超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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一応、"エリュシオン"は『正規軍並みの装備』を保有しているっていう設定だけど、それだとPMCっぽさというか、傭兵っぽさがなくなっちゃうかなぁ…。
トラックの荷台に榴弾砲ポン乗せとか、ガントラックとか…。
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狐の初恋

――ドォンッ!!ドォンッ!!

 

「くぅ…っ!」

 

 まるでハンドガン感覚で、全長2メートル越えの対物ライフル『IST-15.5』を片手で連射するゼウスの射線から、必死で逃れるワカモ。

 百メートルも離れていないのだ。もし被弾すれば、キヴォトスでも指折りの実力者である彼女でも危ない。

 

(あのような大型の得物を、まるで拳銃のように扱うとは…それに、なんて正確な射撃…!)

 

 ゼウスは先の不良たちとの戦いで用いた弾丸避けの要領で、ワカモの脚や服の動き、読心によって正確に未来位置を予想、動作を先読みして発砲するため、射撃精度は非常に高い。剛腕による完璧な反動抑制も、精密射撃に拍車をかけている。

 身体能力をフルに使い、辛うじて避けてはいるものの、気力と体力は消耗するばかりだ。

 

(中々、上手く避けるな)

 

 一方のゼウスも、ワカモを高く評価していた。

 動きを先読みして放つ己の射撃を、アクロバティックな動きで躱し続けるなど、"エリュシオン"の上級幹部以外ではありえない。

 先ほど、一瞬の隙を衝いて虎口を脱したことといい、ワカモは膂力任せに暴れ回るだけでなく、戦闘の技術も相応のものを持っている。それは、認めざるを得なかった。

 

――カチッ…

 

 引き金を引くが、無機質な金属音が小さく響く。15.5×116ミリ弾を7発収めたマガジンが、空になった証だ。

 リリースボタンを押して空になったマガジンを落とし、新たにそれを取り出す。

 しかし、そんな絶好のチャンスをワカモが逃すはずがない。

 

(今ですっ!)

 

 地面を蹴り、姿勢を低くした状態で小銃を構え、突進する。肉弾戦に持ち込むのだ。

 それに気づき、リロードを中断しマガジンを投げ捨てたゼウスが左手でオートマグを構え、発砲する。1発目はワカモの右肩を直撃、2発目は左脇腹を掠めるように命中し、激痛を与えた。

 

「うぐ…っ!!」

 

 しかし、構わずに彼女は突進を続ける。

 "シャーレ"部室の地下にて5発を発砲していたため、装弾数7発のオートマグは弾切れだ。

 前傾姿勢を維持したまま目にも止まらぬ速度で肉薄し、銃剣を突き立て…

 

――ドスッ!!

 

「がはッ!?」

 

 …る前に、背中に衝撃と激痛を感じ、直後に地面へ叩きつけられた。

 ゼウスがIST-15.5を振り下ろし、長大な銃身でワカモの背中を打ち据え、叩きつけたのだ。

 IST-15.5は、ゼウスの無茶苦茶な白兵戦に対応できるよう、"エリュシオン"の研究開発班による改造が施されており、今のような手荒な扱いをしても平気だ。

 その分、重量は40キロと個人携行火器としては破格の重さになったが、ゼウスにとっては鳥の羽も同然の軽さであり、扱うのに不自由は全くない。

 

――ドゴォッ!!

 

 地に伏したワカモを、震脚の要領で踏みつけるゼウスだが、彼の靴裏が後頭部に触れる前に、ワカモは横に転がって窮地を脱した。

 空振りしたゼウスの足が道路を踏みつけるや、アスファルトの地面が足形に1センチ程陥没し、踏みつけた箇所を中心にひび割れが広がる。もし喰らっていたら…と想像したワカモの額に汗が流れた。

 避けたのはいいものの、その隙にゼウスはリロードを終了し、再びIST-15.5を構えていた。

 

――ドォンッ!!ドォンッ!!

 

「く…っ!!」

 

 そして、大口径弾の連射が始まる。

 ワカモは先ほどと同様回避を続けつつ、隙を見て射撃を続ける。

 発砲の度に瞬時にボルトを操作し、半自動小銃でも撃っているのかと思わせる連射速度で放たれた7.7ミリ弾が、次々とゼウスの肩や腹、腕、脚に着弾していく。

 だが、ゼウスは動じない。痛みに悶えるどころか、ぐらつきもしない。

 

(本当に何なのですか、この方は…!)

 

 動きを見切っての正確な銃撃、内懐に潜り込まれても余裕で対処する戦闘技量、己を凌駕する膂力、そして何発もの銃弾を受けて小揺るぎもしない頑丈な身体。

 あまりにも滅茶苦茶な相手に、ワカモは動揺を隠せない。

 

(撃ってばかりじゃ味気ないな…)

 

 不意にそう思い立ったゼウスは、片手で構えていたIST-15.5を両手で持ち直すと、地面を蹴って突進する。

 唐突に射撃を止め、長大な対物ライフルを振りかぶって肉薄してきた彼に目を剥いたワカモだが、俄然受けて立った。

 

――ガキィンッッ!!

 

 IST-15.5の先端に取り付けられたダガーと、九九式短小銃(真紅の災厄)に取り付けられた銃剣がぶつかり合う。

 両者の間を起点に衝撃波が発生し、塵が舞い上がった。

 

「くうぅぅ…ッ!!」

 

 だがやはり、膂力ではゼウスが上だ。数秒程鍔迫り合いが続くも、直ぐにワカモが押し返され、派手に靴裏を地面と擦りながら後退る。

 それを猛追し、ダガーの乱れ突きを繰り出すゼウス。紙一重でそれらを躱し、内懐に飛び込もうとするワカモだったが…。

 

――ギィンッ!!

 

 左手で抜き放った高周波ブレードで銃剣の剣戟を受け止め、受け流す。

 逆手で薙ぎ払うように振ると、ワカモは咄嗟にしゃがんで躱し、何やら懐を漁る動作を見せた。

 ワカモがどんな手段で攻めてくるのかを、実のところ楽しみに感じていたゼウスは、一瞬彼女の策に引っ掛かってやろうかと思った。しかし、ここは自身の常識から外れた異世界であり、自身を殺し得る未知の攻撃方法があるのではないかと考えたゼウスは、ワカモの腹へ蹴りを見舞う。

 

――ドゴォッッッ!!

 

「がはッ!?!?」

 

 ゼウスの蹴りがワカモの腹を真正面から穿った瞬間、まるで迫撃砲が着弾したかのような轟音が響き渡り、蹴りの衝撃が周囲の砂塵を吹き飛ばす。

 少女の身体はひとたまりもなく宙を舞い、十数メートル離れた瓦礫に突っ込んだ。

 

「…ほう」

 

 しかし、吹っ飛ばされる直前に、ワカモは攻撃を成功させていた。懐から取り出した手榴弾を、首尾よくゼウスの足元に転がせたのだ。

 

――バアァンッ!!

 

 彼から1メートルも離れていない地面で、手榴弾が爆発する。灰色の煙と砂塵が、ゼウスの姿を薄っすらと隠した。

 

「「「先生ッ!!」」」

 

「だいじょぶだいじょぶ。あんなどこにでも転がってそうな手榴弾じゃ倒せないって」

 

 思わず悲鳴を上げる生徒たちだが、ハデスをはじめ"エリュシオン"の面々は動じない。寧ろ、「あの子やるなぁ~」とワカモの腕前を評価する声が出る有様だ。

 事実、ゼウスは飛び散った手榴弾の弾片や爆風を浴びても、先と同様全く動じない。

 

 そんな周囲を他所に、手榴弾の炸裂で多少は怯み、視界も塞がれているだろうと考えたのだろう。頭上のヘイローを一層輝かせたワカモが瓦礫の中から立ち上がり、愛銃を両手で構え、先と同様ボルトアクションライフルとは思えない速度で乱射しながら、爆炎の中に佇む人影の元へと、目にも止まらぬ速度で走り寄る。

 

「はぁッッ!!!」

 

――バキッッッ!!

 

 ゼウスの右頬に、フルスイングされた銃床が炸裂した。ゼウスの首は90度左に曲がり、サングラスの片方のつるが耳から外れる。普通の人間なら首の骨が折れて即死…を通り越して、頭と胴が泣き別れしているだろう。

 直角に曲がったゼウスの首が、妙にゆったりとした動きで正面を向き、振り抜いた小銃を持ったまま固まるワカモを見下ろし、互いの目が合った。

 

「………あぇ…!?!?///」

 

 サングラスがズレたことでゼウスの目元が露になり、全貌が明らかになった顔を見たワカモは、仮面越しでも分かるほどの動揺を見せ、何故か頓狂な声を上げる。

 そんな隙だらけなところを見逃すわけもなく、ゼウスの左手による掌底打ちが彼女の腹へ叩き込まれ、これまた迫撃砲の着弾を思わせる衝撃音を響かせた。

 

「がはぁッッッ!?!?」

 

 肺の中の空気と唾液を吐き出し、猛速で吹き飛ぶワカモ。ビルの外壁を突き破り、屋内の備品を滅茶苦茶にしながら、床を転がっていく。

 止めを刺すために、そのビルへ入ろうとしたゼウスだったが、自らの相棒の声が、その歩みを止まらせた。

 

「お、おいゼウス!上!さっきから何か浮いてるぞ!?」

 

 ハデスの言葉に、反射的に頭上を向く。

 花弁が一部欠けた赤い花が、ゼウスの直上に浮かんでいた。ホログラムの類でもなさそうだ。どんな原理で起こっているのか、全く分からない。

 どんなときでも基本冷静なゼウスだが、このときばかりは本気で状況が理解できず、ポーカーフェイスを作りつつも内心では疑念でいっぱいになっていた。

 その間にも、残り2枚となっていた花弁の1つが散り、消滅する。

 

(何だ…?全部消えたら何か起こるのか?)

 

 心の中で仮説を呟いた瞬間、最後の花弁が散った。

 

――ドゴォォォォォォンッ!!!

「「「先生ッッッ!!!」」」

 

 刹那、轟音と共に爆炎が上がり、ゼウスの視界を業火が覆い尽くした。

 

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「はぁ…はぁ…」

 

 ゼウスにより建物内へ放り込まれたワカモは、何とか裏口から脱出し、よろめきながら人気のない路地を歩いていた。

 戦闘により散々痛めつけられ、露出した肌は汚れと擦り傷、痣だらけ、口と額から血を一筋流し、服も所々土で汚れ、被弾の痕が残っている。狐の面も左半分が欠け、片目が見えていた。

 力なく、手近な段差にドサリと腰かけ、思い切り息を吐く。

 自らのスキル(神秘)を用いることで、やっとのことで戦場を脱することに成功したわけだが、流石に疲労困憊だ。

 

「思わず撃ってしまいましたが、あの方なら大丈夫でしょう…」

 

 ヘイローのない大人に、先のような大規模攻撃など普通なら過剰もいいところだろうが、実際に相まみえてみて、あの程度じゃ死なないだろう…と直感していた。

 …と、ワカモは欠けた仮面を取り、両手で顔を抑えたかと思えば、クネクネと身体を揺らし始め、狐耳も尻尾もへにゃへにゃになったりピンっと逆立ったりを繰り返す。手で隠れていない部分の顔は、リンゴのように真っ赤だ。

 

(はぅ…///何ということでしょう、あんな状況で、こ…この私が、惚れてしまうだなんて…///)

 

 そう、ゼウスに一目惚れしたのである。

 健全(?)な18歳、色恋に敏感になるであろう歳だ。しかし、さっきまで散々殴られ、蹴られ、投げられ、叩きつけられ、撃たれたというのに、そんな因縁だらけの相手へ惚れるなんて…と、普通ならそう思うだろう。

 だが、戦闘のどさくさで露になったゼウスの素顔は彼女にとって、そんなことなどどうでも良くなるような威力を持っていた。

 ただ外面が良いだけでなく、自身を圧する力を持っていることも、彼への想いに拍車をかけた。

 

「あぁ…///これは困りましたね…フフ、フフフフフ…❤❤」

 

 こうして、"七囚人"が1人、孤坂ワカモの波乱に満ちた初恋が始まったのであった。

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――ブオッ…!!

 

 風切り音と共に対物ライフルを一振りし、その爆風で周囲を覆う炎と黒煙を振り払ったゼウスは、周囲を見渡し、ワカモは既に逃げてしまったことを悟った。

 

「中々の狐だな。…文字通りの」

 

 己を相手にし単独でここまで粘り、撤退に成功したワカモの手際の良さを、改めて評価した。そして、彼女を逃がした己の至らなさも噛み締める。右手に持ったIST-15.5を肩に担ぎ、ズレたサングラスを左手で外しながら嘆息した。

 そんなゼウスに、ハデスが歩み寄る。

 

「おっすおっす。相変わらず頑丈なようで何より」

 

「油断した。あのような攻撃方法は想定外だった」

 

「気にすんな。あんなオカルトな攻撃、誰が予想できるかよ」

 

 眉間に皺を寄せながら自身の不始末を嘆くゼウスを、そう言って宥めるハデス。

 なお、派手な爆発の中心にいたにもかかわらず、ゼウスはほぼ無傷であった。身体は勿論、"エリュシオン"研究開発班謹製の対爆・防弾・防刃コートも、多少裾が焦げた程度で、全くのノーダメージである。

 

「…な?大丈夫だったろ?」

 

 ハデスがにんまりとした笑みを生徒たちに向けた。自分の玩具を友達に自慢する幼い子供のようだ。

 

「「「…」」」

 

 当の生徒たちといえば、口をあんぐりと開けて呆然としていた。キヴォトスの外から来たヘイローを持たない大人が、自分たちでも苦戦は免れないワカモを圧倒していく様を、目の前で見せつけられたのだ。無理もない。

 その反応があまりにも予想通りだったため、ハデス他"エリュシオン"の面々はニヤニヤしている。

 

「あの、先生…?」

 

「…リンか。面倒事は片付けた。目的の場所へ案内してくれ」

 

 "シャーレ"の外壁に開けられた大穴から出てきたリンに、ゼウスはサングラスをかけ直しながら、改めて案内の続きを求めたのだった。




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