ゼウス先生、当初の予定よりもかな~~~~~り人間辞めることになりそうです。
単純に膂力が強いとかだけじゃなく、オカルト・スピリチュアル分野にも造詣が深い感じですね。
ジオルジョさんもエヴァさんも、ゼウス先生に比べれば可愛いものですが、それでも十分人間辞めてます。
「うへ~。まさかヘルメット団を撃退するだけじゃなくて、こんなにオマケを手に入れられるなんてツイてるねぇ」
ヘルメット団のアジトを壊滅させ、学校に戻ってきた一行は、一仕事を終えてゆっくりしていた。
ホシノの言う通り、帰り際にヘルメット団のアジトからラーテル装甲車3両を鹵獲して持ち帰り、他にも爆弾類や迫撃砲とその弾薬、地雷といった重火器、そして多量の燃料も分捕っている。
敵の装備を剥ぎつつ、アビドス側の装備をクラフトチェンバーを使うことなく強化することができた。一石二鳥である。
「ですが先生、あの装甲車は動かすのにかなり人数が必要ですが…」
アヤネが意見した。
確かに、アビドス高校は人数が5人しかいないため、装甲車を持っていようと使う機会が限られると思われた。
「それに関してだが…少し案がある。お前たちの許可が必要なんだが、今のアビドスに転校生を受け入れる用意はあるか?」
「「「!!」」」
その言葉に、アビドス生徒たちは目を見開いた。
砂漠に呑まれかけた廃校寸前の学校。様々な問題の解決で精一杯な状況で、生徒の呼び込みなど考えたこともなかった。
そもそも、このような僻地へ転校したいと宣う物好きなど殆どいない。
「俺が着任した日、シャーレの建物を占領しようと戦闘行為を行った奴らがいてな。俺の組織で更正を兼ねた訓練を受けさせつつ匿ってやっているんだが…近いうちに、そいつらをアビドスへ編入させたいと考えている」
ワカモに煽動され、ゼウスの先生着任当日にシャーレの建物を占領すべく暴れまわった不良たちの、アビドス高等学校への編入の話である。
結局、直接ゼウスに行く当てがなければ来てもいいと伝えられた刈谷ジルをはじめ、彼女に声をかけられた不良少女たちが少なからず"エリュシオン"本部にやってきたのだが、如何せん"エリュシオン"に物資・資金的な余裕はない。
一応、組織の"アルバイト"という体で雇ってやってはいるのだが、彼女らへの報酬は少なめである。衣食住の提供が辛うじてできているのは、幸運と言えよう。
指名手配犯の捕縛といった依頼はちょくちょく来ているものの、大規模組織からの依頼はなく、量自体も少ないため報酬も雀の涙。
クラフトチェンバーによる物資補給や節制、敷地内の食糧プラントをフル稼働させることで何とかなっているが、ずっとこの状態を続けていくわけにはいかない。
そんな状況下、抱える人員を無闇に増やすことはできないのだ。早急に、彼女たちを受け入れる場所を見つけなければならない。
「う~ん。結構凄いことやらかした子達みたいだねぇ。ま、更生してるっていうならいいかな~。学校の基盤を盤石にするのも大切だしね」
「ん。たくさん生徒が来ればその分お金も入ってくるし、戦力も向上する」
「…そうですね。生徒数が多いのに越したことはありませんし。人数が多ければ議員を輩出して、連邦生徒会での発言力も獲得できます」
「あ~、戦車の操縦はその方達にやってもらう感じですね~。賑やかになりそうです~☆」
ホシノ・シロコ・アヤネ・ノノミは、納得したように頷いた。賛成らしい。
「…」
唯一、セリカだけがムッとしたまま沈黙していた。転校生云々については賛成らしいが、ゼウスがこの場を仕切っているのが気に食わないらしい。
彼はそれに気づいていたが、敢えて何も言わなかった。
「まぁ、よく考えた上で伝えてくれ。…それで、ホシノ」
「…あぁ、そうだったねぇ。約束だし、大丈夫だよ。先生」
「はい。私も大丈夫です。ヘルメット団の問題が解決したのは、紛れもなく先生のお陰ですし…」
ヘルメット団アジトへの襲撃前、ゼウスが許可を降ろす代わりに伝えられた条件。『アビドスが抱える問題の根幹に、自分たちを関わらせること』。
ホシノは特に抵抗なく、その条件を受け入れる――若干試すような表情を浮かべていたが。
シロコ、ノノミ、アヤネからも異議は出ない。
「…認めない」
「セリカちゃん…?」
ボソリとセリカの口から放たれた否定の言葉に、アヤネが疑問符を浮かべた。
直後、セリカはパイプ椅子を鳴らしながら勢いよく立ち上がり、机を両掌でひっ叩いた。
「連邦生徒会は!あいつらは何もしてくれなかった!『他校との統合が最適解』とか、そんなことばっかり返してきて!こっちの事情を知ろうともしない!『破産すればいいですよ』って言うだけで何も…ッ!!」
感極まったセリカの慟哭に、アビドスの生徒たちは何も言えない。ゼウスも同様だ。
と、彼女はキッとゼウスを睨みつける。自らに忠を尽くしてくれる部下を多数抱えるゼウスにとり、このような反抗的な視線を向けられるのは久方ぶりだ。懐かしささえ感じる。
「あんただってそうなんでしょ!手紙なんて無駄って私は反対したのに!"シャーレ"の先生だか何だか知らないけど馬鹿にして!」
「「セリカちゃん!」」
怒りの矛先をゼウスに向けるセリカに対し、ノノミとアヤネが咎めるように声を上げた。
「まぁまぁセリカちゃん。少なくとも、先生たちはうちをしっかり事前調査して来てくれて、物資を届けて、しかもヘイローがないのに直接戦って援護してくれたんだよ?しかも、こっちの事情を知った上で協力させてほしいって言ってきた。信じてみてもいいんじゃないかな?」
「うん。セリカ、先生たちは信用してもいいと思う。他に方法もないし」
ホシノとシロコの諭すような言葉に、一瞬たじろいだように見えたが、直ぐに強気な態度に戻って言い返した。
「う、う…でも!大人たちがうちの学校がどうなろうかなんて、考えたことあった!?今まで見向きもしてこなかったでしょ!?なのに、今になって首を突っ込んでくるなんて…私は認めない!!」
一通り吐き出し、勢いよくドアを開けた。
「って、うわぁ!?」
「…一体何があったんだ?」
扉を開けた先には、赤いジャケットを纏う男…ジオルジョが立っていた。鹵獲武器の荷下ろしをエヴァ諸共担当していたが、丁度終わったらしい。
あれだけの声量だ。彼にも聞こえていたようで、顔を顰めながら何があったのかを訊いてくる。
思わずといった様子でつんのめったセリカは何とか姿勢を戻すと、行く手を阻むジオルジョに怒りを向ける。
「っ…邪魔よ!」
――ダン…ッ!!
特に何かされたわけではないが、色々と複雑な感情を抱いていた相手なのもあるだろう。半ば咄嗟に、彼の腹へ真正面から掌底を打ち込んで突き飛ばすと、1歩後退った彼の前を横切り、走り去った。
「ちょ、ちょっとセリカちゃん!?」
アヤネがドアから飛び出し、セリカの走り去った方へ視線を移すが、その背中はとっくに見えなかった。
「ジオルジョさん、大丈夫?」
かなりいい一撃だ。重い音が教室の全員に聞こえていた。
シロコが駆け寄って容体を確認する。
「大丈夫だ。…中々やるな、あいつは」
しかし、咄嗟且つ単純な突き飛ばしとはいえ、キヴォトス人による割と本気の打撃を喰らったにも関わらず、ジオルジョは1歩後退っただけで、痛みに悶える様子は全くない。
「うへ、ジオルジョさん頑丈すぎない?」
「…いや、頑丈なわけじゃない」
軍隊格闘術『システマ』の受け。
緊張して身体が固くなると、その分攻撃も効きやすくなる。よって、常にリラックスすることで力を抜いて緊張を解し、打撃を受けたと同時に息を吐き肩、若しくは片脚を上げる…この動きで、打撃の衝撃が体内に入らず、逃げていくのだ。
また、彼は心法――精神鍛錬により心を鍛え、更に実戦で数々の荒事も経験しているため、強靭な精神力を持っている。あの程度の打撃では、全く怯まない。
…一応言うがこの男、"エリュシオン"幹部の中でも戦闘力は下級である。
「それで総帥、何があった?」
「…信用問題、とでも言っておくか。誰も見向きもしなかった場所へ、のこのこと首を突っ込んで…と」
「なるほど…まぁ、仕方ないな」
ゼウスの説明に、ジオルジョは特に感情を見せることなく納得した。
理不尽に暴行を受けたわけだが、あまり気にしていない。メンタルが鍛えられている故の反応だ。
「…私、様子を見てきますね」
申し訳なさそうに、ノノミが教室を出てセリカの後を追う。
「え…っと、何処からお話しましょうか…?」
「俺が知っているのは、凡そ10億円の借金があることだけだが…大方、砂漠化した土地の復興のため、といったところか?」
未だ空気が重いが、気を取り直して話を切り変えたアヤネに、ゼウスは応える。
「うへ、流石先生。頭が回るんだねぇ」
「はい…返済できなければ学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らなければならなくなってしまいます。ですが、返済が完了する可能性は0%に近く、殆どの生徒は学校を去ってしまいました…」
「そして、私たちだけが残った」
約10億円の借金など、学生には過ぎたものだ。大人や連邦生徒会のように、見限るのが普通だろう。
寧ろ、本気で返済しようと真っ向から立ち向かっている対策委員会の精神力が異常だと言える。
「学校が廃校の危機に陥っているのも、生徒がいなくなったのも、街がゴーストタウンになりつつあるのも、全てこの借金のせいです」
机に広げた地図の一角を、順にアヤネが指差す。
「砂嵐によって学区の至るところが砂に埋もれ、自然災害を克服するために多額の予算が必要でしたが、このような片田舎の学校に融資を行ってくれる銀行は中々見つからず…」
「結局、悪徳金融業者に頼るしかなかった」
「利率がおかしいのはそういうことか」
アヤネの後を継ぐようにシロコが言い、ジオルジョの呟きに頷きながら、地図の一角…『カイザーローン』と記された企業を指差した。
「…よりにもよって、そこか」
民間軍事会社、銀行経営、建設業、武器兵器の開発・販売等、様々な事業を展開しているカイザーコーポレーションの系列会社、『カイザーローン』。
ゼウスも、投資信託のための市場調査を行う中でこの企業の存在を知り、独自に調査を行っている。
グレーゾーンで好き勝手やっている、狡猾な悪徳企業。それに、悪い友達も多いようだ。
大部分が荒廃し、あらゆる法律の殆どがとっくの昔に機能を失った地球国家の各企業に比べれば、多少はマシなのかもしれない…とゼウスは一瞬思ったが、子供を相手にしている時点で十分禄でもない。
「最初の内は、直ぐに返済できる算段だったのだと思います。しかし砂嵐はその後も、毎年更に巨大な規模で発生し……学校の努力も虚しく、学区の状況は手が付けられないほどの悪化の一途を辿りました。そしてついに、アビドスの半分以上が砂に呑まれて砂漠と化し、借金はみるみる膨れ上がっていったのです…」
アビドスの地図の半分以上が、砂漠を表す赤い射線で覆われていた。
「私たちの力だけでは、毎月の利息を返済するので精一杯で…弾薬も補給品も、底を尽いてしまったんです」
そうは言うが、利息分だけでも学生にとっては天文学的な額だ。それだけでも毎月、しかも合法な手段で稼ぎ、返済できているだけでも驚きである。
「調べるどころか、話を聞いてくれたのは先生、貴方が初めて」
「…とまぁ、そんなつまらない話だよ」
つまらない話だと、自虐の籠った声音でホシノは締めくくった。
「ホシノ」
「うん…?」
唐突に、ゼウスが咎めるようにホシノヘ呼び掛ける。
「お前たちが必死に足掻いて、苦しんだ原因を『つまらない話』の一言で済ますな」
「…そう、だね」
まさか、こんな言葉を投げられるとは思わなかったのだろう。一瞬だけポカンとしたホシノは、先の発言を内心で恥じた。
自分だけではなく、後輩たちの頑張りも否定してしまった気がしたのだ。
「とはいえ、10億…」
誰ともなしにゼウスは呟く。
若くしてPMCを経営しているとはいえ、今の状況は彼でさえ直ぐに解決できるようなものではない。
ほぼ無一文の状態で、その額の借金を抱えた経験はなかった。
「指名手配犯を捕まえたりして、なんとか利息だけは毎月返せてる」
そうシロコは言うが、先述の通り利息の返済は月凡そ800万。それを返せているだけでも凄まじい。
キヴォトスの治安の悪さ、それによってあちこちに蔓延る犯罪者たちが、アビドスに資金を提供している形になっているわけだが、何とも皮肉なものだ。
「…生徒が助けを求めているなら、応えないわけにはいかない。俺は先生だからな」
「先生…?」
誰ともなしに独り言ちるゼウスにアヤネが心配そうに呼び掛ける。
「思ったよりも状況はよろしくないが…知識と力を貸す。解決までの道のりは極めて険しいだろうが、くれぐれも途中で投げ出したり、自棄になったりするなよ?」
「ん。勿論そのつもり」
「良かった…これで希望を持ってもいいんですよね…?」
「うへ。先生も物好きだねぇ。こーんなめんどくさい話に自分から付き合うなんて」
シロコが気合いの籠った表情で応え、アヤネが満面の笑みと共に安堵した。ホシノはどこか値踏みするような顔だが、初めて会ったときのような警戒の色はやや薄れている。
「…まずは、対策委員会を連邦生徒会の認可組織とし、議決権を復活させるよう手を回す。確か、ホシノが生徒会所属で現時点では実質アビドスのトップなんだろ?」
「んまぁ、トップだなんて名ばかりだよ。1人だけの生徒会なんて、中々ないだろうねぇ~」
「その1人だけの生徒会よりも、対策委員会の名で提出した方が受け容れ易いだろうからな。それに、俺がアビドスに通う理由付けもできる。…とにかく、孤立した状況を打開することだ」
立場的に、シャーレの先生は中立であるべきなのである。特定の学園に執着するのは悪手だ。
超法規的な権限を持っているため、『そんなこと知らん』と無視することはできるが、それでは信用問題に関わる。積極的にアビドスへ関わなければならない理由が必要だ。
「ただし、1から100まで全てはやらないぞ。勿論手助けはするし、どうしても手に負えない事態になったら積極的に介入するが…お前たちの学び舎は、最終的にはお前たちで守れ」
「うへ。今更なことを言うねぇ。あんまり見くびられると、おじさんも怒っちゃうよ~?」
試すような口調で言い放ちながら、委員会最年長のホシノに向け右手を差し出すゼウス。上等だといわんばかりに、ニヤリとしたホシノもその手を握り返した。
Pixivでも本シリーズを載せているのですが、そっちに集中し過ぎてハーメルンに載せていませんでした。
上級幹部の中でも実力的には下級(キヴォトス人をボコせないとは言ってない)