超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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久々な気がしますがこっちでも投稿します。


生徒が頼りにしてるなら

新たな土地へ召喚された本部の正門を潜り、車両置き場に停車したK151から降りた俺を出迎えたのは、世界各地から集った精兵――"エリュシオン"が誇る敏腕の兵士たちだった。

 

「総帥、よくぞご無事で!」

 

「信じていました総帥!」

 

「もう総帥に会えないものかと……ご無事で何よりです!」

 

 歩兵、戦車兵、整備兵、パイロット、技術者、給仕員…皆大切な部下であるのは勿論、"エリュシオン"という家族の一員だ。中には、号泣しながらゼウスの帰還を喜ぶ者もいる。ゼウスもまた、彼らの名を呼びながら自らを囲む仲間たちへ労いの言葉を投げた。

 

「お帰りなさい、総帥」

 

 ゼウスを呼び止める声。先のシャーレ奪還作戦にて、"エリュシオン"の戦闘部隊と合流した時と同様、兵士たちの群れがモーセにより割れる大海のように2つに分かれ、声の主に道を譲る。

 長いストレートの黒髪、漆黒の肩出しタイプのロングワンピース、余らせた袖、耳を彩るピアス、細められた目が特徴的な美女。

 

「さっきのゴタゴタの際は、お前が本部を守っていた…といったか。ご苦労だったな、テュポーン」

 

「いえいえ。やることをやっただけですから」

 

 穏やかな口調でそう言うのは、"エリュシオン"の最高幹部であるテュポーン。いつものほほんとした雰囲気を発しており、また外面も良く、男性兵士からの人気はレートーと並んで頗る高い。

 しかし外見に惑わされることなかれ、テュポーンは嘗て"エリュシオン"の敵対組織に雇われていた際、ゼウスと死闘を繰り広げたことがあり、彼の口元を引き裂き、生涯残る傷痕を作った張本人なのだ。

 まさに、神々の王(ゼウス)をも殺す怪物(テュポーン)。今や頼りがいのある仲間であるが、"エリュシオン"へ入隊したばかりの頃は、ゼウスの口元の傷がよく疼いていた。

 

「…この世界について、色々と説明しなければならないことがある。戦闘配置を解除、自由にしていい。部隊長以上は全員会議室に集まれ」

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

「――というわけだ。理解はできたか?」

 

 部隊長以上を集めた会議室では、ゼウスがこれまでに判明したキヴォトスに関する情報を、全員に共有していた。

 "エリュシオン"が敷地毎キヴォトスという別の場所に飛ばされたこと、ゼウスが先生として働くことになったこと、異常と言えるキヴォトス人の耐久、連邦生徒会長が残した"シッテムの箱"…挙げ始めたらキリがなく、説明し終わるのに1時間近くかかってしまった。

 

「正直、転移騒動については非科学的だと思っていましたが、流石に現実だと認めるしかなさそうですね…」

 

「女子高生が喧嘩代わりに銃撃戦とかどんな世界だ…」

 

「俺たちが来てもいい所なのか…?」

 

 ハデス、レートー、テュポーンを始め古株の幹部は何てことないかのように聞いていたが、経験の浅い者はその限りではなかった。

 オカルトとしか言いようがない現象に遭遇した上で、常識が通じない異世界へ放り出されたのだ。無理もない。

 

「一先ず、キヴォトスでの新たなビジネスを始め、財源を確保しなければならないが…そこは安心して欲しい」

 

 アロナ、とゼウスが呼んだ直後、着席しているゼウスの目の前に置かれたタブレット端末――シッテムの箱から、アロナのホログラムが浮かび上がった。

 

『はい先生、アロナです!』

 

「あら可愛い」

 

『…!?あ、ありがとうございます…うぇへへへ…///』

 

 無意識に漏れたテュポーンの呟き。それを聞いたアロナは赤面して俯き表情を緩め、手を後頭部に当てながら分かりやすく照れる。やはりアロナは、褒められるのに弱いらしい。

 なお、アロナは"シッテムの箱"の所有者…つまりゼウス以外には見えないのだが、そこを彼女に頼み込み、"エリュシオン"関係者に限り見えるようにすることに決まった。

 

『コホン…今現在、先生と"エリュシオン"の皆さんが戦っている動画がキヴォトスのSNSに拡散されています!』

 

「え~…あの時の俺、ヘアスタイルがキマってなかったんだけどなぁ…」

 

 愚痴るハデスを他所に、アロナが新たなホログラムを映し出す。

 戦闘の様子を上空から撮影したドローン映像、戦闘に参加したゲヘナ風紀委員へのインタビュー、"エリュシオン"の兵士や車両を遠巻きに撮影した映像等々…。

 チャットのリプレイ欄は、ひっきりなしに新たなコメントが表示されており、一文一文を真面に読むことはできない程の量。大勢のキヴォトス人が、この配信を視聴していた証拠だ。

 

「キヴォトスにも、前世界と同様に軍事力を必要としている組織は多い。そして、今回の俺たちの活躍により、"エリュシオン"の存在は全土に知れ渡ることになった。これを機に、ビジネスに繋げたいと思っている」

 

 この動画の配信が精々数時間前。にも拘わらず、多くの支援要請がシャーレ宛てに送られてきている。それだけ、各学園では問題が多発しているらしい。

 それだけで治安の悪さが伺えるし、そんなキヴォトスをこれまで纏めていた連邦生徒会長の手腕に感嘆してしまう。

 

「後、当面の食糧や燃料・弾薬についてだが…」

 

 ゼウスはそう言うとアロナへ目配せし、"シッテムの箱"と共に託された物の画像を映し出させた。これもまた、"シッテムの箱"と並ぶオーパーツ。

 

「クラフトチェンバー…という装置らしい。食料品からゲーム機、燃料、武器・弾薬、部品、美容品、家具、施設…基本何でも造ることができる物質精製器だ。燃料・弾薬・食糧の補給については、暫らくはこれを利用して行う」

 

『約8時間あれば、大抵の物を精製することができます!一度使った後はスリープモードに入るため、48時間のインターバルを置かなければなりませんが…』

 

「「「十分すぎるわッ!!」」」

『あわわわっ!?!?』

 

 あまりにもぶっ壊れな性能を聞いた会議室のほぼ全員の大声が唱和した。

 最も危惧していた補給の問題、それが一瞬で解決してしまった。歓迎すべき報告なのは確かなのだが、あっさりしすぎて逆に拍子抜けである。

 一度使えば48時間は使用不可というデメリットはあるものの、そんなものは小さな瑕疵でしかない。

 

「しかし、補給がクラフトチェンバーに頼り切りというのもマズい。そもそも、この装置は学園や生徒のトラブル解決に使用すべく託された代物だから、俺たちが独占するわけにもいかない。よって、どうしてもこの世界では手に入れることができない物資のみ、クラフトチェンバーを使用し補給する」

 

 そこまで言うと、ハデスへと目をやった。

 

「ハデス。全ネットワークを駆使して食料品企業や農家、弾薬、燃料、ガスの販売会社を見つけろ。最優先事項だ」

 

「はいはい。一応、相手が決まったらお前に通達しておくな」

 

 最終決定権はゼウスにある。"エリュシオン"で最も人を見る目がある彼が直々に商売相手と対談し、契約を交わす価値のある相手なのかを見極めるのだ。

 …とはいえ、色々とグレーな会社が過半を占めるキヴォトス。信用できる企業を見つけるのは、骨が折れるだろう。

 

「…とは言いつつも、俺たちはキヴォトスで使用できるPCも携帯端末も持ってないぜ?インターネット抜きで商売相手を探せってか?」

 

 苦言を呈するハデス。

 確かに、キヴォトスは地球の先進国と同等以上の情報社会が築かれている。

 

「安心しろ。キヴォトス規格の最新鋭PCをクラフトチェンバーで作っておいた。システムに関しては後日、ミレニアムサイエンススクールの生徒に構築してもらう。全員分のスマートフォンも、後日配布するからそれまでは辛抱していてくれ」

 

 なお、ミレニアムサイエンススクールの生徒たちは、ユウカの手引きで派遣されることになっている。彼女には後日、別の礼を贈ろうと決めた。

 

「クラフトチェンバー様様ですねぇ。総帥とクラフトチェンバーが揃えば、それだけで補給部隊ができちゃいます」

 

 相変わらずののほほんとしているが、確かな驚きを伴った口調でテュポーンが言う。

 

「やることは前と変わらない。依頼が来たら戦い、報酬を得る…心して任務に臨んでくれ。この世界では、俺たちの常識は役に立たない」

 

「「「了解!」」」

 

 そう言って締めくくる。幹部の全員が起立し、その一声が唱和するのだった。

 

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 "エリュシオン"での会議が終わった夜、ゼウスは1人シャーレのオフィスにいた。

 なお、ハデスが「ゼウス帰ってきたし飲み会しよーぜ!」と提案したが、物資不足の中下手に浪費はできないこと、異世界に召喚された上で戦闘を経験したこともあり、疲弊した兵士たちはすぐに寝床に就いている。

 

「…」

 

 明るく、開放感のあるオフィス――壁にはいくつか銃火器が掛けており、物々しい雰囲気を醸し出しているが――からは、D.U地区の夜景が一望できた。遠方には別の学園地区の明かりが見えている。

 天使の輪や星屑、弧月が浮かんだ夜空も相まり、極めて幻想的な光景である。

 『銃声を聞かない日はない』と言われ、利己的な大人たちが闊歩し、実情はかなり真っ黒なキヴォトスであるが、今はそんなことなど知らぬとばかりに美しく輝いていた。

 

(先生、か…)

 

 何とも似合わない職業だ、とゼウスは思った。確かに、その気になれば教授として大学に潜入できる程度には学があるし、高校レベルの勉強を生徒に教えるなど容易い。

 しかし、ゼウスの手は血塗れだ。殺めてきた数は1~2桁では利かない。

 今日指揮した生徒たちのような、幼気な少女を殺したことも山ほどある。そんな自分の正体を知った時、彼女らはどう思うだろう。朱に染まった手で、生徒たちを導けるのだろうか。ハデス辺りからは『面倒見が良い』とよく言われるが…。

 

『今日の指揮、本当にありがとうございました!今後ともよろしくお願いしますね、ゼウス先生!』

 

 純粋無垢な笑顔で礼を言うユウカの姿が脳裏に浮かぶ。

 自身の過去の所業がどうこう以前に、彼女たちは己を頼りにしている。寧ろ、先生としての役割を放棄することが問題だ…そう自らに言い聞かせる。

 

(今必要なのは、銃弾に耐える身体でも剛力でも、殺しの技術でもない。…生徒たちに寄り添う心だな)

 

 補給物資の申請、部の支援要請、落第生への特別授業、学園閉鎖の撤回嘆願…リンが持ってきた、ありとあらゆる問題が書かれたA4用紙が山積みになったデスク。

 

(俺みたいに、真面な青春時代を送れなかった…なんてことにはさせんよ)

 

 心中でそう決意を新たにする。

 漫画で見るような紙のタワーを一瞥すると、ゼウスはその内の1枚を手に取った。




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