超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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社会人始まって1か月、休日の需要が馬鹿上がり…。


蹂躙ほど痛快な単語はない①

「はぁ…ったく。アビドスの連中、何だってあんな短時間で強くなりやがったんだ…?」

 

 逃げ帰ったアジトで休んでいたヘルメット団の1人が呟く。その顔には疲労の色が見えており、力なく壁に寄りかかっていた。

 物資補給の目処がないアビドス高校への襲撃。確かに彼女たちは強いが、弾がなければ戦えない。楽な仕事だと思っていたのだが…。

 

「それに、あの大人は…」

 

 彼女は、前衛としてアビドス高校に真正面から挑んだ1人なのだが、その際に相手に与していた謎の大人が気になった。

 ヘイローを持たない貧弱な存在…という常識を覆す戦闘能力を見せつけ、リーダーを含めた団員を多数、一方的に叩きのめしたのだ。

 ついでに言うと、かなりのイケメンだった…。

 

「っ!?あぁ、もう…!」

 

 邪念を振り払うと、喉の乾きを潤すために重い身体を動かす。

 雇い主からは武器兵器、弾薬の他、糧食や飲料も提供されている。水だけでなく、ジュースや栄養ドリンクなど、大盤振る舞いだ。

 それを飲んで気を落ち着けようと、糧食の梱包が積まれている倉庫に足を運ぶ。

 方々に寝転がり、若しくは壁に寄りかかって休む仲間を尻目に歩いていき、倉庫の扉に手をかけたその時。

 

「――んぐッ…!?!?」

 

 全くの唐突に、喉へ裂けるような激痛が走り、ほぼ同時に呼吸ができない苦しさが襲ったと思った直後、口元を手で覆われ、人気のない通路へと連れ込まれた。

 倉庫の入り口はちょうど、多くの団員が休む広場から死角になっていたこともあり、誰にも気づかれることはなかった。

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 通路で隙を伺っていたジオルジョが愛用のスペツナズシャベルで団員の喉元を突き、口元を抑えて通路に連れ込んで、誰にも悟られることなく無力化した。

 軍隊格闘術『システマ』の達人である彼にとって、銃以外の得物といえばこのシャベルである。スチール製の頑丈なこれは伸縮式であり、持ち運びにも困らない。

 

(本当に死なないんだな)

 

 鋭く研がれたシャベルの切先を捻じ込んだにも拘わらず、団員の喉元には蚯蚓腫れを思わせる赤い痕が残っているだけだ。出血は認められるが血が滲む程度であり、致命傷には程遠い。

 アビドス高校での銃撃戦にて、キヴォトスの住人の頑丈さは目の当たりにしていたが、近接格闘(CQC)近接格闘で直接手にかけた感触から、改めてその情報に対する信用が深まった。

 気絶を確認した団員をその場に置き、ペン回しのようにシャベルを一回転させた後、太もものホルダーにシャベルを収める。

 

「ん。鮮やか」

 

 その様子を見ていたシロコが、ジオルジョの手際の良さに目を輝かせる。

 彼女はいつもの愛銃の他、ゼウスが持ってきたMk.153 Mod.2 SMAWロケットランチャーと、その予備弾が入った箱を背負っている。クールビューティーの皮を被った脳筋過激派である彼女らしい重装備だ。

 それに、流石はキヴォトス人というべきか、膂力が凄まじい。見た目はただの16歳の少女だというのに。

 

「…さっさと行くぞ。発砲はなるべくするな」

 

 シャベルをホルダーに収め、フォアグリップを外してM302 グレネードランチャーを取り付けたTTI TR-1を構えるジオルジョ。一応隠密作戦であるためサプレッサーが装着されているが、それでも銃声を完全に消すことはできないため、発砲は最小限に抑えるつもりだ。

 通路から顔を半分だけ出し左右確認すると、油断なく銃を構えながらゆっくりと先に進んでいく。クリアリングを徹底するその様は正に一流のエージェント、プロである。

 

 ガスボンベが保管されているらしい倉庫にたどり着き、入室。

 中には誰もおらず、ボンベの束が無造作に保管されていた。ボンベの数は凡そ50といったところか、ついでに言うと年季物らしくボディがやや錆びている。

 ヘルメット団が入手したものではなく、元からこの廃工場に放置してあったものらしい。

 

「プロパンガスか…手早くやるぞ」

「うん」

 

 シロコは自分の鞄からC4爆弾を取り出すと、起爆装置の設定に取り掛かる。IEDの製作・設置も経験しているという彼女の言葉通り、その手際はジオルジョの目から見ても中々のものであった。

 

(…将来、碌な大人にならないな)

 

 そんな考えが脳裏をよぎる。

 シチリアマフィア名家の末裔で、悪党の血を引きながらも警察官を志したジオルジョからすれば、荒事とは無縁そうに見える純粋な女子高生が、犯罪行為そのものな技術を身に着けている様を見、何とも言えなくなる。

 AK-47(カラシニコフ)とRPGで武装し、幼い頃から戦う術を学ばされ、歪んだ常識を植え付けられたテロリストを見ている気分だった。

 

「ねぇ、ジオルジョさん」

「…何だ」

 

 手先を動かしながら、シロコがジオルジョに問うた。暇すぎて雑談をしたいらしい。

 

「何で先生をそんなに慕ってるの?」

「なぜそんなことを訊く?」

「ジオルジョさんは先生よりも年上…でしょ?」

 

 どうやらシロコは、年下の上司であるゼウスの命令を忠実にこなすジオルジョが不思議に映るようだった。

 

「……年齢は関係ない。あの人の下で腕を振るいたい、俺の上司として不足はないと判断したからだ。それに、何度も世話になったからその恩を返したいと思った。総帥がいなければ、俺もエヴァもこうして生きてはいない」

 

 いつも通りの冷静さを保った物言いだが、若干饒舌になり、熱が籠っていた。ゼウスをそれだけ慕っている証左である。

 なお、よりゼウスに対する忠誠が重い幹部がいたりする。

 

「総帥はそれほどの男だ。力、頭脳、人間性――全てが至高の領域に近い。…お前たちでいうホシノのような存在だ。『年下だから』など、逆らう理由になり得ない」

 

 ジオルジョは確かな信頼を持ってそう言い切った。

 

「…そうなんだ」

 

 何やら心当たりがあるのか、シロコは神妙な面持ちでそれだけ漏らした。「お前たちでいうホシノのような存在」の部分へ特に反応していた。

 

「終わったよ」

「よし、戻るぞ…いや待て」

 

 起爆装置のセットが完了し、撤退しようとシロコが出入口に足を向けたが、ジオルジョはそれを止めた。

 彼は次々とボンベのバルブを緩め、残っていたプロパンガスを漏れ出させる。ガス漏れが分かるよう意図的に付けられている刺激臭が室内を満たし、開けられた窓から敷地内へ散っていく。

 

「……なるほど。エヴァさんと同じくらいえげつないことするね」

「敷地全体を巻き込んだ方が合理的だろう」

 

 彼の意図を察したシロコも手伝い、時間をかけつつも全てのバルブを開放。幸いにも風は緩やかであり、敷地内にガスは相当量残留している。

 

「…ん?おい、何かガス臭…」

 

 ――数分後、異変に気付いたヘルメット団員の1人が独り言ちた瞬間、轟音が響き渡り、彼女たちの視界が橙色に染まった。

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――ドガァァァァァンッ!!!!

 

「眩しっ!?何よあれぇッ!?」

 

「2人とも大丈夫でしょうか…?」

 

「…うへ~。派手にやったねぇ」

 

「ぶはははははっwww流石オッサン!!」

 

 想像以上の轟音と、爆炎が噴き上がり橙色の炎に包まれる敵アジト、風に乗って聞こえてきた…気がする団員の絶叫。

 アビドス勢はあまりの爆発にドン引き、或いは2人の安否を心配し、エヴァは相方の成果を爆笑しながら讃えた。

 

「先生…流石に派手にやりすぎたんじゃあ…?」

 

 "ブルーシャーク"のハンドルを預けられたアヤネにおずおずとそう問われたゼウスは、しかし口元を緩めて満足げだった。

 

「いや、今回に限ってはインパクトが大きいのに越したことはない。…90点だった俺の策をジオルジョが100点にしてくれたな」

「は、はぁ…」

 

 恐らく、ガスを漏れさせて敷地一帯に充満させた後に起爆させ、火の海に変えたんだろう…と、ほぼ正解の仮説を心中で呟いた。炎に巻かれていないか一瞬心配になったが、ジオルジョの事だからなんとか被害は免れているだろうと即断する。

 

「アヤネ、飛ばしてくれ。バリケードを強行突破しろ」

「お、思い切りぶつけちゃって大丈夫ですか…!?」

「ドンと行け。この車両はちょっとやそっとで壊れやしない」

 

 "エリュシオン"研究開発班特製の複合装甲プレートを増設した"ブルーシャーク"装甲車は、12.7ミリ弾を跳ね返し、TNT爆薬6キロの炸裂に耐える堅牢さを誇る。

 アジトの出入り口に設置されているバリケードは、使い物にならない電化製品や車の残骸、ドラム缶等が並べられているだけであり、重量12トンの装甲車が時速60キロで突っ込めば軽く吹っ飛ばせるだろう。

 アヤネがアクセルを迷いなく踏み込み、270馬力のディーゼルエンジンが猛々しい咆哮を上げる。それに比例して速度が上がり、振動も増えていく。

 ゼウスは意外と思い切りの良いアヤネに感心した。

 

「随分慌ててるみたいだねぇ。こんなに堂々と突っ込んでるのに、阻止砲火もないなんてさ」

 

 ホシノの言う通り、砂漠を疾走する"ブルーシャーク"の巨体はかなり目立つ。普通に突っ込めば、銃撃だけでなくRPGや迫撃砲が飛んできただろう。

 だが、今のヘルメット団は大混乱の渦中にある。そんな余裕はない。

 

「戦闘配置。ただし、アヤネはここに残って後方支援を頼む。セリカはアヤネを守れ。車両破壊を目論む下手人を近づけさせるな」

 

「りょうか~い」

 

「了解です☆」

 

「はい!」

 

「分かったわよっ!」

 

 ゼウスの指示に各々が返す。その頃には、もうバリケードは目の前。敷地内のガスは既に燃え尽きたのか、方々の地面や障害物、建物の一角に小さな炎が揺らめいている程度だ。

 逃げ惑う団員の姿がちらほらと見える。炎を背負った者もおり、まるでカチカチ山の狸だった。

 

「皆掴まれ!」

 

――ドガァァァッ!!!!

 

「おぉう…!」

 

「きゃ…っ!?」

 

 エヴァの掛け声で全員が踏ん張った直後、バリケードをぶち破った衝撃が全員を揺らす。

 委員長のホシノ、重量100キロのM134(リトルマシンガンⅤ)を立射できる強靭な体幹を持つノノミは微動だにしなかったが、鍛えているとてキヴォトス外の人間であるエヴァは流石によろめき、セリカは危うく席から転がり落ちそうになった。

 

『うわぁぁぁぁッ!?!?今度は何だ!?』

『アチチチチッ!!しゅ、襲撃!襲撃だ!!』

『ぶべぇぇぇッ!?!?』

『クミが轢かれたぁぁぁッ!?!?』

 

 兵員室に設けられている開けられた小窓の外から、そんな喧騒が聞こえてくる。アヤネがさり気なく人身事故を起こしていた。

 バリケードを強行突破した"ブルーシャーク"は、彼女の卓越したハンドル捌きでドリフトし、横に少し滑ったところで停止する。

 

「降車だ。好きなだけ撃ちまくってこい。ただし、シロコとジオルジョへの誤射は避けろよ?」

「はいは~い。よ~し、やっちゃうぞ~!」

 

 手榴弾を大量に腰に提げたホシノを皮切りに、M134を構えるノノミ、愛銃の他にSMAWロケットランチャーを背負ったセリカが降車していく。

 

「あれ、先生…?危ないですよ…!?」

 

 上面のハッチから身を乗り出すゼウス。空になった兵員室の椅子の上でパソコンとドローンを広げるアヤネが彼の身を案じる。

 ヘイローのない大人。エヴァやジオルジョのように戦えるとはいえ、的になる固定銃座に居座るのは危険だ…と訴えていた。

 しかし、彼は銃弾どころか対戦車火器すら耐え、七囚人最強の生徒相手に舐めプした挙句無双する、正しく神々の王(ゼウス)の如き最強の傭兵なのだ。

 

「逆に、あいつ等がどうやってこの俺を斃すのかを訊きたいな」

 

 装甲銃塔(OPGK)で守られた、M2重機関銃が据えられた銃座。コッキングレバーを軽く引いて50口径弾を薬室へ送る。

 

「さぁ、始めようか。…素人共」

 

 鋭く研がれたチタン合金製のギザ歯をはっきり見せた、悪魔を思わせる凄絶な笑み。

 この時ばかりは、『生徒を導く先生』ではなく、『テロリストを相手にしている一介の傭兵』の顔になっていた。

 




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