ジオルジョとエヴァの戦闘力は"エリュシオン"幹部の中でも下級です。しかし、「キヴォトス人をボコせない」とは一言も言ってません。
ヘルメット団…とは、キヴォトスのあちこちに蔓延る、スケバンと並ぶならず者集団だ。
構成員は全員ヘルメットを被っており、退学して食い扶持に困っていたり、単なる小遣い稼ぎであったり、所属理由は多岐にわたる。
ジャブジャブ、デコボコ…様々な派閥が存在し、強さも規模もまちまちであるが、中には企業の私兵的なポジションに収まって甘い蜜を吸っている『勝ち組』も存在している。
今回アビドス高校を襲撃しているのは、カタカタヘルメット団という派閥だった。後々判明することだが、この派閥に関しては『勝ち組』である。
「…ねぇねぇ、今更なんだけどさぁ~」
補給を終え、敵を撃滅すべく昇降口から出てきたセリカを除く対策委員会の面々。因みに、セリカは別館から回り込んでくる敵の対処のため、校舎の中から回り込んでいる。
「…ん?何、ホシノちゃん」
ホシノが話しかけたのは、"ブルーシャーク"装甲車から武器を取ってきたエヴァ。モスバーグM590M"ショックウェーブ"に散弾を詰めている彼は、対策委員会の面子にシレっと混ざって校門から出ようとしている。
「いや、ほら。エヴァさんってヘイローないじゃん。1発でも当たったら危ないんじゃないかな~」
割とマジで心配していた。ゼウスがエヴァとジオルジョに自分たちの援護を命じたときから内心で思っていたのだが、キヴォトス人とは違い1発の被弾が致命傷になり得る大人が、銃を持って戦うなんて想像もできなかった。
「えぇ…?あぁ、皆からしたらそうかもだけど、それがどうしたって感じかな。承知の上で戦っているわけだし」
「…ん。でもやっぱり危ない。それにショットガン持ちだし…接近するわけでしょ?」
スラムファイアができるよう改造が施されたM590Mに目をやりながら、シロコが身を案じた。
ショットガンは近距離特化の火器であり、遠距離では威力が大きく減殺される。つまり、敵を倒すには接近する必要があるわけだが、勿論敵の銃撃の命中率も高まる。
「当たらなけりゃどうってことないって。それに、ワクワクしない?スリルたっぷりでさ!」
「「「…」」」
悪童を思わせる爽やかな笑みを浮かべたまま、何てことないと言いたげに言い切るエヴァを、3人はどこか遠い目をしながら見ていた。「この人ヤバい…」と。
被弾数発程度のダメージでは死なないキヴォトス人が言うならともかく、拳銃弾1発が致命傷になるかもしれない大人である。命が懸かっている場に身を置かねばならないというのに、何でそんな明るい顔ができるのか、全くもって理解できないのだ。
「それにさ。できるわけないじゃん。皆が戦ってる間安全なところで縮こまってるなんて。俺だってそこそこ戦えるってのに」
かと思ったら、急に真面目な顔になってそう言う。こんなことを言う大人に出会ったことのない3人からすれば、どう反応していいのか困った。
「…分かったよ。でも無理しすぎないでね。セリカちゃんみたいにさ」
「総帥やオッサンにも言われてるんだけど中々治らないんだよねぇ、突撃癖は。…シロコちゃん、ノノミちゃん。援護頼むわ」
「「は~い☆(うん)!」」
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「アロナ、スポッターは頼んだぞ」
《お任せください!》
教室では、窓際に陣取るゼウスがヘルメット団へとM110 SASSの銃口を向けるゼウスの横で、アロナがホログラムを映し出している。
"シッテムの箱"が戦場全体を俯瞰し、相手の数や位置が手に取るように分かった。
《…狙撃手の人数は合計10人。方位37に3人、距離914メートル。方位56に2人、距離1037メートル、方位79に5人、距離1281メートル。いずれも建物の屋上にいます。風速9メートルの西風です!》
「…好都合だ」
アロナの報告にゼウスは独り言ちる。
敵の狙撃手は、1か所に数人が固まっている。1人ずつ戦場の各所に散らばっているよりも、手早く処理できそうだ。
それに、敵は見晴らしの良い高所からの狙撃を試みたのだろう。高所に陣取り視野を確保するのは狙撃の基本であり、決して間違った行為ではないが、遮蔽物の少ない屋上にいる狙撃手が丸見えであり、「どうぞ狙撃してください」と言っているようなものである。
――ダァンッ!!ダァンッ!!ダァンッ!!
取り敢えず、一番近い距離にいる3人へ3連射。
やや風に流されたが、アロナの風速情報を元に放たれた正確無比の狙撃は、全てが敵スナイパーの脳天を直撃。軍用と違い、防弾性能など無きに等しい彼女らのヘルメットに、7.62ミリ弾を防ぐことはできなかった。
3人は残らず意識を飛ばして昏倒する。たったの3秒足らずで、敵狙撃手3人を無力化して見せた。
《えぇ…。そんな簡単に狙撃手を複数人無力化するなんて…えぇ…?》
目が点になって驚くアロナ。3人が射的の的のように横並びに配置していたとはいえ、ゼウスは3発の射撃を全て1秒以内に放ち、命中させた。
神業とでも呼ぶべき腕前だが、ゼウスにとっては児戯も良いところ。M110よりも遥かに大きく重く、反動の激しい、弾道特性も大きく異なるIST-15.5で同じことをやってきているのだ。
「アロナ。風速は変わらないか?」
《…え?あ、はい。えーっと…風速4メートルの南西風に変わりました》
淡々と狙撃の情報を訊いてくるゼウスに、強制的に現実へ引き戻されたアロナだった。
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《狙撃手は全員倒した。目の前の敵だけに気を配れ》
「さっすが総帥、仕事が早いねぇ!」
ゼウスからの報告を受けたエヴァは、上司の手際の良さを賞賛し、狙撃手の不意打ちがなくなったことに安堵した。
「…え、それ本当?」
報告を疑ったのはホシノ。
狙撃手の完全排除は喜ぶべき報告なのだが、あまりにも早すぎるのだ。
「ほんとほんと!総帥の狙撃の腕ならお茶の子さいさいだって!さ、突撃!」
ゼウスの狙撃技術に高い信頼を置くエヴァは、この中で一番撃たれ弱いのにも関わらず、ショットガンを構えて突っ込んでいく。
「…え!?私よりも先に行かないでよ~!」
「…!ちょ、危ない!」
「ま、待ってください~!」
慌ててその後を追いかける対策委員会の面々。耐久力が紙であるエヴァを先に行かせるわけにはいかない。
人工心臓を持ち、訓練で鍛えたことで、常人以上の身体能力を得た――それでもゼウスらに比べれば可愛いものだが――エヴァの走力・スタミナは、陸上競技のオリンピックなんて目じゃない程だと言えるが、そこは流石にキヴォトス人というべきか、3人はすぐに追いついた。
「うわ、3人ともはっや!特にノノミちゃん、そんなの持っててよく走れるねぇ!」
「いや、逆にエヴァさん速すぎない?ホントにキヴォトスの人じゃないんだよね?」
柄にもなく素で驚くホシノ。
「ちょっと昔やんちゃしすぎてこうなったんだけど…お?」
何かに気付いたエヴァの視線の先には、数名のヘルメット団団員。アサルトライフルを構えた彼女たちもまた、突っ込んでくる4人に気付いた。
「おい、何か来てるぜ!」
「血迷いやがったか!校内でゲリラ戦でもしてりゃあ良かったものを!」
敵は、アビドス側の補給が潤っていることを知らないようだ。完全に舐めてかかっている。
「エヴァさん、おじさんの後ろにいてね~」
「おじさん?…分かった!」
ホシノの一人称に思わず声が漏れるが、直ぐに頭を切り変える。ホシノが折り畳み式の盾
シロコは援護に最適な場所を探しているらしく、2人の後ろで待機しており、ノノミはさらに後ろで愛銃を構えていた。
「糞ッ!こいつ硬い!」
「手榴弾持ってる奴いる!?」
「…流石にマズいかな?」
「う~ん。念のため離れといた方がいいかも」
手榴弾は流石に防げないかな…と判断したエヴァにホシノは同意。彼は彼女の陰から素早く離れると、近くの廃車の後ろへ身を隠し、ちょくちょく敵の様子を確認しながら突撃の機会を窺う。
正直、ホシノの神秘ならば手榴弾程度無傷で済むのだが、近くの大人を手榴弾の爆風から守ることはできない。
(お、あそこら辺イケそうじゃん)
直感で、ヘルメット団の陣形そのものを支える力点を探し出した。直後、エヴァは行動を起こす。
瓦礫などの障害物に隠れながらヘルメット団に肉薄すると、ホシノに向けて自動小銃をぶっ放していた5人組の分隊に突進した。前方に集中しているようで、側面のエヴァに全く気付いていない。
「サプライズ!」
――ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!ドォンッ!!
「うぐッ!?」
「ぎッ!?」
「ぎゃはぁッ!?」
エヴァの得物――M590M"ショックウェーブ"が火を噴く。トリガーを引きっぱなしにし、ポンプアクションを行う事でセミオートばりの速射を可能にするテクニック…スラムファイアによって、弾倉内の12ゲージ散弾を残らず分隊に叩き込んだのだ。
昨今のポンプアクションショットガンは、危険防止のため意図的なスラムファイアができないよう設計されている。だが、エヴァのM590Mは研究開発班による改造が施され、それが可能になっているのだ。
「があ…ッ!?このぉ…!!」
(…リーダーかな?意外と可愛いねぇ。あんなダサいヘルメットなんてしなけりゃいいのに)
赤服のヘルメット団員が、バックショットによって大きく抉られたヘルメットを投げ捨て、被弾の衝撃で脳天を揺さぶられながらも銃を向けてくる。ヘルメットによって威力を減殺されたとはいえ、鹿撃ちにも使われる威力のバックショットを頭に食らってそれだけで済むのは、流石キヴォトス人といったところか。
対するエヴァのショットガンは弾切れ。普通なら絶対不利な状況である。
「シッ…!!」
「う゛あ゛ッ!?」
だが、被弾のダメージが思いのほか大きく、手足の動きが覚束ない彼女は隙だらけ。エヴァはバーストステップで一気に間合いを詰め、ジークンドーの蹴り技――神速のサイドキックを右前腕へ叩き込む。
蹴りの威力を底上げするために履いている、チタン合金を仕込んだシューズの効果もあるのだろう、リーダーの前腕からミシリ…と嫌な音がした。激痛が走り銃を落とした彼女に、エヴァが容赦ない追撃をかける。
「フッ!!」
「ごふッ!?!?」
脱力し、スナップを利かせることで体重が乗り、さらにフットワークを駆使することで、十分な攻速・威力を持った拳が、団員の鳩尾を穿ち、衝撃が内臓を揺さぶった。拳面部にチタン合金板を仕込んだタクティカルグローブも手伝い、リーダー格の団員は口から唾液と肺の中の空気を吐き出しながら数歩後ずさる。
さらに、エヴァは軽快なステップを踏んで追撃。人差し指の付け根――ここには骨があって硬い。更にチタン合金板を仕込んだミリタリーグローブを付けている――を、猛速でリーダーの喉元へ打ち付けた。間を置かずに体重の乗ったボディーブローも叩き込み、素早いステップで背後に回ると手刀を後頭部に振り下ろす。
最初の鳩尾打ちから手刀を叩き込むまでの計4打、たった2秒足らずの出来事であった。
「ぐえッ!?!?」
連続して苦悶の叫びを上げ、リーダーは白目を剥いて崩れ落ちた。喉元を一撃され、肺の中の空気を吐き出され、声を出せないようだ。
「うわぁぁぁ…ッ!?」
「おっと…!?」
突如、吹っ飛ばされて宙を舞った黒服の団員がエヴァの頭上を通過。彼は咄嗟に屈み、直撃を免れる。
「強いね~エヴァさん。特にさっきの格闘の動き、おじさんじゃなきゃ見逃しちゃうね~」
地面に墜落した団員を、追い打ちとばかりに盾で押し潰しながらホシノが言った。シールドバッシュで団員を纏めて撥ね飛ばしたのだ。随分と脳筋な戦法である。
「あぁ。連中、殴られ慣れてないみたいで助かった」
「銃を撃って当てれば勝てるって思ってる子達だからね~。大した事ないよ」
「「「り、リーダーがやられた!!」」」
エヴァの直感通り、たった今潰した分隊はヘルメット団を構成する力点…リーダーの直率分隊だった。頭を潰されたヘルメット団に動揺が広がる。
「…こりゃ、チンピラって言われるわけだ」
「うへ、数が揃ってるだけだよ~。手早く片付けちゃおうか」
ジャケットの裏地に仕込んだシェルホルダーから散弾を取り出し、愛銃に込めながら、エヴァはヘルメット団の練度は大したことないと断言した。
「う、撃て撃て!!全弾叩き込め!!」
「で、でもあの大人、ヘイローがない…」
「そんなこと言ってる場合か!?リーダーたちを一瞬で片付けたんだぞ!?」
「それに、面倒なことは
「…流石に容赦はしないか!」
殺人に手を染めることに躊躇していたヘルメット団だが、エヴァの戦闘能力を目の当たりにし、無視できない存在だと認識したようだ。覚悟を決めたように銃を向ける。それに、面倒なことを擦り付けられる存在が裏にいるらしい。
盾を構えるホシノだが、エヴァは先に自分が倒した少女…ヘルメット団のリーダーに目を付けた。直後、悪戯を思いついた悪童のような笑みが浮かぶ。
意識はあるものの、最早立ち上がれないグロッキー状態の彼女の襟首をつかむと、片手で持ち上げ、ヘルメット団たちへ見せつけるように掲げる。
「人間シールドッ!!」
「う…が…うぇ…」
エヴァはよく、倒した敵を盾代わりに使うことがある。今回もそれを実践したのだ。
キヴォトス人がジタバタ暴れれば逃れられそうだが、襟を掴まれ盾代わりにさせられているリーダーはグロッキー状態。意味のない単語を発するばかりで、抵抗の気力は全くない。
使うたびに卑怯者呼ばわりされることもしょっちゅうだが、生憎エヴァは聖者ではないのだ。
「君らの仲間を撃てるもんなら撃ってみな!」
「はぁッ!?正気かあいつ!?」
「り、リーダーを盾に…!!」
「なんて酷い奴なんだ!?人の心どこに置いてきやがった!?」
やっていることは極悪非道なのだが、これがまた効果覿面である。
ヘルメット団員は、案外仲間想いな者が多い。キヴォトスの武装組織にはあまり詳しくないエヴァだが、今回はたまたまヘルメット団の特性を上手く衝いた格好となった。
「…良い子は真似しちゃダメだよ?」
「うん、まぁ…絵面があれだからねぇ…」
「ん。でも効果的。後で使ってみる」
「流石シロコちゃん、手段を選びませんね☆」
シロコが「なるほど、参考になった」と言わんばかりの目線を、ほれほれと挑発するようにリーダーをちらつかせているエヴァに送っていた。
他2人も、一応外道寄りな行為だと感じてはいるようだが、学校を占領しようとやってきたヘルメット団相手に、同情はしてないらしい。
「くぅ…!!どうする…!?」
「ん。考えてる暇はないよ」
銃を構えたままどうすればいいか考えるヘルメット団員たちだが、それではいい的だ。
後方のシロコがドローンを起動し、2基の4連装ポッドから小型ミサイルが放たれる。
「危ねッ!?」
「うご…ッ!?」
咄嗟に、エヴァはリーダーを手放してサイドキックで団員たちの方へ蹴飛ばし、バックステップで距離を取る。慌てて放られたリーダーを受け止める団員たち。
直後、10人のヘルメット団員の周囲へ着弾した8発のミサイルが爆炎を吹き上げ、悲鳴と共に彼女たちは吹っ飛んだ。小型とはいえ、中々の威力だった。1発あたり40ミリグレネードと同程度の火力があるらしい。
「ナイス爆撃!でもできれば発射前に言ってくれると助かるわ!」
「ごめん。避けられるかなって」
「まぁそうだけど!万が一ってのがあるから!」
「ん。分かった」
そんな問答をしている間にも、敵はまだまだ来る。
ホシノが盾で銃撃を防ぎつつ近づいて来た敵をショットガンで吹き飛ばし、シロコがアサルトライフルを中距離で射撃し援護、ノノミは遠方からM134を掃射して障害物毎敵を撃ち抜いていく。
最早戦いではなく、作業であった。「ヘルメット団をチマチマ倒す」という名の作業。
「よっしゃあ!俺も戦うぜぇ!」
「うぼぁッ!?!?」
彼女らの奮戦に闘争心を掻き立てられたエヴァもまた、敵に吶喊し殴りかかるのだった。
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「ほらほらほらッ!裏取りなんか対策済みなのよこっちはぁッ!!」
"シッテムの箱"を所有するゼウスの存在故、別館から回り込む敵に一早く気付くことができたセリカは、愛銃
「う゛べっ!?」
「ぎぃっ!?」
正確無比のフルオート射撃。セリカの神秘が込められた5.56ミリ弾は、廊下に設置された机や柱を盾にしているヘルメット団員を次々と戦闘不能にしていく。
(ふん。あんなオッサンの援護なんて要らないわ)
思わず、心中でそう強がった。
ホシノやシロコからすれば、セリカは筋は良いものの、攻め気が強すぎるその戦い方は、危なっかしくて心配になるほど。
今回もその気が強かった。
「隙ありぃっ!!」
「っ!?きゃっ!?」
前方の敵ばかりに目が行き、突出し過ぎたセリカは、ベランダや他階、屋外から回り込んできた団員に背後を取られてしまった。
せっかく後ろを取ったにも関わらず、背後を取った油断からか「隙あり」と叫んでしまった団員に驚きながらも、辛うじて反応したセリカは至近距離からの銃撃を浴びせようと飛び掛かってきた団員に銃口を向け、フルオート。
倒すことには成功したが、背後に注意が行ったことで、短い間とはいえ前方への警戒が緩くなった。
――ガキンッ!
「いっ!?…やばっ!?」
隠れていた前方の敵の銃撃がセリカの愛銃に命中し、その手から弾き飛ばした。ライフルは床を10メートル程滑り、壁にぶつかって止まる。
「チャンス!お前等突っ込め!」
好機と見た団員が突っ込んでくる。距離はほとんどない。サイドアームであるハンドガンを抜いたときには、既に至近距離からの銃撃を浴びているだろう。
これはマズいかもと身構えた瞬間。
――ガシャーンッ!!
「うおぉっ!?」
窓ガラスをぶち破り飛び込んできた人影が、真っ先に突っ込んできた団員に組み付いた。
「あ、アンタ…!?」
濃い髭に黒髪、若干浅黒い肌、赤いジャケット…セリカを援護するよう命じられたジオルジョだった。
団員の首に脚を絡ませ、絞めている。
「ぐ…ぐぼぼ…!」
かなりの力で締め付けられ、呼吸困難に陥っているのか、ヘルメット越しでも団員の苦悶の声が聞こえている。
「な、何だこのオッサン!?」
「ど、どうしよう…!?」
突然現れ、仲間に組み付く大人の男に困惑し、ヘイローがないため発砲の判断に迷うヘルメット団員たち。
歴戦のジオルジョにとり、隙だらけであった。
スリングで提げていた自動小銃――フォアグリップとショートスコープを装着したTTI TR-1 Ultralitghtの銃口を向け、トリガーを引く。
――ダンッ!ダンッ!
「ぐ…っ!?がっ!?」
「い…っ!!ぎゃはぁっ!?」
セリカと異なり、1発ずつのセミオート射撃。派手さはないが、お手本のような正確な射撃が団員たちを襲う。
それぞれ2発が団員たちの頭部へ命中。ヘルメットを貫通した5.56ミリ弾は、一瞬で彼女らの意識を奪ったようだ。
"エリュシオン"が採用している5.56ミリ弾は、某国が新たに開発したM905A1と呼ばれる実包である。
6.8×51ミリ弾を全軍に普及させるのは現実的ではないと判断し、既存の5.56ミリ弾の装薬を改良・強化、弾頭材質を変更したもので、口径は変わらないものの、初速・貫通力・射程が向上している。
装薬を強化したことで、既存の5.56ミリ弾に対応した銃器では、リコイルスプリングをはじめ各種パーツへの負担が大きいため、これらパーツを強化する必要があるが、それでも新型弾薬を使う小銃の調達よりかは安上がり且つ手っ取り早い。
…兎も角、そんな高初速弾の前では、防弾性能など無きに等しいヘルメットなど、紙よりも容易く貫かれただろう。
「…早く拾え。敵はまだ来る」
落ち着き払った声で、ジオルジョはへたり込むセリカに愛銃を拾うよう促す。その間も油断なく銃を構えている。
彼が脚で締め付けていたヘルメット団員は、いつの間にか動かなくなっていた。
「…っ。分かったわよ…っ」
こんなオッサンの援護なんて要らない…そう粋がっていた少し前のセリカだが、ジオルジョの援護がなければかなりマズかった。
粋がった挙句の失態、それでいて頼りにしていなかった大人から助けられたのだ。自分の情けなさに、目を合わすことができなかったが、今は戦闘中。
言われた通り、転がった愛銃を拾い上げてリロードを済ませると、彼女もまた銃撃を再開するのだった。
「前の敵はお前が片付けろ。俺は後ろの連中をやる」
そう言ったジオルジョは、柱に隠れてセリカの背後をカバー。
先ほどと同様、全く無駄のないセミオート射撃。敵が出てくる瞬間が全てわかっているかと思わせる正確な銃撃は、物陰から顔を出して様子を伺う団員の脳天を一撃し、意識を奪っていく。
(いや、上手すぎない!?)
向かってくる敵を銃撃しつつ、横目でジオルジョの無双を見ていたセリカは、内心で舌を巻いていた。
「喰らえッ!!」
カランっ…と何かが転がる音がし、思わず自分が隠れる柱の足元を見てみると、ピンの抜かれた手榴弾が転がっていた。
死にはしないが、流石に手榴弾はマズい。だが、咄嗟に逃げる判断ができなかった。
「――んぎッ!?」
突然襟首を掴まれ、後ろに引っ張られたかと思ったら、セリカの身体は床を転がり、近場の教室へ放り込まれていた。咄嗟に銃を抱え込んだため、得物の喪失という最悪の事態には陥っていない。
手榴弾の投擲をいち早く察知し、セリカの襟首を掴んで教室へ避難させたジオルジョが扉を閉めるや、向こう側で爆発が発生し、弾片が扉に食い込んだ。
彼の得物はリロード途中なのか、マガジンが外されている。
「おらぁッ!!」
弾片で傷ついたドアが蹴破られ、赤服の団員が乗り込んできた。随分派手な登場だが、クリアリングもなしに入出するとは愚の骨頂である。
ジオルジョはリロード途中のDSAR-15Pを投げ捨て、サイドアームのキアッパ・ライノ60DS…は敢えて抜かず、肉弾戦を仕掛けた。拳銃でも近すぎる間合いだと判断したのだろう。
アサルトライフルを構える団員へ躊躇なく肉薄すると、彼女の利き腕へ
「うあッ!?」
ボクシングなどとは違い、身体の軸を立てた状態で放たれる、あまり強力そうには見えないパンチ。「そんな打ち方で効くのか?」と思ってしまうが、拳の重さと体重はしっかりと団員の右腕に伝わっていた。
予期せぬ一撃を利き腕に食らい、衝撃が腕の骨にまで伝わり、思わず銃を落とす。
そのまま利き腕に組み付き一瞬で捻り上げ、関節を極める。
「ッ!?痛だだだだだだだぁッ!?!?」
(うわぁ…)
どこから出しているのか疑わしくなる絶叫を上げ、更に膝裏に靴先の蹴りを入れられて跪かせられる。
その様を見、団員を襲っている激痛の程度を想像したセリカは軽く引き、赤子の手を捻るよりも簡単にリーダー格の団員を制圧したジオルジョの手際の良さに戦慄していた。
――バキッ!!
「ぐほッ!?!?」
力なく藻掻く団員の懐を漁り、手榴弾を取り出すと、ヘルメットのバイザーを靴先の蹴りで叩き割る。ピンを抜いた手榴弾の突起を割れたバイザーに引っ掛けると、合気道の要領で扉に向けて投げ飛ばし、受け身からかけ離れた体勢で床に叩きつけ、追い打ちとばかりにサッカーボールキックを鳩尾へ食らわせた。
「リーdうおぉッ!?」
リーダーの後に続いて入ってきた黒服の団員たちが、蹴り飛ばされて勢いよく床を滑ってくる仲間に足元を掬われ、まるでボウリングのピンのようにずっこけた。
「こっちだ」
「あッ!?ちょっと…ッ!!」
ジオルジョは手早く愛銃を拾い上げ、またセリカの襟首を掴み上げ、窓から飛び出すようにベランダへ移動。
次いでセリカの後頭部を掴んで床に押し付け、自らも姿勢を低くする。
――バァァンッ!!
「「「ぎゃああッ!?!?」」」
リーダーのバイザーに引っ掛けた手榴弾の炸裂音と、団員たちの断末魔が聞こえた。
…この手榴弾の炸裂音が、アビドス攻防戦終了のゴングとなった。
《ジオルジョ、セリカ。ホシノたちも正門からの敵を撃退した。お前たち周辺にも敵性反応は見当たらない。状況終了だ》
「了解した、総帥」
無線機から流れるゼウスの報告へ簡潔に返答すると、セリカを押さえつけるのを止めて立ち上がる。
戦闘終了という言葉に浮かれる様子はない。最年長らしい落ち着き払った、理想の大人の男の姿だった。
「怪我はないか?」
「……っ。五月蠅いわね、大丈夫よ…」
へたり込むセリカを見下ろし、手を差し伸べるが、セリカは弱々しくそれを払いのけた。
大人への嫌悪と不信感、助けてくれたことへの謝意、ジオルジョの強さに対する羨望と嫉妬、自分の無力感…ありとあらゆる感情が渦巻き、心の整理が付かない。
いたたまれなくなり、早くこの場から去りたかったセリカは、愛銃を拾ってスカートの埃を払うと、足早にその屋内へと戻っていく。
そんな彼女の目元は、若干震えていた。
「…」
助けたのにも拘わらず、碌に感謝されることなく、ぶっきらぼうに拒絶されたジオルジョ。思春期だから仕方ないとでも思っているのか、それとも年長者の感覚でセリカの心情を察したのか、何も言わずにその後ろ姿を見ていた。
感想等よろしくお願いいたします。