本格的な戦闘は次回です。
「いやぁ~まさか勝っちゃうなんてね。ヘルメット団もかなりの覚悟で仕掛けてきたみたいだったけど」
「まさか勝っちゃうなんて、じゃありませんよホシノ先輩…。勝たないと学校が不良のアジトになっちゃうじゃないですか…」
ヘルメット団は這う這うの体で逃げ帰り、ひとまず平穏を取り戻したアビドス校舎。
ゼウスたちは、対策委員会の本部として使っている教室へ招待されていた。戦闘直後だが、彼女たちに疲労は感じられない。
やはり戦い慣れている、見た目よりも遥かに強い少女たちだ…とゼウスは関心した。
「うん、先生の指揮と狙撃支援が良かったね。エヴァさんにジオルジョさんの援護も助かったし…大人って凄い」
「それほどでもねぇよ?」
一切の裏を感じさせない、シロコの純粋な言葉に、エヴァは頭を撫でながら照れ隠しをするかのように言った。
なお、彼の相棒である最年長は彼女の言葉に――表面上は――喜ぶ仕草を見せることなく、無言・無表情でTTI TR-1のマガジンに弾を詰めている。
「…いや。俺たちも手助けしたとはいえ、大部分はお前たちの成果だ。それに、物資不足の中、今まで奴らを撃退し続けてきたんだろう?誰にでもできることじゃない。もっと胸を張って良い」
「え?あ、う…うん。ありがとう」
物資が限られた状況で何度も襲撃を受けているにも関わらず、都度撃退してきたアビドスの実力には、ゼウスも関心せざるを得ない。
彼にとっては一切の世辞がない言葉なのだが、ここまでべた褒めされるとは思っていなかったのだろう、シロコはきょとんとしたと思いきや、戸惑ったように礼を言った。
「うへ、もう先生ったら~。うちの可愛いシロコちゃんが褒めてくれてるんだから素直に受け取ったらいいのに~。やれやれ、パパが来てくれたお陰でママはぐっすり眠れまちゅ」
…そんなホシノの揶揄いには、ゼウスも流石に返答に困った。
「……」
「セリカちゃん?さっきから静かですけど、もしかして具合でも…」
「…んえ!?な、何でもない…ですよ?ノノミ先輩…」
膝に両手を当て、椅子に座って俯いていたセリカをノノミが気遣うが、当の本人はどこか挙動不振だった。
チラチラと目線だけをジオルジョの方へ向けては、気まずそうに自分の膝を見つめるを繰り返している。そんなセリカの視線を物ともせず、ジオルジョは黙々と弾込めの作業を続けていた。
「なになに、セリカちゃん?まさかオッサンに手ぇ出されたとかじゃないよな?」
「て…ッ!?!?///」
「断じて違う」
茶化すような物言いのエヴァに、セリカは顔を真っ赤にして飛び上がった。頭からボフンッ!と湯気が吹き出そうなリアクションっぷりである。
セリカとていい歳だ。"そういう事"も知っている。
流石に女子高生に手を出した変態扱いされるのは御免なのか、沈黙していたジオルジョがエヴァの言葉を両断した。
…物理的に手は差し伸べたが、性的には出していない。その差し伸べた手も、セリカに払われてしまっている。
「み、皆さん!まずはヘルメット団の対策を考えないと!」
「そ、そうよ!こんな話してる場合じゃないわ!」
アヤネ、セリカら1年生組が話の軌道を修正した。2人はそういう話題に疎いのか、顔が赤い。
「まぁまぁ、そう怒らずに~。おじさんにいい考えがあるんだ~」
ホシノが言った。
「え!?ホシノ先輩が!?」
「嘘ッ!?」
「「「…」」」
ホシノはのほほんとした雰囲気を常時醸し出しつつも、後輩たちから頼られている、やるときはやるを地で行くような先輩なのだろう…と勝手に思っていた"エリュシオン"組。
しかし、ホシノの言葉に対するアビドス陣営のあんまりな反応に、3人は面食らった。仲が良いからこその反応なのだろうか。少なくとも、信頼されていないわけではないだろう。
「うへ~。流石にそんな反応されると傷ついちゃうな~。おじさんだって、偶にはちゃんとやるのさ~」
「…で、どんな計画?」
懐疑的なセリカの視線を受け、ホシノはニヤリと笑った。攻撃的な笑みだ。
普段の様子からはあまり考えられない表情だが、此方が素なのかもしれない。
「ヘルメット団は数日もすればまた攻撃しに来るでしょ~?迎え撃つんじゃなくてさ、いっそこっちから仕掛けようかなって」
「うん。今なら補給も潤っているし、先生たちの援護もある」
「私も賛成ですね~。ヘルメット団もまさか反撃されるなんて思ってないでしょうし」
「え、今からですか?…あ、先生はどうお考えでしょうか…?」
ホシノの案にまとまりかけたところ、アヤネが不安そうにゼウスへと問う。冷静なストッパー役だ。
指を顎に当てながら彼は数瞬思考を巡らせる。
「…よし。ヘルメット団を追撃する。相手の士気も実力も問題はない。それに…確かめたいこともある」
ゼウスはそう判断を下した。
一々来襲してくるヘルメット団を迎撃しているだけでは、また消耗戦を続ける羽目になる。敵の本拠地を叩き、ヘルメット団が二度とアビドスを襲撃できなくしてやるのだ。
(ヘルメット団は練度が大したことない割に装備が整っている。誰が裏についているのやら)
戦闘の際に感じた違和感。その払拭もしたかった。
各々が武器を携え、やる気は十分。
「よっしゃ~。先生のお墨付きも貰ったことだし、早速――」
「ただし」
ゼウスの一言に、少々の緊張感が教室に蔓延した。ホシノが怪訝そうに顔を向ける。
「…お前たちは色々と問題を抱えているようだが、俺たちを協力させてほしい。解決できる…と断言はできないが」
「…先生、知ってるんだね?」
「初めて行く場所を事前調査しない程、俺は無計画じゃない」
諦めたような表情になるホシノ。
「分かったよ。戻ったら話すね」
「え!?ホシノ先輩、それって…!」
観念したように話すホシノに向け抗議の声を上げるセリカ。余程部外者に知られたくない内容なのだろう。
「いいじゃない、セリカちゃん。言うだけならタダなんだから。それに、先生はもう知ってるみたいだし、言っても言わなくても変わらないよ」
一拍置いて、ホシノはゼウスの方へ向き直る。赤青のオッドアイが、黒衣の長身痩躯を見上げる。これまでにない、真剣な表情だ。
「まぁ、信頼はさせてよ?先生」
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「うへ~。流石に狭かったねぇ。全然お昼寝できなかったなぁ…」
「先輩、戦闘直前ですよ…」
「よく装甲車の座席で寝る気になれるな…」
"ブルーシャーク"装甲車を飛ばすこと1時間少し、8人はヘルメット団が屯するアジトにたどり着いた。道中、装甲車の車内にも拘らず、決して良いとは言えない座り心地の合成革シートでホシノが昼寝をしようとしたが、流石に寝れなかったらしい。
敵のアジトは、随分と寂れた場所である。高さ5メートル弱のコンクリート壁で囲まれた小汚い廃工場の敷地に、兵器やら武器やらが置かれただけだ。
その置き方もかなりおざなりであり、吹きさらし。武器兵器の保管方法すら分かっていないのが丸わかりである。
アビドスから逃げ帰った団員たちは、壁や柱を背に、或いは地べたに横になり、死んだように力なく休んでいた。見張りもおらず、無警戒極まる。
そんな彼女らを他所に、少し離れた場所に停車させた装甲車の車内で敵を観察しつつ、どう攻めるかを考える。
「総帥、確かに警戒網はないに等しいが…罠が仕掛けてあるかもしれない」
「…アロナ」
《スキャン完了!トラップの類はありません!》
侵入者への対抗策を用意しているのではないかというジオルジョの具申を受け、ゼウスはアロナを呼びつける。一瞬で戦場全体をスキャンした彼女が、敵アジトは完全な無防備であることを自信満々に伝えた。
「どうしようか?数だけは多いけど、真正面から行く?先生」
「単純明快で実にいいが…何人かの敵に逃げの機会を与えることになるな。…連中をアジトに閉じ込める。何が起きているのかを分からせないまま、一気に勝負を付けたい。お前も、仕事は早め且つ確実に終わらせて寝たいだろ?」
「う~ん、それはそうだねぇ」
ホシノが意見するが、ゼウスはそれを容れなかった。
真正面から堂々と挑んでも、アビドス側が勝利するだろう。各々の腕っぷしやコンディションには、それだけの差があるが、できるだけスマートに事を済ませたい。
敵に反撃・逃亡の機会を与えない、『自陣営側による一方的な射撃』をゼウスは望んでいた。
「…となると、最初に何か派手な攻撃をして怯ませてから突撃?」
「そうだな。…連中の警戒網は全くなってない。C4を仕掛けて一斉に起爆させるか」
ゼウスの提案――要は、こっそり潜入して爆弾を仕掛け撤退した後に起爆。逃げ道を塞ぎ、爆発に驚き右往左往し、疲労から反撃も逃亡もままならないヘルメット団へ突撃し一方的に処理する…というものだ。
シッテムの箱に目を移し、敵アジトの構造を今一度確認する。
「…シロコ、あの倉庫はガスボンベが保管されているらしい。後は煙突だ。その2か所にC4を仕掛けろ。…ジオルジョ、付いて行ってやれ」
「分かった」
「了解」
シロコだけを行かせるつもりだったが、アビドスでの防衛戦ばかりでスニーキングには慣れていないと見たゼウスは、ジオルジョへ同行を命じた。
彼は暗殺・諜報・潜入・後方破壊が主任務のエージェント部隊"デーロス"所属であり、その中でもエース称号を持つ1人。あの程度の拠点に潜入するなど容易い。シロコの良い補助になるだろう。
エヴァでもよかったが…身体が先に動くタイプの彼よりも、常に恐ろしいほど落ち着いているジオルジョの方が適任だと判断した。
「C4は大量に用意した。遠慮なく全部使え。中途半端に仕掛けて破壊できないより、確実に吹っ飛ばした方が数倍マシだ。…お前たちも、そこにある武器は好きに持って行っていい」
「おぉ~、そんなに景気よく使っちゃっていいの~?久々だねぇ」
「なんて脳筋よ…」
兵員室の床と壁に掛けられたMk.153 Mod.2 83ミリロケット擲弾発射器とその予備弾薬、手榴弾に顎をしゃくりながら放たれたゼウスの言葉に、ホシノはニコニコしながらそう言った。セリカは思い切りの良すぎるゼウスの指示に少しだけ引いた。
今の今まで節制して戦ってきたアビドス生徒は、久々に弾切れを気にせずに戦闘を行えることに喜んでいた。
「残りはここで待機だ。炸裂と同時にバリケードを強行突破。アジトに突入後、罠に掛かった獲物を仕留める」
そこまで言った後、ゼウスは微かに口角を上げた。
顔立ちの良い彼の微笑みは、世の女性たちに残らず黄色い声を上げさせただろうが、どうもそんな気にはなれない、内に秘めた何かを感じさせる。
思わず、ジオルジョとエヴァ以外の面子の背筋に悪寒が走った。
「――狩りを始めよう」
感想等よろしくお願いいたします。