超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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ゼウス先生、対策委員会編の最中に一端ミレニアムに行って、そこで別イベ発生するかもです。
タイトルの割にセリカ要素薄い…。


不信の黒猫

 対策委員会――なおセリカ以外――の手配で、寝泊り用に改装された教室で一夜を明かしたゼウスは、早朝のフリーランニングを行っていた。

 彼は経営者である以上、仕事の量が多く、その種類も多岐に渡る。そんな仕事人気質な人間の生活など、不健康極まりないイメージが強いだろうが、少なくともゼウスに限っては別。

 仕事は手早く終わらせ、一日のノルマを達成したら直ぐに業務終了。時間が余ったとしても、無理に明日以降の仕事に手は付けない。

 脳の覚醒のための早朝ランニングは毎日続け、カフェイン摂取はコーヒー1日2杯程度、最低でも日付が変わる前に床に就き、7~8時間の睡眠をとる。そこらの社会人よりもよっぽど健康的な生活だ。

 

(流石は砂漠、道路を走るよりもいいトレーニングになる。埃っぽいのが気に食わないが)

 

 砂漠の砂の粒子は細かく、足を取られやすい。それが、身体に良い負荷を与えてくれる。

 …因みに、彼はただ砂漠を走っているわけではなく、廃墟をジャンプやバク転で、果ては外壁に足形と皹割れ、クレーターを残しながら垂直に駆け上がったり、砂に沈んだ建物の屋上間をパルクールの要領で飛び越える等、常人では絶対にできない動きを見せていた。

 

――ズドォッ!!!!

 

 ゼウスの体重は900キロ。そんな大質量がビルの屋上や道路に高所から降り立つ度、足元は皹割れて砂煙が舞っている。

 彼は普段、地面に体重を伝え難い歩法や身体操作を常時発動しており、足元が抜けないよう配慮しているのだが、誰もいない廃墟群が壊れても何ら問題はないため、久々に諸問題に悩まされず走り回った。

 それに加え、ゼウスの走力は凄まじい。陸上のオリンピックで優勝できるだとか、もうそんなレベルではない。

 

――ブオォォォォ…ッ!!

 

 …普通のオリンピック選手は、軽く走った風圧だけで一軒家を台風の渦中のように揺らしたりはしないし、ここまで約100キロ以上をノンストップで、且つ1時間足らずで走ったりはできない。しかも、激しい運動には向いてなさそうないつもの黒コート姿で。

 非人道極まる改造手術の連続、部隊での過酷な訓練、高山で獣同然のサバイバル生活をしつつ数年間の鍛錬…これらにより培われた肉体だからこそできる、超長距離・超高速フリーランニングだ。

 

「ん?」

 

 砂漠地帯が切れかけ、まだ原型を保つ家屋が並ぶ住宅街に差し掛かり、念のため走る速度を落とし始めたゼウスの視界に人影が写る。

 AR-70らしきアサルトライフルとスクールバック、アビドス高校の制服を纏った長いツインテールと猫耳が特徴的な彼女は、紛れもない黒見セリカだ。

 

「んげ…っ!?」

 

 速度を落としたとはいえ、キヴォトス基準でもとんでもない俊足で接近するゼウスに気付いたセリカは、女子高生らしからぬ頓狂な声を上げ、表情を歪める。

 

「おはよう、セリカ」

「お、おはようって何よ!馴れ馴れしくしないでくれる?ってか、どんなスピードで走ってんのよ!?凄い砂煙だったけど!?いや、まぁ、素手で対戦車榴弾を受け止めてたしこれ位有り得なくは…いや、そもそもそれが有り得ないわ…!」

 

 取り敢えず挨拶したわけだが、化け物を見るかのような視線を向けられてしまう。

 

「確か、今日は自由登校日だったな。なのに学校か?」

「うっさいわね!私の勝手でしょ!?」

 

 相変わらず、刺々しい言葉を向けられるゼウスだが、彼の心中は穏やかである。

 

(健全に反抗期を迎えているようで何よりだ)

 

 反抗期があるということは、健全に生活できている証拠だ。

 彼やその同期のように、幼い頃から反抗が許されない組織で抑圧されてきた身としては、羨ましいことこの上ないものである。

 この調子で、良い精神を育んでほしい…と内心で呟く。

 

「っ!?な、何よ!?その暖かい目は!?親か、アンタは!?」

 

 表情に出ていたらしく、やや顔を赤くしたセリカにそう指摘された。どちらかというと兄だ。歳の差的に。

 ツッコミの切れ味に思わず口角が上がる。

 

「兎に角!私は忙しいの!アンタもこんなところで油売ってたら、駄目な大人の見本みたいに思われるわよ!」

「そうか、因みにどこに行く気だ?」

「はぁ?言うわけないでしょ!それじゃバイバイ!」

 

 ダメもとで行く先を訊いたが、当然却下されてしまい、セリカはそのまま走り去っていった。

 中々の速さだが、姿が見える程度ではまだ遅いな…とゼウスは思った。追いつくのは容易だ。

 

 しかし、下手に干渉するのは悪手。彼女との隔たりが大きくなるのが目に見えている。そもそも、生徒の私生活へ過干渉するわけにはいかない。

 ストーカー扱いされた挙げ句殺害宣言された誰かさんとは違って、ゼウスは引き際を弁えているのだ。

 

 結局、ゼウスはそれ以上セリカの行動を深追いすることなく、生活拠点であるアビドス高校校舎に足を進めた。

 

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――ゴンッ…ゴンッ…ゴンッ…

「何の音…?」

 

 自転車に跨がり、学校を目指していたシロコは、校舎まで後5分といったところへ差し掛かった際に聞こえてきた異音に顔をしかめる。

 自由登校日であるが、今日は学校に皆が集まって遊ぶ日なのだ。借金返済に勤しむ彼女たちの、束の間の休息日。

 なお、セリカは諸事情で来られないと連絡があった。

 

「あ、シロコ先輩。おはようございます」

「アヤネ、おはよう…聞こえる?」

「はい。鐘を叩くような…」

 

 途中でアヤネと合流し、音の発生源を探す。どうやら、校庭の方から聞こえてくるようだ。

 

「おはようございます~☆」

「おはよ…ふぁぁ~~~~…」

 

 更に、ノノミとホシノが合流。後者は明らかに寝不足であり、後輩の背中におぶさって目を細めている。

 

「全く~、さっきからおじさんの眠りを妨げてる愚か者はどこのどいつなのかな~?」

「魔王みたいなことを言わないでください、先輩…」

 

 騒音の発生源に苦言を呈するホシノをアヤネが宥めつつ、一行は校庭に足を踏み入れる。

 防衛ライン構築のため、使わなくなった棚や机、古びたタイヤが無秩序に並べられている校庭の一角に、音の正体がいた。

 

――ゴンッ…!ゴンッ…!ゴンッ…!

 

 放置されて幾らか錆びついたブルドーザー。そのブレードを無言で殴り続けるエヴァが。

 

「「「……何してるの(んですか)???」」」

 

 あまりにもシュールな奇行に目が点になった4人が、同時にそんな言葉を漏らした。

 傍から見れば、完全に不審者だった。

 

「おっ、おはよう皆。悪いね、五月蠅かった?」

「い、いえ…」

 

 4人の存在に気付いたエヴァが殴るのをやめて向き直る。いつものジャケット姿ではなく、中国拳法の師範を思わせる白い胴着姿だ。

 かなり重い音が聞こえていた。強めに殴っていたのが分かるが、痛みに悶える様子は全くない。

 

「…それで、何してたの?」

 

 変なものを見る視線をエヴァに向けるシロコに、エヴァは笑顔で応える。

 

「部位鍛錬ってやつだよ。これを毎日続けていくと、こんな感じで拳が硬くなるわけ」

 

 先ほどまでブレードに打ち付けていた右拳を見せる。これまでの鍛錬により、人差し指・中指・薬指の拳面部には痛々しいタコができていた。

 殆ど毎日、鉄などの硬い物を1000回以上殴って鍛えてきたエヴァの拳は、常人と比べて明らかに肉が分厚い。

 そして何より…。

 

「硬い…!」

 

 差し出された拳を真っ先に触ったシロコが目を見開く。まるで鋼鉄のような硬さだ。これなら、ヘルメットをぶち抜いて顔面に拳がめり込んだのも頷ける。

 

「うわぁ…これには殴られたくないねぇ」

 

 エヴァの挙撃を喰らって悶絶し、鼻血を噴き出していたヘルメット団を思い出しながら、ホシノが言った。

 キヴォトスでも相応の実力者である彼女ですら、この反応である。

 

「ここだけじゃなくて、こことここも…」

 

 エヴァはそう言って、一本拳と指先を交互に見せながら、それぞれをブレードに打ち付けて部位鍛錬。

 先は、拳面部の3か所にそれぞれ衝撃が分散されていたが、今回打ち付けているのは第2関節と指先。打ち込む衝撃が1点で伝わっている。

 普通ならかなり痛いはずだ。

 

「素人が普通にフィンガージャブとかしようもんなら余裕で突き指するから、毎日こうやって鍛えてるんだよ。後ここもね」

 

 そう言って、エヴァは靴と靴下を脱いで裸足になると、今度は爪先でブレードを数度蹴りつける。

 こうして足先も鍛えることで、蹴りが相手により刺さるだけでなく、地面に対するグリップ力が増し、素早いフットワークにも活かされるのだ。

 『バレリーナが格闘技を習ったらヤバい』という言葉の裏付けである。

 

「いや、あの、怪我をしたりは…?」

「今までで一度もないよ。最初はマットとか、そういう柔らかい物を殴ったり蹴ったりして慣らした」

 

 ドン引きながらその様子を眺めるアヤネの問に応えながら、ゴンゴンと爪先を打ち付けていく。メンバーの治療も担当しているアヤネとしては、気が気でないのであろう。

 実際、見ているだけで痛い。頑丈なキヴォトス人とて、箪笥の角に指をぶつければ痛いのは共通なのだ。

 

「…そんで、最終的にこうなったわけ」

 

 そう言いながら、傍らの棚の上に置いてあったコンクリートブロックに向けて前蹴りを繰り出す。

 脚の動きは高速且つ滑らか。戦闘慣れしているアビドスの面々ですら、油断したら見逃しそうな勢いだ。

 

――ドゴッ!!

 

 コンクリートブロックに突き刺さった足先は、いとも容易くそれを粉砕して見せた。部位鍛錬の徹底で鍛えた足先は、まるで銃弾の如き威力を発揮していた。

 素足の前蹴りでこれなのだ。チタン合金を仕込んだ靴を履き、且つ遠心力を使った三日月蹴り等が突き刺さったら、並のキヴォトス人の肋骨などは簡単にへし折れ、内臓にも影響が出るだろう。

 

「シ…ッ!!」

――ドゴッ!!

 

 次いで、鋭く一息を吐いたと同時に、残りのコンクリートブロックに向けて一本拳によるストレートリード。

 遠い間合いから放たれる、長距離カノン砲を思わせる挙撃は、キヴォトス基準でも確かに神速。これで"エリュシオン"の幹部でも下級の実力など、誰が想像できたものか。

 一本拳により突き出た第2関節は、これまたブロックを粉砕…ではなく、首を刎ねるかのように切り飛ばした。原型は比較的留めたまま、無駄な破片を撒き散らさずに真っ二つである。尋常ではない攻撃速度が伺えた。

 

「「……」」

 

 ポカンと目を見開くノノミとアヤネ。

 

「…!」キラキラ

 

 無言ながら、目を輝かせてエヴァを見るシロコバトルジャンキー。ジークンドーとの邂逅の瞬間である。

 

「うっへ~…」

 

 エヴァの格闘センスは目の当たりにしていたが、改めてその腕前に感心するホシノ。

 

「こういう鍛錬は顧みちゃダメなんだ。殴って手を痛めようがその時はその時。躊躇なく殴れるようにならなといけn…」

「エヴァさん」

「うおっ!?」

 

 4者の反応に気を良くしたエヴァが、人差し指を立てながら説明する途中、シロコがそれを遮るように身を乗り出す。

 16歳の少女とはいえ、クールビューティーを具現化したかのようなルックスの彼女だ。急に距離を詰められると、流石に反応に困った。

 

「私にエヴァさんの戦い方、もっと教えて欲しい」

 

 シロコは言ってしまえばアウトロー。知らない武器や戦闘術は、彼女の興味をそそる。

 紳士の国フランスのサバット及びジークンドー・マスターことエヴァの戦いは、シロコのお気に召したようだ。

 

「良いよ。まぁ、そんなすぐにできるようなもんじゃないけど、気楽にね」

 

 そんなシロコの要望を、エヴァは即座に受け容れた。

 彼は『学びたい者には教えてやる』が信条であり、積極的に学びたい姿勢を見せるのであれば、基本二つ返事で了承する。

 

――ズドォ…ッ!!

「「「!?」」」

「あ、総帥じゃん」

 

 超重量の物体が落下した音と共に、土煙が舞い上がる。エヴァを除いた全員が驚きながらその方を向いた。

 フリーランニングを終えたゼウスが、拠点であるアビドスへ戻ってきたのだ。

 

「精が出るな、エヴァ」

「総帥こそ、まーた100キロ走ってきたのか?相変わらず人外だねぇ」

 

 部下を労うゼウスと、それに軽い口調で返すエヴァ。人外とは言うが、キヴォトス人相手に正面から殴り合って勝てるエヴァも、普通に人間を辞めている。これでも、"エリュシオン"幹部の中では(身体能力的に)一番人間味がある男なのだが。

 ゼウスのフリーランニングは組織でも定番となっており、エヴァ・ジオルジョを除く人外な幹部たちも偶に彼と同行している。

 

「私も走るのは好き。先生も今度一緒に走ろう」

「あぁ、是非とも。あと、エヴァに弟子入りしたらしいな。免許皆伝を得られるように励めよ」

「ん。頑張る」

 

 シロコはゼウスの人外っぷりに驚いていたが、それでもアビドスの面々よりも早く気を取り戻し、ゼウスとのフリーランニングを希望。セリカやアヤネと違い、彼の人外っぷり――対物ライフル片手早撃ち、飛翔するPRGの弾頭をノールックでキャッチ等――を見ていないとはいえ、エヴァを凌駕する人外だという事を勘で察知していた。

 それに、ヘイローのない人間の男性という未知に触れた彼女は、今までにない感情を抱きつつあった。

 

(…シロコちゃん。ちょっと凄いの見せてやるよ)

(え?)

「総帥、これ着けてくれや」

「ん?…あぁ」

 

 シロコに耳打ちしたエヴァが、ゼウスに向け目隠しを差し出す。エヴァの意図を察したゼウスはそれを受け取ると、サングラスを上にずらして目隠しを着ける。完全に視界を奪われた格好だ。

 

「…ッ!!」

 

 目の見えないゼウスの顔面に対し、エヴァは真っ向から右のストレートリードを放つ。一切の忖度がない人差し指の一本拳。殺意たっぷりな本気の、それも殆どノーモーションで、「今からお前をぶん殴ってやるぞ」という"気"を感じさせない一撃である。

 相応の実力を持ったシロコですら反応できない。

 

(…ダメか)

「――え…!?」

 

 だが、エヴァの一本拳は空を切る。ゼウスは首を傾げるような最小限の動きで、神速・ノーモーションの挙撃を躱していた。

 エヴァは諦観と羨望が混じった表情を浮かべ、シロコはたった今己の師となったエヴァのパンチをいとも簡単に回避したゼウスに、驚愕の声を漏らす。

 …一応言うが、視界は完全に塞がれているし、八百長もしていない。

 

 確かに、エヴァの挙撃は速く、打つ気を感じさせない。だが、攻撃しようと思うと、どうしても空気が揺れるものだ。その揺らぎを感知する能力を、ゼウスは極めて高い水準で備えている。

 なお、それに加えて野生生活で得た超能力の1つ――読心能力を用いれば、どれほど正確に攻撃を浴びせようと、圧倒的な物量で押し潰そうと、フェイントを仕掛けようと、相手の動きを即座に見抜いて回避してしまう。

 …視界を封じた状態の彼ですら、このキヴォトスに倒せる者はいないだろう。

 

「…ッ!!」

――パシ…ッ

 

 再び一本拳を放つが、ゼウスは軽く右手を掲げてエヴァの挙撃を横方向に払い、防御した。

 身体のどこに、どんな攻撃が来るのかを、全て見切った動きだ。視覚の情報を封じた状態というのに。

 

「…ぐっ!?」

 

 三度目の正直とばかりの挙撃を浴びせるエヴァだが、苦悶の声を上げて後退る。神速のパンチは、ゼウスの顔面を捕える寸前で止まった。

 彼が一歩踏み出し、拳を突き出す直前、ゼウスは踵をエヴァの膝関節に添えることでストッピングしたのだ。

 

「…はぁ。相変わらず、勝てる気しないねぇ…」

「そう言うな。前よりも上手く気配を隠せてる。流石だな」

 

 ぼやくエヴァをそうフォローするゼウス。圧倒的強者が気を遣ってる風にしか見えないが、ゼウスは本気だ。

 彼のように改造手術で得た超人的な肉体に頼ることなく、人の身のままここまで鍛え上げたエヴァに、心から敬服しているのである。

 

「…シロコちゃんには是非とも、総帥に一撃入れられる人材になってほしいなぁ」

「が…頑張る…うん、頑張る…!」

「シロコちゃん、無理しないでいいよ~?」

 

 エヴァに肩を叩かれながら応援の言葉を投げられたシロコは、そのハードルの高さに狼狽えたようだが、それでも自分の知らない戦術を会得できるチャンスを逃すまいと、エヴァへ師事する決意を露わにした。

 

「…ところでホシノ。少し相談事があるんだが」

「え?何~?」

 

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「わぁ☆これ、凄く美味しいです!」

「それは何よりだ。校内の食糧を使って本当に大丈夫だったのか?」

「いえ、お気になさらず!食事は基本個人で摂ってますから」

 

 ジオルジョ・ルーカはエージェントであるが、同時に一流の料理人でもある。

 

「相変わらず、ジオルジョは良いエスプレッソを淹れるな…」

「光栄だ、総帥。…エヴァはもっと味わって飲め」

「味わってるって!うめぇよ!」

 

 対策委員会の面々と共に、彼の作った食事に舌鼓を打つゼウスとエヴァ。

 ポルケッタとレタス、トマトを挟んだサンドウィッチを味わいながら、適切な温度で淹れられたエスプレッソを嗜む。

 これを味わってしまったが最後、気分が乗って口が軽くなった者は、ジオルジョの話術も相まって、大抵は誇らしげに機密情報を吐いてしまうのだ。

 

「んで、先生。相談事って何かな~?」

 

 アビドスの生徒たちもジオルジョの美味を味わって気が緩む中、ホシノは表情を柔らかくしつつも警戒は怠っていない。

 

「大したことじゃないが…試験管数個分でいい。アビドスの砂をサンプルとして持ち帰りたい」

「…?砂ならいくらでもあるし全然持って帰っていいけど…?」

 

 予想外な内容に、ホシノは拍子抜けした。

 広大なアビドス自治区。その半分以上を埋める砂漠の砂を持って帰られたところで、何の不都合もない。

 それどころか、砂の除去を行っている現状、寧ろもっと持って行って欲しいと思っていたところだ。

 

「砂は案外馬鹿にできない資源でな。スマホのディスプレイや工業ガラス、電子部品、ロックウールに加工しての防音・断熱材量、光学フィルター…色々と用途がある。他の自治区に輸出すれば、そこそこ稼げるんじゃないかと思ったんだ」

「へぇ~~。てことは…」

「もしかして…」

「つまり…」

 

 窓の外に目をやるアビドス勢。舞い上がった砂により、視界が若干悪く、建物や打ち捨てられた車が埋められている。今までは鬱陶しいと思っていたものだが…。

 

「…宝の山?」

「砂の組成によって、そもそも使えるかどうかは変わるが。サンプルを取って、ミレニアム辺りに解析に回しておこうと思ってな」

「なるほど~。今まで邪魔なだけのただの砂だって放っておいたけど、お金になるんだね~…いいよ。どれ位の価値になるかは分からないけど、少しは借金返済の足しにはなるだろうし、仮に価値がなかったとしてもノーダメージだしね~」

 

 代表してホシノが言う。反対意見は出ない。

 仮に砂に価値がなかったとしても、何かペナルティが課されることはないし、多額の借金を返さねばならぬ以上、資金の出どころは多い方がいい。

 

「…とまぁ、それはさておいて。このチャーシューみたいなやつ、美味しいねぇ~。サンドウィッチもいいけど、ご飯にも合いそうだよ」

「ポルケッタだ。香草やニンニク、スパイスを潰したペーストを塗り込んだローストポークだな。後でドンブリにしてやろう」

 

 話題を変え、ジオルジョの料理を絶賛するホシノ。なお、ジオルジョはほぼ全種類の料理を網羅している。和・洋・中なんでもござれだ。

 "エリュシオン"を辞し、シェフとしてレストランを出しても生計を立てられるだろう。…ジオルジョが"エリュシオン"を辞める可能性など、万に一つもないが。

 

「紫関のチャーシューといい勝負かも」

「紫関…?」

 

 サンドウィッチを頬張りながら独り言ちるシロコの言葉。その内容に気になる単語を聞いたゼウスは疑問を呈した。

 

「郊外の方にあるラーメン屋さんなんです」

「学校終わりに皆でよく集まってますね~☆」

「おじさんはよく特製味噌ラーメンの炙りチャーシュートッピングを頼むんだけど、昇天しそうな位美味しいんだよ~」

 

 塩分過多になりそうだな…と一瞬思ったが、流石に言葉には出さない。華の女子高生の娯楽だ、口出すのは野暮というものである。

 

「ラーメン…即席でしか食べてないな…」

「え、マジで?じゃあ大将のラーメンを食べさせてしんぜよ~う。…今日は先生たちを紫関ラーメンに案内するよ!」

 

 カップ麺や、即席の袋ラーメンを食べたことはある。しかし、職人が手作りしたラーメンは初めてだ。興味をそそる。

 ホシノの提案に反対意見はなく、ゼウスたちの今日の行動方針は定まった。

 

 




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