超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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夜叉烏です。
仕事が忙しくて最近は趣味が億劫です。


転校生歓迎

「…よし。ヘルメット団は全員収容完了したか」

『えぇ。ある一団に襲撃されるところでしたが、お相手方と少し交渉(・・)してなんとかお引き取りいただきました』

「それが本来の意味であることを祈る。お前は殺法が強いからな」

『中々、総帥やあの人(・・・)のようにはなれませんねぇ。そういう体質なのであれば諦めはつきますが…』

「いや、常々言うがその殺法の強さもお前の強みだ」

 

 セリカを無事救出。ついでに敵対していたヘルメット団も"エリュシオン"で保護したゼウスは、アビドス高校の保健室で通話していた。

 なお、救出したセリカは傍らのベッドで寝息を立てていた。

 

『そう言っていただけると幸いです。…あぁ、彼女たちは大人しくしてますよ。意外と素直な方たちですね』

「…そうか」

 

 去り際のリーダーに対する言葉が効いたのであれば何よりだった。

 

「そういえば、大口の依頼が入ったと聞いた」

『えぇ、トリニティ総合学園…といいましたか。そちらへ歩兵第2中隊、及び戦車、自走榴弾砲部隊より1個小隊が向かっている途中です』

「ハデス自ら、か」

 

 第2中隊を直率するのは、"エリュシオン"副総帥ハデス。足癖の悪いテコンダーだ。

 ゼウスと互角に渡り合う強者であり、未だキヴォトス人の戦闘力は未知数であるため、彼自ら出張ってきたのである。

 

 決して書類仕事から逃げたかったからとか、キヴォトス初日で出会った見目麗しい生徒たちに会いたいからとかではない。

 

「ま、アイツならどんな敵だろうと蹴り転がすだろうな」

『副総帥の蹴りは史上最も喰らいたくないですからねぇ』

 

 ハデスとの組手を思い出して嘆息する2人。彼の蹴りは、ゼウスをして「史上最も喰らいたくない」と言わしめる程だ。

 

「トリニティはキヴォトスでも有数の巨大学園だ。得意先になってくれれば、安定した収益を得られる」

『責任重大ですねぇ、ハデス副総帥。まぁ、最強のテコンダーであり最強の陽キャですから安心ですね』

 

 ハデスは、金稼ぎのアイデア力に関してはゼウスをも凌ぐ他、その陽気な性格が交渉事には役に立っている。

 ゼウス共々、強大な力と巧みな話術、そして少しの嘘八百を駆使し、某国大統領と良好な関係を築き、比較的新しい兵器を揃えることに貢献している。

 トリニティの御偉い方を満足させられるかは、彼の仕事ぶりとコミュ力に懸かっているといっても過言ではない。

 

「仕事の結果は俺に直接寄越すよう言ってくれ。それじゃあ、そいつ等のお守りは頼んだ」

『はい。一先ずは通常の入隊訓練を軽くしたメニューをこなしていただこうかと。それから適正を見て各隊に配備か、アビドスへの編入を考えます』

「それで頼む。…碌な大人を見てきていないから、相当捻くれてるはずだ。教育は気長にやってくれ」

 

 "エリュシオン"の下でヘルメット団を一定期間保護した後は、そのまま組織の一員となるか、キヴォトスの学園――特に、人手不足著しいアビドス――へ再び通うかを、本人たちの希望も見ながら決めることとなる。

 電話相手にヘルメット団を託すと、ゼウスはそのまま通話を切った。

 

「う~ん…あ、あれ…?」

「気が付いたか」

「先生…ここ、保健室…なのね」

 

 それとほぼ同時にセリカは目を覚まし、上体を起こして辺りを見回す。

 

「高射砲を喰らって一定時間気絶するだけで済むとは、中々頑丈じゃないか。俺や"エリュシオン"(うち)の幹部に引けを取らない位だ」

「いや、先生もそうだけどその人たち何者なのよ?ヘイローないのよね?」

 

 さらっとキヴォトス人と同等の頑丈さを持つ人間の存在が示唆され、セリカは困惑に満ちた言葉を漏らした。

 

「…その分だと、先生は全然大丈夫みたいね」

「あぁ。…ほらな」

 

 RPGの直撃を受けた腹部を見せる。着替えがまだだったため、焼けたコートはそのままだ。

 服が焼け落ちて僅かに露出した腹は、綺麗な肌色を保っている。

 

(うわ…腹筋すっご…)

「…ホントに謎だわ。私だってあんなのまともに喰らったら大怪我よ?」

 

 チラリと見えた、板チョコを思わせる割れた腹筋に目を奪われた。

 

「…少しばかり、身体が特殊なんだ。俺たちは。あと、色々と胡散臭い術を修得してる」

「それで片付けていいものなの…?あと、その術って何?急にオカルトなんだけど…すっごく気になる」

「戦車砲を喰らったが無傷だったろ?さっき言った術の恩恵だ。…まぁ、素で耐えられたと思うが」

「えぇ…?…それ、私でも覚えられる?」

「…俺は覚えるのに心臓が49回止まったがやるか?」

「…冗談だろうけどやっぱり止めるわ。それに本当なら何で生きてるのよ?」

 

 せっかく体調が良くなったのにまた頭が痛くなってきたセリカは、これ以上訊くのを止めた。

 内容は嘘にしか思えないが、大真面目な口調で言うものだから完全に否定できない。

 

「…ありがと。助けてくれて」

「それが俺の仕事だ」

「…っ!で、でも!この程度で役に立ったとか思わないでよね!」

「身を挺して弾丸から守ったのにその言われようとは手厳しいな、キヴォトスは」

 

 地球の軍隊なら英雄扱いで勲章やら何やらを受勲されるところだ。

 セリカは普通に感謝しているし、「先生ならアビドスの問題を解決してくれるかもしれない」と思い始めている。素直になれない故の、突発的な強がりである。

 

『うへ~。ジオルジョさん、ちょっと味見~』

『ホシノ先輩!ダメですよ!』

『病人の食事だ。後で味が濃いのを作ってやるから待ってろ』

『俺のラクレットも作ってあげたかったけどねぇ』

『胃が受け付けないぞ』

 

 良い匂いと共に話し声が聞こえてきた。一拍置いて保健室の扉が開き、ホシノ以下対策委員会の面々と小鍋を載せた盆を持ったジオルジョとエヴァが入ってくる。

 

「あ、起きてたんだセリカちゃん~。よかったよかった~」

「よかった…セリカちゃんが拐われたって聞いたときはどうしようかと…」

「お、大袈裟よ…アヤネちゃん…」

 

 涙ながらにセリカの無事を喜ぶアヤネに、セリカは困ったようにそう言う。

 唯一の同年代だ。それだけに、友情は熱いのだろう。

 

「…ほら。食欲があるなら食べろ」

 

 ジオルジョが言葉少なに手鍋を差し出した。

 

「あ、ありがと…あれ、この匂い…」

 

 何か思い当たる節があったらしく、セリカは膝上に置いた鍋から漂う匂いに思わず呟く。

 紫関ラーメンでバイトをしている時、よく嗅いでいる匂いだった。

 

「リゾットだ。大将の塩ラーメンスープをベースにしている」

「あ、アンタうちの店のスープもうコピーしたの!?…美味っ!?紫関の塩ラーメンよりも味が深い!?」

「お魚の良い匂いがするよ~」

 

 紫関ラーメンで提供されている塩ラーメン…家系のコッテリ系ラーメンが主力の同店では珍しいあっさり系のスープにジオルジョが改良を施したものだ。

 ブロードと呼ばれるイタリア流の出汁の取り方――魚のアラを入れた鍋に氷を山ほど入れ、低温からじっくりと沸騰するまで煮込む――で旨味を引き出したスープからは、濃厚な魚の香りが沸き立っている。

 

「いや…美味しい…!トマトとレモンが凄く合うわ…!確かに味は薄いけど、全然気にならない…!」

 

 病人向けの食事であるため塩味は控えめにしてあるが、魚介の出汁が効いているのと、トッピングの角切りトマトと輪切りされたレモンのアクセントがいい仕事をしている。

 正直、食欲はそうでもなかったセリカだが、スルスルと胃に収まっていく。

 

「…あっ。あの、ごめんなさい。あのとき…」

 

 唐突に、匙の進みが止まったセリカは思い出したように、ジオルジョへ詫びの言葉を投げた。

 彼女が言っているのは、ゼウスたちが初めてアビドスへ訪れた際のこと。

 急に現れた大人3人を信用できずに教室を飛び出し、ジオルジョと鉢合わせたセリカは、ついつい彼を突き飛ばしてしまった。

 

「…別に気にしてない。寧ろ、ホシノ以外の他の3人が何の疑いもなく俺たちを信じるから、逆にお前のような奴がいて安心した」

「そ、そうなの…?」

 

 疑われて安心するという彼の言葉に、セリカは何とも言えない顔をした。

 

「うへ、変な人だねぇ。疑われてた方がいいなんて」

「いや。今の今まで放置されてきて、突然降って湧いた甘言を簡単に信じる方が問題だぞ。セリカとお前の反応が正しい」

 

 ホシノの言葉に、ゼウスがアビドスでの初日を思い出しながら応えた。

 『シャーレの先生』であることが分かった途端、シロコとノノミ、アヤネは警戒をあっさり解いている。正直、無防備過ぎだ。

 

「…ん。確かに軽はずみだったかも」

「態々ここまで来て支援をしてくれるって…言われると、ついつい信じちゃいましたね~」

「私も…手紙を読んで来てくれたってだけで嬉しくなっちゃいました」

 

 当の3人は反省しているようだった。

 

「まあいい。今後は無条件に信じるんじゃなく、自分で信じるに値するかを考えることだ。…それとホシノ。転校生の件だが」

「あ~、あの話か~。制服は倉庫にいくらでも眠ってるし、いつ来ても全然大丈夫だけど、何人位来るのかな~?」

 

 以前聞かされていた、アビドスへの転校生の話を思い出したホシノはそう訊き返す。

 正直、あまり期待はしていない。砂漠の渦中で借金に塗れた学校なんて行きたがらないと考えていたのだ。

 

「ざっと100人だな。早ければ、明日の朝9時には到着すると思う」

「「「…え」」」

 

 ホシノだけではない、対策委員会の面子全員が声を上げてゼウスの方を向き、エヴァはその様子を見てにやけていた。

 

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 バタバタと空気を叩く音と共に飛んできたヘリコプター――MH-47Gが2機と、ゼウスが長距離移動用として用いるMV-22"オスプレイ"が、アビドスの砂を巻き上げて校庭へと着陸し、兵員室へ搭乗していた生徒たちを降ろしていく。

 

「あっ!エヴァ教官!」

「よぉ、カリナ。元気してるか?」

「ジオルジョ教官!お疲れ様です」

「あぁ。よかったらまた飯でも食っていけ」

 

 ゼウスたちがアビドスへ赴く前、彼女らの内何人かはエージェント2人の元で訓練を受けた者もいる。

 気さくで優しいエヴァ、無愛想に見えるが部下を想う気持ちは本物なジオルジョ。

 強い上に性格もイケメンな2人は、捻くれた元不良たちにとって良い教官だ。

 

「あ、先生じゃん!」

「ジル。やっぱりお前は操縦が上手いな」

「へへっ。教官たちが優秀だったからさ。それに、乗り物の操縦が得意だって見抜いた先生のお陰だよ」

 

 MH-47Gのコクピットから降りてきたサイドテールの少女――刈谷ジルが、ゼウスを見つけるや表情を緩めて話しかけてくる。

 ゼウスに自身が乗るクルセイダーをハイジャックされた際、その操縦技術が彼の目に留まった結果、"エリュシオン"に一時入隊した後は心技体を鍛える傍ら、車両や航空機の扱いを重点的に受けることになったのだ。

 

 歴戦の"エリュシオン"スタッフから受けた手解きのお陰で、装甲車や戦車、ヘリコプターの操縦を完璧にこなせるようになった。

 

「お前たち、別に畏まらなくていいぞ。ここはアビドス高校だ。"エリュシオン"の規律に縛られる必要はない。好きなように学生らしく過ごせ。…法に触れる行為はNGだぞ?」

 

 "エリュシオン"は正規軍ほどではないが階級社会だ。一時的とはいえその中で過ごした彼女たちは、敬語こそ使っていないとはいえ、無意識に背筋を正している。

 しかし、彼女たちはこれから一学生としてアビドスで過ごすことになるのだ。華の女子高生の生活に、堅苦しい態度は必要ない。

 

「…ホシノ、アビドス高校を代表して転校生たちに何か言う事があるだろ?」

「…うへ?あ~、そうだね…」

「ホシノ先輩、急に後輩がたくさんできたから戸惑ってる」

「珍しいところが見れました~☆」

「あはは…まぁ、驚いてるのは私たちもなんですけどね…」

「そりゃそうよ…全校生徒が1日で100人越えになっちゃったんだから」

 

 砂に呑まれかけた全校生徒5人の学校が、1日で100人台の生徒数になった。

 トリニティ、ゲヘナ等とは流石に比べ物にならないが、それでも以前と比べればずっと学校らしくなった。

 状況が好転したことは喜ばしいが、あまりにも急な変化に脳が追い付かないのだ。

 

「あ~っと、一応アビドス高校の生徒会…って言っていいのかな?まぁ、代表の小鳥遊ホシノだよ~。砂とラーメン位しかないところだけど、のんびり学生してってねぇ~」

 

 いつも通りの緩い口調で挨拶をするホシノ。

 

「砂…はここまでたくさん見たけどラーメン!?」

「な、なぁ、ラーメンって実際は温かいって聞いたんだけどホントか…?」

「今まで冷やし中華しか食べてきてないからそんなこと訊いてるのよね!?温かいラーメンを知らないなんて冗談よね!?そうだって言って!?!?」

「冷やし…中華…?」

「冷たいラーメンもあるのか…マズそう」

「ねぇ、麺は柔らかくて啜れる…って聞いたんだけど…?」

「あ、あはは…ダメだこりゃ…」

「せ、セリカちゃん!しっかり!」

 

 一体、"エリュシオン"で拾われる前はどんな生活をしてきたのかが気になるところだ。彼女たちにとってラーメンとは、固い麺以外に具は入っていない冷たいスープ…という認識らしい。

 市販の袋麺の粉末スープを解き、水に入れて幾分柔らかくなった麺塊をバリバリと食べる…そんな食べ方しか知らないようだった。

 流石に「麺を茹でる」工程があることは知っていると思うが、もしかしたら火を起こす道具や簡易ガスコンロ等をも買う余裕がなかったのかもしれない。

 

「お、おぉう…思ったより悲惨だった…」

 

 あまりの食事情に、ホシノは思わずいつもの口調を忘れてドン引きしてしまう。今まで追い返していたヘルメット団も、こういった事情でやむを得ずアビドスを襲撃していたと考えると、一概に彼女たちを悪者だと決めつけられなくなった。

 

「ん。それなら新入生歓迎会の会場は紫関ラーメンに決定」

「いえ、貸し切りしたとしても100人以上は入れませんよ…」

 

「――来なさい」

 

 アヤネが、生徒全員を紫関ラーメンに連れて行くのは定員的に無理だと反論する中、彼女に介抱されていたセリカがユラリと起き上がり、幽鬼を思わせる前屈み体勢のまま短く言い放った。

 そして唐突に、顔をガバッと上げて両拳を握り締める。

 

「私が大将を説得するっ!!店の前の道路を貸切ってでもスペース作る!!作りたての大将のラーメン…いや、炒飯でも餃子でもチャーシュー丼でも、お腹いっぱいご馳走してやるんだからっ!!」

「セリカちゃんがメッチャ号泣してる~~っ!?!?」

「ん。もうちょっとで血涙が出そう」

 

 柴大将の下でバイトを営むセリカにとって、温かいラーメンを知らない元ヘルメット団の食事情は看過し難いものだった。

 足元が畑なら既に塩害が発生しているレベルで号泣しながら宣言した。

 

「…あぁ、大将。代金は全部俺が持つから腹一杯食わせてやってくれ。…大将にも話はつけた。好きなだけ飲み食いしていいらしい」

「先生、いつの間に!?というか、代金はともかく食事のスペースは…?」

「大将が近所とも相談して店前の道路を貸してくれたぞ。椅子や机はこっちから持っていく必要はあるがな」

「ナイス大将!それに近所の人たち!」

 

 公共物である道路を貸すなど簡単なことではないが、意外と何とかなった。

 大将だけではない。柴石ラーメンを贔屓にしている近所の大人たちが、アビドスへ協力してくれたのだ。

 キヴォトスの大人は基本碌でなしというイメージが強いが、アビドスには当てはまらないらしい。

 

「ほら、分かったらとっとと支度しろ。パイプ椅子と机をありったけ車両に詰め込め」

「「「はい!」」」

 

 ――その日の夜、紫関ラーメンは開店史上最高の賑わいを見せた。





柴石の貸切り費用はゼウス先生持ちで総額500万位でした。
大将は「こんなに要らない」と言ってましたが、ゼウス先生による同じ経営者の目線でのお話で何とか納得してもらいました。
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