ゼウス先生、C&Cに会わせるかどうかで揺れてます。
「…よし!」
ミレニアムサイエンススクールの来客用ヘリポートにて、ゼウスの出迎えを担当する早瀬ユウカは、折りたたみ式の手鏡で自身の格好を確認して軽く身だしなみを整えていた。
「あらユウカちゃん?ここに来てから、もう4回も身だしなみの確認をしてますよ?」
「うえ!?そ、そりゃあ、先生が来てくれるのよ!?キヴォトス中大混乱で時間が無いっていうのに!変な格好で会うわけにはいかないわ!」
親友の一挙一動を観察していたノアの指摘に、ユウカはそれっぽく言葉を返すが、見るからに図星を衝かれたような反応を示していた。
「フフフ…それにしても、アビドスですか。昔はキヴォトス屈指の巨大学園だと伺っていましたが…」
親友のあたふたした様子を笑顔で楽しみながら、アビドスの認識を独り言ちる。
彼女の言う通り、アビドスは嘗てキヴォトス屈指の学園都市であったが…今では見る影もない。そんな自治区があったのか、と言う者もちらほらいるほどだ。
「そうだけど、先生が言うには全校生徒はたったの5人。それも生徒会が無くて、『アビドス対策委員会』っていう組織が生徒会の形を成しているわ。最近、先生の伝手で転校生が入ったらしいけど…それでも100人ちょっとよ。約10億の借金もあるらしいし」
「…状況は好転しているようですが、それでも微々たるものですね」
5人から一気に100人を超える生徒数にはなった。しかし、ミレニアム・トリニティ・ゲヘナの生徒数は桁が1つどころか3つ違う。
現在のアビドスは、まだ過疎地域の弱小高…よりもさらに弱小なのだ。
「ですが、アビドスの生徒さんは本当に学校が大好きなんですね。それに先生も、本気で学校の復興に力を貸していますし…」
「えぇ…。正直、転校した方が楽で合理的だと思うけど…先生ならそうするでしょうね」
身をもって生徒を庇った――なお当の本人は無傷――シャーレ奪還作戦時のゼウスを思い出しながらユウカは言った。
現在のアビドスの状況は非常に悪い。立て直そうと粘ったところで…といった所だ。
各生徒が転校すれば、借金や暴力組織の問題から解放される。そちらの方が合理的だ。
だが、自分達の学園をそう簡単に捨てるなどできないという考えもまた、ユウカは理解していた。
そして、躊躇なく生徒を身を挺して守るゼウスなら、そんな彼女たちを見捨てるなどしないということも察していた。
「…そうですね。多かれ少なかれ、暮らしてきた学園自治区には愛着もあるでしょうし」
ノアもまた、アビドス生徒たちの想いを否定することなく理解を示した。
「…あら?」
「先生のヘリかしら?」
バタバタと風を切る音が聞こえてきた。ヘリコプターのローター音であることはすぐに分かった。
程なくして、音の正体である機影が姿を現した。
「あれのようですね。初めて見る形状ですけど…」
「ちょっと待って、あれ本当にヘリなのかしら?ローターが2つも付いてるけど、双発の固定翼機じゃないの?珍しいわね…」
彼女たちが見慣れているのは、機体の軸線上に大型のローターを搭載した…言ってしまえばオードソックスなヘリコプター。
しかし、着陸に向けて高度を下げつつあるその機体は、まるで固定翼機のように主翼があり、その両端にエンジンとローターが取り付けてあった。それに、かなりの大型機である。
「それに、あのまま着陸したらローターが地面と擦っちゃうわ。一体どうするのかしら…?」
両翼に備えられた大直径ローターは、そのまま着陸すれば確実に地面と擦ってしまう。
どう着陸するのか…とその機体の動きを見守っていると…。
「えぇ!?ローターが動いた…!?」
「まぁ、どんな仕組みなんでしょうか」
唐突に、主翼に取り付けられているエンジンが可動し、前方を向いていたそれが真上を指向したのである。
ヘリコプターモードになった機体――MV-22"オスプレイ"は、よく見るヘリコプターと同じような挙動で、ヘリポートへと降り立った。
「エンジニア部…はまだ理性的ですけど、他の生徒が心配ですね」
「そ、そんなことになったら、いくら先生でも怒るわよ…!」
ミレニアムの生徒は比較的常識人が多いとはいえ、それでも荒事塗れなキヴォトスに身を置く少女たち。
特に、見たことの無いメカへの興味が尋常ではなく、そのメカニズムを解明する為には強引な手段も辞さない。
もし、ゼウスが機体を離れた隙に生徒たちが解体して技術情報を持ち去るようなことがあれば…流石の彼も、怒らざるを得ないだろう。
「う~…。C&Cに今からでも頼もうかしら…?でも変に被害大きくしそうだし先生のヘリまで壊しそう…!」
ユウカが対処法を考えている間に、オスプレイのローターは回転数が落ちていき、同時に機体後部に設けられたランプドアが開いた。
軍用機らしい武骨な内装の機内から降りてきたのは、黒づくめの男性が2人降りてくる。
1人は見慣れたゼウス。もう1人は彼より僅かに背が高い、紫と白のツートンカラーの長髪と口許の継ぎ接ぎが特徴的な、質の良い黒スーツに身を包んだ男だ。
「暫くだな、ユウカにノア」
「あ、はい、先生。ミレニアムへようこそ!」
「歓迎します。そちらの方は?」
継ぎ接ぎの男へ目をやったノアが問いかける。
ゼウスに並ぶ顔の良さを持っており友好的に感じるが、フランケンシュタインを思わせる継ぎ接ぎの見た目に、自然と身を硬くしてしまう。
「こいつはヴァルカン。"エリュシオン"における最高の頭脳の持ち主だ。武器兵器の開発・量産・整備を行う技術者だ」
「初めまして、ユウカさんにノアさん。私はヴァルカン、エンジニアをやっております。"ヴァル"で構いません」
崇拝するゼウスに「最高の頭脳の持ち主」と称されたヴァルカンは、見るからに上機嫌な口調で恭しく挨拶した。
高圧的な大人に見慣れたユウカたちにとって、紳士的に挨拶するヴァルカンは好印象に映った。
「初めまして、ヴァルさん。早瀬ユウカと申します。ミレニアムサイエンススクールの書記を務めます」
「生塩ノアです。初めまして」
「キヴォトス一の科学技術を誇るミレニアム、この目で隅々まで見させていただきますよ」
ゼウスより、アビドス砂漠の砂の組成調査を依頼された際、ユウカは彼に対しミレニアムの見学を提案していた。
機密保持の面は問題ないのか一応確認を取ったが、見る分には問題がないこと、連邦捜査部や"エリュシオン"幹部との顔合わせも行いたいとのことで、今回の交流は実現した形だ。
自らの学園自治区を「キヴォトス一」と評されたユウカとノアは、分かりやすく表情を緩めていた。
「それとユウカ。これを」
ゼウスがユウカに白い紙箱を渡した。
「前にシャーレに来た時に出したタルトとそのレシピだ」
「え?あ、あの時の?先生、覚えててくれたんですか?」
「ミレニアムに来る機会があったら持ってくと言っただろ。この位の約束なら忘れない」
「約束…というか、ノアが勝手に言っただけなんですけど…」
シャーレにて、ユウカとノアに出したタルトとそのレシピが書かれた紙だった。
ユウカは記憶力が良い方だが、あの時のやり取りをほとんど覚えてはいなかった。ただの雑談・冗談の一角、ノアが勝手に言ったことだし、別に覚えてなくてもいい内容だと処理していた。
しかし、ゼウスは内容を記憶し、その通りに手土産を持ってきた。彼の記憶力の高さと気配りの良さ、義理堅さには、敬服せざるを得なかった。
「あら、良かったですねユウカちゃん」
「え、えぇ…。って、なんで私が持ってくるようお願いしたみたいな感じになってるのよ!?」
ニコニコしながら言ってきたノアに、ユウカは顔を赤くして言い返した。
「総帥御自らが作ったチョコタルト…ですと…!?なんと羨ましい…!!」
「えぇ…っ!?す、すみません…!!」
嫉妬と羨望が混じり、大人気なくユウカにギロリと視線を向けるヴァルカン。レートーと同等以上のゼウスガチ勢である彼は、他者がゼウスの施しを受ける様をいつも憎悪の籠った眼差しで見つめるのだ。
「落ち着けヴァル。後で差し入れを持って行ってやるからユウカに嚙みつくな、大人気ないぞ」
「おぉ…!総帥御自らが私に…!?これはケースに入れて展示しなくては…!!」
「頼むから普通に味わえ」
(先生が懇願してる…。一体何をしたらそんなことを平気で言える位尊敬されるの…ちょっと聞いてみようかしら?)
ミレニアムの会計であり、全組織の財布を握るユウカ。席を空けることの多い生徒会長に変わって職務代行をする機会も多く、実質トップと言ってもいいだろう。
しかし、一部の後輩たちからは呼び捨てされ、更に常識・モラルが著しく欠如した行動を毎回のように起こされる始末。
どうすれば、ゼウスのように下の者から舐められず、敬われるような人間になれるのか気になった。
「兎も角だ。ユウカ、積んできた砂の組成検査を任せる。担当者に会わせてくれ。ノアは…ヴァルの案内を頼む。ヨツハはヴァルについていけ。ミカゲ、俺と来い。他は機体の軽いメンテナンスと警備を頼む」
「畏まりました」
「「「はい!」」」
それぞれ役割を振り分けたゼウス。その指示に従って各々が動き始める。
なお、ヨツハ・ミカゲとは連れてきた元ミレニアム生の名前だ。本名はそれぞれ
「では先生。これから新素材開発部の部室に向かいます。少々歩きますが、大丈夫ですか?」
「あぁ」
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次回辺り、オリジナル登場人物の設定書こうかなと。