ブルアカ未プレイのくせに調子乗りました。だけど妄想が止まらなくなってついやってしまった。
ミリタリー色が強いと思うのでその点気を付けてください。
自分の名を呼ぶ鋭い声に、これ以上ないほど眉間に皺を寄せつつも、徐々に意識が覚醒してくる。
『…先生、お目覚めになられてください』
サングラス越しに最初に見えたのは、ゲームやアニメでしかお目にかかれない、長く尖った耳を持った、白を基調とした制服を纏うエルフらしき女性。
メガネをかけており、知的な雰囲気を漂わしている。中々の美人だ。
「…少々待ってくださいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは。夢でも見ていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。」
知らない場所に放り出され、表に出していないだけで内心戸惑っている状況だというのに叱責され、軽い苛立ちを覚える。
「もう一度改めて今の状況をお伝えします。私の名前は七神リン、学園都市『キヴォトス』の連邦生徒会所属の幹部です。そしてあなたはおそらく、私たちが呼び出した先生…のようですが」
「…『ようですが』だと?」
『学園都市』、『キヴォトス』、『連邦生徒会』…全く身に覚えがないし、何れも初めて聞く単語だ。
(…吐かせるか?)
腰には刀身長60センチ少しの、研究開発班が作った特殊な直刀、ショルダーホルスターにはオートマグ、背中には布製のライフルケース、フックショット、予備弾薬、暗器複数。
戦闘時によく身に着けている装備だ。どれも完璧な状態であり、今すぐにでも使える。
近接格闘と併せ、彼女を拘束、尋問するかと物騒な考えが浮かぶ中、リンは話を続ける。
「…ああ。推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです」
「…何だそれは」
此方のことをあまりにも知らなさ過ぎる彼女へ、逆に呆れてしまう。怒鳴る気にも、銃を突きつける気にもなれない。
それに、素性の知れない怪しい人物を疑いなく部屋に上げるとは、セキュリティがなっていないな。
「混乱されていますよね。分かります。こんな状況になってしまったことを、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください」
イライラしつつも、取り敢えず彼女の後を着いていくことにした。
見た感じリンは戦いを知らない官僚タイプの人間であり、制圧は容易に思えたが、今の状況を説明できる人物であることに間違いない。情報を聞き出すためにも、今のところは得物を抜かないことにした。
「こいつは…」
黒い革ロングコートのポケットへ両手を突っ込みながら、リンの後ろを付いて歩く途中、エレベーターから見える景色に絶句する。
高層ビルの群れと、透き通るように美しい空と川はまだ分かる。だが、前者の奥には一筋の光が天に向かって伸びていた。
よく見れば根本が地に着いておらず浮いているし、そもそも現代の技術でこのような天を貫かんばかりの高層建築物が建てられるとは思えない。
(反重力技術か?そんなSFじゃあるまいし…。未来にでも飛ばされたか?)
たどり着いた結論は、そんな非現実的なもの。インターネットのコンセプトアートでしか見たことのないような近未来的な街並みは、これまで世界中を回ってきた身でも見たことがなかった。
…一体、誰が何の目的で俺をここに連れてきたのか。
「まずは、簡単にキヴォトスの概要を説明しないといけませんね。ここキヴォトスは数千の学園が集まってできている学園都市です。そして、これから先生の職場となる街です」
どうやら、ここで働くのは決定事項らしい。それにしても学園都市とは。
「都市の運営を生徒がやっているのか?」
「その認識で構いません。各学園に高度な自治権が与えられています。そして、全体を統括しつつバランスを取るのが、我々連邦生徒会です」
そんなアニメや漫画のような場所があるのか。
リンは見た感じ高校3年生…下手すれば高1が都市運営に携わっているのだろうか。高校生なんて青春してなんぼだろう。
そういえば、アニメ好きな部下の一人が、『学園アニメあるある』の一つに『無駄に地位が高い生徒会』を挙げていた。ここにもそんな組織があるのだろうか。
「キヴォトスの外とは勝手が異なるので戸惑うこともあるでしょうが、先生ならそうかからず対応できるでしょう。あの連邦生徒会長がお選びになった方ですからね」
どうやら、この俺をキヴォトスに呼び寄せたのは、連邦生徒会長という肩書を持つ誰からしい。名称的に、このキヴォトスで一番の権力者だということが察せられた。
そいつが俺を選び、この世界で先生として働くよう仕向けた…と。色々な依頼を受けてきた身だが、こんな強引なクライアントは初めてだ。
(…依頼ってことでいいな?連邦生徒会長とやら。報酬は期待してるぞ?)
一刻も早く元の世界へ帰る手段を探さねばならない。仲間たちも心配していることだろう。
しかし、現状世界を渡る手段は分からないし、見つけるにしても相当の時日を要する可能性もある。それに、困難にぶち当たった際はまず落ち着くことだ。
それに、少々無理やりだが依頼された身である。仲間たちがいないのは少々心細いが、呼ばれたのが俺だけというのなら仕方ない。
取り敢えず、事が全て済んだら連邦生徒会長を探し出し、依頼料をたんまり請求することにした。これでもいち経営者であるため、そこのところは徹底している。
それに加え、急に呼び出された迷惑料も取っておきたいところだ。
「…ところで先生。その武器は…」
「俺は、荒廃した世界で民間軍事会社の代表をやっていた。元は俺を含め数十人程度の小さな組織でな、前線でこいつ等を振るっていた。最近は頼りになる仲間も増えて、戦うことは減ったが」
腰から下げる直刀と、背負っているライフルケースを見たリンの言葉に、昔を懐かしむように俺は言った。
核戦争の火蓋が切られ、世界が荒廃、人が住める領域が狭まり、国と言う国が国家としての体を保てず、世界中が内戦だらけとなった世界。各国は一部の大都市や工業地帯しか防衛をしなくなり、代わって民間の軍事会社が多く生み出された。
俺は孤児であり、物心ついた時から軍の教育施設で育った。15歳で入らされた年少訓練校で優秀な成績を収め、教官だった有力な将校に目を付けられて最重要機密部隊へと入隊。
だが、非人道極まりない実験を繰り返し、戦場では捕えた捕虜を虐殺したり実験のモルモットにするのを強い、それでいて待遇も最悪。
そんな環境に嫌気が差し出奔、同じく抜け出した同志たちと共に、小さな傭兵組織を設立。
当初こそ上手くやっていけるか危惧したものの、世界中内戦だらけであり、あちこちで軍事力を欲している勢力が存在している状況下。軍事に関わる様々な依頼が立て続けに舞い込み、それらを地道にこなしつつ仲間も増やしていった結果、いつの間にか千人を超える人員と比較的新しい装備が揃う、小国の軍隊を凌駕するほどの一大軍事企業になっていた。
裏社会を取り仕切る巨大犯罪組織とは何度も戦火を交え、親と子程歳の離れてるその首領から懸賞金を掛けられるなど、とにかく多忙であったが、今となっては懐かしい。
「…なるほど。ですが先生、絶対に後方へいてください」
神妙な面持ちで、それでいて絶対的な意思を感じさせる口調でリンが言った。
「…一応聞いておく。何故だ?」
「先生がいなくなってしまったら、このキヴォトスは崩壊してしまいます。先生の命は、先生が思っているほど軽くはないのです」
生徒が都市運営をしているという時点で薄々察していたが、どうやらキヴォトスに俺以外の大人はいないらしい。…いや、存在しない?
それほど大人が貴重な存在なのか…俺は成人しているとはいえ、22歳の若造だぞ。
「…分かった。心に留めておく」
…まぁ、戦ったとしてもそう簡単に俺は死なないが。
胸中で思いを巡らしている間に、エレベーターが停止し、階数を示すメーターが1を示した。
開いたドアを潜るリンの後を付いて行くと、そこにはたくさんの少女たちが集合しており、ざわざわと騒いでいた。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
「主席行政官、お待ちしておりました」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています」
人ごみの中から、3人の少女が出てきてリンを問いただす。
青髪の、MPX-Kサブマシンガンを2丁携えた少女、エンフィールドと思しき古臭いボルトアクションライフルライフルを構え、漆黒と真紅が混じった制服を着こなす黒髪の少女、眼鏡をかけ、大きなバックとモーゼルC96に酷似した拳銃を持った少女。
いずれも、下手な大人よりしっかりしていそうな者ばかりだ。まだ学生だというのに。
…3人だけでなく、ここにいる少女全員が銃を持っている。皆銃をスマホか何かと勘違いしてないか?
「あぁ…面倒な方々に捕まってしまいましたね…」
分かりやすく嫌な顔をするリン。この様子だと、過去にも色々と言い合っていたのだろう。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。こんな暇そ…大事な方々がここを訪ねてきた理由はよくわかっています。今、学園都市で起きている混乱の責任を問うために、でしょう?」
口調こそ丁寧であり、笑顔を浮かべているものの、明らかに不機嫌そうだ。どれだけ仲が悪いんだ。
「そこまでわかってるなら何とかしなさいよ!連邦生徒会なんでしょ!?数千もの学園自治区が混乱に陥ってるのよ!?この前なんか、うちの学校の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
これでもかとリンに食って掛かり、問い詰める青髪。言っていることは至極正論だ。
ふむ、自前の発電所が自治区内にあるとは、中々充実しているな。学園都市。
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱走したという情報もありました」
「不良たちが登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています」
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しています、これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます」
C96の少女と、SIG MCXを持った銀髪の少女、エンフィールドの少女が、各々状況を報告する。
発電所が止まる、脱走者が出る、不良が暴れる、武器の不法流通が20倍…流石の俺も嘆息してしまう位には混沌としている。
それでも、彼女たちは冷静に事実だけを述べていた。こういった荒事への慣れが伺える。
同時に、キヴォトスの治安の悪さも。紛争地帯に生身で行くより危険じゃなかろうか。
後、当たり前のように彼女たちの頭の上に天使の輪のようなものが浮かんでいる。羽や角を生やした生徒もちらほらと。
まさか、あの世か何かか?
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
青髪をはじめ、少女たちがリンへ詰め寄る。俺も事情を聞きたいところだし、リンへ視線をやって連邦生徒会長と会わせてほしいと目で訴える。
「…連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「あ?」
思わず声が出てしまった。大統領や首相…とにかく国のトップが失踪したに等しい状況だ。
…どうやら、思った以上に事情は複雑らしい。
「えっ!?」
「!!」
「やはりあの噂は…」
やはりというべきか、驚きを隠せない少女たち。
「結論から言うと『サンクトゥムタワー』の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。認証を迂回できる方法を探していましたが、そのような方法は見つかっていませんでした…今までは」
「つまり、今では方法があるということですか?」
黒髪ロングの少女の問に、なぜかリンは此方へ視線をやった。
「はい。この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです」
ここで俺か。
しかし、サンクトゥムタワーとかいう場所の認証方法など知らない。俺ができるという確証があるのだろうか。
「…!?」
「…!」
「この方が?」
少女たちが一斉に俺を見る。…どこか不審者を見るような目だ。
サングラスをかけ、黒いマスクで口元を覆っているため、確かにそう見えるのも無理はない。
「ちょっと待って、そういえばこの先生はどなた?どうしてここにいるの?あと…その怪しすぎる恰好は…?」
「キヴォトスではないところから来た方のようですが…先生だったのですね」
「はい。此方の方は、これから先生としてキヴォトスで働く方であり、連邦生徒会長が特別に指名した人物です。また、此方に来る前は民間軍事組織の代表を務めていたため、このような恰好をしています」
「行方不明になった連邦生徒会長が指名…?ますますこんがらがってきたじゃないの…いやいや、元民間軍事組織の代表が先生?どういうことよ…。それに、その恰好が正装なの…?」
彼女の疑問は最もだ。
学校の担任が元民間軍事組織の代表とか色々とおかしい。普通なら生徒も反応に困るだろう。
ともあれ、自己紹介のチャンスだ。
「…俺は"ゼウス"。本名じゃないが、諸事情で名前は捨てた。好きに呼んでほしい。正直、俺も状況を掴みきれていない。ここでの常識等、色々教えてくれ」
軍にいたときに与えられ、名乗っていた名前は、クソみたいなことを思い出してしまうとして、俺を含めた全員が出奔と同時に捨てた。新しい人生を送るための気持ちの整理という意味合いもあった。
「こ、こんにちは、先生!私はミレニアムサイエンスサークルの…い、いや!今は挨拶なんてどうでも良くて…!」
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと…」
「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
青髪は早瀬ユウカというらしい。覚えたぞ、日本風の姓名なんだな。リンに対し激昂しつつも自己紹介を忘れないとは、律儀な少女である。
しかし、下半身を結構鍛えているのか、太ももががっしりしている。
「続けます。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問として此方に来ることになりました。連邦捜査部『S.C.H.A.L.Eシャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在するすべての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘行為を行うことも可能です」
それはまた、大盤振る舞いなことだ。『戦闘行為が容認されている部活』なんて言葉を聞くのは初めてである。
しかし、彼女たちが戦うのか。正直、年端もいかない子供の兵士なんて見飽きているが、やはり心に来るものがある。
「シャーレの拠点となる部室はここから30キロほど離れた外郭地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます。詳しくはそれを先生にお渡ししてからとなりますが、まずはそこまで先生をお連れする必要があります…モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど」
30キロか。それ位なら走っていけるな。
『シャーレの部室? あぁ、外郭地区の?そこ今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ?」
『矯正局を脱走した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ』
「…うん?」
『あ、あとさっきシャーレがある建物の辺りが一瞬光ったんだよね。まさか爆撃機でも出してきたのかなぁ~?』
ホログラムによって浮き上がった、リンの後輩と思しき桃髪の少女は、スナック菓子を食べながら目的地周辺の状況をそう報告した。
爆撃機を操る女子高生とかいうパワーワードに、少々頭痛を覚える。まさかB-1やTu-160なんかを繰り出してきたのか?
『…んまぁ、それはそれとして。地域の不良たちを先頭に、周りを焼野原にしているみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?それで…どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしているらしいの。まぁでも、もうとっくに滅茶苦茶な場所なんだから別に大したこと…あっ、先輩。お昼ご飯のデリバリーが来たから、また連絡するね!』
この少女は事の重大さを分かっているのだろうか。
不良が戦車を持ち出し、爆撃機すら使用されている可能性があるというのに、肝が据わっているのか、単なる楽天家なのか。
ホログラムが消え、怒りに震えたリンが虚空を睨みつけている。…これではダメだ。
「落ち着け。そんなに睨んだところで状況は改善しない」
「は、はい。分かっています」
俺の助言を素直に聞い入れ、リンは深呼吸することで幾分落ち着きを取り戻した。激昂して判断力が低下するのは悪手だからな。
…と、リンはユウカたちに視線を送っている。俺は彼女の考えをある程度察した。
「な、何?何で私たちをジッと見つめてるの?」
「いえ。ちょうどここに各学園を代表する立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです」
「…えっ?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう」
やれやれ、腹黒いというか何というか。ユウカたちに不良共の対処をやらせる気だ。
使用弾薬も各人でまちまちであるし、どうやら彼女たちは普段からこの組み合わせで戦闘をしたことはないらしく、連携も不安が残る。俺としては、この状態で戦場へ向かうのは不安が残る。
「ちょ、ちょっと待って!どこ行くのよ!?」
反論も聞き入れず、スタスタと歩き始めてしまったリンをユウカたちが追いかけ、その後を俺が付いて行く。
さて…仕事の時間だ。
感想いただけると幸いです。