超強い先生+@がキヴォトスにやってきたやつ   作:夜叉烏

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哀れ不良たち②

――ユウカside

 

 キヴォトスの外から来たらしい、連邦生徒会長が先生として指名した大人の男性。

 信じられないことに、無改造のハンドガン1発で致命傷を受けるほど、その大きすぎる地位に反して非常に脆弱な存在。

 PMCの元代表らしく銃を所持していたが、所詮はヘイローを持たないか弱い存在。私がしっかり守らなくちゃ…そう思っていた。

 

(何なの、あの人…?)

 

 戦場を駆け抜けながら心中で呟く。

 別に、指示に従うことに不満はない。生徒が先生に従うのは、基本的に当たり前だから。

 

 ゼウス(あの人)ゼウスへの興味・畏怖が、その言葉を発せさせたのだ。

 ホローポイント弾を食らっても動じない肉体強度と精神力、あまつさえ自身に命中した弾丸を摘まんで弾種を言い当てる、銃弾が飛び交いあちこちで爆発が起きる中、涼しい顔で一服し、自己紹介をさせる。

 そして、口元の大きな傷跡。

 

 どう考えても、普通の環境で育った人物ではない。『PMCを経営していた戦闘経験のある大人』だけでは説明が付かない。

 というか、会社のいち経営者にしては若すぎる。自分との年齢差もそれほど大きくないはずだ。

 

 それとも、キヴォトスの外ではあれが普通であり、『キヴォトス外の者は脆弱』という情報がそもそも間違っていたのだろうか。…いや、それはない。

 

 キヴォトスに来る以前、先生はどんな生活を送ってきたのか。

 なぜそれほど強固な身体を持っているのか。

 先生はいつ、どんな状況で口元のあの傷を作ったのか。

 

 さっき会ったばかりで、先生のことは何一つ知らない。それに、彼自身話したがらないことも多いだろう。

 

(…いつか、教えてくれるといいな)

 

 乱暴に掴まれ、引っ張られた腕に残る僅かばかりの温もりを感じながら、そう思った。

 多少雑だったものの、自分を助けるための行動なのは間違いなかった。キヴォトスのロボや獣人たち(大人)といえば、子供を騙し、自らの欲を満たすためだけに行動する薄汚い存在(無論、全員がそうではないが)。

 

 あの人は寡黙で、感情を表に出さない性格なのが察せられた。

 だが、その素っ気ない態度や言動の中に、温かさと信頼感が確かにある。先ほど、私たち生徒と数分言葉を交わした程度の関係だが、そんな確信が生まれていた。

 

「おっ!来やがったぜ!」

 

「相手は一人だ!やっちまえ!」

 

 物思いにふける私の思考を邪魔するかのように、不良たちが銃を片手に出てくる。

 中には、M134"ミニガン"持った重武装な者もおり、人数差も踏まえれば不利は必須だ。

 

 しかし、「数で押し込めば勝てる」と思い上がっている、連携もいまいちな寄せ集めのチンピラ連中と、数多のミレニアム学園問題児共を相手にしてきた私。後者には先生の指揮や他校生徒のバックアップが控えている。

 それらを考慮すると…。

 

「…残念だけど、貴女たちが勝利する確率はゼロ…確実にないわ!」

 

 両手で構えたMPX-K(ロジック・アンド・リーズン)のトリガーを引き、9×19mmパラベラム弾をばら撒いた。

 

---------------------------------------------------------------------------------

 

「よし、ハスミ。あのビルだ。一緒に行くぞ」

 

「了解しました」

 

 窓ガラスが割れ、爆炎に撫でられた跡が残る5階建てビルの屋上を指差しながらゼウスが言い、ハスミが従う。

 狙撃場所の選定としては、悪くない場所だ。見晴らしが良好で、屋上は給水タンクや室外機、太陽光パネルといった障害物が設置されており、見つかり難い狙撃が可能だろう。

 

「時間がないからな。…少し身体触るが良いか?」

 

「え?…はい、構いませんが…?」

 

 突然の申し出に困惑するハスミであったが、事前に物理的な接触はOKかを確認する辺り、()()()()()目的はないと判断し、ボディータッチを認めた。

 

 直後、ゼウスは右腕をハスミの胴へ回し、抱き寄せる。

 

「…え!?ちょ、先生!?」

 

「舌噛むぞ」

 

 一言断りつつ、左腕を掲げる。顔を真っ赤にしたハスミが何かを言いかけたのも束の間、鋭い鉤爪が付けられたフックショットが打ち出され、屋上すぐ下の外壁を捉えた。

 巻き取り機構が作動し、男女2人の重量を物ともせず、強靭なワイヤーが一瞬で巻き上げていく。

 普通なら左腕が千切れるところだろうが、生憎普通じゃないゼウスは全くの無傷だ。

 

 フックショットによって、まるでスキージャンプのように空へ打ち出され、ハスミを抱えたまま空中で一回転。そのまま屋上へ着地した。

 

「…生身で空を飛んだのは初めてです」

 

「流石にその羽は飛ぶためにあるものじゃないのか」

 

「鳥とはそもそも身体の構造が違いますし…ですが、滑空位ならできるかと。…あの、腕は大丈夫なのですか?」

 

「全く問題ない。いつもやってることだしな」

 

 超肉体が自慢のゼウスからすれば、この程度児戯に等しい。このようにした三次元機動は、前の世界でも多用していた。

 と、今なお顔を赤くしているハスミが、愛銃エンフィールド小銃インペイルメントを抱えたまま、おずおずとあることを訊く。

 

「あの、こんな時に申し訳ございません。その…重くはなかったですか?」

 

 ハスミが一番気にしていることであった。

 大人びた立ち振る舞いをしているとはいえ、それでも年頃の女子高生。自身の体重を気にし、ダイエットに挑戦したいという思いに目覚めるのも珍しくない。

 

「いや、寧ろその身長と翼を考えれば軽い位だ」

 

 ハスミは身長179センチ。それに加え、腰辺りから生える巨大な一対の黒い翼があるため、同年代の少女よりも体重が重くて当然だ。

 それに、出る所は出ているため、そこら辺の重量もかさんでいる。

 

「そう、ですか。よかったです…」

 

 どことなくホッとしたように言うハスミ。ここでもし「重い」と言われてしまったら、立ち直れなかったかもしれない。

 

「…ハスミ、お前は俺と共にここで敵の指揮官クラスを優先して狙撃する。奴らの中に軽装な…ハンドガンやSMG装備の奴がいるが、どうやら現場指揮官らしい。見たところ、5人程の分隊をそいつらが率いている」

 

「その方たちを狙撃し、指揮系統を混乱させる。しかる後にスズミさんが突入し、完全に瓦解した敵部隊に対してゲヘナ風紀委員が仕上げをする…ですね」

 

「その通りだ。敵を殲滅次第前進し、俺たちも狙撃地点を変える」

 

 見事に問題を解いた生徒を褒めるような口調で、ゼウスは言った。いい感じに先生をしていた。

 

「ではハスミ、やろうか」

 

「先生も狙撃銃を?」

 

「あぁ。…まぁ、どちらかと言うと白兵が好きなんだが」

 

 屋上の欄干をバイポット代わりにし、愛銃を構えるハスミと、背中のライフルケースを降ろして中身を確認するゼウス。

 先生にはあまり戦ってほしくなさげなハスミだったが、前線でドンパチするわけではないため、今回はそれほど気にしてはいない様子だ。

 

「…よし。いい感じだ」

 

「それは…」

 

 得物に異常がないことを確認しつつライフルケースから取り出したのは、彼の身長を上回る長物だった。

 本体上部に取り付けられた高倍率スコープ、太く長い銃身の先に設けられたV字型マズルブレーキは、ただのスナイパーライフルではないことを物語る。

 

 対物ライフルの一種、『IST-15.5』と呼ばれるものだ。セミオートマチック式の大型ライフルで、名前の通り15.5×106ミリ弾を使用する。対物ライフル『IST-14.5』の改造型だ。

 威力は折り紙付きであるが、反動が強烈であり、重量も凄まじい――総重量は40キロである――。普通なら扱うのも一苦労な代物だ。しかし、ゼウスにとっては鳥の羽のような軽さに感じる。

 バイポッドを使わず、伏せることもなく、弾倉のすぐ前辺りを保持してIST-15.5を構えた。このような状態で撃てば、反動で射手自身が仰け反ってしまうだろうが、この銃を何度も使ってきたゼウスがそんな無様を晒すことはない。

 

「さっきも言った通り、ハスミは敵の指揮官を。俺はテクニカルを処理する」

 

「分かりました」

 

 不良たちは、そこらに駐車しているものを分捕って改造を施したのか、ピックアップトラックや軽トラに銃座を取り付けた車両が多数展開している。

 銃座に取りついている不良はユウカやゲヘナ風紀委員たちに向かって射撃しており、彼女らの動きを制限している。

 

 お陰で、電磁シールドを張れるユウカは兎も角、ゲヘナ風紀委員の者が、障害物に隠れたまま動けていない。

 スズミを突入させ、周囲の歩兵諸共銃手を戦闘不能にさせてもいいが、それでは彼女の負担が多すぎるし、銃手を倒したとしても、健在な機銃を別の不良に使われる可能性もある。

 車両ごと破壊する必要がありそうだ。

 

「スズミ、聞こえるか?今どこにいる?」

 

『はい、先生。先生たちから見て大通り左側のカフェで待機しています』

 

 リンから事前に渡された通信機によって、スズミと連絡を取る。

 主戦場となっている大通りの左手にカフェがある。丁度、不良たちの斜め後ろを取れる位置だ。敵はユウカたちへ銃撃を浴びせるのに夢中であり、今突っ込めば大損害を与えられるだろう。

 

「よし、いい位置だ。俺が合図したら突っ込んでかき乱せ」

 

『…分かりました』

 

 スズミの声は、やや不安げだった。自警団所属とのことだが、これほどの規模を持つ不良――とは名ばかりの武装組織――との対峙経験はないようだ。

 

「怖いか?」

 

『…はい、少し』

 

「大丈夫だ。ユウカたちが敵の目を完全に引き付けている。側面からの敵に対処する余裕も技術も向こうにはない。思い切り行ってきて大丈夫だ」

 

『…』

 

 安心させようと声を和らげるゼウスだが、それでもスズミは心配らしい。

 『トリニティの走る閃光弾』の異名を持つ強者だろうと、恐怖を感じないわけではないのだ。

 

「安心しろ、スズミ。お前一人で戦っているわけじゃない。それに、天運というのは自分から仕掛けた方に味方するものだ。…信じろ」

 

『…分かりました』

 

 ゼウスの言葉を受け、暫し声を詰まらせていたスズミだったが、覚悟を決めたように力強く返答した。

 

「ハスミ。あそこのカフェにスズミがいる。その周辺に展開している部隊を優先して狙ってくれ」

 

「了解しました」

 

 スズミが敵に突入する際、最初に会敵しそうな分隊を優先して狙撃するようハスミに伝えつつ、ゼウスもIST-15.5を構え、引き金に人差し指を添えた。

 

「さて…」

 

 巨大な照準器を覗き、サラシを胸元に巻いてマスクを付けた不良が機銃を操り、景気よく銃弾をばら撒いているテクニカルトラックのボンネットへと狙いを定める。

 

「生徒指導…とやらの時間だな」

 

 引き金を引いた直後、聞き慣れた轟音とゼウスにとってはマイルドな反動を残し、15.5ミリ弾が放たれた。

 

 

 

 




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