超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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夜叉烏です。

別のブルアカss書いてて遅れました。多分これが今年度最後の投稿になりそうです。
皆様、良いお年を。


できないことは誰にでも

「ほう…これは中々、綺麗な砂ですねぇ。不純物も少なそうに見えます…」

「承知しました。解析についてはお任せください!」

 

 新素材開発部の面々が、ゼウスの持ってきた砂を興味深そうに見つめ、手で掬い上げながら観察し、組成検査の準備に入った。

 詳しい検査はまだだが、彼女たちの反応を見る限り、結果は期待できそうだ。

 

「よろしくね、貴女たち。…では先生、ひとまずエンジニア部の見学でよろしいですか?」

「あぁ、頼んだぞユウカ」

 

 新素材開発部の部室を後にして、2人はミレニアム学内を歩き始めた。

 顔合わせも含め、"エリュシオン"との技術交流について話し合うべく、ミレニアム一の技術者が集うエンジニア部の見学へ赴くのだ。

 なお、ヴァルカンが先んじて彼女たちと接触しており、今頃はお互いの技術交換を行っているだろう。

 

「キヴォトスにいる割には、銃声があまり聞こえないな。ミレニアムは比較的治安がいいみたいだな」

「いえ、決してそういうわけでもなくて…。不良生徒やヘルメット団のような組織もいるんです。ですが、巡回のドローンやオートマタが自動で排除してくれるので、大規模な銃撃戦になる前に片づけてくれるんです」

 

 三大校の中でも治安は良い方ではあるが、それはあくまで"キヴォトス基準で"の話。スケバンやヘルメット団は勿論、ミレニアムらしいマッドサイエンティストが集うまともじゃない部活が騒ぎを起こしている。

 しかし、エンジニア部謹製の戦闘ドローンやオートマタが早い段階で初動対応にあたる為、事態が悪化する前に食い止めることができているのだ。

 

「私としては、こうしてる間にうちの生徒たちが先生のヘリに押しかけていないか心配で…C&Cに今からでも頼もうかなと」

「C&C?」

 

 初めて聞く単語に疑問符を浮かべるゼウス。

 

「ミレニアムが誇る特殊部隊です。普段はメイド部として、学園への奉仕をしてもらっているんですけど…」

「なるほど、仮の姿というわけだ」

「えぇ」

 

 特殊部隊という言葉にゼウスは興味深そうに反応していた。

 彼も、元は最重要機密部隊に所属していた身である。常人以上の身体能力を持つキヴォトス人で編成された特殊部隊の存在が気になった。

 心中では、彼女たちと戦いたいとも思っていた。やはり、彼はハデスの言う通りの「頭が回る戦闘狂」である。

 

「まぁ、機体ならあいつらが見てくれているから大丈夫だ。なあ、ミカゲ」

「え?は、はい!"エリュシオン"の皆さんに鍛えられましたから!」

 

 突然話を振られた付き添いの神原ミカゲは、戸惑いつつも自信満々に答えた。嘗て社会の日陰者として、死んだような目で日々を生きてきていた頃に比べれば、随分と生き生きしている。

 

「"エリュシオン(うち)"の優秀な教官たちの下でしごかれてきた奴らだ。そこらのスケバンやヘルメット団程度の敵なら鎧袖一触だ。心配ない」

「そ、そんなに言われると…」

「お前は確か…ジオルジョの訓練を受けてきただろ?楽に合格できないはずだ。だが、お前たちは合格をもらってここにいる」

「う…先生、思い出すからあんまり言わないで。ジオルジョさん、無言でアタシたちを締め上げてくるし、的確に急所衝いて転ばせてくるし、パンチが見た目以上に重いし…凄い怖かったよ」

 

 ミカゲをはじめ今回ゼウスに同行した内の何人かは、ジオルジョの下で筋トレなどの基礎鍛練の他、射撃訓練、戦術教練、爆発物の取り扱い、突入作戦の実技演習…他にもメニューがたくさんあったが、彼を相手にした近接格闘訓練を積んでいる。

 キヴォトス人の肉体を以てしても根を上げそうになるものだったが、我武者羅に銃を撃つことしか知らなかった元不良たちにとって、これら訓練は新鮮に感じていたらしい。

 

「もう、銃なしでそこらのスケバン程度は取り押さえられるだろうな」

「うちの生徒たちは荒事に慣れてない子達ばかりですし…それなら大丈夫でしょう」

 

 ユウカが言った。

 ミレニアムの生徒は一部を除き、大半がインドア派である。SRT特殊学園生徒に匹敵…とまではいかないだろうが、敵を確実に制圧・排除するための訓練を受け、心身を鍛え上げた猛者たちに師事した彼女らを、ただの理系生徒が倒すなど不可能だろう。

 

「…どうしたんだ、ユウカ」

「…え!?な、何ですか…!?」

「さっきから何か、訊きたそうにしてたからな」

(ば、バレてる…!?)

 

 質問の機会を伺っていたらしいユウカは、先程よりゼウスをチラチラと見ていた。

 しかし、そんな視線がゼウスに気付かれないわけがない。視線に気付き、軽く彼女の心の表層を読心で洗い、質問する機会が無いことに困っているのを知ったのだ。

 なお読心能力について、ゼウスは基本封じている。生徒のプライバシーの問題もあるし、彼自身彼女たちの心を面白半分で覗く趣味もない。

 

「…その、なぜ先生はあそこまで慕われているのかな…と」

 

 単刀直入に訊いたユウカ。

 

「…ユウカはミレニアムでもかなりの立場にいるらしいが…その様子だと、下部組織との対人関係は上手くいってないみたいだな」

「はい…。全員が全員ってわけではなないのですが…ホントにもう…あの子達は…!!何度言っても問題を起こすんです…!!」

 

 先生の前だからと必死に声を押さえているようだが、彼女の苦労が口調に表れていた。

 

「"グラフィティ"と称して私有地に落書きはするし、お遊び感覚でハッキングするし、校内にカジノを勝手に造るし、他の部活を襲撃するし、要望にない機能を付けた発明品を予算を惜しみなく使って開発するし、案の定失敗して施設を吹き飛ばすし…!!」

「それは…何ともまぁ、わんぱくな連中だな」

 

 訊く限り、落書き位しかまだマシと言える内容が出てこなかった。

 問題の度に被害者へ頭を下げ、予算を遣り繰りに頭を悩ませるユウカのことを考えると…その心労は計り知れない。

 

「その度にもう止めるよう怒っているのですが…聴く気が無いみたいで…。怒鳴りすぎて喉が痛いです…」

 

 本気で悩んでいるユウカを暫し横目で見ていたゼウスは、おもむろに口を開いた。

 

「ユウカは…感情的に相手を追及し過ぎなんじゃないか?」

「え、感情的…ですか?」

「内容を聴く限り、感情的に怒鳴りたくなるのは分かる。だが、それだと却って相手は逆上する。子供なら尚更だ」

 

 子供とは、叱責された際に『自分が悪いことをしたから怒られている』と頭では分かっていても、強く言われると不満を感じたり、言い返したくなる気持ちになるものだ。俗に言う『逆ギレ』だ。

 先生の指導に納得がいかず陰口を叩く…だなんて経験をした者もいるのではなかろうか。

 

「効果的なのは…理詰めだ。ただ、相手の非常識を追及するんじゃなく、淡々とその生徒の行為によって被った被害を機械的に伝えるんだ。そうすると、余程のサイコパスでない限りは言い返してこない。相手も「自分がバカなことをしたからこんなことになっている」と分かっているからだ。怒鳴ると寧ろ逆上されて言い合いに発展する。意義ある話し合いができない。それに、冷静に話すことで余裕のある状態を演出できる」

「な、なるほど…!!」

 

 ゼウスは交渉術も卓越しており、世界各国の首脳との会談経験が豊富だ。

 そんな組織トップのアドバイスにユウカは聞き入っていた。いくら正論で詰めようと、逆上してよく分からない理論で言い返してくる後輩たちに困っていたところだった。

 

「どうしても怒りが先に来るなら、話す前に深呼吸して落ち着け。その深呼吸も、相手に対する威嚇になる」

 

 何かミスをした際に、上司や先輩からため息をつかれるとゾワリとするあれだ。

 人間とは、相手から失望されることを何よりも嫌う生き物である。

 

「確かに、それなら無駄に喉を痛めずに済みそうです」

「だが、やり過ぎは禁物だぞ?詰め過ぎるのも考えものだ。行動原理が「ユウカを怒らせない」に変わるからな。すべての行動で意思を持たずに、自分達の全てをユウカの判断に依存することになる。それはそれで問題だ。理想としては…優しく教え諭すように叱ればいい」

(う~ん…分かるわ。私も会長に詰められた時は生きた心地がしなかったし、ついつい会長の顔色を伺うようになっちゃったし…)

 

 セミナー会計として仕事を任せられた際にしくじってしまい、その後会長から淡々と詰められた記憶が蘇り、背筋を震わせる。

 しかし、あの問題児たちには良い薬になりそうだ。無論、ゼウスの言う通り飴と鞭はしっかり使い分けていくつもりだが。

 

「しかし、いつの時代もどこの世界も、財布を握る者は疎まれ恐れられる。その覚悟は持っておいた方がいい」

「そ、そうですか…。はぁ…自分で言うのもなんですが、私、結構頑張ってるつもりなんですけどね。…どんなに頑張っても、あの子たちは文句ばっかり。ミレニアムの問題は直りません…」

 

 大人なら、「頑張っても報われないことがある」と割り切ることもできるだろう。

 だが、いくら賢いとはいえユウカは女子高生…子供だ。「セミナーの会計としてミレニアムの運営を担っている私が、何で嫌われなくちゃならないの」…と感じても仕方はない。

 

「…ユウカ。この世にはどんなに努力しても報われない、なんてことはザラにある。勿論俺もにだ」

「え、先生にも?だって先生は…」

 

 七囚人の1人を明らかに手加減しているにも関わらず圧倒し、銃弾は勿論キヴォトス人でも怯む筈の手榴弾の超至近距離炸裂にも無傷且つ表情を変えない、ターザンのように空中移動したかと思えば、練達という単語では言い表せない狙撃の腕前を見せる。

 単純な戦闘能力以外にも、指揮能力や人物を見る目、組織の長らしく資産運用や経営の知識、人心掌握術も優れている。

 ついでに言うと料理も上手いし、顔も良い…。

 こんなスペックてんこ盛りな人物に、できないことなんてあるのか…そんな考えが浮かんだ。

 

「俺だって完璧超人ってわけじゃない。どんなに努力しようと報われないこと、できないこと、届かないことは大量にある。例えば、そうだな…」

 

 指を顎に当ててゼウスは考える。

 

「俺はハデスみたいに、虚空を蹴って鎌鼬を飛ばすなんてできない」

「…はい?」

 

 あまりに物理とはかけ離れた内容を話すゼウスに、ユウカは一瞬間を置いて頓狂な声で返答した。心なしか、その背後に宇宙空間が広がっているように見えた。

 

(え?ハデス…って、あの時のすごく背が高い人よね?え?蹴りで鎌鼬を飛ばす?え?え???)

 

 困惑するユウカを他所に、ゼウスの話は無情にも続く。

 

「テュポーンみたいに、純粋な腕力だけで街の一区画を文字通り吹き飛ばすなんてできない」

(し、知らない人…って、え?吹き飛ばす!?腕力だけで、街を一区画!?建物じゃなくて!?いや建物でもおかしいけど!!どういうこと!?!?)

 

「レートー程、大胆で緻密な剣裁きはできない。あいつみたいに、間合いの外にいる相手へ正確に斬撃を届かせるなんて、とてもな」

(レートーさん…は、あの時ハデスさんと一緒にいた人よね…?間合いの外にいる相手に斬撃を届かせる???)

 

「ヴァルみたいに、全身に仕込んだ火器で歩兵や戦車の大軍を薙ぎ払うことはできない。あいつ程、多対一の状況と相性のいい奴はいない」

(全身に火器!?え!?普通の人にしか見えないけど!?ヴァルさんってサイボーグなの!?それに、歩兵は疎か戦車の大群まで薙ぎ払うとか…スペックならウタハ先輩の戦闘ドローン以上じゃない!?一体どんな武器を…!?!?)

 

 大真面目に仲間たちの長所を淡々と、それでいてどこか自慢気に語るゼウス。その様はどう見ても嘘を言っているようには見えず、しかし内容は眉唾ものとしか思えない。

 

「それに…」

 

 そこまで言いかけ、ゼウスは口籠った。

 歩みがやや遅くなり、俯いた彼の表情には、どこか悲し気な感情が見えた。

 

「先生…?」

「…何でもない。それとユウカ、お前にだって俺がどんなに頑張っても超えられないものがある」

「は、はい!?そ、そんなこと…!先生と比べたら私なんて…!」

 

 ユウカは激しく頭を振る。

 膂力、身体能力、頭脳、要領の良さ、人間性…ありとあらゆる部分が自分など遥かに超越した存在といっていいゼウス。そんな彼に一つでも勝っている所があるなど思えなかった。

 

「…お前は、コーヒーをブラックで飲んでいたな?」

「え?そうですけど…」

 

 以前シャーレに訪れた際、出されたタルトとコーヒーをご馳走になったのを思い出したユウカは、その内容の真意を図りかねて訊き返した。

 

「俺にはとても、コーヒーをブラックで飲むなんてできない。苦くて敵わん。ミルクと砂糖は必需品だ。…あぁ、削りチョコとホイップがあったら尚良いな」

「……え?」

 

 一体どんな言葉が飛び出すのか…そう覚悟していたユウカは、あまりにも子供っぽい内容に面食らった。黒づくめで口元の古傷が似合う、明らかに堅気じゃない成人男性の言葉とは思えない。

 ゼウスなら、薄暗い部屋で酒の入ったグラスを傾けている様が似合うだろう。そんな彼が「ブラックコーヒーは苦くて飲めない」である。

 黙って2人のやり取りを見ていたミカゲが、笑いながらゼウスへ話しかける。

 

「え?先生ブラック飲めないの?あはは、子供舌~!アタシ飲めるもんね~!」

「ミカゲも飲めるのか、凄いな。ハデスやテュポーンはブラックの純粋な苦みが良いって言うが、俺には全然分からない」

 

 気安く会話するゼウスとミカゲを見、ユウカは漸く正気に戻った。

 

「…はぁ。ちょっと期待した私がバカみたいじゃないですか、もう…」

 

 もしかしたら頭の良さとか、戦闘面で評価されてるのかも…と内心で期待していたユウカは内心がっかりしていたが、その表情は何処か和やかである。

 

「…お茶請けのお菓子、多めに甘味を置いておきますから、いつでもミレニアムにいらっしゃってください、先生」

「助かる、ユウカ。甘いものは大好物だ」

 

 ゼウスを自分たちとは次元の違う存在のように感じていたユウカも、「ブラックコーヒーが飲めない」という子供っぽい一面と、甘味を用意しておくという言葉に表情を緩ませる彼を見て、自然と肩の力が抜けていった。

 




作者もブラック飲めません。
MAXコーヒーってもっと砂糖入れても良いと思うんですよね。あれのどこがMAXだというのですか!?

感想いただけると幸いです。感想読んでる時が一番生を実感してます。
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