 

 インカムから聴こえる声は次第に遠くなる、一美はミヒルが予想した通り、空を見上げたまま背中から倒れ、暖かい砂のベッドの上にそっと目を閉じた。

 

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