超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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夜叉烏です。新キャラ登場です。


セリカ奪還作戦③

「はーはっはっはっ!!どうだ、戦車が着ちまったぞぉ!?」

「ヴィッカースMk.3か…まぁ、クルセイダーよりよっぽど上等だな」

 

 ゼウスの前方凡そ500メートルから迫るのは、嘗てイギリスが輸出用として開発していたヴィッカースMk.3主力戦車が3両。

 "エリュシオン"が装備しているK2ELに比べれば、性能面で遥かに劣る車両であるが、キヴォトス基準からすれば高性能の部類に入るらしい。

 キヴォトスは戦闘ロボットの技術は地球を凌駕しているが、戦車の開発技術は後れを取っているようだ。実用的且つ強力な戦闘ロボットがあるのなら、「戦車は精々小銃弾・擲弾を跳ね返す装甲と歩兵支援に十分な火力があればOK」的な思想があるのだろうか。

 

「先生、ここは私が!」

 

 ノノミが自身のヘイローを一際輝かせた。神秘の力を借りた銃撃で、敵戦車を蜂の巣にしようという魂胆らしい。

 

「大丈夫だ。たかが戦車の1両や2両、俺の腕一本でどうにかなる」

「そ、そんなわけ…!」

 

 弾切れのK4を投げ捨てると、アヤネとノノミの制止を他所にゆっくりと近づいていく。

 

「お、おい!あいつ全然ビビってねぇじゃねぇか!」

「糞ッ!徹甲弾!徹甲弾撃ち込め!直撃させろッ!!」

「えぇ!?榴弾じゃだめですか!?」

「ロケラン耐える奴だぞ!?機銃も意味ないだろうし、そん位しないと倒せねぇよッ!!新型のあれなら絶対効くッ!!」

 

 キューポラから身を乗り出してイキっていた車長が、物怖じせず無表情で向かってくるゼウスに恐怖を覚えたようで、砲手へ絶叫に近い指示を出す。

 雇い主(・・・)から齎された戦車には、距離500メートルで252ミリの貫徹力を誇る装弾筒徹甲弾(APDS)が積載されている。

 ゲヘナ製のティーガーだろうが、レッドウィンターのT-54だろうが正面から撃破して尚余りある火力だ。明らかに、各学園が装備する戦車を撃破すべく開発された背景が伺える。

 ワンマンアーミーの権家とも呼ぶべき各校の某生徒たちへの対抗手段…だと、後の調査で判明することとなるが。

 

「早く!照準を合わせろ!」

 

 105ミリライフル砲の照準がゼウスの胸部に合わせられる。

 ライフリングが刻まれた砲口の奥は、深淵を思わせる黒。まるで闇の中へと引きずり込まれるような感がある。

 

「恨むなよ…撃てぇッ!!」

 

 巨大な砲声と共に放たれる装弾筒徹甲弾(APDS)が、飛翔途中で装弾筒を脱ぎ捨て、タングステン製の弾芯が猛速でゼウスへ迫る。

 

――ゴッッ!!

 

 金属塊同士を思い切りぶつけたような音。普通なら、こんな音など立てずに人体側が木っ端微塵になっているはずだ。

 

「「「――え?」」」

 

 車長も砲手も操縦手も、アビドスの生徒たちも、目の前の光景に驚愕するあまり頓狂な声を上げてしまった。

 右肩が若干後ろに下がった状態で動きを止めるゼウス。戦車砲――それも口径105ミリのAPDS弾が直撃したにも関わらず、肉体が抉られることなく立ち続けていた。

 キヴォトス人であっても、死にはしないが大怪我・吹っ飛ばされるのは必至な攻撃を、1歩たりとも後退りせずに受け止めて見せたのだ。

 

――ゴトン…ッ

「"磐座(いわくら)"で受けても衝撃が少し来るな…劣化ウラン弾だったらヤバかったか…やっぱりあいつ(・・・)程のポテンシャルはないか…」

(い、いわくら…?)

 

 先端が押し潰れたタングステン製弾芯が、ゼウスの目の前に虚しい音と共に落下。当の本人は、周囲の反応を他所にたった今受けた攻撃をテイスティングし、謎の単語を聞いたアヤネが心中で独り言ちた。

 なお、ゼウスの言う「劣化ウラン弾」とは、M1A2エイブラムスといった最新のMBTに搭載されているものだ。同車が搭載するM829A2装弾筒付安定翼徹甲弾(APFSDS)は、距離500メートルで600ミリの均質圧延鋼を貫く。

 

「…ふ、踏み潰せッ!!」

「え、えぇ!?」

「砲が効かないんじゃ、車体を砲弾にするだけだ!!早く行けッ!!」

 

 再び無表情で迫るゼウスに対し、もうヤケクソになってしまったのだろう。エンジンを噴かし、履帯が一瞬空回りする勢いで突進を始める。

 軽量化を考慮されているとはいえ、ヴィッカースMk.3の車重は約40トン。そして新型の800馬力ディーゼルエンジンによって時速80キロまで加速された巨体は、十分強力な武器となる。

 進路上の柵や自動車の残骸を撥ね飛ばし、たった1人の大人を確実に抹殺すべく突進する。

 

 …そんな殺意たっぷりな戦車に対し、ゼウスはその細腕を前に出すだけだった。

 

――ドガッ!!

「「「うおぉぉッ!?!?」」」

 

 最高速度で駆けていたヴィッカースが急停車。頑丈なキヴォトス人とて、慣性の法則には流石に逆らえずに前へつんのめり、全員が総じてどこかしらに頭をぶつけた。

 

「思い切りが良い奴は嫌いじゃない。良い判断だ」

 

 車体正面の装甲に添えられた右手。たったそれだけで、戦車の履帯が虚しく空回り。

 ゼウスに力んでいる様子もなく、戦車を止めるだけで手一杯という風でもない。欠伸が出そうだ…とでも言いたげだ。

 

「さぁて、しっかり受け身を取れ。さもないと…」

 

 そう警告した直後、ゼウスの指が装甲に食い込む。そのまま、片手でヴィッカースを持ち上げて見せた。

 

「「「えぇぇ~~~~っ!?!?」」」

 

 アビドス勢は勿論、その様に目玉を飛び出さんばかりに驚く。純粋な腕力…それも片腕で車両を持ち上げる人間など、今まで会ったことはなかった。

 アビドス一のパワー系生徒であるノノミでも、こんな芸当はできない。

 

「来るか!?修学旅行名物戦車投げ!」

「そんな名物知りませんよっ!?!?」

 

 何かを期待するようなエヴァが放った謎の単語にツッコむアヤネ。なお、ゼウスの剛腕っぷりはエージェント2人にとって周知の事実。目の前のような非常識はいつもの事であるため、驚くような素振りはない。

 

「――死ぬほど痛い目に遭うぞ」

――ブオッ!!

 

 野球のスローイングの要領で、ヴィッカースの巨体を猛速で放り投げた。

 

「「「ぎゃああああああああッ!?!?」」」

 

 50メートルほど宙を舞った戦車は道路を転がりながら、廃車やコンクリート壁にぶち当たり、装甲や砲身、履帯をひしゃげさせ、ついでに健在だった歩兵を巻き込んで漸く止まった。

 戦車投げ…というより、戦車ボーリングと言った方が正しかったかもしれない。

 

「ふーん…少し、加減し過ぎたか…」

(((それで(ですか)!?!?)))

 

 右掌を見ながら呟くゼウスに対し、アビドス生徒たちは心中でそう叫んでいた。

 

「ひっ…!!逃げ…逃げ…!!」

「バケモンだぁぁぁぁッ!!」

 

 残り2両のヴィッカースから転がり落ちるように団員が脱出し、戦車を捨てて一目散にアジトへ逃げ出した。

 1両目が簡単に転がされ、最早勝ち目がないと判断したらしい。戦車に乗っていれば負けない…とほぼ確信していた先の言動は何処へやらだ。

 

「少し待て」

「み゜ぃッ!?!?」

「…一瞬で回り込んだ。先生凄い」

「もう瞬間移動ですね~」

 

 ヘルメット団のリーダーらしい、覚束ない足取りで逃げる彼女の前に音も気配もなく立つ。リーダーはま行に句読点がついたような、人間が出せるのかすら危うい絶叫を上げた。

 

「ひぃぃぃ~~…ッ!!こ、来ないで…ッ!!」

「おっと、動くな」

 

 武術に於ける虚実の"虚"の動きでリーダーの至近へ悟られずに肉薄するや、右の人差し指で彼女の銃を持つ腕を軽く撫でた。

 

「……は??え、な…何…!?動かな…!!冷た…っ!?!?」

 

 直後、リーダーの右腕がピクリとも動かなくなった。肩から指先まで、自分の意思とは無関係に。

 そして、同時に襲い来る寒気。右腕が氷漬けになってしまったかのようだ。真冬に薄着で過ごしていても、ここまではならないだろう。

 未知の現象が起きている我が身に、目をひん剥いてパニックになるリーダー。

 

「肩甲骨を動かなくさせた。安心しろ、すぐ元に戻る」

 

 セリカから没収したであろうAR-70/223を向けてくる彼女の手から、ライフルを一瞬にして取り上げた。

 自分の手中から銃が、ついでにポケットからマガジンも抜かれていることに5秒ほど経ってから気付いた彼女は、完全な丸腰となっていることを悟って動けなくなってしまった。

 

「あ…あばばばばばば……」

「(((し、白目剥いてる…!!)))

 

 抵抗の術がない状態、謎の力で右腕が全く動かなくされ、目の前に圧倒的な力を持った敵が仁王立ちしている…その状況はリーダーの精神を著しく摩耗させた。もう気絶半歩手前である。

 セリカを攫ったことに怒っていたアビドス生徒たちですら、憐憫を覚える程の怯えっぷりだった。

 

「ほら、持ってろ。お前たちを社会の底から引き揚げてやる」

 

 掌サイズの端末を取り出したゼウスは、辛うじて意識を保ってるリーダーにそれを投げ渡す。

 

「あ、あぁ…?な…にを…?」

「学校に行ってない、犯罪しまくりの不良…そんなでも、お前たちは生徒だ。俺の救済対象でもある。分かったら大人しく迎えの連中の言う事を聞けよ?…お前たちの雇い主が始末屋を差し向ける前に来るよう念押ししておくから、安心しろ」

 

 何とか投げ渡された端末…GPS発信器を無事な左手で受け取ったリーダーが何とか発した言葉に、ゼウスは踵を返しながら手短に返す。

 ヘルメット団がしくじったと知った黒幕が、彼女たちをそのままにしておくとは考えにくい。証拠隠滅も兼ねて、用済みだと始末されるのがオチだろう。

 

「…よし、戦闘終了。戦車を持ち帰る。機甲戦力の足しにするんだ。銃火器も拾えるだけ拾え。なるべく多種類をな」

「「「はい!(了解)」」」

 

 既に団員はリーダーを除いてアジトへ逃げ帰るか、そこらで気絶しているかで立っている者はいない。戦闘は終了したと言っていいだろう。

 黒幕から提供されたであろう武器兵器。その証拠を回収するのだ。調査が終わればアビドス側で使用すればよい。

 乗員が逃げ出した新鋭戦車2両に目を輝かせたシロコが真っ先に其方へ向かい、エヴァが追いかける。残りは散らばった銃火器や手榴弾、予備の弾薬等を拾っている。

 

「さて…」

 

 取り返したセリカの愛銃を"ブルーシャーク"へ積み込みに行こうとした時。

 

「ま、待ってくれ!先生!」

 

 相変わらず右腕が銃を握った形のまま動かないリーダーが、ゼウスを『先生』と呼んだ。

 

「あ、いや、別に文句を言いたいんじゃ…その…」

「…礼は要らないぞ」

 

 軽く彼女の心を視て(・・)みれば、ゼウスに対する感謝の気持ちで溢れていた。今にも涙を流して頭を垂れ、ありとあらゆる感謝の言葉を口走りそうだ。

 彼女たちも、初日で暴れていた刈谷ジルらと同様、衣食住がないがために止むを得ず不良をやっているのだ。

 

「非合法の手段で金を稼いでたのはいただけないが…」

 

 へたり込むリーダーに目線を合わせるようにしゃがむと、右手の人差し指と中指を合わせ、先ほど動けなくさせた彼女の右腕を軽く撫でてやる。

 ピクリとも動かなかった腕が嘘のように血の気と温度を取り戻し、指まで自分の意思で動かせるようになった。

 

「…え?あ、う…動く…?」

「…学園から転がり落ちた生徒を護る組織も法律もない、キヴォトスそのものの欠陥の所為だからな。今まで迷惑かけてきた分、これからを真面に、有意義に生きることだ」

 

 急に自由を取り戻した己の腕をまじまじと見つめるリーダーに微笑みを向けながら、そんな助言を残して踵を返す。

 

「…カイザーコーポレーション、もっと言うとカイザーPMC。雇い主はそれ。…もう知ってた?」

「…いや。候補には上がってたが今一つ確証がなかった。…ありがとう。今度会う時は、生まれ変わったお前を見せてくれよ」

 

 お礼代わりのつもりか、リーダーはそんな情報をゼウスに渡した。

 

 ――結局お前たちか、カイザーコーポレーション。

 ――今まで好き勝手やってきたみたいだが…

 ――俺の生徒を体よく利用したんだ。

 ――この『天帝(てんてい)』がお前たちに終焉を齎してやる。

 

 そんな決意を新たにするゼウス。

 カイザーコーポレーションが碌でもない結末を迎えることになるのは、ほぼ確定事項となったのだった。

 御愁傷様である。

 

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「あれま、話が違うね~」

「…凄い。風紀やカイザーの連中よりも装備が整ってる」

「ど、どうしましょう?私が突っ込んできましょうか?」

 

 武器兵器を鹵獲したアビドス勢が撤退した3時間ほど後、ヘルメット団のアジトを遠巻きに眺める4人の少女がいた。

 依頼主より新たな仕事を任された彼女らは、用済みとなったヘルメット団を口封じに始末しに来たのだが…。

 

「うわ、大きなヘリだねぇ。あれ1機でヘルメット団全員乗れそう」

 

 長い胴体の前後に1基ずつ巨大なローターを装備したヘリ…2機のMH-47Gが着陸し、兵士の誘導で団員が次々と乗り込んでいく様を見ながら、銀髪ポニーテールでこの中では一番の小柄…ゲヘナ学園の2年生浅黄ムツキが感嘆の声を漏らす。

 ヘルメット団全員は100人ほどいるため、流石に最大55名の兵員搭載数であるMH-47Gでは全員運ぶことはできない。だが、そんな考えが浮かんでしまうほどには巨大なヘリである。

 

「予定が狂ったね、社長。どうする?無理やりにでもヘルメット団を潰す?十中八九あの人たちとも戦うことになるけど」

 

 ポケットに手を入れたまま自らの上司に問うのは、同じくゲヘナ学園の3年生鬼方カヨコ。

 冷静沈着なカヨコは、所属部活『便利屋68』の参謀。癖のあるメンバーを裏から操る曲者だ。

 

「ふ~ん…そう、ね…」

 

 参謀に問いかけられたのは、彼女たちのリーダーである陸八魔アル。

 何でも屋『便利屋68』の社長。カリスマと実力は中々だ。

 

(最初の依頼は『ヘルメット団の処理』だったわね…でも、変に敵を増やしたら不味いわ…)

 

 クライアントから受けた最初の依頼は、前任者であるヘルメット団を口封じに処理すること。アビドスを襲撃するのが本命の依頼であり、ヘルメット団については努力目標だ。

 要はやってもやらなくても問題はないが、やってくれるとありがたい…そんなもの。

 しかし、簡単な仕事だと思っていざ来てみれば、謎の勢力が彼女らを匿っている。

 

「…仕方ないわ。クライアントの意向だし、攻撃するわよ」

「…正気?あの人たち、ヘイロー無いよ?それに本命はアビドスへの攻撃だし、そっちに全力を出すべきじゃない?」

 

 カヨコが眉をしかめる。

 キヴォトスに蔓延るどんな悪党でも、人殺しに発展するような事案には手を付けない。殺人という罪の重さは地球よりも重いのだ。

 ましてや、銃弾1発、弾片1つが致命傷になりかねない相手。

 

 だからといって、戦闘という一瞬の駆け引きが常な状況では、死なない程度に加減するのは難しい。

 勢い余って殺してしまうかもしれないのだ。それだけは何としても避けたい。

 『キヴォトス一のアウトロー』を目指す便利屋68も、そのラインは無論厳守している。

 

 それと、便利屋68の経済状況はお世辞にも良いとは言えないため、無駄に弾薬を消費するべきではない…それがカヨコの主張である。

 

「確かに武装しているけれど、それだけよ。弾に当たることは避けたい筈。ちょっと威嚇射撃して簡単に顔が出せない隙に…」

「…はぁ。そんなに上手くいくかな…」

 

 楽観的なアルの言葉に、カヨコはため息をつく。

 彼女の妙な拘りと楽観論、虚勢はいつものことだ。きっと「本命じゃないからといって手を付けないなんてアウトローじゃないわ!クライアントの依頼全てをカッコよくこなすのが真のアウトローでしょ!」とか、そんな薄っぺらい思考で言ってるに違いない。

 

「じ、じゃあ、私が全部爆破して…」

「はいはい、ハルカちゃんステイ。全部吹き飛ばしたら元も子もないでしょ?」

 

 ショットガンを持った陰気な少女…ゲヘナ学園の1年生伊草ハルカがいつもの爆破癖を発揮しようとしたところ、ムツキが止めに入った。

 

「ハルカ。難しいかもしれないけれど、可能な限り足や手を狙うのよ?あと、爆弾もあまり使わずにお願いするわ」

「は、はい!アル様!」

 

 アルがハルカへ釘を刺す。これなら最悪の事態は防げる筈だ。アルの命令には忠実であるため、命に掛けてでも遵守するだろう。

 アルがPSG-1(ワインレッド・アドマイアー)のスコープを覗き込み、各々突撃準備を整えたその時だった。

 

「――賑やかな会社ですねぇ。最初に出会ってたら社員になってたかもです」

「「「っ!?!?」」」

 

 全くの気配がないにも関わらず、すぐ後ろから投げ掛けられた声。状況に似合わないのほほんとした、心から言葉通りに思っていそうな男の声だ。

 

「…え?」

 

 振り返って声の主を見たアルが頓狂な声を漏らす。

 錫杖を持ち、黒地の丈が長いコートに身を包んだ男が立っていた。古めかしい木製ストック――第二次大戦で使われていそうな小銃を背負っている。

 身長170センチほどの黒づくめ、キヴォトスでは珍しい人間の男だった。

 

 だが、アルたちを困惑させたのは目隠し。

 丁度、両目の間にあたる部分の布には大きな目が描かれており、まるでおとぎ話に出てくる一つ目のお化けのようだ。

 視界は完全に塞がれているはずだが、顔は便利屋68のメンバーを真っ直ぐ捉えている。

 

(…なに、この人…いや、ホントに人…!?)

 

 完全に不審者を見る目付きのアル、面白そうなものを見る目のムツキ、今にも襲いかからんばかりのハルカ。

 しかし、冷静なカヨコだけがその男の異質さを感じ、人ならざるものを見る目を向けていた。

 

「えーっと…どちら様、かしら?」

「その目隠し、流行ってるの~?危ないし、趣味悪いかなぁ~」

「ムツキ…!!」

 

 黙ってばかりでは埒が明かないと思ったアルが訊き、ムツキは容赦なく目隠しのデザインをディスる。

 唯一、彼の異質さを察しているカヨコが後者の言動を、少々乱暴に肩を掴みながら制した。少しでも機嫌を損ねたら終わりだ…と、彼女の第6感が訴えていた。

 

「おっとと…カヨコちゃんどうし…?」

「カヨコ…?大丈夫…?」

「…大丈夫」

 

 ムツキの肩に手を添えたまま、アルの心配に応えるが…。

 

――カチカチカチカチ…

 

 カヨコが手に持つサプレッサーを取り付けたハンドガン――HK45(デモンズロア)の銃口が震え、スライド部分から小刻みな金属音が発せられている。

 男に対する恐怖が、カヨコをここまで震え上がらせていた。「大丈夫」などでは断じてない。

 

「…どうやら、感の良い方がいらっしゃるようで。…私はまぁ、そうですね。あの部隊の指揮官、とだけ」

 

 自らを恐れ、警戒するカヨコの慧眼に感心するや、あと少しでヘルメット団を回収し終える部隊へ顔を向けながら言った。

 物腰が低く、丁寧な口調と言葉遣い。常に口角を上げた、安心させるような笑みを浮かべているが、それが逆に不気味である。

 

「ふ、ふーん?それで、そんな貴方が何の用?ヘルメット団への攻撃を止めて欲しいっていうなら、悪いけどできない相談よ?」

 

 何かと鈍いアルだが、頼りになる参謀のカヨコを初対面でここまで震え上がらせている様を見、流石にただ者ではないと察したようだ。

 しかし、企業としてのプライドもあるし、何よりも弱みを見せるべきではない。男の要望を察したアルは先んじて断っておく。

 

 いつもなら、心中で白目を剥いて今の状況に途方に暮れつつも、顔と言動にその動揺は出さないのだが、今回は若干そのベールが剥げかかっていた。

 

「それは困りましたねぇ。そちらの会社の事情…というのは分かりますが、此方もあのお方(・・・・)の指示がありまして…」

 

 顎に指を当て、困ったように呟く男。多少感に優れる者なら、アルが虚勢を張っているとすぐに分かりそうなものだが、子供相手と気を遣っているのか、彼はそこには触れなかった。

 

(…社長。ここは退こう)

(え…!?で、でも…)

(この人はヤバい。私たちじゃ勝てない。向こうも戦闘に乗り気じゃないみたいだし、ここは穏便に…!)

 

 カヨコがアルへ耳打ちする。参謀の必死な言葉に、アルも冷静になって思考を巡らす。

 確かに、『ヘルメット団の始末』は努力目標であり、達成しなくとも問題はない。それに拘り過ぎるあまり、得体の知れない相手を敵に回し、本命のアビドス襲撃任務に支障を来すのは避けるべきかもしれない。

 

(…ムツキはどう思う?)

(…うん。これはヤバいね~。風紀委員長と鉢合わせた時も、ここまで『勝てないな~』って思ったことないもん)

 

 人を煽るような表情を常時浮かべるムツキも、額へ一筋の汗を流しており、余裕がなさそうだ。

 

「…つまり、貴方はアル様の敵ってことですよね?」

「はい?…うーん、まぁ、そうなってしまいますかねぇ?」

 

 唐突に、俯いていたハルカが男へそう訊いた。

 男は少し考えて肯定。交渉により穏便に済ませようとしてるとはいえ、アルの思惑を狂わせている存在には違いない。

 

「……許せません!!!!」

「…ッ!?ハルカ、待って!!」

「おやまぁ」

 

 だが、ハルカにとってアルの意向を妨げる者は万死に値する存在。

 揮発性の高いガスに火を放ったかの如く、彼女の怒りは瞬時に燃え上り、ショットガンを構えて吶喊する。

 凄まじい表情で突っ込んでくるハルカに、男は恐れることはなく、寧ろこうなることを悟っていたかのような、能天気な反応をするだけだった。

 

――チャリン…

 

 金属同士がほんの軽く触れ合うような軽い音。嫌に大きくそれが響いたと思った瞬間…。

 

「――え…?あ…え…!?!?」

 

 男が持つ錫杖の、複数の金輪が通されている部分がハルカの首元に当てられており、彼女は銃を構えて駆けた体勢のまま、銅像のように固まっていた。

 男は左手の人差指、中指を合わせたまま構えており、まるで術を掛けている陰陽師のよう。

 自らの身に起きている現象が理解できず、驚きと恐怖が混じった声しか出ないハルカ。

 

「んな…!?ちょっと、ハルカに何したのよっ!?」

「申し訳ありませんが、抵抗なされるのであればこうするしか。…肩甲骨と股関節を動けなくして、あとついでに金縛りに遭って頂いているだけですのでご安心を」

 

 先に団員の肩甲骨を動けなくさせたゼウスと同様の技術。だが、男はそれに加えて股関節をも固めて脚の動きを封じ、ダメ押しとばかりに金縛りというホラー作品でしか見たことのないような能力を併せ、息をするようにハルカを無力化してしまった。

 

「…ふむ。丁度いいですね。では社長さん、ここは取引といきませんか?」

「と…取引…?」

 

 パンっと手を叩き、相変わらず笑みを受けべながら提案する男に、アルは恐る恐る問いかける。

 

「彼女たちへの攻撃を止めていただけるのでしたら、此方の方に掛けた術を解きましょう。…私はあのお方(・・・・)とは違って殺法が強めなので、あまり時間を喰わない方がよろしいかと…」

「は…!?な、何ですって…!?」

 

 一部よく分からない単語があったが、『身体を固められた状態が長く続くと危険』ということは理解したアル。

 ブラフの可能性も考慮したが、現に不可思議な力でハルカが動けなくされている。その言葉が完全な嘘とは断定できない。

 

「あ、アル様!私は大丈夫ですから!」

 

 相変わらず身体がピクリとも動かず、雪の中に閉じ込められたかのような寒気に襲われているハルカが声を上げるものの、顔色は悪い。血色が心なしか薄くなっているように感じる。

 

「アルちゃん、ここは…!」

「社長…!!」

 

 冷静なカヨコ、そして幼馴染に対し弱気なところを全く見せてこなかったムツキでさえ、血相を変えてアルへ懇願する。

 

「っ…!!わ、分かったわ!この件には手を付けない!だから、その子を放してちょうだい…!!」

 

 即刻、アルはハルカの安全を取った。プライドは無論、相手の要求を呑まなければならないことへの屈辱はある。

 しかし、それよりも仲間を失う方がもっと嫌だった。

 

「賢明な判断です。では…」

 

 人差し指と中指を揃えたまま、左腕を軽く振る。

 

――チャリン…

「あ…あぁ…」

「ハルカッッ!!」

 

 再び錫杖の金輪の音が響いた直後、術が解けたらしいハルカが腕をだらんと下げ、脚に力が入らずにへたり込む。

 術を解いた途端襲われる可能性を考慮したのか、男はバックステップで距離を取っている。

 

「後で、暖かい飲み物とお風呂を用意してあげてください。…それでは」

 

 ハルカを抱えるアルへそう助言を残し、風が吹いて砂煙が舞ったと思ったら…文字通り男は"消えていた"。

 正しく神隠しのような感じで。

 

「……社長。一応聞くけど、アビドスの襲撃は予定通り?」

「カヨコちゃん、脚震えてるよ~」

「…ムツキもでしょ、それは」

 

 気配がなくなったのを確認――気配を発さず後ろを取ってくる相手なので意味はないかもしれないが――したムツキ、カヨコは、今にも膝から崩れ落ちそうだった。

 カヨコが問うた理由は、あの男がアビドスに与していたら…という不安から来るものだったからだ。

 

「…当然よ。あの人がアビドスに味方してる確証はない。…今のところ、依頼は予定通りに進めるわ」

 

 謎の人物にしてやられたアルだが、戦意までは折られていなかった。




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