砂上の楼閣
一台の装甲車が、頼もしいエンジン音を上げながら砂塵を巻き上げ、砂漠を疾走していく。
砂の粒子は細かく、普通の乗用車であればタイヤを取られて走行不能になってしまうところだろうが、270馬力のディーゼルエンジンを搭載し、空気圧を適切に調整したオフロードタイヤを装着した軍用の4WDは、重量12トンの巨体を問題なく前進させている。
「中々見つからないな…」
《う~ん…地図上ではもうすぐ学校が見えてくるはずなんですが…》
助手席のゼウスと、タブレットスタンドに固定されたシッテムの箱からホログラムとして出てきたアロナが唸っていた。
アビドス高校からの救援要請を受け、クラフトチェンバーで物資を用意。"エリュシオン"の腕利きエージェントを連れる等、万全な準備をしてきた。
「入念な準備も、無駄に終わっちゃったねぇ」
「言うな、エヴァ。俺もここまでとは思わなかった。『街のド真ん中で遭難する』なんてただの誇張だと決めつけた過去の俺を殴りたい」
「…いや、無駄ではないだろう、総帥。アンタが余分に物資を詰めたお陰で、こうして餓死せずに走り続けられている」
後席の間に立ち、前席に手を置いて支えにしている、白いジャケットを纏った若い白髪の男の軽口に表情を歪ますゼウス。運転席で操縦を担当する、赤いジャケットを纏う黒髪の髭の濃い男がフォローした。
「そう言ってもらえるのは嬉しいが…物資も無限じゃないしな。最悪クラフトチェンバーを使えばいいが…」
振り返り、兵員室に目を向ける。白髪の男の後ろにある、10人の兵員が乗れるスペースの床や座席には、食糧・弾薬・幾らかの銃器が山積みになっていた。土地勘のない場所での遭難を想定し予め精製していた、3人用の物資である。アビドス用の物資は、現在クラフトチェンバーのスロットへ保管している。
日常的に銃弾が飛び交うキヴォトスで非武装・非装甲の車両を走らせるなど自殺行為と判断されたため、韓国製兵員輸送車のKMPV-EL”ブルーシャーク”に白羽の矢が立ったのだった。
"エリュシオン"研究開発班の尽力により、ボンネット・ドア・兵員室側面へ複合装甲パネルが増設され、12.7×99ミリ弾への抗堪性を持つ他、TNT爆薬6キロの炸裂に耐える防御力を誇る、K151よりも汎用性が劣るが、より防御力に優れた車両だ。
(ここまで荒廃していたとは…)
結果から言うと、地図が全く役に立たなかった。本来なら、既にアビドスの校舎が見えてくるはずだが、そこにあるのは砂漠と、今にも倒壊しそうな廃墟、廃線になった線路や駅舎だけ。道路でさえも、砂に埋もれて見えなかった。
「…人がいなくなってかなり経っているように見える。地図の更新もされていないんだろう」
廃墟の荒れ具合を見た髭の濃い男が言う。ゼウスもそれに同調して頷いた。
「…ジオルジョ、代わるか?」
「まだ大丈夫だ」
ここまでずっと運転してきている男――イタリア人のジオルジョ・ルーカは、ゼウスの呼びかけを断り、ハンドルを握り続ける。彼の相方である白髪のフランス人――エヴァ・ローランと共に、"エリュシオン"に所属しているエージェントである。
テュポーンを除いて"エリュシオン"の最高幹部は、ゼウスらと共に某国最重要機密部隊に身を置いていた者たちで占められている。その中でも、この2人は"エリュシオン"設立後に合流したメンバーだ。そのため、某国最重要機密部隊出身者特有のコードネームはなく、本名を名乗っている。
直接戦闘力は幹部の中でも下級だが、敵施設・部隊への潜入・情報収集・活動阻害など、裏方の任務で活躍している。
ジオルジョはマフィアの名家であったルーカ家の血筋で、"エリュシオン"加入前はイタリアの国家警察に所属していた経歴もあってか、荒事にも慣れている。因みに、年齢は28歳と、この中では一番の年上だ。
エヴァは海難救助隊出身の24歳であり、"エリュシオン"加入後はジオルジョの相棒として活躍している。少々無鉄砲なところがあり、考えるようにも先に身体が動くタイプだが、そんな彼をジオルジョが後ろから的確にサポートし、任務を遂行させている。
中々良いコンビだ。
「……総帥、前方に人影だ」
「何…?」
若干前屈みになって前方を見据えたジオルジョに倣って、同じ方向を確認するゼウスとエヴァ。
砂が巻き上がり、若干視界不良だったが、確かに自転車に乗ってこちらに向かってくる人影を見つけた。
「こんな砂の中でサイクリングかよ」
エヴァが驚く。確かに、自転車で通るには難儀するような地面で、常人ならまず「サイクリングしよう」という結論には思い至らないような状態だ。
その人影も"ブルーシャーク"の巨体を発見したらしく、乗っていた自転車を降りて適当な場所へ停め、こちらへ向かってきた。
「…エルフ、天使、狐ときて、今度は狼か」
紺色のブレザーにグレーのロングヘア、スリングでアサルトライフルを肩に掛けているその少女の頭には、1対の耳があった。獣の…狼の耳に似ている。
「どうやら停まって欲しいみたいだ、総帥」
ジオルジョの言う通り、腕を振りながら何かを伝えようとしている。
「停車だ。俺が降りて話を聞く」
ゼウスが指示を飛ばし、それに従って車体が停止するのを確認してから、彼は助手席のドアを開けて少女と相対する。
(SG550の5.56ミリ仕様か。随分とマイナーなものを)
スリングで提げている銃器を見てそう内心で独り言ちながら、少女の頭から足元を瞬時に観察。よく見ると、瞳孔の色が左右で違う。頭上には、照準器の環を思わせる青いヘイローが浮かんでいた。
スリングにはいつでも手が掛かっており、瞬時に射撃体勢に移れるようにしている。戦い方を分かっているな…と、ゼウスは関心した。
「このあたりで見ない顔だけど、どこに行くの?迷子?」
「迷子…まぁ、迷子だな。地図を頼りにここまで来たが、結局役に立たなかった」
普段はコートのポケットに入れている両手を出し、武器を持っていないことをアピールしながら会話する。そのお陰か、銃を向けられることはなかった。
「俺はゼウス。連邦捜査部"シャーレ"の顧問だ。アビドス高校からのSOSを受けて、支援にやってきている」
証拠の提示も兼ね、手紙をポケットから取り出して見せながら、ゼウスは自らの要件を話した。
すると、納得したかのようにスリングから手を離す。いくら何でも警戒を解くのが早すぎないか…と、ゼウスは疎かエースエージェントの2人までもが拍子抜けしたように内心で呟く。それほど純粋なのだろうか。
「先生…ん、分かった。久しぶりのお客様だ。…アビドス高校、対策委員会の砂狼シロコ」
自己紹介しつつ、40センチ近くも上背のあるゼウスを見上げながら右手を差し出すシロコ。それを軽く握り返した。
「早速で済まないがシロコ、道案内を頼みたい。時間的に、登校の途中だと思うが…」
「分かった。ここからなら、車で10分くらいの所にあるよ」
シロコはそう言うと、自分の自転車を移動させ、それに跨った。
「いや待てって!乗ってけよ!」
まさか自転車で車と並走する気か…と思い至ったゼウスが止めようとする寸前、後部座席のドアを開けたエヴァがそう声をかけた。
突然、知らない大人に声を掛けられて困惑するシロコ。
「俺の仲間だ。シロコ、車両には座席が空いている。自転車も運んでいけばいい」
「…ん、分かった」
エヴァとゼウスの申し出に、数瞬思考を巡らせた後にそう応えた。
正直、彼女にとっては砂漠の中をサイクリングをするなど日常的な行為であり、その気になれば自動車との並走も可能だ。「軽く400キロは走りたい」と言い出す程度にはスタミナもある。
だが、折角の好意を無下にはしたくないし、乗り込んでナビゲートをした方が効率的だと考えた彼女は、ゼウスの好意に甘えることにした。
「エヴァ、自転車を頼んだ」
「はいよ。ちょっと失礼するね、お嬢さん」
車から降りたエヴァが自転車を持ち上げると、兵員室後部ハッチに装備している自転車ラックに引っ掛け、落ちないようにワイヤーで固定した。
その間に、シロコは"ブルーシャーク"のドアを開けて後部左座席へと乗り込む。次いで自転車を固定し終えたエヴァも右後ろの席へ座った。そんな彼女へ、ゼウスは支援物資の内訳を話す。
「5.56ミリ弾、7.62ミリ弾がそれぞれ15000発、9ミリ弾3000発少し、12ゲージ散弾を2000発…他は
「…凄い。それだけあれば数か月は戦える」
まず必要なのは弾薬…と判断し、実包を優先して精製したのである。銃撃戦をする以上、それがなければ戦えない。
アビドスに着いた後、足りなくなった物資は適宜クラフトチェンバーを使って補給する。
「…これで数か月だって?どんだけ切り詰めて戦闘してたんだよ…」
「うーん…節約してた、としか。
エヴァが本気で驚いた。
小銃弾数万発と聞けばかなりの量に思えるが、「これで数カ月はいける」と言える量ではない。色々と工夫して戦ってきたようだ。
防衛戦…というよりゲリラ戦の心得は、嫌でも蓄積されたのだろう。戦い方に限って言えば、完全にテロリストのそれである。
「安心しろ。ひもじい撃ち合いはもうさせない」
「ナビゲートは頼んだぞ」
「ん。分かった」
大量の補給物資がアビドスへ向かっている…その情報は余程彼女を安心させたのだろう、シロコの表情はいつもよりも少しだけ綻んでいた。
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案内のお陰で、漸くアビドス高等学校へ到着。
シロコを先頭に、ジオルジョ・エヴァ両名を連れて校舎を案内されながら進むと、ある教室へと通された。
「ただいま」
「あ、おかえり。シロコせんぱ…い…?」
その教室には3人の生徒。猫耳を生やした黒髪ツインテールの生徒、赤縁の眼鏡をかけた耳の尖った生徒、長いベージュの髪で左側頭部に団子を作っている生徒が談笑していた。
猫耳ツインテールの生徒が、シロコの帰りを迎えようとその方を向いた途端、シロコの後ろに並ぶ見知らぬ大人――それも先頭にいるのは黒づくめ&サングラス&口元の古傷が似合う、身長189センチの
「うわっ!?何、その人たち!?特にそこの黒い人!すっごい怪しいんだけど!」
「わぁ!シロコちゃんが大人を拉致してきました!」
ゼウスを指差して大声を出す猫耳。その後ろでは、お団子の生徒が縁起でもないことを満面の笑顔で言う。そんな顔で言うような内容ではない。
「拉致!?それも男の人!?…そ、それってもしかしてまさか…!?///」
あわわ…と、赤縁眼鏡の生徒が顔を赤くして狼狽えている。よからぬ妄想をしているらしく、かなり純粋らしい。
ここまでの反応を示されるとは流石に思わなかったのか、シロコも反応に困っていた。というよりも、同じ学校の生徒からここまで言われるなど、彼女は普段どんな行いをしているのだろうか。
「…いや、連邦生徒会から来た大人の人たちだから。アヤネが呼んだんでしょ?」
「え…?」
アヤネと呼ばれた眼鏡の生徒が疑問符を発し、彼女が手紙の差出人だと気づいたゼウスが、便箋を見せながら自己紹介する。
「連邦捜査部"シャーレ"顧問のゼウスだ。こっちは付き添いのジオルジョとエヴァ。…一応訊くが、支援を要請したのはお前たちで合っているな?」
「…顧問、ですか?」
「…えぇっ!?まさか!?」
「連邦捜査部…"シャーレ"の先生ですか!?」
「わあ☆支援要請が受理されたのですね!良かったですね、アヤネちゃん!」
「はい!これで弾薬や消耗品の補充を受けられます!早くホシノ先輩にも教えてあげないと…!」
ゼウスの正体――"シャーレ"の先生であることが分かった途端、先のシロコと同様簡単に警戒を解く3人。
『先生』とはそこまで信用できる役職なのか…とゼウスは思ったが、それにしても警戒を解くのが早すぎだ。寧ろ、疑われていた方が気が楽に思う。
…兎も角、学校が占領される前に物資を届けることができて何よりだった。
「ホシノ先輩は隣の部屋で寝てるよ。起こして来る…あっ、私は黒見セリカ…っていいます」
責任者を呼びに行くつもりなのか、猫耳――黒見セリカがゼウスたちへ挨拶した。敬語には慣れていないらしいが挨拶は忘れないその姿は、何とも初々しく純粋だ。
彼女が部屋から出て行って程なく、「ホシノ先輩起きて~~!!」と大声が聞こえてきた。
「昨日はお疲れのようでしたし、直ぐに起きてくれるでしょうか?あ、私は十六夜ノノミといいます☆ノノミでいいですよ~♪」
ベージュ色の長髪と片側お団子が特徴的な少女――十六夜ノノミは、笑顔を浮かべたままおっとりした口調で自己紹介する。
普通なら微笑ましい光景なのだろうが、彼女の傍らに置いてある銃器――
弾薬や駆動用バッテリーを含めれば軽く100キロに達する武器をこの少女が使うとは、ギャップが凄すぎて想像がつかない。
――タタタタタタタッ!
「「「…!?」」」
ノノミの自己紹介が終わった直後、空気を叩く炸裂音が聞こえた。
キヴォトスでは、日常の一部を飾る何気ないものだが、地球出身者にとっては聞くだけで危機感・嫌悪感を覚える…命を奪う音だ。
咄嗟に、ジオルジョが教室の窓際に移動して音の発生源を確認する。
「…何だあれは」
目を細め、持ってきていた小型の双眼鏡で遠くの方を観察していたジオルジョが、本気で困惑したように呟いた。冷静な彼には似つかわしくない様子が気になったゼウスは、同じように窓際に移動し、ジオルジョから双眼鏡を借りて外を見る。
遠くて見えにくいが、ヘルメットを被り、銃を乱射している珍妙な集団がいた。ヘイローが薄っすら確認できるため生徒のようだが、この場合は不良と呼ぶべきかもしれない。
恰好が恰好なため、『武装勢力』というより『コスプレした変人集団』にしか見えない。ジオルジョの困惑も分かる。
「うわわ!?武装集団が接近してきます!カタカタヘルメット団のようです!」
「ネーミング終わってるって…」
切迫したように報告を上げるアヤネに、思わずエヴァがツッコんだ。
彼の言う通り、組織名は何とも威圧感のない、牧歌的とさえ呼べるものだが、やっていることは立派な過激派武装勢力のそれである。
「連中が例の武装集団か?」
「うん。もう数えるのも馬鹿らしくなるくらい襲ってきてる」
ゼウスの問に答えながら、愛銃のチェックを行うシロコ。古びた家屋にも潜んでいるらしく、正確な敵戦力は測れないが、少なくとも3個小隊…約120人はいるように思える。その規模が相当数襲ってくるとは、敵の兵站事情はかなり潤っているらしい。
すると、先ほど部屋を出て行ったセリカが戻ってきた。
「ホシノ先輩を連れてきたよ!先輩、寝ぼけてないで起きて!」
「むにゃ…まだ起きる時間じゃないよぉ…」
セリカに腕を引っ張られてやってきたのは、ここにいる誰よりも体躯が小さい、長い桃髪の少女だった。
ベネリM4らしきセミオートショットガン、折り畳み式の盾をスリングで提げた彼女は、演技というわけでもなく本気で寝ぼけていた。銃声を聞けば嫌でも眠気など醒めるはずだが、随分と豪胆な少女である。
「……ん?」
と、大人たちの方を向いたホシノの視線が固定された。
まず、見た目的に最も目立つゼウスを一瞥。次いでジオルジョとエヴァをそれぞれ数瞬だけ見た後、再びゼウスをジーっと見つめる。
彼を見つめる目は、明らかに警戒しているそれだ。
(…なるほど)
その様子を見て、ゼウスは少女――小鳥遊ホシノの事情をほんの薄っすらではあるが察した。
ありとあらゆる理不尽を経験したのだろう。それも、ほぼ確実に大人絡みの。ゼウス達…大人への敵意が込められた視線がその証拠だ。
取り敢えず、ゼウスは腰を折ってある程度目線を合わせ、声を掛ける。
「…俺はゼウス。連邦捜査部"シャーレ"の顧問だ」
「…おじさんは小鳥遊ホシノだよ~。よろしくね、ゼウス先生~」
眠そうに目を細め、うへへと笑いながら自己紹介するホシノ。一見すると何の問題もない挨拶だが、その裏ではお互いの腹の内を探り合う、一種の心理戦が展開されていた。
――ダダダダダダッ!
再び、外から銃声が聞こえる。後者に近付いてきたためか、音が若干重く、大きく聞こえた。
「…またか~」
「ホシノ先輩!ヘルメット団が再び襲撃を!」
取り敢えず、突然現れた謎の大人よりも、ヘルメット団の排除を優先しようと考えたらしいホシノだった。
「…ホシノ。取り敢えず、補給物資を渡す」
『クラフトチェンバー、精製開始します!』
アビドスの面々には聞こえないアロナの声が響いた…と思った直後、ゼウスの背後には梱包された弾薬や医療物資、対戦車火器や地雷といった重火器が積まれていた。
何の前兆もなく、唐突に出現した物資の山。教室の約半分が、それらで埋め尽くされた。
「……へぇ~。シャーレの先生って凄いんだねぇ」
ガチトーンで驚きの声を露にしたホシノ。口を開けて呆然とする残り4人。
しかし、ヘルメット団はすぐそこまで迫っている。驚いている暇はないため、直ぐに気持ちを切り替えた彼女らは、梱包をナイフで切り裂いて中の弾薬を取り出した。
「すぐに出るよ。先生のおかげで弾薬の補給は十分」
「は~い、皆で出撃です☆」
梱包から引っ張り出した弾倉――5.56ミリ弾が35発入るPMAG――を愛銃へ装着し、予備マガジンと手榴弾を携えたシロコと、7.62ミリ弾のベルトリンクをこれでもかとM134”ミニガン”リトルマシンガンVの弾薬箱に詰め込むノノミ。
彼女たちに続いて、やっと驚きから立ち直ったセリカがシロコからマガジンを受け取り、アヤネも医療物資をドローンへ装着していく。
「アヤネ。この戦い、俺たちも参戦させてもらう」
「ありがとうございます!戦場の皆さんへのオペレーションは、私が担当しますね!」
パソコンを立ち上げながら、アヤネはゼウスの提案を満面の笑みで受け容れた。
「ジオルジョ、エヴァ。あいつ等のサポートを」
「了解」
「はいはい」
片や無表情且つ冷静に、片や笑顔でおちゃらけて応えるエージェントたち。即座に、迷いなく窓から飛び降りた。
彼らの手元には拳銃だけ。2人のメインウェポンは、"ブルーシャーク"の兵員室の中だ。階段を降りて取りに行くのは面倒だったのだろう。
「え!?だ、大丈夫なの!?」
「3階から飛び降りる程度であいつらは怪我しない。大丈夫だ」
突然の奇行に目を剥く一同。セリカが2人の身を案じて声を上げる。
だが、敵勢力のど真ん中に潜入すべく厳しい訓練を受けたエリートだ。多少高い場所から飛び降りる程度で負傷することはない。
実際、彼らは綺麗な五点着地を決め、装甲車の兵員室を目指し駆けている。
「さて…」
ゼウス愛用のIST-15.5も兵員室の中だ。重量40キロの得物を2人に運ばせるのは忍びないため、自ら取りに行こうかと思ったとき、教室の壁に掛けてあった銃に目が行った。
固定式の銃床に高倍率照準器、太い銃身、AR-15を彷彿とさせるデザイン…M110 SASS。7.62×51ミリ弾を使用する、セミオート式のスナイパーライフルだ。
「ホシノ。これを借りてもいいか?」
「え?…あぁ、別にいいよ~。うち、人数少ないし狙撃手がいないしで持て余してたんだよね~」
12ゲージのショットシェルを拾っていたホシノの許可を得、ゼウスはM110を手に取ると、傍らのマガジンに7.62ミリ弾を詰めていく。
本当にこれまで使っていなかったようで、清掃した痕がないにもかかわらず、新品のように綺麗だった。
(やっぱり軽いな…)
M110はIST-15.5に比べて非常に軽い。サイズも口径も全く違うし、ゼウスのためのバカみたいなカスタマイズが施されているわけではないため当たり前だが、彼にとってはロマンに欠ける銃であった。
20発の実包を込めたマガジンをセットし、窓の縁にバイポットを立てる。
「…アロナ、出番だぞ」
《うへへ、待ってました!》
窓際の机に置いたシッテムの箱の主に指示を飛ばし、ワキワキと指を動かすアロナが映し出される。
次いで、戦術マップに敵味方を示す赤・青のアイコン、敵の位置、装備、射線が通っているか否か、敵味方の耐久力…アビドス側に絶対優位を与える情報が、ホログラムとして表示された。
「…ホシノ、敵の攻撃を引き付けろ。シロコはホシノに群がる敵を始末。ノノミ、突出せずに一歩下がった場所から機銃掃射。…別館から回り込んでくる奴らが20人程居るな。セリカ、そいつらは任せた。アヤネは適宜ドローンで支援を行え」
「うへ。何かおじさんだけ負担大きくないかな~?」
「見たところお前が一番硬そうだ。昼寝分の仕事はしてもらう」
「う~ん…それを言われちゃおしまいだねぇ」
ゼウスの指示に苦言を呈するホシノだが、即座にそう返されて黙った。
「エヴァ、ホシノを側面から援護しろ。シロコと一緒に敵を切り崩せ。ジオルジョは…セリカに着いていけ。突っ込み過ぎないようにサポートしろ」
『『了解』』
「…はぁ!?大丈夫よ、あんなオッサンなんかいなくても!」
『ぶわっはははっwww』
容赦ないセリカの拒絶。ジオルジョを"オッサン"呼ばわりである。無線越しで相方のエヴァが噴き出すのが聞こえた。
確かに、彼は浅黒い肌に濃い髭が特徴的だが、まだ28歳だ。世間一般で『
なお、相方から常に"オッサン"と呼ばれているためか、ジオルジョはあまり気にしていなかった。
「…うん。着いて行ってもらった方が良い。セリカは時々突っ込み過ぎるし危なっかしいから」
「偶にホシノ先輩よりも先に行こうとしますよね~☆」
「んまぁ、アヤネちゃんが止めてくれると思うけど、念のためって感じだね~。先生、それに気付くなんてエスパーか何か~?」
「直感だ。敵に突っ込んで孤立するビジョンが見えてしょうがない」
「ぐ…っ!?ぐぬぬぬぬぬ……!」
先輩たちに賛成され、さっき会ったばかりのゼウスに自らが嘗て犯した失敗を見抜かれ、セリカは全く反論できなかった。
「あぁ、もう!あのオッサンに足手纏いにならないようにって言っといて!」
「足手纏い…それこそ有り得ないな」
セリカの訴えを一刀両断するゼウス。
高練度な"エリュシオン"の中でもさらに指折りの精鋭である幹部の1人だ。頑丈・怪力が自慢のキヴォトス人が相手とて、ジオルジョが彼女の足を引っ張るなど、考えてもいない。
「準備はできたな。…総員、戦闘開始だ。奴等を追い返すぞ」
感想等ありましたらよろしくお願いします。